「女だらけの戦艦大和」・雄々しい女、女々しい男!?

御蔵型海防艦・「甑」の艦上から何かが南の空と海にひらひらと散って行った――

 

海防艦の甲板で手にした紙ををこれ以上ないくらい細かく破った幸田クミ二等兵曹は、さっぱりした顔つきでそこを去ろうとした。そこへ同僚の浜崎二等兵曹が声をかけた。

「幸田兵曹、何してたんだね?」

その浜崎兵曹に、幸田兵曹は「終わった恋の後始末。・・・と言えたらよかったんだけどそんな甘いものじゃないよ」と言って笑った。浜崎兵曹は興味をそそられて「何々、ねえ聞かせてよ~」とすり寄ってきた。軽く苦笑した幸田兵曹であったが「これはとんでもない話だから腰を抜かさんように聞いてね。ほんと、仰天ものだからね」と注意を与えると、オホンとせき払いをして話し始めた・・・

 

幸田クミは以前佐世保の街で、偶然にも故郷の小学校で同級だった幼馴染の「新吾」に出会った。新吾は佐世保の会社で働いていたのだったが、これもかつての同級生が海軍に水兵服姿で目の前に現れたのにとても驚き、かつ、喜んだ。二人はしばし歓談し再会を誓ってその時は分かれた。当時幸田クミは水兵長で下士官任官直前、佐世保工廠で出来つつあった「甑」の艤装員として勤務中であった。勤務の合間に新吾に会うこともあり懐かしい話に花を咲かすこともしばしばあった。

新吾は「ねえ?クミちゃんはずっと佐世保にいられるんでしょう?僕もずっとここだから、いつでも会えるね」とうれしそうだったがもう「甑」の艤装はそろそろ終了し幸田クミは「甑」に乗って南方に船団護送任務に就くことが決まっていた。そしてその途上で幸田「水兵長」は「二等兵曹」に昇進することになっていた。

だが、そのことは軍機に触れるため軽々に話せない。そういう機微を新吾はわかっているのかいないのか今一つ幸田クミ水兵長には不安だったが、「当分はいるよ、だからまた会える」と言っていた。

それから二カ月ほど後についに<御蔵型海防艦・甑>は完成の日を迎え、公試運転終了後幸田水兵長たち乗組員は急きょ出航することになってしまった。

出航の一週間前から「防諜のため」に乗組員たちは上陸はもちろん、家族や友人への通信さえ禁じられた。そしてとある晩、「甑」は南方に向かう輸送船団の護衛として堂々たる出航を果たした。

それを数日後知った新吾は、岸壁にしゃがみ込んで海を見つめて「クミちゃん、クミちゃん」と泣いていた。通りかかってそれを見た海軍士官嬢は「うわあ、何この人!気持悪う」と思って足早にそこを離れた。

そして更に数週間経ち、やっと手紙をかけるようになった「甑」乗組員は最初の碇泊地・台湾で手紙を書いた。幸田クミも新吾に手紙を書いた。その頃には艦内で昇進の知らせをもらい、幸田クミ水兵長は「幸田二等兵曹」となっていた。

>何も言わずに出航の時を迎えてしまい、新吾君の前から消えてしまったこと深くお詫びします。が、今は海軍に生きる我々は今が正念場です。お許しください。

行き先は言えませんが、行った先で新吾くんに素敵なものを買ってこようと思っています・・・

それを出して次の碇泊地について数日したころ、新吾からの手紙が来た。

>クミちゃん、あなたが元気なら僕は何にも要らないよ?だからあんまり荒っぽい周りの子たちに染まらないでほしいのです。今まで通りのクミちゃんで帰ってきてほしいんです・・・

その手紙を受け取った幸田兵曹は少し複雑な表情を浮かべていたが。それでも懐かしさから新吾には手紙を出していた。

幸田兵曹の乗務の『海防艦・甑』は船団・艦隊の護衛任務を次々こなしてゆく。連日の激務に幸田兵曹は少し日に焼けた。浜崎兵曹が「幸田兵曹、あまり焼くとシミになるよ?これを使ってみたら」と海軍御用達の<美白クリーム>をくれた。

「ああ、そうだねえ」と幸田兵曹は受け取ってそれを顔に滑らせた。(今度佐世保に帰って家族に会った時、真っ黒じゃあ誰だかわからんなんて言われかねないもんなあ)

 

初出航からすでに半年が過ぎていた。幸田兵曹は思い出して新吾に手紙を書いてやった。

>新吾君、元気ですか?早いものでもうあれから半年が過ぎました。なかなか会えないけどそのうちきっとまた内地に帰れるから待ってて下さい。

そうそう、ここの店で買ったシャツを送ります。きっと新吾君に似合うよ!

それからここで見る星空の美しいこと!まるで夢のようだ、新吾君にも見せたいと思うくらいです。そのくらい美しい、これがほんとにこの世のものかと思うくらい・・・

幸田兵曹は、上陸の際現地の人が商う店で新吾に似合いそうな綿のシャツを見つけた。まるでこの地の青空を思わすような青い色、きっと新吾に似合うだろう。

しばらくして新吾からの返信。

>ありがとう、クミちゃん。

素敵な色のシャツ、さっそく着て見ました。みんながいいなあ、きれいな色だと羨ましがりますので僕はちょっと得意です。

そうですか、そんなに星空が美しいなんて・・・。でも、クミちゃんのその瞳ほどきれいなものはないと思います。クミちゃんの瞳ほどきらめいたりはしないでしょう・・・

「・・・」私の瞳ほど・・・?幸田兵曹はそれを読んで若干腰が引けた。なんだか乙女チックで「男が書く手紙の文章じゃないなあ」と思った。が、こいつは子供のころからこういうところがあったから、まあ仕方ないかと一笑に付して兵曹はその手紙を丁寧に畳んでチェストに仕舞った。

 

さらに半年後。新吾からのはがきや手紙は引きも切らないで届く。同僚や上官が「おーい、また彼氏から来たぞ~」とからかわれるに至って幸田兵曹は「彼氏じゃないですったら、単なる幼馴染ですよ。もう!」と少し機嫌を損ねることもあった。

幸田兵曹にとって新吾からの手紙や、あるいは新吾という存在そのものが少しだけだが鬱陶しいものになりつつある。

(新吾のやつ、まるでどこか遠くに働きに行った彼氏でも待ってる女みたいだなあ。なんかちょっと・・・)

幸田兵曹はげんなりしつつも機銃の点検やその他の業務に忙しい毎日を過ごす。そんな中また新吾からの手紙が来ている。忙しさから数日読めなかったその手紙をやっと課業の合間に開いた幸田兵曹は新吾からの「クミちゃんの写真が欲しいの」のリクエストに正直辟易した。しかし、それを横から盗み読みした浜崎兵曹の「いいじゃん、写真くらいなら送ってやれよ。それで向うの気が済むんなら安いもんだよ」という助言で(そうか、それだけ思ってくれると考えればうれしいことか)と思い直し、下士官に任官した時に佐世保で撮った写真を一枚、送ってやった。

>あまり写真を取らないので少し前のものになりますがご笑納を。水兵服から一種軍曹に変わった時のものです。今までとは見間違うような軍服の私はいかがですか?

というような手紙も添えて。それを送ってひと月ほどして輸送船団の護衛を終えてブルネイ基地に停泊中の幸田兵曹のもとにまた、新吾からの手紙が来た。

>素敵なお姿だとは思います。が、昔子供のころ野菊の咲く野原に寝転んだころのクミちゃんが好きでした。でも、暑いお国なのか寒いお国なのかわかりませんがお体に気を付けてくださいね

幸田兵曹はさすがにげんなりした。もういやだと思った。こんなにまで手紙のやり取りで疲れるとは今だ経験がなかった。もう文通をやめようかと思った。一抹の救いは最後に書かれたこちらを案ずる一節だったが、追伸を読んでもう兵曹の腹は決まった。その追伸とは、

>早く帰ってきて?僕はクミちゃんがいないと寂しいんです。できたらもう海軍をやめて、僕のそばにいてほしいの。考えておいてくれたらうれしいな!

この追伸が、幸田兵曹の逆鱗に触れた。

「なんて女々しい奴だ!ふざけるねぃ!」

幸田兵曹は怒りに震えつつペンを取りそして最後の手紙を新吾に書いた。

>新吾君。

私は帝国海軍軍人として毎日激務をこなし、皇国の繁栄を祈り、そして何より仲間と連日楽しく勤務をしています。君のことを忘れ軍人として邁進してゆく所存です。許してほしい。

でもこれが私の生き方です。新吾君には新吾君の生き方があるでしょうからお互い頑張ってゆきましょう。

元気で。

さようなら。

別れの手紙である。新吾を嫌いではないがここまでおしつけがましいともう、鬱陶しいだけである。内地に帰って付きまとわれても迷惑である。大体新吾と私は釣り合わない、新吾はどっちかというとなよなよしていて女っぽくっていけない。

帝国海軍軍人の友人とかそれ以上の関係にはふさわしくないのではないか。

幸田兵曹は手紙を出した。そしてまた、艦隊護衛任務に付いたりして忙しく過ごし手紙のことを忘れていた。

それから二月後、新吾からの手紙が来たがなんだか分厚い封筒に兵曹は(刃物でも仕込んであるんだろうか?)と恐る恐る開封したがそんなものは入っていない。肝心の手紙には、

>クミちゃん。

あなたのことを振り回しちゃったみたいで反省しています。でもお別れのお手紙には悲しくって泣いちゃった。クミちゃんから今までもらったお手紙を並べて読んでうんと泣いたら少しだけすっきりしました!

これからお互いの場所で頑張ろうね。で、今までいただいたお手紙とお写真はお返しします。僕の出した手紙は捨ててくださって結構です。それからいただいたシャツは気に入ったからこのまま着させてもらいます。

・・・で、厚かましいけど最後のお願い!悲しい涙をふくハンカチを下さいな?

幸田兵曹が封筒を破いてみれば今まで自分が新吾に出した手紙と写真が入っていた。まあ、こうしたものを返すだけいいか、と思ったが「ハンカチを下さい」にはさすがに激怒した幸田兵曹、「誰がやるかあ!!」

と怒鳴ってその手紙も自分が送った手紙もびりびりに破いて棄てたのだった・・・

 

「そういう話」とため息をひとつついた幸田兵曹に、浜崎兵曹はびっくりしたように眼をまん丸く見開いたまんま「へえ~」と声をあげている。

そして「男女逆転だねえ、見事な。でもさ、いくら私たちが勇ましい軍人だと言ってもやはり男の人は毅然とした人がいいねえ」と言って幸田兵曹は大きくうなずいたのだった。

そして二人は午後の課業に戻ってゆく。

 

・・・その「新吾」くんだが、幸田兵曹の別れの手紙をもらった直後にもう職場の女性とくっついていたというのは幸田兵曹は知らない話。知らなくっていい話ではあるが。

 

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

なんか気味悪い男の子が出てきました!まあ「蓼食う虫も好き好き」と言いますから、どういう男の人が好きでもいいのですが幸田兵曹始め、「女だらけの海軍」さんには受けの悪い男性のようですね。

 

木綿のハンカチーフ。懐かしい曲です(この歌をモチーフに作りました)



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matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
こういう女々しい男は嫌いです(きっぱり)。

ニューハーフのかたにはまだ会ったことはありませんが確かにお話をTVなどで聞くと思ったより堅固な意思とか誇りをおもちですね。
周囲の環境が厳しいということもあるかもしれませんが見習うべき部分もありますね。
彼女たちこそ「雄々しい」人かもしれませんね。

鍵コメ様へ

鍵コメ様こんばんは!

ご指摘頂戴しありがとうございました。
むむ!…と見直したらあな恥ずかしや!まちごうとった!
というわけでさっそく直しました!
本当にありがとうございました^^。


昔。こういう感じの男がいました。でも特別な関係とかでは一切なく、アルバイト学生で彼の指導員を務めたんですがこういうナヨット君で大変うざく、根を上げたのは私。結局彼を配置換えにしてもらいましたw。
「木綿のハンカチーフ」を聞いたらふいに思い出して書いてみました~。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
いよいよ桜の季節ですね。今年は桜が遅くって靖国神社で毎年行われる「さくらまつり」(3・30~4・8くらいまでです)もどうなりますか・・・?

というわけでブログの中で桜を咲かせました。英霊のみなさんも喜んでくださるとうれしいですね^^。

こういう男、実際にはストーカーになったりしてとんでもないことをしでかす輩がいますよね。付きまといなんて本当に嫌だと思います。そればかりか殺人にまで至る昨今。どうかしています。
「新吾」観たくさっさと新しい女を作ってくれたほうがまだいい・・・のでしょうか。でもいい加減な男です(怒)!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
やっぱり男は雄々しい男性がいいですねえ~、『ここは俺に任せろ』みたいなドーンと構えた人が!
ナヨット系は願い下げであります^^。

女性のほうがそうですね、生きることにどん欲かもしれません。『産む』せいだということもあるかもしれないですね・・・

こういうまさにうざったい男とは別れて正解!の幸田兵曹でありました~~!

いやはや、自分も女々しいと思える男に出会ったことはありますが、これほど女々しくはなかったですね。
今どきのニューハーフだってそんなに女々しい人っていませんよ。むしろさっぱりと清々しいですよね。もっとも元々が男ですから(笑)。
昔、ニューハーフのお店に1度だけ行ったことありましたけど、すごい皆さん誇りをもってお仕事してましたね。
男の自分でも羨ましい位でしたよ。

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

おぉ、桜花爛漫!! 満目の桜!!
さすがに見張り員さんです。この季節をしっかりとご英霊に捧げていらっしゃる。きっと喜んで下さっているでしょう。そうやって人間は本来、徳を積んでいかなきゃならないのに。

もろに男女逆転のふたりでしたね。しかし、少々鬱陶しい男ではありました。こんな男が逆上すると実はとんでもない行動に出るはずなのですが……。新吾くんには既に新しい彼女が。どう見ても許せんヤツですわ!!

こんばんは。男の娘とかスカート男子とかいますけど、私のシュミからはずれていますわ(笑)女性の方が「生きる」ことに真摯で貪欲なのかな~なんて思います。文学青年でもない、ただのウザい男とは別れて正解ですね!!

ジスさんへ

ジスさんこんばんは!
いつもありがとうございます、お疲れではないですか、御身大切になさってね。

前回の作戦、無事終了しました!なんだかお話でありながら終わるとホッとしてしまいます・・・(^_^;)

今回もネーミングに凝ってしまいましたw、関西弁ってちょっとかっこよくって私は憧れますね。でも実際核となると間違ってしまうと恥ずかしいのでなかなか・・・メジャーな方言だけに気を使いますね。

最近は草食系に代表されるように、見た目「なよっと」した感じの男子が多い気もしますね~。もっとごっつい男子よ出でよ!と思う昨今です(ってあくまで私個人の趣味だったりします^^)。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます。

太田裕美さん、彼女の声いいですよね~~^^ホッとしますよね!この歌自体もなんだかせつない内容で好きです。

モミジもやっとなんとかですが様子を見てゆきたいと思っています。
桜の下を早く散歩したいと思います❤

こんばんは。いつもありがとうございます。
少々ご無沙汰していました。

まずは前回の作戦の成功、良かったですね。安心いたしました。

そして今回・・・誰もが知る日本の歌姫揃い踏みですね。きっとご本人もカッコイイ関西弁で弱い男にはまくしたてていそうです。「草食系」か何かわかりませんが変な男が最近は多いのでしょうか。

見張り員さん  こんばんは♪

いつもありがとうございます♪

太田裕美さんの木綿のハンカチーフいつ
聞いても爽やかな声で好きな歌です。
モミジちゃんは地震の怖さは少し和らいだ
でしょうか?
桜が咲き初めたらモミジちゃんとの散歩が
楽しみですね。

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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