2017-10

「女だらけの戦艦大和」・艦上のひな祭り1 - 2012.02.23 Thu

「女だらけの戦艦大和」は内地の春を間近にして、その身を呉に置いている――

 

「今年は春が早めなんじゃろうか」

防空指揮所で呉の町並みを見ながら見張兵曹は言った。それを聞いて小泉兵曹が「ああ、ほうじゃな。そういやあこないだ上がった時梅がほころんどったし、桜の花芽もふくらんどったねえ」

「ほうかあ、ならもうひな祭りが近いゆうことじゃね」

二人の間から石場兵曹が顔を出して言った。見張兵曹と小泉兵曹は「ほうじゃ、ひな祭りじゃわ!」と手を叩いた。

三人が騒いでいると松岡分隊長がラケットを担いでやってきて「お!?君たち何か楽しいことでもあるのかな?熱く語ってるじゃないか!」と話しかけてきた。

そこで石場兵曹が「分隊長、もう季節は春近し、であります。ということはひな祭りの時期であります」と言った。分隊長は興味をそそられたようで「ひな祭りねえ、ふ~む」と唸っていたがハタと手を打つとダッと下へ走り降りて行った。

「なんじゃねありゃ?」

と小泉兵曹と石場兵曹は分隊長が走って行った方を見て言った。見張兵曹は、ねえねえと小泉兵曹の袖を引いて、

「なあ、小泉の家のひな祭りってどがいなん?」

と聞いた。小泉兵曹はほうじゃのう、と言って腕を組んで少しもったいぶってから

「うちのひな人形は段飾りでな、こう階段みたあに段々が六段あったのう。ほいで一番上にはお内裏様とお雛様。その下に三人官女がおって、その下に五人囃子。その下に右大臣と左大臣。ほいでその下に仕丁の三人。一番下にはお雛様のお道具じゃ」

と言って思い出に浸る目になった。小泉兵曹はさらに言葉を継ぐ。

「お内裏様とお雛様の横には雪洞があってなあ、それがまあええがいに明るうてねえ。その明りを受けてお雛様のお顔がほんのり見えてほんまにえかったわ。で、ひな壇の前に桃の花を飾ってみんなで白酒を注いでもろうて、ごちそうをいただくんじゃ。うちは姉さんと一緒に普段は着せてもらえん着物着てなあ。・・・たのしかったで」

そう言ってしまってから小泉兵曹はしまった、と思った。こんな話は見張兵曹にとっては「お金持ちのお嬢様の自慢話」でしかないのではないか?石場兵曹も見張兵曹をそっと見つめる。

しかし小泉兵曹たちの心配をよそに見張兵曹は目を輝かせて話を聞いている。そして

「ほう、小泉兵曹がたはええねえ。六段の段々のお雛様ゆうてどんなもんじゃろうねえ。うちも見てみたいわあ」

と言っている。小泉はどんな顔をして答えたらいいか迷いながらあいまいな笑顔をしている。石場兵曹も困ってしまったか少し顔をそむける。見張兵曹はそんな二人に気がついたか、

「家にもお雛様はあったがあれは姉さんたちのものじゃけえ、うちは触らせてもらえんかったわ。家のお雛様は確か三段の段々じゃったねえ。みんなはご馳走食べとったけどうちにはくれんかったね。ほいでもうちはお雛様見るだけで嬉しかったわあ」

と明るく言った。

 

見張トメは幼いころのひな祭りに参加させてはもらえなかった。継母は「貴様はこれに触ったらいけんで。これは姉さんたちのもんじゃけえね。触って壊したらはあ貴様のおる場所はないけえね。わかったらあっち行きんさい」と言ってトメを追いたてた。トメは追いたてられて庭の隅から、あるいは縁側からお雛様を見つめた。

やさしい微笑みのお雛様たちはトメに差別的な視線を投げてはこない。むしろトメをいとおしむような瞳で見つめてきている。

それが幼いトメにはなんだか嬉しいような恥ずかしいような、くすぐったい心持だった。そんなふうにひな人形を遠くから見つめていると姉たちが「ああいやじゃわあ。変な奴がお雛様見とる。汚れてしまうけえ障子を閉めんと」と言って障子を閉めてしまう。自分から縁側を上がって障子を開けることはできない。それをしたら姉たちに縁側から蹴落とされる。

だからトメは、再び障子が開くまで待つしかなかった。ひな人形を飾った部屋に入ることもその前の廊下を通ることも禁じられていたあの頃。トメは一日の仕事が終わると、継母から茶碗一杯の粥を与えられて納屋に戻るのだった。(明日はまたお雛様に会えるじゃろうか)と思いつつ。

 

そんな話をポツリポツリと語ると小泉兵曹も石場兵曹も少し鼻をすすりあげた。石場兵曹は「オトメチャンはそがいな思いをしとったんじゃね。ひな祭りはおなごのお祭りじゃいうんに。どがいな理由があろうと子供を差別するなんか人の道に反しとる・・・」と独り言のように言って袖で涙をぬぐった。

そんな二人を見てオトメチャンは「ほいでもうちはお雛様を見ることができただけ幸せですよ」と言って微笑んだ。

 

さて、防空指揮所を走り去って言った松岡分隊長はどこへ行ったのか?途中出会った麻生分隊士も「麻生さんも一緒に来て!」と引っ張ってあの人の部屋に――

         ・・・・・・・・・・・・・

何を思いついた松岡分隊長!麻生分隊士まで引き込んで考えることは果たして・・・!?

緊迫?の次回をお楽しみに。

 

ひな祭り。いいですねえ~~。
画像は2年ほど前の我が家のひな飾りです(今年も飾りましたが写真が大きすぎて乗りませんでした泣)。
200902221605000ひな人形


にほんブログ村 小説ブログ 百合小説へ
にほんブログ村
関連記事

● COMMENT ●

としぼんさんへ

としぼんさん こんばんは!

としぼんさんは3月3日のお誕生日ですか!私が小学校3年の時大好きだった担任のT先生も3月3日の生まれでした。
とてもいい先生で、小学生時代先生に恵まれなかった私の唯一の思い出に残る先生です。

きっととしぼんさんも素敵な方なんだろうな~と思っています^^。


でも子供の時って「女のくせに5月5日生まれだってよ~」とか「男のくせに~」って変なことをつっつきましたよね。いったいどうしてなんだか???
今の子供たちもそうなんでしょうか・・・?

またいらしてくださいね^^!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

「陰」と「陽」の織りなす情景こそ日本人ならではの美意識だと思いますね。
こういう美しさがわかってこそ日本人と言えるのかもしれないですね、最近は色のはっきりした(いや、どぎつい?)風景が多すぎますから日本的なこうした風景に浸りたいですね^^。

そうですさすがまろにいさま。
この母親の冷たい突き放し方は私のトラウマが元です。
どうしてもトメとか岩井少尉の話になると自分が出ちゃいますね・・・

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

オスカーさんの田舎では4月ですか、4月も花が咲きまくっていい感じですね。
うちの段飾り、この写真のはちょっといい加減な飾り方なんですよ。今年はきちんと基本に忠実に飾ったので結構「決まったぜ」って感じで何事も基本が大事だと痛感しました。
左側かな、の市松人形は次女の初節句に実家で贈ってくれたものです。

さあ、感情のひな祭りはどうなりますか・・・マツコはそしていったい!
ご期待くださいね^^。

お邪魔します

こんにちは 遅めの昼休みで帰宅して覗きに来ました。
俺はひな祭りに一種のトラウマがあるんです><
実は俺、三月三日生まれで子供の時から誕生日を
周りの友達に言えなくて、何かの時に誕生日を言うはめになって三月四日って言ったら担任に「嘘はいけません」と言われ恥ずかしさで堪らなかった事が毎年この時節に思い起こされますw
多分一種のトラウマだと思うのですが・・
頑張ってくださいね

ほのなか雪洞の灯りに映るお雛の顔。この陰影の美しさこそ遠い昔の御所そのものかと思いますね。谷崎潤一郎の陰翳礼讃、日本人のDNAが疼きます。

トメさんへのお母さんの仕打ちはたまらないですね。惨めだったろうなぁと思います。
お母さんのこの突き放し方……、我が妹のトラウマだろうかと感じたのは邪推でしょうか。
痛々しげと憎々しげがあまりにお上手なもので。ごめんなさい。

こんばんは。お雛祭り!!ウチの田舎は4月なので今の時期だとピンとこないんですよね(笑)見張り員さま宅の段飾り、ステキですね。やはり女の子のいると違うのだわ~華やか!! 物語の中でそれぞれの記憶にあるお雛様、乙女だなぁ~って思いました。結構お顔の好き嫌いってありますよね。着物もですけど。なんか私も書きながらウキウキしてきました♪マツコも女の子なのでよろしくお願いします!!


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/455-c742f54d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「女だらけの戦艦大和」・艦上のひな祭り2 «  | BLOG TOP |  » 「女だらけの戦艦大和」・花一色2<解決編>

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (112)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード