「女だらけの戦艦大和」・こころざし新たに3<解決編>

「女だらけの大和」ほかの小艦隊は、太平洋を東に進み小笠原諸島父島に到着した――

 

ここまで訓練をしながらの航行のため約二週間ほどかかって来た。久しぶりに海ばかり見て来た目には父島の緑が嬉しい刺激である。

一行はここで数日間補給、休養を行った後トレーラーに向けて休みなく走ることとなる。梨賀艦長は、「手すきより上陸を許すが不案内な土地ではあるからあちこち行かぬよう。単独行動は厳禁、住民との過度な接触は避けよ。また陸軍兵士との喧嘩はご法度だ、わかったなあ!?」と命令し、さっそく手のすいた兵は降りてゆく。

ここには陸軍がずうっと以前から砲台などの施設を作っていて今もしっかり陸軍嬢たちがここを守る。

その陸軍嬢たちが「聞いた!?海軍の大きな戦艦が来てるんだって!」と大騒ぎをしてわざわざ港まで『大和』ほかを見にやって来た。階級も上から下までごっちゃである。皆興味しんしん。

陸軍嬢たちは、沖合に停泊中の『大和』を背伸びして見つめながら「見てあれ!大きな船だねえ」と口々に叫ぶ。

その中の一人、准尉が「あの一番大きな艦、聞いた話だけど『冷房』てもんがあるらしいよ?」というと皆が一斉にその兵を見て「・・・レイボウ?でありますか?」ときょとんとした顔つきで言った。

「そう。『冷房』、何でも熱い熱い国とか行く時それをつけるととても涼しい風が吹き出す機械があるんだそうな」

准尉がそういうと皆は羨望の目を『大和』に向けた。下級兵たちは口には出さないが(いいなああの海軍のフネは。私も海軍にすりゃよかった)と内心がっくりくる思いでいる。海軍であろうが陸軍であろうがお国に尽くす誠には変わりないが、「隣の芝生は青い」というあの心理であろうか?海軍嬢たちはそんな陸軍嬢たちを見て「いいよなあ陸さんは。逃げ場がいっぱいあるじゃないか。私たちは艦の上だから逃げ場がねえよ」と腐る。これも「隣の芝生」である。

 

長妻兵曹と増添兵曹もその他大勢とともに上陸し、「ほう、この島はなんじゃちいとトレーラーに似よる気がせんか?」と言いながら港周辺を散策。あちらこちらを見ていたが長妻兵曹が「ここには<ええとこ>がないんじゃなあ。残念じゃ」というに及んで増添兵曹は苦笑して「よいよ長妻は好きものじゃなあ。ここまで来てそがいなこと言わんでもええじゃないか。ここではほんの数日じゃ。この大自然を満喫して行こうじゃないか。え?」と言った。通りすがった陸軍嬢たちがその会話を耳にしたのか、二人の方を振り向いてくすくす笑った。

「ほら、陸さんに笑われとるで。ええ恥さらしじゃ、はようあっち行ってみようや」と増添兵曹は長妻兵曹の肩を押して島の中央付近へと歩を進める。

 

その頃島に数隻の大型輸送船が入港し忙しく荷降ろしを始めていた。陸軍嬢たちへの食料品の補給や弾薬の補給などが主である。そしてそのうちの一隻は海軍の大型輸送船でこれも港に接舷するとやがて荷が忙しく降ろされ始める・・・

 

翌日、海軍の輸送船からはしけが『大和』に接舷したくさんの荷物を持ってきた。その多くは今回は慰問品が多く、甲板士官も仕分けを手伝いながら(親ってもんはありがたいなあ、こうしてどこに行っても思ってくれるんだから)と涙腺が緩んだ。

ともあれ、主計科中心になっての仕分け作業が終わり慰問品や手紙の類がそれぞれの手に渡された。

そしてその中に、あの老女が投函した手紙があった。

 

機銃分隊では平野少尉が「おおい、増添兵曹。手紙が来てるよ」と、機銃の手入れに余念のない増添兵曹に手紙を渡してくれた。帰り際「・・・恋人からかな?うふっ!」と余計なひと言をくれたのには参ったが。

「手紙?いったい誰からね?」と増添兵曹は機銃の手入れをする手を止めて封筒の表書きを見た。まったく上手と言えない文字で「呉鎮守府気付 増添要子様」と書いてある。赤い字で『大和乗組』と書いてあるのは鎮守府の人間の筆であろう。

(一体だれね?)と封筒の裏を見た兵曹の顔つきが変わった。あわてて封筒を開け、中身を引っ張りだした。便せんを開く。

 

>・・・・ヤウコヘ。

その手紙はこんな書き出しで始まっていた。

>ヤウコヘ。コナイダハ、セッカクキテクレタノニ ナンノカマヒモナク モウシワケナクオモヒマス・・・

食い入るように手紙を読み始める兵曹、手紙はたどたどしい文字でつづられている。

 

>要子へ。こないだはせっかく来てくれたのに何の構いもなく申し訳なく思います。要子は母を恨んでいるでしょうね。でも恨まれても仕方がないと母は思っています。要子を憎く思っているわけでは決してないのです。この話は書きだすと長くなりますし、母には長い手紙を書く頭もないから苦労ですが書いてみました。要子を産んだ時姑は「おなごでは役に立たん、なんでおなごなんぞ産んだ?」と言い要子をないがしろにしました。本当は女の子をほしかったのにそう言われて悔しかったが、姑は強くて母も父もそれに同調しなければいけないような空気になっていたのです。その時命をかけても要子をかばえなかった母は愚かです。要子には本当に気の毒で可哀そうなことをしたと今も思います。

でも、さつきが嫁に来て要子の母のように優しくしてくれて母は内心ホッとすると同時にさつきに嫉妬していたのですね。さつきに子供ができないのを責めたりしていじめました。

それを要子に叱られた時母は恥ずかしい思いでした。でも母の性分としていったん始めてしまったことを収めると言うのはなかなかできず、今日まで来てしまったこと要子はもちろん、さつきにも謝らねばと思っています。地獄に落ちても仕方がないと思っています。

こないだ要子が立派な海軍さんの姿になって帰ってきてくれたのを見た時、母の目に涙が浮かんで仕方がありませんでした。でもそれを見られるのが嫌でわざと引っ込んだりしてしまいました。あの時母は部屋でうれし涙を流していました、あれほどないがしろにしたのに要子はこんなに立派になって帰ってくれた。さつきの喜びはそのまま、この母の心です。

要子が、兄夫婦と仲良く畑に行くのを見て母もどれほど行きたかったか。さつきと風呂に入っているのを見てどれほど一緒に入りたかったか。でもどうにも気まずくて気おくれがして、いまさらと思うと出来なかった。要子が帰る朝も、母は泣けてしまいそうで見送れませんでした。だからお仏壇のお父さんに手を合わせて要子の武運を祈りました。

本当にどれだけ謝っても要子は許してはくれないだろう、許してもらえるとは思わないが要子さえよければいつでもこの家に帰ってきてさつきに親孝行してやってほしいのです。要子はそうは思わないかもしれないが母はいつまでも要子の母です。どうかいつまでも元気で、ご活躍を祈っています。 母より。

 

「母さん」

読み終えた兵曹の目から涙が滂沱としてあふれた。手紙を握りしめ声を殺して泣いた。あのろくに文字も知らない母がこれだけの手紙をどれだけの時間をかけて書いたのだろう。どれだけの苦労をしながら自分の心の内を書きつけたのだろうか。過去の苦悩と戦いながら、それでもわが子に本心を知らせたくて書いたのだろう。

その切なる思いが、文字を通じて兵曹の心に流れこんでいた。

「母さん・・・ごめんね、うちこそあほじゃった。母さんのこともうすぐ死ぬるなんかいうて。ごめんなさい」

手紙を握りしめその場に打ち伏して泣いた。母も姑に反論できずつらい立場だったのだろう、どうしてそれを思いやれなかったのか、あの祖母の横暴は自分も知っていたはずなのに。兵曹は己の浅はかも責めた。

兵曹は泣きながら手紙を胸に当てた。すると老いた母が手紙を一所懸命に描く様子やそっと郵便ポストに投函しに行く様子が浮かんできた。

(母さん、うちは母さんをうらんどりゃせんけえ。またいつか帰ったら、その時こそ皆そろって畑に行こうなあ。うちと母さんと、兄さんとねえさんの新しい一歩を始めるんじゃ)

 

兵曹の脳裏に、兄夫婦と母、そして自分が畑仕事をする風景が鮮明に浮かんでいた。

 

そんな増添兵曹の姿をトップから見ながらマツコは「人間って複雑ね。あの紙に何か書いてあるのねえ、きっと。あの禿げ頭が泣くくらいのことっていったい何かしら」と考え込んでいた。

その下では、麻生分隊士が「ほらオトメチャン、これが父島だ。明日は上陸だから楽しみじゃなあ」と言ってオトメチャンを抱きしめている。オトメチャンは抱きしめられながら夢見心地な瞳でいる。

マツコは眼下で繰り広げられているそんな光景に目を剥いて驚いて両方の羽を大きく上に向けて広げた、そして

「まったく!こいつら二人はいつだってこれなんだから、緊張感ってもんがないのかしらねえ!?」

と傍らのトメキチを振り返ったが、トメキチはすっかりいい陽気に当てられて眠っていた。

「まったく!」

マツコの舌打ちが、響いた――

 

     ・・・・・・・・・・・・

あの老女は、増添兵曹のお母さんでした。自分がおなかを痛めて産んだ子供がかわいくない親がいるわけがないですね。兵曹のお母さんも気の毒でした。

でも今度帰った時には皆でなかよくすごせることでしょう!

 

小笠原編もう少し続きます。


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ルパンさんへ

ルパンさんこんばんは!
ご心配いただきありがとうございます^^。
ちょっとこのところ頭痛がひどくておりましたもので・・・。

今日は少しよくなってきましたから更新&ご訪問いたしますね!あしあとの垂れ幕、でないときがありますね~どうしたものか????

日々雑感もそろそろいたしますのでまたよろしくです!!

NoTitle

こんにちわ~

最近、見張り員さんの姿を見かけませんが、ご病気とかではないですよね。
足あとだけでも頂かないと心配致します。 今日あたりが更新の日ですか? 
見張り員さんのブログの足あとの垂れ幕は、出たり出なかったりしています。
足あとの調子が悪いみたいですよ。 日々雑感、お待ちしております^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
「お母さん」本当にいい言葉です。
そして母と子は胎内だけでなく、外へ出てからも確実につながりを持っているというのが素敵なところではないでしょうか。
いいですね~、母子って。

母は舟。
そうかもしれないですね、たくさんの荷を積んでちょっと傾いて。
「女だらけの大和」も幸せという荷をたくさん積んでいずれ国に凱旋してほしいと思います!

こんばんは。お母さんって言葉の響きもいいですよね。藍川京先生がお姉さんも自分も頭痛持ちなのは母親の体質を受け継いだ…みたいなことを今日のブログに書いていらしたのですが、そういうことでも母子のつながりってスゴいな、なんて思ってしまいます。
『大和』は戦艦、フネですよね。吉野弘さんの『漢字喜遊曲』という詩の一節に《母は/舟の一族だろうか/こころもち傾いているのは/どんな荷物を/積みすぎているせいか》というのがあるらしく…今回、コレを思い出してしまいました。「シアワセ」という荷物で傾いて欲しいですね。長くなりました。ごめんなさい。いつもステキな物語をありがとうございます!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
そう、増添要子さんのお母さんでした、彼女はやむにやまれぬ事情があって要子にはきつく当たっていましたがこのたび思いなおしたのです。

ああ、まろにいさまにはお見通しでしたね^^、さすがにいさま!この手紙の内容のこと、まさににいさまのお察しの通りです。
私も結構複雑なんだな、と自分で書いていて思った次第です。こうした話の中に、私の来し方とか考えなどを時折ちりばめてあります。これからもそんなこんなを見つけてみてやってくださいね^^。

南の島。ああ私も行きたいなあ。
小笠原諸島、世界遺産でしたっけ。ぜひ一度行きたいです・・・

NoTitle

やっぱりそうでしたか。増添さんのお母さんを置いて他にはいませんもんね。そしてこの母の言葉は……、見張り員さんの心の奥底にあるわだかまりと恋しさではないかと勝手に詮索してしまいました。すみません。

南の島で皆さん英気を養ってもらいたいものですね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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