2017-10

「女だらけの戦艦大和」・修子と陸軍 - 2012.05.23 Wed

「女だらけの戦艦大和」は小笠原諸島父島にその身を浮かべている――

 

松岡中尉は上機嫌でその日、父島の中を歩き回っていた。例のラケットを振っては、行きあう数少ない島民にちょっかいをかけたり陸軍嬢たちに「熱くなれよ!」と余計な世話の檄を飛ばして苦笑されたりしている。そして彼女は島の東側の平野にでた。

うんとそこで大きく息を吸って「ああ~いい気持ちだなあ」とラケットを持った手を伸ばして思い切り背伸び。

そしてふと後ろを振り向いた松岡中尉、背後に何か・・・彼女の興味を大変にひくものを見つけてしまい、「バンブー!!」と叫びながらそちらに走って行った。

 

そこでは陸軍嬢たちが新兵器の試作品を受領して、その試運転をしようとしているところであった。

小笠原師団父島分遣隊隊長の毒蝮サン大佐が大勢の兵を指揮してその新兵器を操作しようとしていたがなんだかうまくいかない。

毒蝮大佐はいらいらして、「はやくどうにかしろよ!せっかくいい兵器もらったって使えなきゃしようがねえじゃねえか。取扱説明書とかねえのかよ!」と怒鳴っている。

参謀が「申し訳ありません、ただ今・・・」とあわてて説明書を手渡す。「最初っから渡しゃいいんだってのよ」とぶつぶつ言いながら毒蝮大佐はそれをペラペラめくった。

「ふ~ん、・・・待てよあんだこりゃ?これじゃどこにも誰も乗れねえじゃんか?いったいこの兵器はどうなってんだよ、ええ!?いい加減なもの作りやがって!」

突然毒蝮大佐は説明書を地面にたたきつけて怒鳴った。その剣幕に驚いて参謀は説明書を拾い上げて読み始める。

「・・・確かに。これではだれも乗れません。ということは動かせない、ということでありますな」

参謀も兵たちも色を失った時。

「熱くなってるかい、陸軍さん!」と時ならぬ大声がかかって陸軍嬢たちは仰天してその声の方を見た。そこにはラケットを担いで満面の笑みの海軍士官が立っている。純白の二種軍装が皆の目にまぶしい。一人の軍曹が「・・・かっこいいなあ、海軍さんは」とぼつりと言った。その声が聞こえたかどうか、海軍士官はかっこよくラケットを振りながら近寄って来た。

「私は松岡修子海軍中尉だ。よろしくね!」

そういうと松岡中尉は遠慮なく新兵器とやらのそばに寄って行った。陸軍嬢たちが「近寄らないでください、危ないですから。しかもその上軍機ですからっ」と止めたが松岡中尉は興味しんしんで新兵器を眺めまわす、叩きまくる。

「ん!これはどこから乗り込むんだろうか?誰か知りませんか」と言って皆を見るが誰もが首を横に振っている。

「わからない、だってぇ!?」松岡中尉はいきなり怒りをあらわにして兵器から離れると皆のそばにつかつかと寄って来た。ラケットが怒りで小刻みに震える。

「毒蝮大佐殿。この海軍さんなんでか知りませんがとても怒っていますね・・・」と参謀がこわごわ大佐に囁く。毒蝮大佐も、「うん。自分たち何か怒られるようなことをしただろうか?」と怖くなってきた。階級的には自分より下だが、この海軍士官の態度は階級なんかよりすさまじい、威圧感のようなものをひしひしと感じさせるし、雰囲気が何だか熱すぎて鬱陶しい。気味が悪い、なんとか早くごまかして去らせたいものだ、と毒蝮大佐は思った。

毒蝮大佐が何か言うより早く松岡海軍中尉が、陸軍の参謀の持っている説明書をさっと奪ってそれを読み始めた。

長いこと、長いことその説明書を読んでいた中尉が突然顔を上げるなり、

「エナーシャとリモコン!」

とものすごい声で怒鳴ったので陸軍嬢たちはその場から30センチほど飛びあがって驚いた。

「え、え、えなーしゃと、りもこん??」と毒蝮大佐はしどろもどろになりながら言った。松岡中尉は怖い顔のままラケットを大佐の方に突き出して

「そうですよ、エナーシャとリモコンでこれは動くんだって書いてあるじゃないですかっ!」

と怒鳴った。怒りに満ちた瞳と震えるラケットがいやがうえにも恐怖をかき立てる。中尉は毒蝮大佐から眼を離さないで「早くエナーシャとリモコンを出しなさい!」と怒鳴る。あわてた兵があちこち走り回って兵器の付属品・エナーシャとリモコンを持ってきた。

「こ、これでありますか?」という軍曹に松岡中尉はこの時だけ微笑んで見せて「そうだよ、これがエナーシャとリモコンだよ、ありがとう。・・・さて」とそれを受け取って兵器のもとに走って行った。つられて陸軍嬢たちもついてゆく。

松岡中尉はまるで戦車のような形状の兵器の前にしゃがみ込んだ。そして「お、ここだな」というとエンジンに直結しているらしい部分の穴にエナーシャを突っ込むとそれをゆっくりまわし始める。

「さあみんな、こうすればエンジンがかかって動き出しますよ~」と中尉は言い、間もなく兵器のエンジンが動き出す。中尉はリモコンについていた小さなハンドルをぐるぐるまわした。どうやらこれは手回し式充電機の様でそのスイッチを入れた。赤・緑のボタンが点灯した。ボタンの下には方向指示器のようなものもある。

「走行開始―!」と中尉が叫びリモコンの緑のボタンを押すと兵器はキャタピラを鳴らしながら走り出した。

「おお!走った走った、いやあ、海軍さんありがとうございます」と毒蝮大佐と参謀は喜んで松岡中尉に礼を言った。松岡中尉は「・・・で?これはいったいどういうスタンスの兵器なんでしょうね」と言った。毒蝮大佐は笑みを浮かべて「これはですね、自走砲と言って自分で走り回って砲を撃つという兵器です」と紹介。参謀がリモコンを覗きこんで「これを押しますと、砲を撃つんだそうですよ、いいですか・・・」と赤いボタンを押した。すると・・・・

今まで向こうを向いて走っていた自走砲が急にこちらに向かって走って来たではないか。しかも、砲塔がぐるぐる回っていて参謀がボタンを押したせいで砲はバカスカ撃ちまくって、自分たちのそばに弾着する羽目になった。

「うわあああ!!!」「なんだこれは!?」「熱くなれよー!」皆は逃げ回り、さまざまな叫びと轟音の中、自走砲は勝手に走り回りやがて・・・海岸に突っ込んで止まった。

陸軍嬢たちはその場にへたり込んで「なんなんだ、あれは・・・」と声もないが一人、松岡中尉だけは海の中で擱座(かくざ)している自走砲に向かって「熱くなれよー!今日から君も富士山だ!」とわけのわからないことを叫んで走り回っている。

やがて松岡中尉はくるりと向きを変えてこちらに走ってくるとラケットを置いて毒蝮大佐の両手を握ると

「毒蝮隊長、大変熱くなってみなさんは素晴らしい!これを私たち海軍もみならって、この先進撃して行きましょう!自走砲の活躍を祈りますよー!ではみなさん、バンブー!竹になれよ」

と叫び、ラケットを拾い上げてあっという間に走って行ってしまったのだった。

呆然とする陸軍嬢たちの上空をマツコが「マツオカ~、待ってよう」と言いながら飛んでゆく・・・

 

さてその数日後。陸軍の兵器廠から緊急電で「あの自走砲には大変な欠陥があることがわかったので試運転をしないように」という連絡が来た。何でも開発担当者が「自走砲」の自走の意味を勘違いして作ったせいだと言うが・・・よくわからないまま、試作品の自走砲は解体されて本土に持ちかえられてしまったのだった。

「もっとそういうことは早く言えよな・・・」と涙目でつぶやく毒蝮大佐・・・。

 

さて、『大和』。

松岡中尉が『大和』に戻ると見張兵曹が樽美酒少尉と一緒にいて

「あ、分隊長。今日えらい大きな爆発音がしたのをしっとられますか?」

と聞いてきた。その音の件で航海科や通信科、砲術科の分隊士以上は集まって情報収集をしているのだそうだ。松岡分隊長は「爆発音ねえ。私はよく知らないなあ、もしかしたら陸さんの演習かもしれないね。あの人たちも熱くなっているようだからね。さあ、人のことより樽くんも特年兵くんももっともっと熱くなってくれなきゃ困りますよー!」と言って樽美酒少尉はちょっと困ったように微笑んだ。

