2017-09

「女だらけの戦艦大和」・花一色2<解決編> - 2012.02.19 Sun

「たづ子お!!」月島中尉は大声で妹を呼んだ――

 

その声を聞いて行列が止まった。婚礼荷物を担ぐ人や親せきの間を通って、中尉は列の先頭の妹や両親の前に飛び出していた。三人が振り向いた。

父親は、「志づ子、貴様どうしてここに来た!」と紋付き袴を着た体を震わして怒鳴った。母親は何か怖いものを見るような目つきで中尉を見る。たづ子が一瞬すがるような瞳で中尉を見たのを、月島中尉は見逃さなかった。

中尉は、父親の正面に立った。そして、

「いったいどういうことですこれは!たづ子は健太郎と結婚するはずじゃなかったんですか?それがなんだ、どうして伊川の息子と結婚することに!?」

と言ったがそこでハタと気がついた。

(伊川の家にはあのくそボンボン一人だけで確か最近嫁をもらったばかりじゃないか?)

「あの家の息子はもう嫁がおりましたね、それとも嫁がみまかって後添いにとでも言うんですか?」中尉の問いに、父親は少し顔をそむけた。母親は下を向いてしまった。が、父親は自分を励ますように咳払いを一回すると、

「息子の嫁ではない」

と言った。中尉は「なら誰のだ!ちゃんとはっきり言ったらどうです!」と声を更に大きくした。怒りがわき立って、小刻みに手が震える。親戚たちが気まずそうにうつむいた。

母親がやっと、言った「伊川の・・・旦那さまのところよ」と。

「旦那さま・・・旦那さまってあの爺さんのことか!?」中尉はすっ頓狂な声を上げた。伊川の旦那なら数年前妻を亡くし、もう六十近い年齢ではないか。それがいったいなぜたづ子を嫁にもらうのだろうか。

問い詰められて父親は真実を明かした。一年半ほど前、「伊川の旦那」なる男が村の用事で月島の家に来た際、お茶を出したたづ子に一目ぼれしたのだ。伊川の旦那は昔からたづ子の存在は知ってはいたが「これほどまでにきれいで気立てのよい娘さんになったとは」知らなかった、と言い「ぜひ私の後添いに」と言いだした。当初、父親は「たづ子にはもう、許婚がおりますから」と丁寧に断ったが伊川の旦那はしつこかった。何を言っても承諾しないと見た伊川の旦那はついにあの<切り札>を出してきた。

ある日、ふらりと月島の家に遊びに来た伊川は家を見回し「この家も少しあの辺がくたびれている、ここも直した方がいい」等々言いだした。父親は苦笑して「まあ、今のところ大した不自由はないし、第一そんなあちこち直す金もないですから」というと伊川の旦那はその顔を父親に近付けると囁いたのだった・・・

「こう言っちゃなんだが月島さん。家を直す金を貸しても・・・いや、貸すなんてけちなことは言わないよ、あげていいんだ。いくらでもあげよう。その代わりに・・・たづ子さんを私にくれまいか?」

その瞬間父親は悪魔に魅入られたと言っていい。ふらふらと金の代わりにたづ子を伊川の旦那の後添いに出すことを己の一存で決めてしまった。

それを聞かされたたづ子は絶望して泣いた。身を畳の上に投げて夜通し泣いたが父親は許さなかった。「もう約束したし、これこの通り金もいただいた。お前は伊川さんの嫁になるのだ。健太郎にはあきらめてもらえば済むことだ」と言い、母親に「たづ子は家から一歩も出すな、志づ子に手紙を書いてもいけない」と厳命したのだった。

そしてたづ子はついに自分をあきらめて、今日の日を迎えたのだった。

 

「たづ子、お前伊川に行きたいわけではないだろう?」

月島中尉は今度は妹に向かって尋ねた。白無垢姿がまぶしい妹はちらりと父親の横顔を見た後、小さな声で

「いいえ・・・です」

と答えたがその声には張りがなく嫌悪感に満ちていた。月島中尉は「たづ子、お前もっと自分に素直になれ。お前はもう前っから健太郎と一緒になる約束だったろう、健太郎との話の方がずっと先だったじゃないか。約束をたがえるとは健太郎やあちらのご両親にも無礼ではないか。・・・しかしたづ子を責めるのは酷っていうものですねお父さん。すべてはあなたのせいだ、金に目がくらんだあなたのせいですよお父さん。・・・もらった金というのはまだあるのですか?」と言い、父親が「ある・・・」と答えるとそれを親戚の一人に家に取りに行ってもらった。

小風呂敷に包まれた札束を、汚いものを見るような目つきで見ていた月島中尉はそれを握ると「今からこれを伊川に返しに行きましょう。そしてこの婚礼もご破算にしましょう。たづ子は約束通り、健太郎の嫁にさせます」

と言いきった。父親は「そんな。伊川さんに・・・」と色を失ったが、中尉は「女を金でどうこうできると思うような奴のところに可愛い妹をやるわけにはいきません。・・・女は<モノ>じゃないぞ!女だって私のようにお国に尽くす軍人にもなれるし、いい嫁になって母になって、そうしてお国に尽くす道もある!こんな・・・まるで身売りのような結婚、私は絶対認めない!」

中尉の絶叫が響いた。

皆が静まり返った時、行く手から「おうい、月島さん!」と声がかかり、伊川の旦那という男がこれも紋付き袴でこちらに走ってきた。伊川はハアハアと息を切らしてこちらへ来ると、

「いやあ月島さん、あまり遅いからどうしたかと思って・・・」

と言いかけて自分の前に月島海軍中尉がいるのを見てぎょっとして立ち尽くした。中尉は手にした札束を、伊川の足元に叩きつけた。札束を止めていた帯封が切れて札が舞った。伊川はそれを見つめるだけ。

月島中尉は、伊川を睨みつけると「伊川さん、」と呼びかけた。いささかたじろいたような伊川を見て中尉は言葉を継いだ。

「よくも人の大事な妹を、金で買うような真似をしてくれましたなあ。あなたは恥ずかしくないんですか?妹には大事な許婚がいるにもかかわらず、あなたはもぎ取るように自分のものにしようとなさった。こんな所業、人は許しても神様はお許しにはなりませんよ。そして私も。いやしくも海軍士官の妹を<買った>となればあなたもただじゃ済みませんよ。・・・この祝言、無効にする!」

中尉の怒りは最高潮に沸騰している。親戚の間にも、伊川を非難するような雰囲気が漂い始めた。一人の男性が「どうもおかしいと思ったら・・・そういうことだったのか。わしもこの祝言には反対だな。なあみんな、たづ子は元の許婚と一緒にさせようじゃないか」と言い、一同が同調した。

月島の父親はくやしげな顔になり、伊川はいたたまれないような顔つきになった。中尉はふと列の後方を見てそちらを手招くしぐさをした。

健太郎が、列の後ろからそっとたづ子の方に歩み寄ってきた。月島中尉はその背中をそっと押してたづ子の方に押しやった。

健太郎がたづ子の正面に立った、その時初めてたづ子の顔に嬉しげな微笑みが満ちた。中尉はその場に散らばった札を丁寧に集めて伊川に渡して「これでいいですね。人の心まではお金では買えないんですよ。あなたが本当にたづ子を好きなら、元の鞘に納めてやりましょう」と静かに言った。伊川は「・・・すまなかった、私が悪かった。このことはもう・・・。幸せになりなさい」というと皆に一礼するとその場を去ってゆこうとした。

その時たづ子が「伊川さん・・」と呼びかけ、路傍の小さな花をそっと摘んだ。そして振り返った伊川にそれをそっと差し出して、伊川が受け取ると深く一礼したのだった。伊川はうなずくと、その花を懐の羽二重の布に包み、再び懐に収めると歩き去って行った。

「さて」

と月島中尉は皆を振り向いて言った。健太郎はたづ子に寄り添うようにして立っている。それを見て中尉は

「健太郎さん、たづ子を、たづ子を一生お願いします」

と言って頭を下げた。健太郎はたづ子の手をしっかり握りしめると「はい!お姉さん、俺はたづ子さんを一生大事にします。だからお姉さん、ご安心を」と言って深く頭を下げた。

一同から拍手が起こり、やがて花嫁行列は元来た道を引き返して行ったのだった――

          ・・・・・・・・・・・・・・・

 

なんとかうまく行きました。伊川の旦那物分かりがよすぎる気もしますがまあ、人の心をまだ持っていたということで。

 

この話、本当はもっと悲しい終わり方をするはずでしたがそれではあまりに、と思い返し話を練り直したのでした。

「最高の結婚」と「最良の結婚」はおのずと違うのですから。一回きりの人生なら「最良」を選びたいです。

 

この話のイメージを湧かせた「松田聖子 花一色」映画「野菊の花」の主題歌です。これ何度聞いても涙ものです。




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● COMMENT ●

かなやのぶ太さんへ

かなやのぶ太さん こんばんは!

ちょっとドキドキな展開でしたね。
当初頭の中ではもっと残酷な結末でしたがそれでは「女だらけの~」の<救われる話を>という基本コンセプトに反しますので・・・。

健太郎がもっとしっかりしてればいいのですが、なかなか「金持ち」には勝てない部分もあるのかもしれませんね。
でも所帯を持ったのをきっかけに強くなることでしょう。

そして~、姉の中尉はどうなりますか。しばらくは<イルカ型>特殊潜航艇の実践訓練で忙しいから・・・でも人の出会いは待ってはくれないから・・・ご期待くださいね^^。

matsuyama さんへ

matsuyama さん こんばんは!

昭和11年から12年には、世界恐慌や東北の大凶作の影響もあり農村から娘さんをいわゆる「花街」の売らざるを得ない家がたくさんあったようです。
例の2・26事件の発端の一因にもなったといわれています。

今なら女性から「ふざけんじゃないわよ!訴えてやる」と言われて裁判沙汰でしょうね。
月島中尉のかっこよさ。女にしとくのがもったいないですねw。
ちょっと伊川の旦那があっさり引き下がりすぎたきらいはありましたが。

聖子ちゃんのこの歌いいでしょう!?大好きな一曲です^^。

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

月島中尉、ほとんど捨て身の妹救出でした。命がけの真心は邪悪なものを排除し、浄化すると私は信じています。

たづ子もこの後苦労はしても、好きな人と一緒なら越えられるはずです!こういう苦労ならしてもいいかなあとも思いますね。

あの時代・・・戦死の公報が入った長男の嫁が家のために仕方なく次男に嫁いだものの戦争が終わった直後、死んだはずの長男が復員してきて大騒ぎになったという話を実際に聞きました。
戦争はそういう形でも庶民を不幸にしました。
事実は小説よりも奇なり、をまさに地でゆく壮絶さです。

こんな私に拙い話でも、いろいろ考えるよすがになってくれればうれしいです^^!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

これこそ「きずな」というものでしょうか。
運命の赤い糸で結ばれた二人はどんな障害でも越えられるのでした!!

いくつになっても「恋」する心を持つのは素敵ですが、こういう風に人のものを奪取してはなりませんね、伊川の旦那、月島中尉の一喝で目が覚めたということで・・・^^。

最近はストーカーというとても恐ろしい性格の人がいて怖いです。女のストーカーというのもいるそうで・・・なんか変な時代ですね。

よかったあ、よかったです…><
もしかして、どうしようとおもって、ドキドキしながらスクロールしました!
中尉の男らしさ(←?)にほれぼれする反面、「おい健太郎お前もっとしっかりしろよっ!」と激励を祝言祝いに贈っときます(笑)
今度は中尉の番ですね☆彼女を幸せにできる男性なんているのかしら(私が幸せにしてみせる関係かもしれない)

昔はよくあったそうですね。人身売買じゃないですか。娘も年頃になると口減らしとともに、家族の生活の為に買われて行ってたんですね。それだけ困窮した生活だったんでしょうね。
今ならそんな事許されないですよね。本人も同意しないでしょう。
それにしても月島中尉、恰好いいですね。すっきりしました。正義の味方ですよね。伊川があっさり引き下がったのが解せないですけど。

松田聖子の花一色。こんな歌も歌ってたんですね。いい歌じゃないですか。

こんにちは。中島さまの「覚悟」が伊川のバカオヤジの性根を叩き直したのでしょう。好きな人との苦労は苦労ではないでしょうし、きっと幸せになってくれるはず。昔は女手がなくなる(働き手がなくなる)と困るからと、例えば長男が戦死したら嫁は弟と再婚させて家に縛り付けるみたいなことが当たり前だったとか。見張り員さまの物語はいろんなことを考える機会になります。ありがとうございます。

間一髪でした!!
固く結ばれた縁というのはそう簡単には解れないということですね。
横恋慕の気持ちは分かりますが、みっともないことだけはご法度のぎりぎりの境界線のお姉さんの登場でした。
伊川さんの潔さ、きっとこれでお終いですよね。最近はストーカーというのが生きていて、時代こそ違いますが彼のこれからの動静がどうも気になってしまうのですが。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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