2017-10

「女だらけの戦艦大和」・嵐の中で1 - 2012.05.26 Sat

「女だらけの戦艦大和」を含むトレーラー帰島組は、思いがけず小笠原諸島父島に足止めを食うはめになる――

 

出航を明後日に控えた朝、第一艦橋の梨賀艦長・野村副長を気象班の天辰中尉があたふたと訪れた。

「天辰中尉、入りますっ!」

との大声に、梨賀艦長と野村副長は何事かと海図台に広げた海図から顔を上げた。「どうしたね、天辰中尉」と副長が言うと天辰中尉は手にした気象図を海図台に広げた、そして艦長と副長の顔を交互に見ながら緊張の面持ちで

「グアム基地気象隊からの情報ですと三日ほど前にマリアナ諸島周辺海域東方に置いて台風が発生し、こちらに向かっているようです。台風は大変に大型で瞬間最大風速は30メートル超、中心気圧は959mb。時速15キロほどで北上中です。小笠原諸島には遅くとも四日後には接近の様子です」

と言って、少し広い額に汗を光らせている。梨賀艦長は、「なに。台風が、そりゃあいかんなあ」と腕を組んで考え込んだ。副長も「でかい台風ですね、こりゃあ動けませんよいずれにしても。数日から一週間はここにくぎ付けですなあ」と言って窓から空を見やった。空は今はまだ台風の陰りを感じさせない青い空である。

「で、」と艦長は言った、「巡洋艦・矢矧と、駆逐隊には知らせてあるのかね」。天辰中尉はうなずいて「はい、矢矧の古村艦長と駆逐隊司令にはすでに」と言った。

艦長はうなずくと「ならいいだろう。艦隊すべてに損害なきよう万全の態勢で臨むよう」と言った。天辰中尉ははい、と返事をして気象図をひっつかむと風のように艦橋を出て行った。それを見送ってから梨賀艦長は、

「副長、『大和』も被害なきよう万全の備えをせよと全艦に伝達。間違っても損害を出して古村の笑い物にならぬように!」

と命令。最後の<古村に~>という大変珍奇な言葉に「・・・へっ!?なんですって?」と思わず聞き返した副長ではあったが、梨賀艦長と古村大佐は兵学校時代からのライバル、いや天敵同士であるのを思い出した。そして、気を取り直すと

「はいわかりました。総員に周知させます」

というとあわただしく階下へ降りて行ったのだった。

 

そんなことを艦長たちがしているころ、トップのトップの住人<ハッシー・デ・ラ・マツコ>とトメキチは風の匂いに変化を感じ始めていた。マツコが大きく羽を広げて「ねえトメキチぃ、あんた風に変なものを感じない?」というとトメキチも鼻を天に向けてクンクン鳴らしながら「きそうよ、おばさん。大きな台風だね」と言ってマツコを見た。マツコもトメキチを見て「いやあねえ、怖いわよ今度のは!ちょっとアタシどこにいたらいいかしらねえ」と困ったように言う。トメキチも困って「そうねえ、僕ちょっと考えてあげるね」と言って考え込む。

 

そんな嵐の兆候が表れ始めたころ、人の間にも嵐の兆しが・・・

防空指揮所でいつものように見張兵曹は当直をこなしている。不意に下から大声が聞こえてきてその方を見下ろせば麻生分隊士と松岡分隊長がなにやらわめきあっている。いつものことのようだがなんだかこのところ分隊士も楽しそうに見えるのはどうしてだろう。二人はさんざ喚き合った挙句、松岡分隊長が分隊士の手を引っ張って甲板を走りまわる。見張兵曹はふうっ、と一つため息をつくと交代のために来た酒井上水と敬礼を交わしてから居住区へ降りて行った。

 

麻生分隊士は松岡分隊長と別れてから第一艦橋に上がって来た。そして何気なく中を見やるとそこでは、樽美酒少尉が見張兵曹と親しく話をして優しく微笑みかけ、しかもその肩に優しく手をかけている。

とたんに。

麻生分隊士の普段から少し曲がった口が思い切りひんまがった。(あの樽野郎、俺のオトメチャンにちょっかいかけやがって!)とまるでオトメチャンの情夫か何かのような感じである。

分隊士はその場は黙って通り過ぎ、踵を返すと士官次室へと向かって行った。

 

通信科の気象班では、台風の進路の予測に余念がない。

気象班では天辰中尉が開発したというラジオゾンデを上げることにしたようだ。それを聞きつけた皆が最上甲板に集まってがやがや騒いでいる。その中で作業に懸命な天辰中尉ほか気象班の面々。「天辰中尉、これがうまく行けばまた『大和』の天辰中尉は名をあげますね」

そう言って笑うのは気象班の主席下士官の森田上等兵曹。森田兵曹も気象班の一員として頑張ってはいるがなかなか天気予報が当たらないのが悩みである。森田兵曹に言われて天辰中尉は面映ゆそうにほほ笑んで「そんなこと、私だけの手柄になんかできませんよ。これは気象班みんなの汗と涙の結晶なんですからね」と言って広いおでこを光らせる。

「さすが、天辰中尉」というため息がそこここから洩れる。天辰中尉は『大和』でも名の知れた部下思いの士官である。

「あまたつーーー!」と梨賀艦長が騒ぎを聞きつけて副長とともにやって来た。ハアハアと息を切らして、「どうしたの、なにしてんの」と聞いた。森田兵曹がこれこれこうだ、と説明をして艦長も副長も「ほう!それは素晴らしい。早く上げてみて?」とうるさい。

皆も早く早く、と言い始めたので気象班はラジオゾンデに気球をつけ、そしてゾンデは気球とともに天高くあがって行ったのだった。

「さて、」と天辰中尉は言って腕時計を見た。「三十分もしたら情報が無線で入ってきますよ、通信室へ行きましょう」

艦長は天辰中尉の背中を押して通信室へ向かう。

 

ラジオゾンデが上がってゆくのを、マツコとトメキチが見上げている。

「何かしらあれ!あのまん丸いもの、突っついてやろうかしら。どう?」

そう言って闘志満々なマツコにトメキチは「やめてよおばさん。あれは天辰さんたちが一所懸命作ってたんだから」とマツコを軽く叱る。

マツコは、うふふっと体をゆすって笑うと

「嘘よ、嘘に決まってんじゃないの」

と言って羽を繕った。一陣の強い風が吹き付け、マツコの頭のあほ毛をなびかせる。

「・・・はあん、来たわね。なんだかひと波乱ありそうな気がするわ」

マツコはそう、ひとりごちて目を細める。

 

その上空をラジオゾンデは舞いあがってゆく・・・。

それを士官次室の舷窓から見送った麻生分隊士の顔つきは、いよいよ厳しい――

 

       ・・・・・・・・・・・・・

台風とともに麻生少尉と見張兵曹の間にも大風は吹くのでしょうか?

マツコの意味ありげなひと言、彼女には何らかの予知能力があるのでしょうか??緊迫の次回をお待ちください!!

 

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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
台風の実況の時『あんなすごい風の中に行かなくってもいいじゃないかねえ」なんて思います。そういえばどこかの局の自供中継が終わった瞬間、今まで風に耐えている様子をしていたアナウンサーがすたすたと普通に歩いて去ってゆく映像があって「・・・」と思いました(-_-;)

津波では、沖に漕ぎだしたほうがいいんですね。
しかしちょっとの間で被害にあったり軽く済んだり…これも天命なのかしらと思います。自然の前では人は途方もなく無力なんだなと思い知らされたことでした。
海にあるべき舟が内陸深くでボロボロになって転がっている風景はあまりに哀切で忘れられません。

大和クラスでは、台風でも普通に航行出来たといいますからその威容、推して知るべしですね^^。

NoTitle

よく台風情報で局アナが合羽を着て、生中継していますが、見てると岸壁に打ち寄せる波が凄いですよね。漁師さんたちは急いで小舟を陸に揚げて台風の過ぎ去るのを待ってますけど、津波の時は逆に船を沖に出すほうが安全らしいですね。
今度の大震災でも港内にいた船はことごとく陸に打ち上げられていました。こんな大きな船までが、と思える被害が街中でも見られました。沖に出航した船は傷一つない状況です。地元の観光船も3隻のうち、沖にいた1隻だけが助かったそうです。
大和のような大型船となると台風でも沖合で待機してるんでしょうね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!

私たちミリバール世代にはどうもヘクトパスカルはなじみません・・・(^_^;)。
最初「mb」がヘクト~に代わると聞いたときから「ヘクソカズラ」がわき出でていまだに時折へクソくんは顔を出します・・・(-_-;)。
こんな私に柔軟性ある思考回路とおっしゃってくださるまろにいさまは神様ですね!ありがたいことと思います、とても大分のほうに足を向けては寝られません!

『大和』の天辰ーーー!
あの感じで女にしたら大体予想通りかもしれませんが、ちょっと気持ち悪い(って言ったら本物の天達さんに失礼ですね!)かもしれません・・。
さあ、小笠原にちの雨が降る!のでしょうか?
次回をこうご期待であります!

NoTitle

天辰さんの登場ですね。
なんだかテレビに出ている彼の顔を思い出して、はて大和の天辰さんはどんな人だろうかと。
台風のmbにとても懐かしく思いました。子供の頃、分からないまま「ミリバール、ミリバール」と連呼する台風情報にワクワクしたものでした。
それにしても「ヘクソカズラ」には大笑いしてしまいましたよ。見張り員さんの柔軟性ある思考回路には脱帽です!!
麻生さんにも樽さんにも太平洋の真ん中で嵐がきそうですね。ワクワクしても良いのでしょうか。

ジスさんへ

ジスさんこんにちは!

お嬢さんが「嵐」大好きですね、そういえば以前「蒼龍」の嵐を出してそれっきりでした。また活躍させてあげないといけませんね^^。

私もミリバール世代?でしたからヘクトパスカルになれるまで苦労でした。なんか「ヘクトパスカル」と聞くとどうしてか植物の「ヘクソカズラ」が脳内に異常発生してしまって・・・(^_^;)
似てませんか、「ヘクトパスカル」と「ヘクソカズラ」・・・

ラジオゾンデ。
名前からして格好いいですね。以前これを気球で上げて、台風だか竜巻を調べる、というのをやってまして思いついて書きました!
世の中にはいろんなものがありますよね~。感心しちゃいますね^^。

NoTitle

こんばんは。いつもありがとうございます。

娘の大好きな「嵐」、でも今回の嵐は本当に気象現象で大変そうですね。台風の大きさ、以前は「ミリバール」だったことも思い出しました。ヘクトパスカルってなんだか慣れるまで大変だった気がします。

ラジオゾンデっていうものがあるのですね。気になってググってみました。なるほど、気象衛星だけではなくこういたもので上空の気温や風向きをみるのだなと。勉強になりました。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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