そしてまた艦内を走り回る分隊長であったが、情報収集の結果「海軍の松なんとかいうおかしな中尉殿が陸軍の試作品をいたずらして壊した」との陸軍からの証言を得た麻生分隊士は、

「あンの野郎、全くここまで来て海軍に恥かかせやがって!ただじゃおかん」

と見たことがないくらいご立腹で、なだめ役の見張兵曹も今回は大変てこずった。

それを伝え聞いた分隊長、さすがに例の件を思い出し(まずいかも)と思い、その晩は最下甲板の隅っこで過ごしたのだった。

でも、毒蝮大佐にはとても強烈な印象を残した松岡中尉。毒蝮大佐は参謀に「もう一遍逢ってみたいなあ、あのへんな海軍士官に」と言って大笑いしたとかしないとか――

 

        ・・・・・・・・・・・・・

自走砲というものは存在します(しました)。

が、こんな変な危ないものではありませんから念のため!

 

本物の自走砲。(自衛隊のものですね)
自走榴弾砲


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● COMMENT ●

ジスさんへ

ジスさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます。お元気で何よりです!

「自走砲」とは戦車のようで戦車でない、・・・という複雑なもののようです。説明の書かれた本を読みましたがなんだか全くわかりませんでした(泣)。
そういえばアメリカ軍が最近馬のようなロボットを開発しましたね、何でも、どんな足場の悪いところでも入って行けて転んでも起き上がれるという・・・いつだったかTVで見たことがありましたがちょっとキモかった^^。

毒蝮さん、かつては「科学特捜隊」アラシ隊員として一世を風靡しましたね!
今では関東一円のスーパー周りをしています。毒舌が売り?のようですがその中にも相手を思いやる心があって私は好きですね~~。

さあ、この毒蝮さんまた出てきますでしょうか、ご期待くださいね^^!

NoTitle

こんにちは。いつもありがとうございます。
ご無沙汰していましたがお陰様でなんとか生きています。

「自走砲」という兵器があるのですね。リモコン操作で動き危険なところにも入っていけるものでしょうか。こんなに暴走してしまうと大変危険ですね・・・。

毒蝮wwwwウルトラマンに出ていた人ですね。確かに濃いキャラかとwww次回も楽しみです。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
ご心配をおかけしてごめんなさい、このところどうも頭痛激しく、伴ってめまいもありなかなかPCに向かえなくて・・・でもだいぶ良くなりました。ありがとうございます!!

まったくもって小笠原の陽気にあったうっとうしい、いや熱くなったキャラクターがそろってしまいました!さあ大変!
この小笠原編、もうちょっと続けようかなあ~と思います。なんだか南の島に行って一ヶ月くらいボーーーーっとしていたい感じですww。

まろにいさまも御身大切になさってね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
お掃除ロボットルンバは完全なる「自走」砲(?)ですね!
松岡の踊り・・・想像するとなんか怖いようなおかしいような・・・ですね^^。
ほう、小笠原にはそのような海岸があるんですか、不勉強でしたね私!マツコがそこに行ったら「あらエスカルゴじゃないの!?…てこれ中身ないじゃないのよー!!」っていいそうですねww。

毒蝮は、娘たちが「ウルトラマン」を見ていて思いつきました。また出てくるかもしれないですよ~。覚えておいてね~^^。

またよろしくお願いしますね^^。

NoTitle

濃いキャラ揃いで小笠原の気候風土にぴったり!!
しばらくぶりでしたが体調でも崩したのではと密かに心配しておりました。
季節がとっても不順な折柄、なにとぞご自愛専一にお過ごし下さい。

こんばんは。私は自走砲というとレインボー5とかいう放水車を思い出します。あとお掃除ロボットのルンバちゃん!!マツオカさまだったら意味なく一緒に踊ってしまうかも!!
小笠原にはカタムツリの化石の海岸(?)砂浜(?)があるとか…マツコが見たらガンガンクチバシでつつくかしら?
毒蝮さまの濃いキャラもいいですね!!マツオカさまと漫才が出来るかも…イヤ、マツコがヤキモチやいちゃいますね(笑)
楽しいお話ありがとうございました!!


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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