2017-10

「女だらけの戦艦大和」・マツコ呉散歩2 - 2012.04.01 Sun

春四月も間もなくの、うら温かいある日。マツコは松岡中尉他と呉の街に初上陸を果たした――

 

マツコは、羽を出せるように作られた「一種軍装」を着てご満悦の様子である。そのマツコに同道するのは松岡中尉に麻生少尉、そして見張兵曹・石川水兵長にトメキチ。そして松岡中尉のたっての願いで医務科の畑睦子軍医大尉。

軍医大尉に関しては、松岡中尉自ら医務科に乗り込んで軍医長の日野原大佐に「お願いであります、一日だけ畑大尉に休暇を願います!後生です!」と必死に頼み込み、「いったい何があったと言うんだね?」と日野原軍医長を驚かせた。事の詳細を聞いた軍医長は笑って「いいよいいよ、動物相手ならこの畑大尉にかなうものはいないからなあ」と快諾してくれた。

ともあれこの珍奇な連中を乗せたランチは一路上陸場を目指す。先月の半ばまで塗装など兵器の充実のため工廠のドックに居た『大和』もそのほとんどを終え、呉湾のブイに係留されている。

春風が上陸員たちのほほをなでて過ぎ、皆は(ああ、日本の春の風じゃ)と心浮き立っている。

 

ランチは上陸場に着いた。衛兵所を通る際、他艦の兵や衛兵たちが目を向いてハシビロを見るのが『大和』の皆にはおかしくて仕方がなかった。もうトメキチは呉ではある意味有名な存在ではあるがハシビロの存在は知られていなかっただけに驚きをもって迎えられた。

マツコはあちこち見まわしてはトメキチに「おばさん、あまりきょろきょろしたら田舎者だと思われるから堂々としててよ」と注意され、「あらあんた何いってんのよ、こんな珍しいもの今まで見たことないんだからさ、いいわよ田舎者だって。そういうあんただって相当よ」と全く気にしていない。トメキチは見張兵曹と手をつないで歩きながら「おばさんらしいね」と言って笑った。

「さて」と松岡中尉はいつも肌身離さないラケットを持ち直すと言った。「今日はまずどこから行こうかね?まだ腹が減るには早い時間とは思うが・・・畑大尉、どうしましょうか」

畑大尉はハシビロを見ながら「そうだねえ。ハシビロは本来あんまり動かないらしいから歩かせない方がいいかなあ~」と言っている。それを聞いたマツコは両の羽を大きく広げて軍装の胸を張って「何いうのよう、このメガネ女。あたしはハシビロでもそん所そこらのハシビロとは違います。さあ、どこへでも行きましょうよ!」と言ってその大きなくちばしをカタカタさせた。そしてのしのしと歩きだした。

「おう、待ってくれ鳥くん」と松岡中尉と畑軍医大尉はそのあとを追う。松岡中尉は「じゃあ手始めに<海軍墓地>へ行こうじゃないか。呉の英霊に御挨拶だ」と言い、麻生少尉も「まっとうな答えだ。安心したよ」とつぶやいた。少尉は、(松岡さんのことじゃけえ、両城の階段を駆け上ろうとか言いだすんじゃないか思うてひやひやしとったが、海軍墓地ならええわ。ちいとはまともになったンかねえ、あの中尉)と思っている。そしてオトメチャンを振り返って「トメキチも平気か?あるけんようならおれが背負うてやるが?」と言った。

見張兵曹は笑って「トメキチも張り切っとりますけえ、平気ですよ」と言った。トメキチが敬礼して見せた。

道中彼らは市民たちや他の兵たちの注目の的であった。子供たちがあとを付いて歩く。陸軍の兵が口を開けてぽかんとして見ている。憲兵たちが大笑いしたいのをこらえて下を向いている、肩が大きく揺れているので笑いをこらえているというのが一目瞭然。が、顔を上げるときりっとした普段の顔つき。しかし口元がひきつっている・・・。

松岡中尉はその様子を見て「どうしてあの憲兵さんたちは笑ってくれないんだね?笑いをこらえると言うのは体にいいことないと言うのに。うんと笑って熱くなって任務に励む!これが憲兵さんのあるべき姿じゃないかね?」と言ったが麻生少尉にはわかっていた。

(あの憲兵さんたちが俺たちを見て笑うたんが浜口大尉に知れたら、浜口大尉は『貴様ら『大和』の将兵をバカにしよったなあ!』言うて言いがかり付けてまたぶんなぐるんじゃけえ。憲兵さんたちも恐ろしゅうて笑えんのじゃ」と。

 

一行は子供たちに囲まれながら海軍墓地に到着。入口で皆は一斉に敬礼して丘に並んだ墓石や記念碑を見上げた。英霊たちの見えない視線を感じるのは自分たちも軍人だからだろうか。

桜が咲き始めている、その様子に麻生少尉が「ああ。呉の英霊が桜を咲かして待っていてくれとる」と感にたえたように言った。見張兵曹がトメキチとともにそっと両手を合わせた。松岡中尉が「鳥くん。ここが<海軍墓地>だよ。明治からの英霊たちがここに眠っているんだ。さあ君も『大和』の一員としてあいさつしたまえ」と言うと、マツコはノシノシと歩いて墓地全体を見回すようにした。

そしてそっと頭を下げて(呉の『英霊さん』とおっしゃる方。どこのどなたかは存じませんが私はハッシー・デ・ラ・マツコと申します。みなさんは強い力をお持ちのように感じます。ですからここにいるこいつら・・・じゃなかった、『大和』のみんなをお守りください)と祈った。

畑軍医大尉がその様子を見て「ハシビロが、祈りをささげている・・・」と感じ入った。麻生少尉も「なんと、人間のような心をもっとるんでしょうかハシビロも」とつぶやいた。すると今まで黙っていた石川水兵長が「ハシビロにもわかるんと違いますか、ここの清浄な空気と英霊の偉大さが」と言った。

見張兵曹が「ほうじゃねえ。どんとな格好しておっても心があるもんにはわかるんじゃとうちも思うよ」という。

皆は敬虔な思いに包まれてやがてそこを後にした。子供たちもまだ、後を付いてくる。

 

「そろそろ腹が減らんかね」

松岡中尉が、墓地からの下り坂を例のラケットを振り振り歩きながら言った。麻生少尉が「・・・危ないねえこのラケット。みんなはどうじゃね?腹減ったかね?畑大尉如何しますか?」と畑大尉を振り返って聞いた。

畑大尉は吹きすぎる春のそよ風を両手を広げて気持ちよさそうに受けていたが麻生少尉の声に「そうだねえ、もういい時間だからみんなで飯でも食うか!」と言い、見張兵曹と石川水兵長は小声で「やったね。うちらもう腹へって動けんとこじゃったわ」とこっそり笑いあった。トメキチも笑う。

皆は本通りのある一軒の店に入った。ここは「昔海軍のコックさんをしとった人がやっとる店で、大評判なのであります」と麻生少尉が松岡中尉に紹介した。

「ほう、じゃあまさに本場の味ってことだね。麻生さーんさすが麻生さんだねえ。伊達に海軍の飯を何年も食ってるわけではないんだねえ」

松岡中尉はそう言って感激したが麻生少尉は「なんやうちがそげえなことしか知らん木偶の坊みとうな言い方じゃねえ」と不満げな顔をしたのが石川水兵長にはおかしかった。

今日は店も空いていて座敷が空いていたのでそこに座ったがマツコは「あたしは立ってる方が足にいいみたいだから」と店の入り口近くに立っている。店主が、「こちらさんはここでええんですか?」と気を使ってくれたがマツコは「いいのよここで」とうなずいたのでそこに椅子を持ってきてその上に大きな皿を置くとマツコ用にと魚の切れ端をたくさん盛り上げてくれた。

マツコはもう大喜びで「あらあ、あたしの好きなものを知ってるなんてやっぱり元海軍のコックさんねえ。気に入ったわこのお店!また今度来るわよ」と言って魚をぱくつく。

盛り上げてあった皿の上の魚はいつしか食いつくされた。

「ああ、もう腹いっぱいだわあ」とマツコは大きなげっぷをした。そして「まだあいつらは食ってるのね。いいわ、あたしここでゆっくりしてるから」と言ってその目を閉じて立ったまま居眠りを始めた。

・・・どのくらい眠っていたのだろうか。ふとマツコが気がつくとなんだか頭が重い。目を開けると目の前が真っ暗になっている。

「ちょ、ちょっとお!どうしたっていうのよこれ、ねえ畑大尉、松岡!石川にトメキチに小娘!どこよう!」

泡を食ってじたばたと動き出した。と、それを食事をしていた駆逐艦の兵が見て「うわあ、洋服掛けが動きよったで!なんごとじゃ、あれは」と騒ぎだし、それを聞きつけた松岡中尉達が入口に駆けつければ、なんとそこには「洋服掛け」と間違われたくさんの兵の上着だの帽子だのをかぶせられてその姿さえ見えなくなって、かろうじて足だけが見えるマツコがいた。

「おお鳥くん。可哀そうに・・・しかし君はえらいねえ。みんなに服をかけられても文句も言わないでこうして耐えている。うん、君は熱くなっているな。私の弟子にしてあげようじゃないか」松岡中尉はそう言ってかかっていた服を一つ一つ取りながら言った。

駆逐艦の兵たちが「これは『大和』の方でしたか、失礼いたしました!まさか鳥さんだとは思わなくって・・・申し訳ありませんでした」と平身低頭する。やっと服をすべて取ったハシビロを見て兵たちは「わあ、鳥の海軍士官じゃ!私らよりえらいのう」と言うと皆一斉にマツコに敬礼。マツコは気を良くして右の羽を広げて敬礼をして見せた。

店にいた皆がこれには喝さいした。

遠くからこれを見ていた駆逐艦の航海士は茶をすすりながら、

「ほう、わが帝国海軍の厳しい軍紀は鳥にまで及んだかね。うーん、大したもんじゃ」

と言ってうなった。

マツコは、店主や他の客に見送られながら松岡中尉達とそこを後にした。名残惜しいのかマツコは店を振り返りふりかえりして歩いてゆく。

見張兵曹がトメキチをだっこしながら麻生少尉に「分隊士、ハシビロはあのお店を気に入ったようですねえ」と話しかけた。麻生少尉も「ほうじゃね、あがいに魚をもろうたし人気者にもなったけえね」と言うと痛快そうに笑った。

 

皆はいろいろな店の連なる大きな通りをたくさんの人に囲まれながら歩いてゆく――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

マツコの初上陸はまず<海軍墓地>からでした。お店では少し大変な目?にも会いましたが人気者のマツコです。

さあお次はどうなる!?

ハシビロコウ立ち姿です。決して洋服掛けにはしないでね~!(画像はお借りしました)
ハシビロコウ立つ姿


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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
ぜひいつか、本物のハシビロを見ていただきたいと思う次第です^^。くちばしに妙に「存在感」のある鳥さんです。あれこそ本当の「ドヤ顔」だと思います。なんだか心を見透かされてるような気がして・・・
やつの鳴き声を聞いたことがないので一度聞いてみたいですね!

呉海軍墓地、たとえて言うとお椀を半分に欠いたような地形のところの階段状になった部分にお墓が並んでいるという感じですね。一番上に上ると気分良い風が吹いてきます。

妙な取り合わせの春の椿事です。
次回は何が起きますでしょうか・・・ご期待ください^^!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
昨日の暴風雨すごかったですねえ!!すべてがぶっ飛んでいました…タメイキ。
マツコもこの風ではどこに飛ばされるやら・・・?

マツコの呉散歩、そろそろ佳境に入ります。大ごとにならないよう祈ってやってくださいませ~。

ハシビロって写真でしか見たことないんですけど、くちばしに特徴がある鳥ですよね。どことなく優越感を感じます。拡声機を常に口元に携えて話をしているみたいで、声のでかさは人一倍じゃないかと思ったりもしています。
呉の海軍墓地には行ったことないんですが、横浜の外人墓地見たいに整然としているんでしょうか。
ハシビロと桜と墓地。変わった取り合わせ。桜の花見に酔いしれる軍人さんも妙に注目してるんでしょうね。

こんばんは。暴風!!大丈夫ですか? マツコもバランス悪そうなスタイルなので、この風では違う場所に飛ばされそう(笑)
しかし~可愛いわぁ、私のマツコ!!(爆)見張り員さまのおかげで楽しく呉散歩させていただき、感謝感激です~(*^^*) 次はどこに行くのかなぁ~楽しみです♪

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
そうでしょう、私もこの話にマツコを出してから、本物のマツコさんとハシビロちゃんがシンクロしています。
・・・実は中学時代友人に「あだ名つけるのうまいねえ」と言われたことがありますw。
自分ではそんなことないと思っているんですが?

マツコも「女だらけの大和」に乗って性格が変わってきました。毒が少し抜けてきました。
さてこの後どうなりますか、ご期待ください❤

ハシビロコウは見れば見るほど人間のマツコさんに似ていますね。不逞な目つきも何とも言えず……。見張り員さんはもしかしたらあだ名を付けるのがお上手だったりして。
当家にもおりますが、着目が違うようですね。脱帽したくなるくらい上手です。

ふて腐れ気味の登場だったマツコさんもすっかりお仲間以上の待遇を得てご満悦ですね。ほのぼのしくて羨ましいくらいです。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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