2017-09

「女だらけの戦艦大和」・こころざし新たに2 - 2012.05.18 Fri

「女だらけの戦艦大和」が呉を出港し、三田尻に入ったころとある農村では一人の老女が小さな文机に向かって書き物をしていた――

 

老女は三日ほどかかってその書き物を終える封筒に入れ、翌四日目の早朝、それを郵便ポストに投函しにそっと家を出た。老女はポストまでの道のり、その封筒を胸に抱えて歩いた。五月も末の朝日は早く昇るが山に囲まれたこの村では空は明るいものの日差しそのものは差し込んではこない。明るくなった空の下老女は一足一足踏みしめるように歩く。

(・・・あの子に、あの子に)

心の中で繰り返しつぶやきながら歩き、やっと行く手にポストが見えて来た。老女はポストにすがりつくようにして、封筒をその口にそっと入れた。そして、ポストにしわの刻まれた両手を合わせると、(どうか無事で・・・あの子に)と祈った。

しばらくの間そうしていた老女であったがやがて顔を上げるともう一度、ポストに深く礼をしてから踵を返すともと来た道を歩いて行った。

 

「女だらけの大和」ほかの小艦隊は、この後日向灘を出てから小笠原諸島を目指す。その間各種訓練をしながらである。豊後水道及び日向灘航行中は対空・対潜訓練をしながら行く。

巡洋艦を先頭に単縦陣での航行、防空指揮所はもちろん各見張所では神経をとがらせて訓練に励んでいる。

指揮所では松岡分隊長が例のラケットを振り上げながら、

「それ見張れ、よく見張れ!いいか熱くなれよ~、いいかい訓練だからって気を抜いたらいけないぞ、ほらもしかしたらあのお日様の中から敵機が突っ込んでくるかもしれんぞ!」

と大声で叫ぶ。亀井一水が双眼鏡で受け持ち区域を見ながら小声で、

「わかっとるわ、はあもうあの人の『熱うなれ』は聞きあきたわ。太陽の中から敵機ねえ。そがいなん、こっちだってわかっとるわ。セオリー通りやってまーす、ってかね」

と悪態をついた。

見張兵曹はそんな声にも耳を貸さず一心に双眼鏡の奥を見つめている。麻生分隊士も、胸から下げた双眼鏡を時折持ち上げて目に当てている。そして(オトメチャンは雑音にも心動かさんと、えらいもんじゃのう)と思っている。(ほうよ、俺が惚れるだけのおなごじゃもん。えらいに決まっとるわ。亀井なんぞとはわけが違うけえね)

すると指揮所後部見張りの酒井上水が声を上げた、「後方、飛行機の編隊十機近づく!距離約三〇〇」。少しばかり声が上ずっている。

その飛行機は大分佐伯航空隊からやってきた艦上爆撃機(九九艦爆)の小編隊で、この訓練に参加してきたもので艦長・副長たちはせんから知っていたものである。

が、乗組員たちには「緊張感を出すため」内緒にしていたものである。

指揮所に陣取っていた梨賀艦長はにやり、とすると伝声管に向かい「単縦陣そのまま、之字運動開始!」と命令。発光信号が出され、艦隊は単縦陣のままで之字運動を始める。高角砲・機銃群が艦爆に照準を合わせる。艦長は「各指揮官の号令により適宜射撃せよ」と発令、高角砲や機銃は<模擬弾>を装填し射撃を始める。

それらをかいくぐり、至近まで飛来した艦爆は、模擬爆弾を投下した。しかし、艦長の巧みな躁艦により爆弾は大きく外れて落ち、海面に大きな水柱を立たせる。松岡分隊長が、「よーし、よくやったあ。操舵員くんも熱くなってるぞ、さあみんなも負けるな!」とラケットを振る。小泉兵曹がちょっとだけ後ろを振り返って「・・・全くうるさいのう」とまゆをひそめたが双眼鏡に戻るときにはその目は笑っている。

トップのトップではハッシー・デ・ラ・マツコが「あら、きょうはマツオカはここに来ないのかしら。珍しいわねえ」と言いながらも少し、さみしそうである。見張兵曹のそばにくっついていたトメキチがそれを聞きつけて「おばさん、結構松岡さんのこと気に入ってるんじゃない?」と言って笑うとマツコは狼狽したかのようにその場で足踏みをして、羽を大きく膨らませて「いやあねえこのくそワンコ、あたしをからかってるわけえ!」と言って後ろを向いてしまった。トメキチは笑いながら(ほんとは松岡さんが大好きなの、僕知ってるんだけどなあ~。素直じゃないね、おばさんも)と思う。

そんな動物たちの心とは関係なく訓練は続く。艦爆隊がさんざん模擬爆弾を投下して佐伯に去って行ったあと今度は宮崎県油津基地からはるばるやってきた「新・特殊潜航艇」が訓練参加、今回は<クジラ型>が八隻登場して<模擬>顔面噴進砲をぶっ放し、「大和」以下の艦隊の乗組員の度肝を抜いた。

「ほう!えらい兵器を作ったもんじゃのう」と「大和」でも巡洋艦・駆逐艦でも嘆息が上がった。麻生分隊士が、「クジラいうんはアメリカが大好きなんじゃそうだ。ほらずうと前、<シー・ドーベルマン>言う妙なクジラ保護の連中がおったじゃろ?そういう考えが多いけえ、クジラを真似たらええんじゃないか、言うことであの特潜ができたらしいな」と教えてやった。見張兵曹が双眼鏡からちょっと目を離して「あの<シ―・ドーベルマン>とかいうのの船長、うまいうまいいうてクジラの肉を食うとったですよ。ほいであとから岡沢中尉に『それはクジラの肉じゃ』言われてぶっ倒れてましたわ」と言いその場の皆は爆笑した。

