「女だらけの戦艦大和」・準士官以上人気投票3<解決編>

『大和艦内士官人気投票』の予備選挙が終わり上位五名の名前が出揃った――

 

その速報は早くも翌日の朝には兵隊たちにガリ版で刷られて渡された。

この速報の紙が散逸することをきらって、各分隊に一枚というやり方で万全を期している。ともあれ、それぞれの分隊員は頭を寄せ合って紙を覗き込んだ。

「おお!」

と歓声が上がる。その「おお!」は、(やっぱり私の投票した士官が入ってる、やったね)という歓声であり、(意外!あの人ってそんなに人気あったんだ)と言う感嘆である。

で、その肝心の決選投票に臨む上位五名であるが以下の通り――

 

五位 松本兵曹長(機関科)

四位 樽美酒少尉(航海科)

三位 秋山兵曹長(工作科)

二位 日野原少佐(衛生科)

そして一位は「○○○○(都合により伏字)」であった。皆がこれには納得したが、さあ決戦投票となると上位五位以外に投票した兵たちの票がどう動くか?ざっと見れば誰も一番になってもおかしくない人たちである。

そして紙には、六位以下にエントリーされた士官たちの名前が細大漏らさず書かれている。見張兵曹は麻生分隊士が上位五位に入っていないのに心底がっかりした。そして速報の紙を手にとって(分隊士はいったい何票入ったんじゃろうか?)と見入った。五位以外は小さな文字で書いてあるので探すのに大変苦労はしたが、やっと愛しい「麻生太少尉(航海科)」の文字を見つけた。

「あ、分隊士」と改めて見つめると・・・一票。

(なんじゃ、たったの一票か。てことは、なんじゃあ、うち一人が入れたいうことか。小泉も石川も、石場さんも皆分隊士に入れんかったんじゃね。皆、分隊士のええとこをちいともわかっとらん)

見張兵曹は悲しくなった。が、(でも、これで分隊士はうち一人のものになった)と思って一人微笑むオトメチャンであった。

 

長妻兵曹は速報を出した晩のうちに、辻本一水と『人気投票委員会』の面々と決戦投票用の用紙を作るのに一所懸命である。

 

そんな兵隊たちのひそやかではあるがざわついた動きに、敏感な士官たちは「あいつらどうもこの頃おかしい。なんか浮き足だっとらんか?」と言いだして、とある分隊では少尉が一等兵曹を捕まえて

「貴様ら何かしてるだろう?言え、言わんか」

と詰め寄つたが、その兵曹はしれっとして

「さあ何のことでしょうかのう?うちはなあも知らんですが。浮き足だっとったらいざいう時に困りますのう、だれがです?うちがそいつをひっぱたいてきますけん、教えてつかあさい」

と言ってその場を去った。残された少尉は(どうもおかしいなあ)とは思ったがそれ以上食い下がって部下の信頼を失うのも嫌なので捨て置いた。

 

さらにその翌日、「決選投票」用紙が各分隊の兵員にひそかに配られた。先の上位五名から『大和で一番人気の士官』がいよいよ決定されるのである。

 

翌晩「決戦投票用紙」を持って見張兵曹・小泉兵曹・石場兵曹・石川水兵長や酒井上水、亀井一水と言った面々が防空指揮所に集まった。

「分隊士や分隊長に見られんかったじゃろうな」

と石場兵曹は念を押してから「ほいじゃ、書こうや」と言って胸のポケットから鉛筆と投票用紙を引っ張りだした。皆も「おう、書こう」とそれに倣う。それをトップからハッシー・デ・ラ・マツコが見下ろして「こんな夜中に何してんのかしらねえ、変な女たち」とつぶやいている。今夜はトメキチは艦長室に行っているので少しさみしいマツコ。

