「女だらけの戦艦大和」・花一色1

特殊潜航艇「いるか型」搭乗員の月島中尉は外地への訓練を前に休暇を許され、大津島P基地から久しぶりの故郷に向かっていた――

 

休暇が出ると決まった時家には手紙を出してあった。決して裕福ではない農家の長女である月島志づ子中尉は向学心旺盛で苦学の末、海軍兵学校に合格し今に至っている。もともと倹約家の彼女は、給料のほとんどを家に仕送りし、<この金は妹が嫁ぐ日の支度金に>と両親に言い置いてきた。汽車に揺られながら月島中尉は(妹のたづ子はどうしているだろうか。あれはあまり体が丈夫ではないからな。そういえば健太郎とはもう整ったのだろうか)と思っている。妹のたづ子は丈夫な方ではなかったが気立てのよさは村一番、そして幼馴染の男性・健太郎から結婚を申し込まれていると以前に母から耳打ちされている。

(嫁げば少しは丈夫になるだろうか、たづ子には幸せになってほしいものだが)

 

長い時間を堪能するくらい汽車に揺られた月島中尉であったがやがて故郷に近い駅に降り立つ。子供のころから見慣れた風景にほっと心和む中尉である。この休暇が終われば特殊潜航艇<イルカ型><クジラ型>は伊号八〇〇潜で外地の基地にゆき、訓練をすることになっている。

(思えば、あの日からの猛訓練はやった甲斐のあるものだったなあ)中尉は空を見上げてほうっと息をついた。

多茂神司令や、黒木少佐・仁科大尉たちの熱き思いに応えんと六百名からの搭乗員たちは懸命に訓練に励んだ。<イルカ型>搭乗員は最初その激しい上下運動に耐えられず、搭乗中に戻してしまうこともしょっちゅうだったがそんなふがいない自分に鞭打ち、驚くべき短期間で克服したのだった。

それには当初「無理ならもとに部隊に戻してやるから遠慮なく言いなさい」と言っていた多茂神司令も舌を巻いた。最後まで気をもませた海枝万里(かいえだ まり)一飛曹も激やせしながらも不屈の精神を見せ「元の部隊に戻さないでください、どうしても戻すとおっしゃるなら私はここで自決いたします!」と言って、手のひらに短刀の先で以て<忍>の字を切りつけたほどである。

その、下士官ながら立派な行動に一同奮起し多茂神司令も「行動作戦もあと少しで行えるところまで来たね、この辺で外地での訓練をしたらいいのではないか」と言ってトレーラー環礁のとある島の潜水艦基地に向かうことにしたのだった。

そこで「当分内地に帰れない」ということで六百名に順番で休暇が出されたのだった。

月島中尉はペアの佃兵曹に先に休暇を譲った。佃兵曹は「とんでもない、中尉がお先に!」と遠慮したが月島中尉は佃兵曹の実家が関東で遠いことを案じて「先に行きなさい、親御さんやご兄弟によろしくね」と言って先に送り出したのだった。それぞれ五日の休暇、佃兵曹は昨日帰ってくると中尉の前に両手をついて

「お先に休暇をいただきありがとうございました。十分別れができました。月島中尉もお気をつけて行ってらっしゃいませ」

と挨拶をした。月島中尉は<十分別れが>できたという言葉にちょっと胸を突かれる思いがしたがそれを悟られぬよう微笑んで「それは良かった。トレーラー島はあったかくていろいろ珍しいものもあるそうだから楽しみにして行きましょう」と言ったのだった。

 

中尉は駅前から木炭バスに乗って実家に向かう。バスを降りてさらに歩くこと四十分、やっと実家のある村が見えてきたころ。

妹の結婚相手になるという男性――健太郎――が道端に立ってこちらを見つめているのに気がついた。健太郎は、中尉を認めると一散に走り寄ってきた。そして、中尉の前に来ると必死な顔色で、

「お姉さん、お帰りなさい。・・・あの、大変なのです。たづ子さんが・・・」

とせきこんで言った。中尉は「たづ子に、何かあったのですか!?」と叫んだ。健太郎は半泣きになりながら、

「たづ子さんは、たづ子さんは・・・伊川の家に嫁ぐことになって・・・それも祝言が今日なんです・・・」

と言ってその場にへたり込みそうな様子に中尉は、健太郎を励まして立たせて「今日だって!私はそんなこと一切聞いていませんよ、健太郎さんは聞いていたのですか?」とたずねた。健太郎は涙をこぼしながら

「いいえ全く。ただ最近伊川の家の人がよく中尉さんのお宅を訪ねてきていてその頃からたづ子さんは外に出なくなって。全く連絡が取れなかったのです、心配していたら突然『今日祝言だ』と聞かされて」

と言った。中尉は「なんてことを・・・」と口の中でつぶやくと健太郎の言葉を最後まで聞かないで彼をその場におきざって家に向かって走り出した。そのあとを健太郎があたふたと追って走っていく。

月島中尉は軍帽を取って鞄と一緒に抱えて走った。時たま行き合う顔見知りがお辞儀をする。あっという間に走り去った中尉には聞こえるはずもなかったが、彼らは

「たづ子ちゃんは良かったねえ。伊川さんに見染められて本当に玉の輿で。幸せ者だねえ」

と言っていた。

 

夢中で走った月島中尉はやっと家が見えるところまで来た。

ようよう玄関の前まで来てハアハアと息をつき、額の汗を手の甲で拭ってから玄関の戸をあけた。

「父さん!母さん!たづ子!」

と大声で呼んだが誰も出てこないし家の中はコトリとも音がしない。(もう家を出たのか!)と中尉はあたりを見回した。そして、(伊川、と言っていたな)と思うとある方向に向かい再び走り出した。

 

伊川家とはこのあたりで一番の大金持ちでかつては庄屋を務めた家柄である。田畑をたくさん持っていて小作人も多いと聞いていたし、金貸しもしているしほかにも事業を始めたらしいとも聞いている。

確かにはたから聞けばそのような家に嫁ぐ妹は「幸せ者」かもしれない、しかし。

中尉は春の日差しが照らす昼下がりの道を走った。心の中で(たづ子、たづ子・・お前どうして、一体何があった)と繰り返しながら。

そのうんと後を健太郎が追ってくる、「月島中尉さん、おねえさあん・・・いけません、いけませんよぉ・・・戻りましょう・・・」と叫びながら。

 

・・・健太郎は一昨日の晩、月島の父親から「たづ子は伊川の家に嫁ぐことになった。大変申し訳ないがあたづ子のことはあきらめてほしい。それから明日にもあれの姉の志づ子が休暇で帰ってくるらしいが志づ子にはこの話をしていないし聞けば必ず反対するから祝言のことは言わないでほしい。決して祝言の場に越させないでほしい」と言いつけられていた。

健太郎は一昼夜悩み苦しんだ。健太郎は自分の家は月島の家とは釣り合いがとれるだけの家だし、母も父もたづ子との結婚を心から喜んでくれているので、それがいきなりご破算だ、と聞かされてどう両親に打ち明けたものかも悩んだ。が、いつまで悩んでいても仕方がない、両親に打ち明けた。健太郎の両親は打ちひしがれたようだったが「・・・仕方がない。伊川さんにはかなわない・・・」とぽつりと言って黙ってしまった。

健太郎は、今朝になって月島の父親に言われたことを思い出し、月島中尉を見つけるためにバス停に向かう途中彼女に会ったのだった・・・

 

「おねえさあーん・・・」

健太郎のせつない叫び声は風にちぎれて行く。必死に追う健太郎の声も耳に入らないで走る月島中尉、やがて彼女の行く手に「花嫁行列」が見えてきた。

「たづ子ぉ!」

月島中尉は鞄をその場にほっぽり出すと軍帽をかぶりなおして更に走る速度を速めた――

 

 (次回に続きます)

花嫁行列

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは。

かつて封建制度の中では結婚さえ本人たちの意のままにならなかったといいますがきっと悲しい話もたくさんあったと思いますね・・・

戦時中の話で大変哀切な話もたくさんありますからいずれご紹介したいです。
好きな人と添うことができる今の幸せをかみしめたいものです。

さあこの二人どうなりますか。ご期待を願います!!

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは。
この「女だらけの~」にあまり悲しい話は書きたくないのですがとってつけたような幸せ話もどうかなあと思っていますが・・・どうなりますか?

しかしまあ、「愛は勝つ」ということもありますから・・・次回を待っててね!

かなやのぶ太さんへ

かなやのぶ太さん こんばんは。

またまた結婚がらみのすごい話になっています・・・
この結婚話にはちょいと裏がありそうです。

ハッピーエンドになるや否や・・・ご期待を!

昔はこんなことがまかり通っていたのですから、言い交していた当人同士は悲劇ですね。結婚は家同士の結びつきになるとは言いますが、あまりに責任や期待を重くかせたのが昔の結婚だったのかもしれませんね。
自由恋愛に自由結婚、思いが通る、添い遂げる。今では自然で当り前なのですが、そうはいかなかった時代がすぐ近くだったのですね。

見張員さんのお力でこのふたりを何とかしてあげて下さい。

こんにちは。健太郎!!ダスティン・ホフマンになるんだ!!と読みながら思ってしまいました。時代だから仕方ない…であきらめるのは、この物語の中であってはならないことです。みっともなくあがいていいから愛を取り戻して欲しいです!!早く追い付いて花嫁をさらってこい!!(爆)ああ、続きが気になる~(>_<)

ヒドイっ><いえ、現代人の感覚でものを申してはいけないのですね!?結婚とは男女個人のものでなく、家と家の結びつきなんですよね。たしかに、月島の家にはいいお話かもしれないの…><

妹想いの中尉、健気な健太郎さん、あとは当のたづ子さんのお気持ちが気になります。
ハッピーエンドとは限らない気がして、心のなかがざわざわしています><

kohakou さんへ

kohakou さん こんばんは!

バレンタインも終わったのでww変えてみました!
すっきりした青が気に入って使っています。

画像は・・・横浜か、横須賀あたりのようですね。
ああ、また横須賀の「三笠」に会いに行きたいですぅ~~。

こんばんは

お久しぶりです。
随分と模様替えされて素敵です。

ちなみにTOP画はどちらなのかな?
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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