「女だらけの戦艦大和」・悪臭缶始末記2<解決編>

マリアナ諸島サイパン島の常夏の海の上に浮かぶ「女だらけの戦艦大和」、その艦上で腐臭を放ちながらわが身を嘆く動物二匹――

 

防空指揮所に野村副長が降りて来たが

「うわっ、何この臭い!ここにもあの缶があるのかね!?」

と立ちすくんで思わず防暑服の裾を軍袴からひっぱり出しそこで鼻を覆った。腹を丸出しの副長がふと見ればそこにはハシビロのマツコと小犬のトメキチがこの上ないほど不幸な顔つきでしゃがんでいる。副長は服の裾で鼻を覆ったまま「どうしたね、二人とも」と言うと寄って行った。マツコがシュールの汁の付いて干からびたようになった顔を副長に向けた。トメキチが同じようにガビガビになった背中を副長に向けた。

「おお、お前たちあの汁をもろに浴びたのか・・・これはひどい、かわいそうに」

副長は二人がへたり込んでいる前に座り込むと服の裾から手を離した。副長はマツコの顔をさすり、トメキチの背中の毛を撫でてみた。

「こりゃあ、取れんなあ。・・・うーむ」

としばらく考え込んでいた副長だったが、不意に「そうだ!」と言うと立ち上がった。マツコとトメキチが見上げる。

副長は

「いいかもうちょっとだけ辛抱しなさい。楽になるようにしてあげるからな」

そういうと副長は防暑服の裾を軍袴に押し込みながら走り去って行った。二人はそれをぼうっとした目で見送った。ややしてマツコが「・・・楽になるようにって、どんなことかしら」とつぶやいた。トメキチが、「わかんないけど・・・ハッ!」と急に息をのんだ。マツコがどうしたのよ、というとトメキチは「安楽死させられるのかも知れない、こんな体になったらもういらないって思われたのかもしれないでしょ?きっと僕たち今夜の皆のご飯のおかずになるんだよ」と言ってすすり泣きだした。

マツコは羽を広げてハア・・・とため息をついた。そして「まあ仕方ないわよ。縁がなかったと思ってあきらめましょうよ。あんた、人間あきらめも肝心よ」と妙に達観した言葉を吐いた。

トメキチは顔をあげて「マツコサン・・・。そうだね、僕だってここでずいぶんいい思いをしたんだから。最後は皆のお役に立ってゆければ」と言って涙を拭いた。

二匹はもう、無我の境地に入ってサイパンの青い青い海を見つめながら<その時>を待っていた。

 

副長は艦長にあることを進言し、そして運用科長を呼びその準備を始めた。その間にも艦内の総員は掃除に夢中である。

医務室では日野原軍医長が「俺も海軍生活は長い方だがこんなひどい臭いをかいだのは初めてだよ。だがここはそれほどひどくなかったからよかったね」と言いながら衛生兵たちとシーツをふるって臭い空気を外に向かって追い出している。

夕方前には、艦内にあの匂いがようやっと落ち着いてきた。

岩井特務少尉が部下の兵とともに廊下に何かの小さな袋を置いてゆく。それを見張兵曹が見つけて「岩井少尉、それは何でありますか?」と聞いた。岩井少尉は笑って「これかね、これは炭だよ」と言ってその袋をオトメチャンに手渡した。酒井上水が、「炭をこの中に入れたら何ぞええことがあるんでありますか?」と言って岩井少尉の顔を見つめた。

オトメチャンが手に取った小さな袋の中でカラカラと何かが乾いた音を立てた。そっと顔を近づければ炭のいい香りがする。

岩井少尉は「炭、言うんは臭いを吸着させる働きがある言うて聞いたんじゃ。ほいじゃけ、艦内の炭とあと足りん分はサイパン司令部に頼んで都合してもろうたんじゃ。これを臭いのきついところ中心に置いてゆけばはように臭いが無くなるけん。炭は後のちも使えるけえ経済的じゃわ」と言って微笑むと、「じゃ、またな」と言うと連れの兵と先を進む。

その少尉に敬礼しながらオトメチャンと酒井上水は「やっぱりあの方は普通の士官とはちいとちごう。いろいろものをしっとりんさるわ。松岡分隊長もあの方の爪の垢でも煎じて飲ましてもろうたらええのにね」と言って笑い合う。

 

陽が水平線上に落ちる頃、「総員最上甲板」の号令がかかった。皆は何事じゃ、とあわててすっ飛んで行く。

と、皆が見たのは甲板にしつらえられた「帆布風呂」である。それがいくつも甲板に並んでいる。艦長が出てきて、

「今日は皆ご苦労であった。思いもよらない事件で大変な目に遭ったがこれをいい機会に非常事態でもあわてない心を養ってほしい。また、この事態に対して、事件を引き起こした分隊員だけに始末を任すのはおかしいと自ら率先して掃除に参加した下士官がいると聞く!そういう連帯責任を重んじる心に私はいたく感動した。さすが『軍艦大和』の将兵である。その心を未来永劫忘れないでほしい」