そのマツコに気がついたオトメチャンが、

「ハシビロ、今夜は一人でさみしいのう。こっち降りておいでや」

と声をかけた。マツコは喜んで指揮所に舞い降りた。オトメチャンはマツコの肩のあたりに手を当てると、その耳のあたりに

「ほんとはうちは分隊士が一番じゃ思うとったんじゃ。でもこの中から言われてのー。どのお人も偉うて人の上に立つに十分なお人ばかりじゃけえ、ここから一人選ぶんはちいとやねこいねえ、どうしたもんかのう」

と五人の名前をあげて囁いた、その声に苦悩がにじんでいるのをマツコは悟った。マツコはこの小娘の言うことも一理あるとその名前を聞いて思った。

が、(どうしてあたしのマツオカが入ってないわけえ?それって何かおかしいんじゃないの~)と不満ではあるが。

        ・・・・・・・・・・・・・・・

さあ、決選投票の集計がすんだ。長妻兵曹と辻本一水はしかつめらしい顔で結果の紙を分隊数ガリ切りして代表者に渡した。

どの分隊でも、もう皆が代表者が結果の紙を持ってくるのを今か今かと待ちわびている。

「さあ、結果じゃ」

と代表者が結果の紙を広げるとワッとばかりに寄る兵たち。「見せえや」「見えんで」「後で回すけえ、やかましいわ」と士官に聞かれるのを恐れて声を落としての騒ぎ。

やっと皆に紙が回り「これは納得じゃ、やはりそうじゃと思うたわ」とか「うちはこの人に入れたが、まあ納得じゃ。ここに上がった人はみんなええ人ばかりじゃもん」と総員納得。

 

航海科でも結果の紙が回ってきた。小泉兵曹が代表者であるから、結果は当然もう知っている。ニヤニヤしながら、指揮所の面々に紙を差し出した。

「おう!来たかあ」

と石場兵曹が飛び付き、オトメチャンや酒井、石川、亀井たちも飛びつく。

「ほう、やはりのう。あの方は兵隊からの人望が厚い方じゃなあ」

「二番からの人たちもみなええ人たちじゃ。皆甲乙つけるんが大変じゃったね」

 

第一回『大和人気士官選挙』の栄えある第一位は・・・

岩井しん少尉 であった。二位が日野原軍医長、三位は松本兵曹長、四位は秋山兵曹長、五位が樽美酒少尉であった。そして無効票が一票、この一票には五人の名前が書き連ねてあったのだがこれこそ見張兵曹の票であった。

見張兵曹は(ここに名前の出とる五人はうちは皆好きじゃし、お世話になった・なっとる方じゃ。順番なんぞつけられんわ)と悩みに悩んだ挙句、五人全員の名前を書いたのだった。

 

それから数日の後。

この選挙は準士官以上の連中にばれた。ばれたきっかけは、結果表をなぜかマツコがお尻にくっつけていた所から発覚したのだ。

ある昼下がり、最上甲板を歩いていたマツコを藤村甲板士官が呼びとめた。

「おおい、ハシビロー。けつになんかくっついてるぞ」

その声にマツコは振り向いて、「いやあねえ。ケツなんて女が言うんじゃないわよ、お尻って言いなさいよ、お・し・り!ってさあ」と言ったがその時自分の尻にあの結果表が張り付いているのに気がついた。

(ヤバイ!あの紙じゃないさ。これがばれたらアタシ、磔の丸焼きよー!)