クジラ型・特潜は今回は「お披露目」のような感じで噴進砲を放ったり艦隊の周囲を泳ぎ回って見せて、やがて去って行った。それを見送りながら麻生分隊士は「あのほかに<イルカ型>もあるんじゃと。アメリカさんはイルカも大好きじゃそうだからな」と言った。

松岡分隊長がそばにやってくると「麻生さーん、麻生さんはさすが事情通だね。そうだよ、そして<くじら>と<イルカ>は少し前にオーストラリア周辺海域で大活躍したんだよ」と教えてやった。皆は「ほう!ほいじゃあもう帝国の勝利は間違いないですね」と喜んだが、分隊長は急にまじめな顔になると

「いや!慢心が一番いけないぞ。確かに帝国の勝利はもう目の前だがだからと言って気を緩めると勝利が遠くなる!いいですか、ここはひとつ褌をしめなおして行こうじゃないか」

というと、ものすごい大声で「バンブー!」と叫んだ。とたんに「バンブー!」と一斉に叫んで片腕を天に突き上げる指揮所の面々。梨賀艦長は(これが噂の『バンブー』か。よくわけがわからない)と思いながらも微笑んで見守る。その上の方ではマツコがバンブーの声に合わせて羽を大きく広げている。

 

そんなことをしながら艦隊は都井岬で転舵、一路太平洋上の小笠原諸島に向かって走り出した。

 

同じころ、呉から輸送船がたくさんの軍需品や慰問品を積んで出航していた――

(次回に続きます)

          ・・・・・・・・・・・

いけんで、また話が長うなる!

・・・と「女だらけの大和」の誰かが言っています。その通り私は引っ張りますよ~。核心部分は多分次回になると思います。久々のまじめな訓練風景、今回は大分佐伯航空隊と、宮崎油津基地のご協力をいただきました~。

実際の油津基地はあの「回天」基地で第三回天隊、回天8機が配備されていたようです。この近くには「大堂津」「栄松南郷」基地もありました。今では大変美しい海のこの地ですが、かつては回天隊の若者たちがここで訓練をし、この海を見つめたのでしょう・・・。

大分佐伯航空隊は、昭和6年ごろ宮崎県とのし烈な誘致合戦の末、勝ちとられた?地で昭和9年12月1日に開隊しました。ここは豊後水道防衛のため爆撃機中心の配置になっています。

なお、昭和20年の『大和』海上特攻では哨戒、および対潜掃討も行いました。

佐伯市平和祈念館 やわらぎ


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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんにちは!
意外な人物です、老女。(ともったいつけていますね、失礼!)

子供はたとい、30になろうが40になろうが、親の気持ちは小さいときとあまり変わらないようですね。私自身の親を見てても思います。
その子供が戦地に行く、となると心は大変波立ったことでしょう。かつての出征兵士たちの親の残した手紙や手記を見るとその思いの深さに心打たれます。
「戦死」は誉とはされましたが、それを受け取る本心を思う時言葉がありません。

出征を拒めば憲兵が来て家族にも厳しい追及の手が及んだそうです。妹尾河童さんの「少年A」に徴兵を拒否して逃げた役者のお兄さんの話がありますがこれも大変な悲劇とした言いようがありません。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんにちは!

本当におかしな天気で振り回されちゃいますね(-_-;)
どうにか収まらないものかと考えますがこればかりは・・・。

犬には人に聞こえない音を聞きわける聴力があるそうですからきっと何か教えていたのでしょう。時折妙な行動をするのはそのせいでしょうか。

昨日はいいお天気でハイテンションのモミジは、普段使っているクッションのわたを引きずり出して私に叱られました・・・(^_^;)
でもそのあと散歩してご機嫌でしたよ!

いつもありがとうございます。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
そうだ、関アジの取れるところでしたね!(一度食して見たいですね~~^^)
九州、特に豊後水道・日向灘あたりは軍の要衝だったみたいですね。
保戸島の小学校の話は哀切きわまりないですね・・・戦争とはいえ子供を狙うとは。こういう話は決して忘れてはいけませんね。
語り継いでゆかねば。

まろにいさまが見つめる豊後水道をかつて『大和』は、粛々とゆきました。

どうぞ、お手を振ってみてください。たくさんの「乗組員」が笑って返してくれますよ!!

老女の正体やいかに!
子供を持つ親の気持ちは幾つになっても変わりませんね。まして子供が戦地に赴くとなると、例えお国のためとはいえ、無事を願うこと必定でしょうね。
戦時中のお母さんたちの心境はどんなだったんでしょうか。国の栄誉のために我が子も出征できる喜びだったのか、死出での道へ旅立たせる親の無力さを感じていたのでしょうか。出征を拒むことで国賊扱いされた家族の思いはいかに、ですね。
当時は複雑な心境だったのでしょうね。

見張り員さん  こんにちは♪

いつもありがとうございます♪

異常気象は早く治まってほしいです。
モミジちゃんは人にはわからない音か
何かを聞き見張り員んのご家族に知らせて
いたんですね。
今日は晴れてモミジちゃんも楽しく散歩
ができますね。

今夜もまた熱うなりました。豊後水道……。
今は関アジ関サバと官民挙げて沸騰している豊後水道も、戦時中は要のひとつであったと聞きます。津久見市沖に保戸島という島があるのですが、要塞だったこの島にアメリカのB29か何かがやってきて小学校を狙い撃ちしました。多くの小学生が犠牲になったと聞きます。
この灘を大和も通ったのかと改めて思いました。
手を振ってみます。見張り員さん、トメキチ、マツコ。多くの人たちがきっと応えてくれそうな気がします。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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