と訓示し、松本兵曹長は椿兵曹をふりかえると小さな声で「椿兵曹、貴様のことじゃ。えかったのう」と言って微笑んだ。椿兵曹は真っ赤になって「そんなうちはそげえなつもりで・・」とあわてて首を振る。

「というわけで」と艦長は続けた、「大変疲れかつ、汚れた皆の為に今日特別に副長から風呂の贈り物だ!今日ばかりは位階勲等に関係なく――つまり無礼講で――風呂を楽しんでほしい」

艦長の言葉が終わると皆は「うおお!副長ありがとうございます、艦長万歳、軍艦大和ばんざーい」と喝さいした。

そして皆その場で服を脱ぎ捨てるとまずからだについた臭いや汚れを流し落としてからゆっくり帆布の風呂に浸かった。

 

そんな甲板の騒ぎも動物たちには何の事だかわからない。

マツコが「ほら・・・あたしたちを料理する準備ができたようよ・・・」とうつむいたまま言った。トメキチも「そうみたいね、覚悟はいい?マツコサン」と床に倒れたままつぶやく。

と、そこに副長が参謀長と飛び込んできて二人は死ぬほど驚いて飛び上がった。

「ハシビロ、トメキチ。さあ下に行くぞ」

副長がトメキチを抱き上げ、参謀長がマツコを抱えあげる。マツコが「とうとうあたしもあんたも最後の時ね・・ああ神様」とくちばしをカタカタ言わせて震えた。

二人は最上甲板に連れてこられた。そして小ぶりの帆布風呂の前に連れてこられた。

トメキチが「これって」と言うと副長がトメキチを小さなたらいの中に置いて着ていた防暑服を脱ぎ下帯一本の裸になった。マツコも別のたらいに置かれ参謀長も裸になる。

「?」何事か測りかねる二匹に副長と参謀長は湯を手桶に汲んでそっと掛けた。そして石鹸で汚れのこびりついたマツコの顔や、トメキチの背中を洗ってやる。

「どうだね、気持ちいいかね?お前さんたちは風呂は初めてじゃなかったかなあ」

副長はそう言いながらひどい臭いにまみれた毛をごしごし洗いトメキチは「くすぐったいよう、副長さん~」と笑いながらたらいの中で転げまわる。

マツコはくちばしや頭の<あほ毛>についた汚れを参謀長に丁寧に取って貰い

「ありがとうございます。・・・あんたはこの毛のこと<あほ毛>って呼んでもいいわ。他のやつはだめけどね」

とお辞儀をした。参謀長は「せっかくの良い羽がこれじゃ台無しだ。ひでえ目にあったもんだな」と言い石鹸を手桶の湯で流した。

すっかり臭いも汚れも取れて気分良くなったマツコとトメキチは帆布風呂に入った。トメキチは風呂の縁に両手をかけてご満悦。マツコは湯の中にくちばしを突っ込みながら「サカナさかな。いないわねえ」と言って風呂の中を歩き回る。

そして風呂からあがってさっぱりした兵たちに「ああ見て!トメキチとハシビロがお風呂に入っとるで!」と騒がれ、水偵操縦員の林家一飛曹は例によって記念写真を撮影。

麻生分隊士と見張兵曹、小泉兵曹たちがサッパリした顔つきでやってきて

「おお、二人ともえかったね。ずうっと入っとるとのぼせるで?気いつけえ」

と言って先に居住区に帰る。トメキチは皆を見送って「お湯はそんなに熱くないから僕も少し」と言うと風呂の中を泳ぎだす。

ふと見れば傍らでマツコが浮かんで天を見つめている――と思ったらこれが湯あたりして倒れていたのだった。

トメキチは大声で吠えて、副長と参謀長がまだ裸のままでマツコを救出。事なきを得た。

マツコは正気に戻ってから「驚いたわあ、裸の女がアタシを取り囲んでるんだから。・・・でもいい気持ちだったわ。またお願いしたいものね」と言ったという。

 

こうしてシュール騒動は「大和」では幕を下ろした。

 

その頃、トレーラー基地の「女だらけの武蔵」では加東副長が猪田艦長に

「猪田艦長、こんなものをもらったんですがいったいなんでしょうね」

とそれを差し出す。猪田艦長のそばに仮谷航海長が寄ってきて「開けましょう艦長!開けなきゃ分かんないですよ」と言い、猪田艦長も「そうだね航海長。では早速」と言うなりそばにあったスパナを突き立てた。

<銀色の缶>にスパナが思いっきり食い込み・・・

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「女だらけの大和」のシュールくん騒動何とか収束です。炭を使うあたりさすが岩井少尉です。そして椿兵曹も立派ですね、軍人の鑑・日本人の鑑です!

