2017-09

「女だらけの戦艦大和」・副長豹変2<解決編> - 2012.07.02 Mon

副長発案の過酷な配置訓練は翌日も、その次も続いた――

 

この程度で音をあげたり弱音を吐く「女だらけの海軍」さんではないが、さすがにへたり出している。昨日は五回だった訓練も今日は六回、では明日は・・・となると大変不安ではあるし課業にも差し支える。

しかも「航行中にこがいな訓練なんぞしててええんかなあ。見張りに専念できんわ」と航海科や各配置の見張り員が不満を言いだす始末。

「確かになあ、今俺たちは制海権・制空権をもっとるがだからいうて油断にならんか心配じゃわ。こういうことは碇泊中にしとったらえかったんじゃ」

と、小泉兵曹はケッと吐き出すように言う。見張兵曹や石川水兵長も困ったような顔でうなずいて

「疲れるとかいうことはないんじゃが、ほかのことが出来んですべてが押せ押せになるんはきついわ。今のうちにしとかんとならんこともたくさんあるけえ、なんとかならんかねえ」

とこぼす。麻生分隊士もため息をついた。松岡分隊長もさすがに「いやあ、熱くなるのはいいんだが私もちょっと今回は」と言葉を濁した。松岡分隊長は、副長が廊下で行きあった兵隊の敬礼が気に入らんといきなりぶんなぐったという話をして皆を恐怖に陥れた。その話はもうほとんどの乗組員が知っていて、みな副長に行きあわないようにと艦内を歩く際には前後をきょろきょろとさえして歩く始末である。

艦内に何とも不穏な空気が渦巻きだしている。

 

その空気を艦長は一大事と受け止め、「これ以上この訓練ばかりするわけにはいかない、ほかにもするべきことがたくさんあるのだから。よし、私は今夜野村副長にじかに話をしたい。参謀長、一緒に来てくれるかな」と決断した。もし、副長が何らかの病なら早くに手を打たねばならない。病でないなら何か不満があるかもしれない、それを聞きだしたい」

艦長は、日野原軍医長にも同席を願い、日野原軍医長は快諾。

「まあ、病ということもないだろうが何かに悩んでるような感じを受けるなあ。心が風邪をひいてしまう前に何とかしないといけないし。艦長、今夜行きましょう」

 

そしてその晩、相変わらず険しい表情で巡検を済ませた副長は「巡検終わり、たばこ盆出せ」の号令の後私室に帰った。

艦内帽を取って壁の帽子掛けにひっかけると、はあーと重いため息をついてベッドに倒れ込んだ。とたんに流れ出す涙。枕に顔をうずめると喉がひっく、と鳴る。

その時、ドアをドンドンと叩く音がし、「副長、ちょっといいかな。私だ梨賀だ」と艦長の声が。ハッとして身を起こした副長は涙を袖でごしっと拭うとドアに走りノブを回すとそっと開ける。

ドアの向こうには艦長のほかに参謀長そして日野原軍医長までいるではないか。そのメンバーにいぶかりながらも副長は「どうぞ」と皆を招じ入れた。巡検の際とは打って変わった力のない声である。

「すまんな副長」と参謀長が入り、日野原軍医長は普段の温厚な笑顔を意識して出し「今晩は、副長。遅くに申し訳ないですな」と言って部屋に入る。

三人はその場の椅子に落ち着くと、やおら艦長は切りだした――

 

「副長、単刀直入に尋ねるが・・・何かあったのか?ここ数日どうも副長は変だぞ、あんなに配置訓練を連続でやったり、聞いた話では行きあった兵隊の敬礼が気に食わんと殴ったそうではないか?気に食わん、と殴るなど副長のすることではないだろう?いったい何があったというんだね、今日は忌憚ない話を聞かせてはくれないかね」

その艦長の声を副長は黙って下を向いたまま聞いている。参謀長と日野原軍医長が心配げに見つめている。

しばらく時間が流れた。艦長はエヘンと咳払いをして座りなおすと、

「副長、はっきり言ってくれないと私たちは大変困る、それはわかるでしょう?なんの原因もなくこうした事態を引き起こすなら、副長はトレーラーに着き次第内地へ帰って貰うが、それでいいか?」

と言った。さすがに副長は顔をあげた。艦長たちがその顔を見つめていると不意に副長の目から涙が滂沱として流れ出した。

副長は涙を拭おうともせずに、膝の上に握ったこぶしをさらに強く握った。そして、

「私は、これでも一所懸命副長の任務をこなしてきたつもりです・・・」

と絞り出すような声で話し始めた。副長は皆を等分に見つめて、

「どんな体がつらい時も、頑張ってきました。おかげでこの『大和』の乗組員はどこに出しても恥ずかしくない海軍軍人になったと思っていました。彼女たちは私の誇りだと思ってきました。

でも・・・」

と言うと言葉を切った。参謀長が「でも?」と静かに問う。日野原軍医長は副長の瞳の奥を覗き込むようにして話を聞いている。

副長の顔が、歪むなりうううっ、と嗚咽が漏れだした。それでも副長は立ち上がって机の上から何かを取って戻ってきた。

手にしていたのは艦艇の艦長・副長クラスの為の内部雑誌<イケイケ艦長>。そのあるページには付箋がつけてある。その付箋の付いたページを開いて副長は皆の前に雑誌を押しだした。

艦長がそれを受け取ってみると、そのページは読者の投稿欄でその一つの投稿にぐるぐると丸がつけてある。

よく読めばそこにはこんな投書が。

>私はとある弩級戦艦の護衛艦として従事している駆逐艦Iの艦長であります。

見ていて思うのはこの弩級戦艦の乗組員のしつけはどうなっているかということであります。行儀は悪い、言葉使いは悪い、勤務態度は悪い、悪い悪い・・・悪い尽くしであります。その上、私が見た限りではあの弩級戦艦の戦闘配置に乗組員がつく時間は大変遅いように見受けられます。たるんでいます。しかし兵員を責めるのは酷というもので、これはひとえにあの戦艦の艦長、副長のしつけが悪いのであります。大体が弩級戦艦の艦長副長は態度が大きい割に本来の海軍精神に欠けています。

ここは、ひとつ鎮守府や軍令部などが査察を入れるべきではないでしょうか・・・

 

「なんなんだこの投書は、だれが見てもこの<弩級戦艦>はわが『大和』としか思えんじゃないか!一体だれがこんなひどい投書をしたんだ!」

艦長は絶叫した。その顔が怒りで真っ赤に染まる、それを見た参謀長と軍医長も<イケイケ艦長>のそのページを読んだ。

「これは・・・」

と二人の嘆息が漏れる。日野原軍医長はため息とともに椅子の背にもたれると、

「これは悪意しか感じられませんね。こんなくだらない投書を誰がしたのか。そしてこの詰まらん投書を上の人間が真に受けなきゃいいんですがね。それよりまず投書の主を確定するのが先決でしょう、そいつがどういう意図でこのような投書をしたのかが知りたいですね」

と言って目を副長に向けた。

「で?」と梨賀艦長が副長に話しかける。「副長はこれをいつどこで」手に入れたんだ、というと副長は、

「呉を出た後、小笠原でもらいました。艦長は見てないのですか?」

という、艦長は「そういえば私あての郵便の中に大きい封筒があったがあれか、いや、忙しくてまだ見てなかったよ」と答えた。

参謀長はその投書を読んでいたが不意ににやりとすると、

「これはきっと<無花果>の菅艦長だね。I、とあるだろうこんなところでぼろだしてるよあいつ。なんかこちらに対してやっかみでもあるのかな彼女。・・・そうだ、もうすぐサイパンに着くからそこで菅艦長を呼んで話を聞こう」

と言い、日野原軍医長は副長の肩を優しく抱いて「事実無根なこんな投書を信じたりしちゃいけませんよ。あなたは今おっしゃったでしょう、『大和』の乗組員は私の誇りだって。そこまで育てたのは誰あろうあなたですよ」と諭した。

梨賀艦長もうなずいて、「そうとも、副長は艦内の細かいところまで気を配りそして皆の士気を高めてくれる。盛り上げてくれる。これは到底私一人ではできないし私にはそんな心配りはできないよ。だからもう、このくだらない投書は忘れて明日からもとの副長に戻ってくれたまえ」と言い、副長の手を取った。

その横で参謀長が

「副長は真面目だからな、それを知っててこういう投書したのなら重罪だ。ともかく副長、もう気にしたらいけないぞ、約束だぜ」

と言って右手の親指を立てて見せた。

その時になって初めて、久しぶりに副長の顔に元通りの笑みが浮かんだのだった。

 

さて、この数日後の話。

小艦隊はサイパンについて小休止を取ったが、随伴の駆逐艦<無花果>の菅艦長は『大和』に呼び出され<イケイケ艦長>の投書の件で梨賀艦長・森上参謀長に尋問を受ける羽目に。大変ビビった菅艦長、

「私が書きました、ごめんなさい!」

と白状。何でもこのところイライラが募り、つい、腹いせに『大和』艦長と副長に嫌がらせをしてやろう、と変なことを思ってしまったのだとか。

「大人げない!あんたのその投書のせいでうちの副長は大変なことになるところだったんだからね!」

梨賀艦長は大変怒って、菅艦長から<イケイケ艦長>編集部あてにあの投書の削除とお詫び記事を出し、菅艦長は給与を半年減額されるという結果に落ち着いた。海軍省の人事が「恥ずかしい、ありえない、あほか!」とあきれてのご沙汰。

 

サイパンについて二日目の朝。

この上ない明るい表情で副長が梨賀艦長のもとを訪れて叫んだ、

「艦長、やりました来ましたよ!これで本当にすべてが解決しましたよお!」。

何かと言えば――

副長はあの投書を読んで悶々と悩んだせいで月のものが止まってしまい、なおさら精神的に不安定になっていたという。それが今朝やっと来たのだと。

「そう・・よかったね。これでもう元の副長、復活だね」

と笑う艦長。副長は嬉しげにうなずいて、「あ、あの時ぶん殴っちゃった子に謝らなきゃ~」と足取りも軽く艦橋を出て行った。

 

ともあれ、事件は解決。

さあ、トレーラーまであと少し!

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・

しょうもない無花果艦長のせいで『大和』大迷惑の巻でした。

言葉というものは人を活殺しますので取扱いには十分注意しましょう。ネット社会ではなお一層、ですね。私も気をつけます。

しかし、副長よほど悩んでいたのですね、<月のもの>まで止まるとは・・・(-_-;)

サイパン島
サイパン島、これはマッピ岬(バンザイクリフ)と思います(画像はお借りしました)。サイパン島がアメリカ軍の手に落ちたのは昭和19年7月7日です。この岬からたくさんの日本の民間人が身を投げて亡くなりました。
海の青さが悲しみをそそります・・・


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● COMMENT ●

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは!

うちの前は青梅街道です、私が知る限り2回ほど両陛下のお通りがありました。私にも陛下はお手を振ってくださいました、感激でした。

この前の園遊会の時、陛下を携帯のカメラで撮ってる人がいて「どうかなあ、ああいうの」と思いました。昔は二階から見下ろしてはいけないということだったようですが…時代は変わったということでしょうか、でもねえ。

ぎゃっ、鍵コメさんもバリカンの洗礼を受けられたのですね(-_-;)・・・全寮制だと、時間には厳しそうですね。でもそういう生活してると規律が身に着きますね!

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
副長の思い、ちょっと行きすぎたきらいはありましたが結局は『大和』乗組員を思ってのことでした。
くだらない投書が却ってみなの結束を強めました。
本来のエリートはどんなトラブルでもどんと受け止める気概がないといけないですよね。今の政治家とかいわゆるトップと言われる人たちはそういう気概に欠けてる気がしてなりません。

両陛下が、サイパンのバンザイクリフにいらしたとき、ある霊能者の人が「両陛下のおそばにたくさんの英霊たちが集まっている」と言ったそうです。以前にその人が小泉総理が靖国に参拝した時はほとんどいなかったとw。
まろにいさまもおっしゃるように両陛下はあの戦争を、戦没者すべてを御身に受け止めていらっしゃる気がします。このように素晴らしい両陛下をいただくわれら日本人はもっと誇りを持たねばなりませんね。

そうですね、私もぜひいつか皇居の清掃奉仕に参加したいと思います。ご尊顔を拝したら、感激で泣いてしまうかもしれませんね^^。

No title

そういうことだったのですか。
大和が好き、大和の乗務員ももっと好き。責任感あふれる副長の忸怩たる思いの結果が躾け直しだったのでしょうが、それがつまらない投書が原因だったとは。
でもこれがきっかけで更にみんなの気持ちが美しく感じました。幹部と言うか上層部の人たちの心意気も素敵ですね。エリートと呼ばれる人はこうでなくちゃ。今の世の中と全然違います!!

バンザイクリフ。数年前、ここに両陛下が立たれて黙とうなさったのを思い出しました。自分本位に奔走している政治家の姿とまったく違うお姿に、なんだか戦争や亡くなった人たちすべてをお二人で背負っていらっしゃるように感じてなりません。
見張り員さん、いつか皇居の清掃奉仕に出向かれては如何ですか。同じ思いを持っていらっしゃる両陛下にお目にかかれば良いのに。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんわ!
副長、責任感の塊のようなものでそれが災いしたかもしれないですね。月のものが遅れるほど悩んで・・・かわいそうでした。

菅艦長のカンカン踊り、何だかあの「菅さん」の顔がちらついて・・・プププ・・・オエッ!(・。・;

バンザイクリフ、ただ行くのではなく問題意識といいますかここで何があったかこの島の周辺で何があったかを認識してから行ってほしいものです。
と言ってもなかなかそういう心を持った人が少ないのが確かですね。
ちょっと悲しいです。

こんにちは。副長はやはり真面目で責任感が強くそしてかわいらしい~!!菅サンは軟禁して一晩中甲板でカンカンを踊らせたらいいのです!!
バンザイクリフ、ここにただきゃいきゃいと観光に訪れる人たちが多いかと思うと悲しいですね。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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