2017-10

「女だらけの戦艦大和」・嵐の中で5<解決編> - 2012.06.03 Sun

風雨に翻弄される防空指揮所で麻生分隊士はオトメチャンの鋭い瞳に射抜かれた――

 

すさまじい雨風が吹き付ける防空指揮所の壁に張り付くように座り込んでいたオトメチャンの瞳は今まで分隊士が見たことがないような怒りの感情と、悲しみの感情を湛えていて分隊士は一瞬、ひるんだ。

「どうしたんだオトメチャン、艦の外に出てはいけん言われたんを忘れたんか!危ないじゃないか、俺はもしもオトメチャンになんぞあったらどうしたらええか・・・」

分隊士は風の音に邪魔されながらも声を励ましてオトメチャンの肩をゆすって怒鳴った。オトメチャンは分隊士を鋭い目で見つめたまま、「・・・!」と何か叫んだが、その声はドドドッと吹きつけて来た風にかき消される。雨の中に風で吹き上げられた海水が混じっているようで、口に入ると少ししょっぱい。

そこで分隊士は、思い切りオトメチャンを抱きしめるとその口に自分の耳を近付けた。するとオトメチャンは声を張り上げて「分隊士はどうして樽美酒少尉に乱暴するんじゃ!うちはそんな分隊士は嫌いじゃ」と叫んだ。

分隊士は驚いて少しオトメチャンから体を離した、そしてオトメチャンを正面から見ると「どうしてじゃ、樽はオトメチャンにちょっかいかけとるじゃないか。オトメチャンは俺一人のものじゃいうんを皆しっとるはずじゃのに、樽は俺に挑戦しとるとしか思えんで?うちはなあ、オトメチャンを盗られとうないんじゃ。それはオトメチャンもわかっとろう?嫌いじゃ言われる覚えはないぞ」と怒鳴った。

ザザア、と間断なく風雨が吹き付けてオトメチャンの顔を、髪を濡らす。オトメチャンの瞳から雨に混じって涙が流れ、オトメチャンは激しく首を左右に振ると「違う違う、樽美酒少尉はうちにちょっかいかけてるんと違う。樽美酒少尉は分隊士とうちが好きおうとるんをしっとります。樽美酒少尉はうちが少尉の妹さんによう似とる言うて懐かしがっておられるだけです。・・・しかも」

「しかも?」と問うた分隊士。その時どこからか飛んできた太い木の枝が二人のそばに派手な音を立てて転がった。

しかし二人はそんなことは目にも耳にも入らない。麻生分隊士は略帽の廂から落ちる雨だれ越しにオトメチャンを見つめる。オトメチャンはしっかり分隊士を見据えて言った。

「樽美酒少尉の妹さんは、ご病気で・・・もう治る見込みがないんじゃそうです。いつどうなってもおかしゅうないそうです」

それを聞いた瞬間、麻生分隊士の耳からすべての音が消えて行った。唐突に稲光が中天を走り、大きな雨粒がまるで桜の花びらが乱舞するかのように見える。

「少尉の・・・妹が」

麻生分隊士は特にこの数日、自分が樽美酒ゆう少尉にしてきたことを激しく後悔した。吹き付ける雨がさらに激しさを増す。やっと分隊士の耳に風の音が戻ってきた。我に返った。

分隊士はオトメチャンをゆすると「ほいじゃあなんでそれを早ういわんかったんじゃ?言うてくれたらえかったじゃないか」と怒鳴った。今度は分隊士の目から涙が流れだす、「俺は、分隊士じゃ。航海科の人間じゃ。樽もオトメチャンも俺の家族じゃ思うとるんに、なんでそがいに他人行儀なんじゃ?」

オトメチャンはふっと下を向いた。略帽の廂から雨が流れてオトメチャンの膝に音を立てて落ちた。。

「樽美酒少尉は、こがいな個人的なこと言わんでくれ、言っちゃいけんでと言うてました。自分自身のことではのうて妹のことじゃけえ言わんでええ。妹とはもう別れを済ましてきたからもう覚悟はできとるからと。樽美酒少尉はうちに『絶対口外せんよう願います』と言いました。そう言われたら誰にも言えん・・・」

オトメチャンは分隊士に抱きしめられて、その耳元でそう言った。稲妻が空を走り、雨の粒が桜の散る様に見える。壁にひっついて二人抱きあっても風に舞いあげられそうな勢い。耳元で風が鳴る。息さえ苦しくなる。

分隊士は何も言えず、じっとオトメチャンを抱きしめている。

やっとのことで「・・・そうだったんか。樽には悪いことをしてしもうた。俺は謝らんならん」とだけ言った。しばらく二人は壁に張り付いて抱き合ったままでいた。

その二人に容赦なく台風は襲いかかっている。双眼鏡にかけた覆いが風にバサバサと鳴り、普段見慣れたはずの指揮所がこの上なく不気味な場所に感じられる。黒いシルエットの測距儀がまるで魔物のように見える。

ふと、分隊士が言った。「オトメチャン、オトメチャンは誰を殴りたいんじゃ?」

ドドドウ、と風が二人を壁から捥ぎ離すように吹いた。分隊士はオトメチャンをしっかり抱いて風をやり過ごした。そのあと数瞬、嘘のように静かになった。

「マツオカブンタイチョウ」

と無機質な声でオトメチャンは言った。分隊士がオトメチャンの顔を覗き込むとオトメチャンは悲しげに、「分隊長は分隊士の手を握ったり肩を触ったりしとられます。ほいで分隊士は」とそこまで言った時。

再び風が指揮所めがけて吹き荒れる。空全体がものすごい音で鳴っている。稲妻がまた走り、雨が叩きつける。船べりに波が激しく叩きつけ、ほんの少し『大和』は揺れ動いたようではある。

「どうした、俺がどうしたゆうンじゃ?」

分隊士は怒鳴るように言うとその場にオトメチャンを押し倒し、その濡れそぼった体の上にまたがった。風に防暑服の裾があおられ、雨に叩かれる。仰向けのオトメチャンは、雨に目が開けない、そのまぶたを閉じたまま苦痛の表情を浮かべると

「分隊士は、何とも嬉しそうですけえ、うちはそれが悲しいです」

と叫んだ。そして顔を横にむけると嗚咽を漏らした。分隊士は「そ、そがいなことで」と声を出したがよく考えてやれば、オトメチャンとしては<大好きな分隊士>が分隊長に手を握られても離すことなく一緒に走ったりしているのが耐えがたいという感情があっても仕方ないかもしれない。

(それが・・・愛しいいうことなんじゃな)

分隊士はそう認識した。そう思えば諸悪の根源は松岡修子中尉にあるような気さえしてくる。(全くあの人が来てからええこともあるがこういう面倒事もあってうちはたまらん。ほかの面倒事ならどうにか収まるがオトメチャンの心の問題はそうはいかんで)

嗚咽するオトメチャンを見下ろしている分隊士の中に、自分でも言いようのない力のようなものが湧き上がってきた。雨にぬれ、風に翻弄されながらも分隊士は必死になってオトメチャンの防暑服の前を荒っぽく開いた。

「分隊士!」

オトメチャンが叫んだ。分隊士は「俺は、オトメチャンしか目に入らん。分隊長が手を握ろうとどこを触ろうと、俺の心も体もオトメチャンのものじゃ!」と言うなり、雨にぬれてしかも、少し海水の味のするオトメチャンの乳首を口に含んだのだった。

「いけん、分隊士・・・」ともだえるオトメチャンを自分の体で抑えながら分隊士はその行為を続けていた。
オトメチャンが叫びをあげたがその声は風雨にのって千切れて飛んだ。

電探が、激しいスパークの火花を散らした・・・。

 

二人がやっと指揮所から艦内に戻ってきたのは分隊士が外に出てから一時間以上たってからだった。すっかりぬれて水を滴らせながら入ってきた二人にトメキチとマツコ、それを押しのけて梨賀艦長が駆け寄り

「怪我はないかな?風邪をひくといけない、艦長室の浴室を使いなさい」

と言ってくれた。見張兵曹はその場にどさっと音を立てて土下座すると「艦長の命令を破りました。どがいな罰でも受けます」と言った。すると分隊士も同様にして「それは全く私のせいであります。お叱りはこの私一人にしてください!」と言う。

梨賀艦長は「それはあとで良い。ともかくも風邪をひかぬことが先決だ」と言って二人は艦長の浴室を使い、さっぱりしてから事の顛末を艦長・副長に申告した。参謀長がそばで聴いていて、(ふーむ、麻生少尉はどうもオトメチャンが絡むと我を忘れてしまうようだなあ。まあそれだけ愛しく思ってるってことなのかもな。でも!俺だって負けてないからな)と麻生少尉が聞いたらもっと火に油を注ぐようなことを思っている。

二人の話が済んだ後、副長が松岡中尉と樽美酒少尉を部屋に呼び、分隊士は樽美酒少尉に謝罪した。見張兵曹は「事の成り行きとは言うても『言うてはいけん』と言われたことを言うてしまいました、申し訳ありません」と樽美酒少尉に誤った。樽美酒少尉は優しく微笑んで

「いいんだよそんなこと。そのおかげでこうして分隊士とは分かり合えたんだから。しかし私もいけませんでした、誤解をさせてしまって。麻生分隊士、申し訳ありません」

と分隊士と兵曹に謝り皆は和解した。
松岡分隊長は「そうかあ、やっとわかったよ。麻生さんと特年兵くんはそういう仲だったんだね!熱くなってるじゃないか、素晴らしい!さあ皆さん、これからトレーラーに帰ったらもっともっと熱くなりましょう!」と大変遅まきながら盛り上がっているようだったが分隊士に、

「しかし分隊長。分隊長は何もしとらん樽美酒少尉を思いっきりぶんなぐりましたね。その謝罪が済んでおりませんよ」

といさめられ、分隊長は「おお、なんということだ。私はとんでもないことをしてしまったようだね、樽くん!教育的指導とはいえちょっとやり過ぎたね。許してくれたまえ」と言って樽美酒少尉は快く受け入れたのだった。この件で、樽美酒少尉は懐が広い、と後で評判になった。

そのあと麻生分隊士は樽美酒少尉と見張兵曹に「教育的指導、ゆうたがありゃどうみても自分の力の誇示としか思えんで?」と囁いたのだった。こっそり笑う二人。

ようやく三人は心から笑い合うことができた。荒れ狂う天気とは裏腹に、晴々した心持の三人である。

 

その晩遅く皆が寝静まった居住区でマツコはハンモックに揺られながらトメキチに「よかったわ。あたしあの二人が海に身を投げちゃうんじゃないかって思って怖かったわあ~~。でもこれで枕を高くして眠れるわね!」と言ってくちばしをカタカタさせた。

トメキチも「そうね、ほんとよかったね。おばさん!」と言った途端にプ――と屁をこく。

すると、誰かの叱責の声が飛んだ「ハシビロ、カタカタやかましいわ!トメキチそこでプ―プ―屁をこくでないわ!!臭うていけんわ」。

首をすくめて寝たふりの二匹。

 

外ではまだ台風が荒れ狂ってはいるが、大戦艦の「大和」には屁でもなさそうだ。

「明日の午後にはもう通り過ぎるよ。今夜だけ最大警戒」と気象班の天辰中尉はまだ起きていて外の様子をうかがいつつ言った。その広い額は緊張感と充実感で光り輝いて見えた――

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まあなんとこんな話でした・・・。

思い違いと言いますか、愛しく思う間柄だからこそかけ違うボタンのようになってしまうのでしょうね。

さあ、台風が過ぎたらいよいよトレーラーに向かいます。

 

初音ミク「千本桜」。イメージ的にこの話と何となく合うのかしら??



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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
松岡分隊長、いきなりな女ですがこれでもガンバってるつもりらしいです。でも周囲は迷惑しますねえ、こういう上司!!

やや擦れ違いの感のあった分隊士とオトメでしたがこれでまた修復できたことでしょう!

・・・お風呂。もちろん二人ですよ~~、結構長湯だったとか。いったい何をしてたんだか^^!

こんにちは。なんだかんだでマツオカ様はまわりの人たちをまとめているような気がします(笑)ちょっとやり方がめちゃくちゃですけど。雨降って地固まる~というか台風がきて愛深まるですかね~!!そんなことより私が気になるのはふたりでお風呂に入ったかどうかです!!←エロじじいな発想(^^;)))

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
ダル君とても頑張っていますね、好感が持てます^^。調子のよくないときもあろうかとは思いますがくじけずまい進してほしいものだと思います。

かつての日本人は「奥ゆかしさ」というものをしっかり持っていたと思います。それと「恥じる心」。その二つが日本人の精神のバックボーンだったような気がしますね。
それを亡くした今の日本人は真の日本人ではないのではとさえ思う昨今です。
松岡は如何にも現代風に設定した部分があります。旧と新の対比をさせるのにわかりやすいかもしれないです。

トメキチ&マツコ。
この二匹は『大和』の清涼剤の役目ですね^^。

NoTitle

そういうことでしたか。
アメリカで頑張ってる本物のダル君の精悍な顔が浮かんできましたよ。
ほんのちょっと前に生きていた日本人たちって奥ゆかしかったですね。そしてそれを誤解されようが責められようが決して口にはしない。美しい心でした。60数年前まで武士道の遺産が生きていたのかもしれない。
そうなると要領の良い松岡さんは今風に近い人かもしれませんね。ひとりでキリキリして、そして納得してるのがまた悪意のないことかもしれませんが。
トメキチとマツコのスタンスも良いですね。ホッとするマスコットです。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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