でも――『武蔵』で何が起きたかもうわかっていますね。『大和』と同じ惨事がここでも。

誰もあの缶について『武蔵』に教えてあげる人がいなかったのでしょうか?ウウウ・・・

 

脱臭炭CMです。こんなイメージでしょうか悪臭。




にほんブログ村
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

ジスさんへ

ジスさんこんばんは!

お元気ですか、お忙しくてお疲れではないかと心配しておりました!

シュール事件?やっと落着しました^^。

お風呂、何よりのごちそうですね。私の祖母が生前よく言っていましたが「風呂は暑いときも寒いときも一番のごちそうだね」って。

本当にそう思いますね、スーパー銭湯のように大きなところだとなおさらですね^^。

お盆休み、せめて盆と正月くらいのんびりしたいものですよね~(-_-;)

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
私自身何回か見た記憶があります、ゆかいなCMですね^^。

なんとトイレに炭があったのですか。
私はみたことはないですが、やはり!という感じです。今や炭は臭い消しとしてメジャーですが、matsuyama さんがご覧になった炭の入った袋…時代を先取りしていたわkですね!!


「武蔵」の惨事・・・想像するだに気の毒です(T_T)・・・

こんばんは。いつもありがとうございます。

ホッとしました。一時はどうなってしまうかと思いましたが、一安心です。

お風呂は気持ちの良いものですね。先日久しぶりに行ったスーパー銭湯もなかなかのものでした。

そろそろお盆休みですね。ゆっくりとくつろぎたいものです。

こんなCMあったんですね。脱臭炭。
炭って本当に臭いを消してくれるんですよね。
昔、まだ水洗式になる前のトイレには、アミ袋に入った炭が柱にかかってましたよ。当時はこれ何なんだろうと不思議に思ってましたが、臭い消し用だったんですね。
かわいそうに。武蔵も同じ悲劇を味わうことになるとは。

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!

鋭いご指摘ありがとうございます!
うう~ん、難しいものですね。号令一つでも、大きな意味があるわけでやたらに使えませんね。

ちょっと勉強しないといけません。

もう一遍資料を見直してみます!ありがとうございます!!

酔漢さんへ

酔漢さんこんばんは!

そうです、「キャノン猪田」と呼ばれていますww。
禅マニアで月夜に主砲塔の上かなんかで座禅を組むのがお好きなようです。

・・・ってこれほとんど本物の武蔵艦長ですね!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

武蔵の猪田艦長って・・

やはり、元砲術学校教官で?
艦隊砲撃に関してのスペシャリストなのでしょうか。
遠くに艦影を見つけるや否や「うちぃぃかたぁぁぁよおぅぅいぃぃ」
が条件反射的に口からでるような・・・。
すみません、実際の艦長とだぶりました。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!

炭のあの自然な香りが好きですね❤

備長炭をお風呂に入れると水もきれいでいいといいますね、いつかやってみたいです!

今日の東京、辛いまでの暑さでした。昨日が少し涼しかっただけに今日の暑さは「酷」でした(-_-;)風もほとんどなくきついなあといった言葉が聞かれました。

でも暑さはみな同じ、がんばて乗り切るしかないですね。
いつもありがとうございます、ケイさんも御身大切にね!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんわ!
武蔵も同様の騒動が起きていましたww!

今回は参謀長と副長が素敵でした。
下への思いやりがないとみなついてきてはくれませんものね。えばり散らしたり自分勝手ではいざという時そっぽを向かれます。
『大和』、そういう点でも一番艦を目指します^^!!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!

そうそう!タンカー事故か何かでしたね、ドロドロの海鳥が哀れでした・・・

重油も困りますがシュールも相当です(-_-;)

わが女だらけの帝国海軍の乙女たち、常に危険と隣り合わせです。

見張り員さん   こんにちは♪

いつもありがとうございます♪

墨は消臭効果は抜群で変な物は入っていなく
身体に優しいですね。
昨日は不安定な天気で関東地方は雨が降り
普通でしたら涼しくなりますが蒸し暑かったみたいですね。
今日は安心して雷とゲリラ雨もなく気温は高いですが
風が気持ちよく過ごしやすいです。
見張り員さんとモミジちゃんも暑さは厳しいですが元気に
乗りきりましょう。

災いは転々と……。
その後の騒動が想像できるだけに武蔵も平等にと思ったりします(笑)
参謀長も副長もかっこいい!! 隅々にまで目配り心配りできる人こそ上に立つべき人格者なのかもしれませんね。大和はみんな素敵ですね。

おはようございます。以前タンカーから油流出で真っ黒になった鳥たちを綺麗にしていた映像を思い出しました。ありがたい!!しかし……♪今日もまた誰か乙女のピンチ~SOS!SOS!!ですね(笑)
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事
最新コメント
フリーエリア
カテゴリ
月別アーカイブ
リンク
FC2ブログランキング
FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード