「女だらけの戦艦大和」・雨に歌えば|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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「女だらけの戦艦大和」・雨に歌えば

2012.06.28(22:59) 517

「女だらけの大和」ほかの小艦隊はトレーラー島を目指して海上をひた走る――

 

やがて行く手、かなたに一つの島影が見えて来た。小笠原諸島硫黄島である。ここは、小笠原師団の栗林中将以下の部隊が守っている。

「おお、硫黄島が見えます・・・」

見張兵曹が声を上げた。麻生分隊士と、松岡分隊長が双眼鏡を目に当ててそちらを見た。水平線のかなたに硫黄島が浮かんでいる。

「硫黄島にね、栗林中将という将校がいらしてこの方がまたとても素晴らしい陣地を構築されたという話を聞いたよ」

と、松岡中尉が情報通なところを披露した。それを石場兵曹が聞きつけて

「素晴らしい陣地でありますか。どがいな陣地でありますかいのう」

と分隊長を振り返って言った。すると松岡分隊長は双眼鏡を持った手を離した。双眼鏡が分隊長の胸に下がって、そのひとところがまぶしい陽光にきらり、と光った。分隊長は石場兵曹に向かうと、

「それがですね、石場さーん。私にもよくわからないんですよ~。栗林中将は陸軍の方。私は海軍のひと。それに陣地の構築のことはきっと軍機でしょうからね。気になるなら石場さん、あなたひと泳ぎして硫黄島に行って聞いてきたらいいですよ。はいっ、言ってらっしゃい~」

と大変無責任な発言をした。

麻生分隊士は、あきれ切った顔つきで

「分隊長。知らんなら気を持たせるような言い方したらいけんではないですか?」

と石場兵曹のために進言した。「それに軍機じゃ言うんなら分隊長はどこでお聞きになったんですかのう」

すると松岡分隊長はにんまり笑って、

「噂うわさ。噂ですよ。もっとみなさんも聞き耳を立てて、ぼんやり街でも田舎でも歩いてたらいけないんですよ。・・・そう、この『大和』の測距儀のように両手を伸ばし、耳の穴かっぽじって・・・」

と話し始め止まらない。

麻生分隊士は「だそうだ」とだけ言ってその場を離れ、見張兵曹の隣にさりげなく立つ。石場兵曹も、「でありますか」と言ってテレトークを手入れ。

『大和』が波を蹴立てて走る音が心地よく聞こえてくる。

 

その『大和』一行をはるか硫黄島の陸軍部隊と、海軍部隊も見ていた。

栗林忠美中将と海軍の市丸利子少将が擂り鉢山と呼ぶ山の山頂に立って海軍自慢の『大和』を見つめる。

栗林中将が感にたえたように

「素晴らしい。素晴らしい艦ですね、さすが帝国海軍の粋を集めた艦です。これが帝国の海の守りのかなめなんですね」

と言うと市丸少将もうなずいて、

「はい。海の守りは任せてください。そしてこの小笠原の要衝の守りには陸軍の栗林兵団がいます。ここの守りはあなたの師団で完璧ですね」

と言って微笑んだ。栗林中将は面映ゆげな表情になり、

「いや、私のと言うより兵たち一人一人で作り上げた師団と言うべきでしょうね。兵たちの頑張りがあってのこの師団です」

と答えた。市丸少将は(この方はなんて謙虚な方なんだろう)と感じ入っていた。

二人の立つ山頂に心地よい風が吹き抜けた。

「ああ、今頃内地は梅雨の盛りでしょうね。しとしとと降る雨にアジサイの花。・・・この島の雨はスコールみたいですしアジサイもないですから、内地の梅雨がちょっと懐かしい思いがしますね」

市丸少将がふと言うと、栗林中将も

「そうですねえ。私はあの雨の音が好きです。時に穏やかに、時に激しく。まるで人の心か人生のようですね」

と言い二人はしばし、内地に心を馳せていた。

 

雨雨 降れ降れ かあさんが

じゃの目でお迎え 嬉しいな

ぴちぴちちゃぷちゃぷ らんらんらん


 

二人の脳裏に、幼いころ水たまりを泳ぐ水澄ましを見つめた記憶がよみがえる・・・

 

 

「女だらけの大和」。

小泉兵曹が指揮所に上がってきて、去りゆく硫黄島を見つめた。そして、

「あの島には」

とつぶやいた。見張兵曹が、小泉兵曹を見た。小泉兵曹は見張兵曹をちょっと見つめると、

「あの島では雨がトレーラーみとうな降り方するらしいで。今頃内地は梅雨じゃなあ。うちはじめじめした梅雨は好かんが、内地のしとしと雨は好きじゃわ。こう、もの思うにちょうどええじゃろ?」

と言って硫黄島に視線を当てている。

見張兵曹も、

「トレーラーの雨は長い時間は降らんがえらい降り方しよるもんね。ほうじゃなあ、うちも雨はしとしと降るほうが好きじゃわ」

と言い、それを聞いていた石場兵曹、そして麻生分隊士も同調した。麻生分隊士が、

「内地の雨は情緒があってええな。こう、しっとり濡れた傘の中に美人がおったらこりゃドキッとするぜ。もちろんその美人は・・・」

と言うとすかさず石場兵曹が

「その美人はオトメチャンでありますな、もちろん」

と言い、皆は笑った。見張兵曹は恥ずかしげにしている。

すると、麻生分隊士が歌いだした・・・

 

雨降りお月さん 雲のかげ

お嫁に行くときゃ 誰と行く

一人でから傘 さしてゆく

から傘ないときゃ 誰と行く

シャラシャラシャンシャン 鈴付けた

お馬に揺られて 濡れてゆく

 




幻想的な光景がそれぞれの胸の内、脳裏に広がる。麻生分隊士の脳裏には、花嫁衣装を身にまとい馬に乗って自分のところに嫁ぎ来るオトメチャンの姿が美しく描き出されている。

 

それをハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチが、今日は指揮所の後ろの壁にへばりついてみている。さすがにトップのトップは暑いと見え、マツコはここに降りて来たのだ。マツコは冷たい壁にひっついて、

「雨ねえ。あたしも土砂降りは嫌いね。だってさあ、泥が跳ねてアタシのこの羽が汚くなるじゃない?この羽をきれいにするのって、結構大変なのよ。わかるぅ、トメキチ?」

という。トメキチも壁にひっついていたがどうも自分たちのその姿が愉快に思えてきてくすくす笑いながら

「わかるよおばさん。でも僕はそういう時水浴びするの。ここに来てからはあんまり汚れるとトメさんたちがお風呂に入れてくれるから大丈夫よ。おばさんも水浴びか、お風呂に入ったらいいんだけど」

と言った。マツコは「オフロ・・・」とつぶやいて、

「オフロッて、いつかあの女たちがワイワイ言いながらその下の方で浸かってたあれのことね。ふーん、そんないいものなら今度入ってみるわ」

とトメキチに言った。トメキチが「それがいいと思うよおばさん」と笑ってまた壁にひっついた。そして急に思いついたように壁から身を離すと、

「そうだおばさん、スコールの時皆がお風呂の代わりに体を洗うの。スコールが来たら皆と一緒に雨を浴びたらいいね」

と教えてやった。

「スコール!そうよアンタ、いいこと知ってるじゃないのよ。地面じゃなくってここのカンパンとかいうところで浴びたら羽も汚れないわね。そうかあ、じゃあひとつスコールを待つとするか!

スコール、こ―――い!」

マツコは大声をあげて両羽を大きく広げた。

 

その上空は、雲ひとつない日本晴れ。

今日も雨は降りそうにない、内地の四季が懐かしい『大和』の皆である――

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・

場所によってはもう、梅雨の末期。しかも最近の異常気象のせいか猛烈な雨で被害も出ています。そんなときにこんな話はちょっと不謹慎かもしれませんが、どうか収まりますようにと願いを込めて。

でも、昔はこんなことなかったような気がしています。

気候が年々変化して、今までの日本の四季の常識が通用しなくなってきているようです。どうもおかしな日本、いや、地球ですね。

子供のころの、しとしととひそやかな音を立てて降る雨の音を聞きながら眠った思い出や、時に激しい夕立におびえた記憶。

今の雨に降り方とは一線を画していることに気がついて愕然・・・

 

栗林忠道陸軍中将。小笠原兵団長として硫黄島を守備、玉砕前の最後の電文の中の「国の為 重き努めを果たし得で 矢弾尽き果て 散るぞ悲しき」が有名です。
 栗林中将

市丸利之助海軍中将。第27航空戦隊司令官として硫黄島に赴任。その戦いの際に書かれた「ルーズベルトに与うる書」が有名です(複写が靖国神社・遊就館に展示されています)。
市丸少将 


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コメント
matsuyama さんこんばんは!

野口雨情の詩には何かしらこうした裏話めいたものがありますね、「しゃぼんだま」も生まれてすぐに夭折した娘を悼む詩だという話がありましたね。「しゃぼんだま」については確証はないとは言われますが言葉の言い回しが何か感じさせます。

そうか、もしかしたらこの「雨ふりお月さん」も雨情が誰かのお嫁入りを見て亡くなった娘を重ねた歌かも知れないですね。
どこかしら歌詞がさみしげで何か…琴線に触れるものがありますね。

そうでないとしても何か野口雨情の心には重いところがあったのかもしれないですね。


麻生分隊士は「嫁」とか「嫁ぐ」とかいう単語を聴くとすぐオトメチャンに直結させる癖がありますw、しょうもない女です^^。何とか言ってやってください~。
【2012/06/29 23:25】 | 見張り員 #- | [edit]
童謡「雨降りお月さん」懐かしいですね。
以前この歌を記事に取り上げようとして調べたことがありました。
野口雨情のこの歌が雑誌に発表された時の挿絵に、月を背景にして角隠しの花嫁さんが、馬に腰掛けて悲しげにうつむいているものだったそうです。まるで月に嫁ぐみたいで、ということはお月さんにお嫁入り、つまり死出の旅ではなかったんだろうか。だから仲人さんも両親も誰1人いない。
2番の歌詞に ♫急がにゃお馬よ 夜があけよう・・・
娘が月に嫁ぐのだ、朝になってしまっては、太陽で月が見えなくなってしまう、急いでくれ。この辺りに雨情の心情が表現されているんだそうです。
実は発表前に天に召された雨情の娘がモデルではなかったんでは。だから1人でから傘さして月に嫁入りさせたんではないか、とうがった解説をされていたサイトがありました。

花嫁衣装に身を包んだオトメちゃんが、自分のところに嫁いで来ると脳裏に描いている麻生分隊士に水をかけるようで、ごめんなさいね。
【2012/06/29 21:10】 | matsuyama #- | [edit]
ローガン渡久地さんこんばんは!
コメントをありがとうございました^^。

童謡って郷愁をそそられますね、子供のころを思い出します・・・

「硫黄島からの手紙」私も見ましたし、DVDももっていますがなかなかみる機会がなくて。あまりに悲惨な内容で見る気が失せてるのも確かです(-_-;)

私のいい加減な話でもお役に立てて嬉しく思います。もすこしまともな話が書きたいですがこういうおチャラけた性格なのでご勘弁(__)・・・

ジーン・ケリーのあの雨の中で歌うシーンを見たとき、さっそく真似して遊んだ覚えがあります。びしょぬれで帰り怒られましたっけww。
【2012/06/29 20:52】 | 見張り員 #- | [edit]
オスカーさんこんばんは!

そうですね、トップに立つマツコも言ってみれば風見鶏だ!!
最近なんだかハシビロコウが気になってなりません・・・早く千葉動物公園に身に行きたいと思っています。そしてハシビログッズも手に入れたい~~^^。

ゲリラ豪雨はたんに迷惑ですが本物のスコールを体験してみたいと思いますね、一度!

トレーラーに戻ったら南方の「なにか」を書いてみたいと思っています!
【2012/06/29 20:35】 | 見張り員 #- | [edit]
まろゆーろさんこんばんは!

かの有名な硫黄島です! 史実では『大和』がそのそばを通ったということはないようですがそこは創作の世界ですので、栗林師団長、市丸海軍少将以下の将兵に敬意を表してみました。

灼熱の硫黄島に駐在した陸・海軍の将兵のみなさんはどれほど故郷の気候が懐かしかったことかと思います。地下を掘ればその気温は60度以上にもなったという火山島での闘いを、よくひと月以上も戦ったことだと敬服いたします。

「女だらけの硫黄島」も仲間同士で支え合っています!大丈夫この世界ではみな生きます!

九州南部は酷い雨でしたね、明日からは九州北部や日本海側も雨になるとか。今日は東京、雨の予報でしたが降らず熱い一日でした。
まろにいさまも御身大切になさってね。
【2012/06/29 20:32】 | 見張り員 #- | [edit]
見張り員さん、こんにちは!

懐かしい童謡をBGMに拝読しました。
栗林忠道陸軍中将といえばクリント・イーストウッド監督作品『硫黄島からの手紙』・・・ですよね。
歴史に疎くて恥かしいのですが、名前も何もかも、それまでは知らなかったんです。

「女だらけの戦艦大和」では、物語と共に多岐に渡る関連事項が紹介されるのでお勉強になります^^

そうそう、サブタイトルの「雨に歌えば」、素敵ですね。
I'm singing in the rain
Just singing in the rain
What a glorious feelin'
I'm happy again
とジーン・ケリーが歌う映画を思い出しました。
【2012/06/29 18:47】 | ローガン渡久地 #- | [edit]
こんにちは。昨日風見鶏の話を書いたのですが、トップマストにいるマツコも案外似たようなもの?(笑)自分のケータイ待受画面の風見鶏をハシビロに変身させてみたいです!! 関東は空梅雨っぽい天気…ゲリラ雷雨はイヤですが、ちょっとスコール気分は味わいたいかもです。南国特有のあれやこれやがまた楽しみです。ムリしないで…と言いつつも続きをお待ちしています(((^^;)
【2012/06/29 18:36】 | オスカー #- | [edit]
硫黄島を通過しましたね。
島に立ち国を護る人、そこを敬意を払って通過する人。
さまざまな思いが交錯しているでしょうが、さすがに大和魂。
梅雨を懐かしみ、雨音や紫陽花に思いを寄せ合うなんて!!
南洋にありながら日本を思う心は如何ばかりであったろうかと思いました。
敢えて元気なのは仲間がいるからでしょうね。
みんな生き長らえてもらいたい……、せめてこの女だらけの戦艦大和のみなさんには。

梅雨の盛りですね。雨もまた良しですがそろそろ程々にと願っている昨今です。ご用心下さいね。
【2012/06/29 07:30】 | まろゆーろ #- | [edit]
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