あわてて逃げようとするマツコに、甲板士官はタックルをかました。そしてマツコの尻に張り付いた紙を取って見た・・・

「なんだあ、これえ!」

との叫びで大騒ぎになったのだが、「選挙委員会」の面々が艦長・副長ほかの士官たちの前でこの選挙のスタンスを話すと士官たちは

「なんと!これはすごいことだな。そうかあ、俺たちも岩井少尉や松本兵曹長たちに負けんようにせんといけないな。うん!」

と自分の来し方を顧みて今後、部下の信頼を集められるような人間になろうと努力を始めたと言うから・・・この選挙、決して無駄ではなかったのだ。

 

だが一人だけ、げっそりとしてる士官がいる。

誰あろう松岡分隊長。彼女は「どうして私が一位じゃないんだ?うーん、私の何処が至らなかったのだろう?これは困った・・・そうだ、私が少し冷めかけてるのかもしれない。よし!今日から俺はもっともっと、マグマのように熱くなって次回は絶対一位になるからね!今日から俺も富士山だー!」と最後には見事に立ち直って、ラケットをぶんぶんふりまわしながら甲板上を走り回っている。

 

さらに・・・ショックを隠せない者が三人。

梨賀艦長・野村副長・森上参謀長である。彼女たちは、

「私たちは、艦艇―ズで『大和』の皆の心をわしづかみにしてると思ったんだけどなあ。いったいどこがいけなかったんだろう?衣装が派手すぎた?それとも歌のアレンジが簡単すぎたのかしら?・・・うーむ」

と艦長室で固まっているという。

 

そして。

麻生分隊士はその晩、私室でオトメチャンを抱きしめた。「俺一人に入れてくれたんはオトメチャンだね。ありがとう、やっぱりオトメチャンは」と言うとオトメチャンの唇を奪った。

唇が離れるとオトメチャンはその可憐な瞳で真っすぐに分隊士を見つめた、そして

「うちはほかに誰も分隊士に入れんでよかった思うてます。だって・・・」

と言い恥ずかしげに伏し目がちになった。分隊士は軽くオトメチャンの肩を揺すってその先を促した、するとオトメチャンは分隊士に抱きついて、

「だって、分隊士はうち一人のものになったけえ」

と囁き、大感激の分隊士は「オトメチャン、オトメチャンも俺一人のものじゃ」と叫ぶなりその体をベッドに倒して、そして二人の夜は更けて行ったのだった――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・

結果が出ました。

「女だらけの大和」にはきっとこれからもっと「一位」になる士官が出てくることでしょう。部下を慕い寄らせるにはまず、上に立つ者がしっかりしてなければいけないのはどの組織でも、国でも、時代でも同じですね。

日本の国民の上に立つ政治家のみなさんも「おんなだらけの大和」の士官さんたちを見習ってくださいね―!!

ガリ版
ガリ版です(画像お借りしました)、懐かしいですね。謄写版ともいいましたね!


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matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!

なななんと!謄写版がですか、ローラー盤、やすり版があればパーフェクトですね。どこかにあればいいですね~^^。
なんだか昔当たり前で今そうではない道具たちがなんだかとても懐かしくいとおしいですね。
あの鉄筆の走る音、印刷が上手にできたか・・・とドキドキするあのときめき。
今ではあまり味わえないことかもしれないですね、本当に懐かしい!


オトメチャンの一途な一票、分隊士の心にもしっかり届いていますね❤熱さでは松岡中尉にも負けません!

先日うちの物置を探してたら、何と謄写版が出てきましたよ。鉄筆は他のところに有ったんですが、ローラー盤やヤスリ版が見つかりません。どこに消えたんでしょうね。セットで見つかれば、ガリ版刷りが出来たんですけど。
これは昔、兄が使っていたそうなんですね。自分も中学校の頃だったかな、みんなの文集を編集する時、何度か使ってましたよ。
ガリ版を下敷きにして原紙に鉄筆で書く時、カリカリという音が気持ち良かったですね。ローラーで印刷するとき、うまく出るかなってワクワクドキドキしたもんですよ。懐かしいな。

麻生分隊士への1票、熱い熱い1票でしたね。

いなばさんへ

いなばさんこんばんは!
ガリ版作業って見ていて飽きないんですよね、「どうしてこんな風になるんだろ?」と幼いころは思いますよね。

おお、かの偉大な「プリントゴッコ」も構造は同じでしたか、原版を作って光を当てるというのがとても衝撃的だったですね。ずいぶん使いましたよ、あれは。

今ではPCに取って代わられてしまいましたがあれは後世に、謄写版とともに語り継ぎたい逸品ですね。

懐かしい。

こんばんは。ガリ版ですか。私が、幼稚園の頃、先生がインクのついた、ローラーを持って連絡のプリント作っているのを、みんなで見てました。つい最近まで、年賀状で、使われた、「プリントごっこ」も、構造は同じですよ。←鉄筆は使わない所が変わったとこでしょうか。

荒野鷹虎 さんへ

荒野鷹虎 さんこんばんは!!

組合運動の時に・・!
資格を取られたということは今でもこれさえあれば何でもできちゃいますね、素晴らしいです。
これも極めようと思うとなかなか難しいようですからきっと荒野さんの技術は最高級なんですね、尊敬!

当局批判、いつの時代も青雲の志高い若者はするんですよね。
私も会社にいるとき体制批判をやらかしましたが、私自身契約社員だったので・・・泣。

見張り員さんへ!!

謄写版!実に懐かしく拝見!
組合活動のときに、この技術を習い資格を取りました。
当局を批判して冷たい目で見られた事を思い出しました。汗)
東京の体育館での、「歌声運動」の記事でした。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!

岩井しんさんは大変な苦労人ですからその辺が人柄に表れてみんなから慕われているのですね。人柄って大事だと思います、私も気をつけねばと思いつつなかなか・・・(-_-;)

本物の日野原軍医長、じゃない日野原医師は100歳でしたっけ、素晴らしいバイタリテイーをお持ちでその辺が御長命な秘訣なのかもしれません。

松岡とマツコ、正反対のようで実は似た者同士かもしれません。この先この二人が「女だらけの大和」でどう活躍しますか、ご期待くださいませ。

そちらの大雨、どうなったでしょうか?報道では今日も大雨だと聞きました。あまりにひどい被害に言葉がありません。
一刻も早く終息しますよう。
まろにいさまのお知り合いはご無事でしょうか。にいさまもお気をつけてくださいね、案じております。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!

松岡アンドマツコ。異種カップルが出来ました~~~♪この二人がこの先どうなってゆくのか・・・お楽しみに^^。

やっかみや嫉み・妬みのない世界は理想ですね。その理想世界のはじっこをここで実現させてみました。


ガリ版と言えばわら半紙ですよね!!先生の字のうまい下手が如実に表れておもしろかったですね。でもあの頃の先生、たいがい字だけは上手でした(すっごい皮肉だ!)!!
私も文集で書いた記憶がありますがホント読みやすく書くのに苦労しましたっけ(-_-;)

kazu さんへ

kazu さんこんばんは!

私たち世代はこのガリ版が懐かしいですよね^^。
あの鉄筆のがりがりいう音とか、インクのにおいが時折蘇ります。

最近のワープロも大変便利ですがあのガリ版、時々やってみたくなります。

No title

岩井しんさんでしたか。思いもよらない逸材でしたね。
そういえばしんさんには素敵な話がありましたもん。やはり人柄一番でしょうね。
人柄優先。何せ2位がこちらでは超ご高齢の日野原さんですから。

我が道をゆく、マツマツコンビが出来そうですね。
マツコさんもだんだんと人間らしくなってきたような。

こんにちは。マツオカさまとマツコが作者見張り員さま公認カップル(!?)になり嬉しいですわ(笑)
ただのお祭り人気投票にならず、各々の士気を高める結果になって前向きで嬉しいです。
ガリ板にわら半紙、懐かしい~小学校の時に使いました。手書きでいかに上手くなくとも読みやすい字を書くか、苦労しました~手書きの良さを思い返します。

No title

なつかしいですね。
ガリ
私が働き始めたときもまだ使ってましたよ。
それから、タイプ、ワープロへ・・・

今ではほんとに便利になりましたね^^
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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