「女だらけの戦艦大和」・バレンタインデー3<当日Ⅰ>

いよいよ待ちに待った「バレンタインデー」である――

<「女だらけの航空隊」の場合>

氷川きよこ中尉は司令に、「ちょっとだけ、ちょっとだけ行ってきます」と叫ぶなり愛機・紫電改に乗り込むなりあっという間に飛び立って行った。川島一飛曹や大川一飛曹はその姿を茫然と見送っている。

氷川中尉は愛機の中でふっふっと笑いながら「バレンタインデーとやらを待っていたよ。さあ受け取っておくれ」と愛機を飛ばしている。

やがて氷川中尉機はとある島に来た。その島には「横須賀第900特別根拠地隊」と言う陸戦部隊がいる。そこに氷川中尉の妹が陸戦隊員として駐在している。

900根拠地隊では、見張りが一直線に突っ込んでくる「紫電改」を見つけ「紫電改一機、突っ込んでくる!」と叫ぶ。その場に居合わせた隊員たちが「なんで!なんで攻撃してくるの?友軍機じゃないのかも!?」と恐慌に陥っている。

と、低空で飛んできた紫電改は翼を上下に振ってバンクをした。そして彼女らの上空に来ると風防を開けた。一人の陸戦隊員が「あ、氷川少尉のお姉さまだ!・・・おおい、だれか氷川少尉を」と叫んで、妹の氷川少尉がやってきた。そして上空を見上げるーー姉の紫電改は旋回するとまた一直線に妹のいる場所に突っ込んできた、そして。

ダダダダダ!!

と紫電改の九九式2号20㎜機銃が火を噴いた。「ギャーッ!なにすんのぉ!」と伏せる陸戦隊員たち。が、氷川少尉が「これ!なに」と声を上げた。見れば、そこここに銀色の丸いものが転がっている。「氷川少尉、なんでしょうか」と問う兵曹に氷川少尉はそれをそっとひらって調べていたが急に笑い出した。

驚く皆に氷川少尉はそれを差し出して言った、「ほらよく見て。これ銀紙に包んだチョコレートだよ。・・・姉さんやってくれたなあ」。

皆はわっと歓声を上げると散らばる銀紙に群がった。それを上空で確認すると姉の氷川中尉は「腹いっぱい食えよ―」と言って愛機を基地に旋回させたのだった――

 

<「特殊潜航艇」の場合>

十三日の夜、兵舎の居住区でくつろぐ都竹兵曹のもとに宮根兵曹がそっとやってきて「ほら、これ。例のやつだよ」と小さな箱を手渡した。都竹兵曹は微笑むと「ありがとう、宮根さん。なんかいい匂いがするね」と言った。宮根兵曹も笑うと、「うん、主計長が腕によりをかけたからね。都竹さんは、松尾艇長にお渡しするんでしょう?きっと喜ばれるよ」と言って「じゃ、明日」と言って自分の居住区に戻って行った。都竹兵曹はそっと小箱を顔に近付けた。甘い香りがほのかにしてきて兵曹の心は弾んだ。(早く明日にならないかなあ)

そして翌日も激しい訓練。「いるか型」的の癖を何とか呑み込んで自分のものにしなくてはならないから自然顔つきも厳しくなる。

が訓練が終わると松尾大尉の顔も普段通りにやさしくなる、(このお顔が好きだ)と都竹兵曹は思う。そして意を決して「艇長!」と話しかけた。松尾大尉は搭乗帽をとって上部ハッチを開いて的の上に上がって「なんですか、兵曹?さ、上がって」と手を差し出してきた。すみません、と兵曹はその手をつかんで上に上がった。上がると、松尾大尉は顔を手拭いで拭いている。

「艇長、あのこれ」とあの小箱を差し出す都竹兵曹。松尾大尉はそれを受け取って「私に?なんでしょうね、開けていいかなあ」と聞いた。うなずく兵曹を見てから大尉は箱を開けた。中にはかわいい<特殊潜航艇>をかたどったチョコレートが二つ並んでいる。

松尾大尉は満面の笑みを浮かべると都竹兵曹を見て「ありがとう、兵曹。とてもうれしいよ」と言うと・・・なんとそっとその唇を兵曹のほほに当てたのだった。

真っ赤に染まる都竹兵曹、心の中で(主計長、宮根兵曹ありがとう・・・)と思うのだった――

 

<「女だらけの武蔵」の場合>

十四日になったとたん、猪田艦長・加東副長・仮屋航海長が烹炊所の冷蔵庫に大挙してやってきた。「主計長ー!もらっていきますからねえ!」と言うと冷蔵庫から預けておいたチョコレートの入った箱をごっそり持ち出した。主計長は(ああ、やっと冷蔵庫がまともに使えるよ)とホッとしている。彼女たちの大量のチョコレートはだれに渡すのか?大体が従兵嬢たちへの贈り物である。艦長や副長クラスになると従兵の数もそれなりだし、ほかにも厄介をかけている兵もあるから(その子たちへの贈り物!)ということである。しかし、加東副長は(この大きい箱は、猪田艦長に!)と思っている。以前図らずも愛の告白をしてしまった副長、この日には絶対チョコレートを贈って再度、心の内を教えたいというものである。その思いは猪田艦長も同じで(この一番素敵なのは副長に)と思う。いずれにしても幸せな二人であることは間違いない。

そしてほかの乗組員たちもそれぞれお目当ての人に贈る。艦内外が華やいだ雰囲気になった。

さて。

医務科の春山兵曹のもとには横須賀のいとしい夫、三浦中尉から小包が届いていた。秋川兵曹やほかの衛生兵たちも集まってきて「早く開けて?」「見せて?」と大騒ぎをしている。そばで見ていた北野特務少尉は「まあ、待て待て。人のものだからそうせっついてはいけない」と言いつつも本当は一番関心がありそうだ。春山兵曹は笑って「いいですよ、開けてみましょう」と言うと包みのひもを解き始める。そしてようやく箱のふたを開く。いくつかの小さな包みが中に入っている中に<これを一番に開けてください>との紙を張り付けた紺色の箱を見た兵曹、「?」とそれを手に取りそっと蓋をあけた。皆ものぞきこむ。

と。

「わああ~」と皆の間からため息が漏れた。箱の中には、銀色に輝く「結婚指輪」が鎮座していた。北野少尉も「ほお~、結婚指輪かあ。いいなあ~」と笑っている。

「春山兵曹、早く指に」と皆にせっつかれ、春山兵曹はそれを箱の中から取り上げると自分の左の手の薬指にはめた。

皆の間から、拍手が起こり「おめでとう、おめでとう」の声が沸いた。春山兵曹は皆の祝福の声に包まれてふんわりと春のように笑った。

その晩春山兵曹は三浦中尉からの別便で来た手紙を読んだ。それには、

>式の時に間に合わずお渡しできず残念でしたが、やっと今日送ることができました。遅くなりましたが受け取ってください。遅くなったのには実は事情がありまして、指輪の表面と裏側に細工をしてもらっていたからです

とあり、兵曹が指輪を改めて見ると指輪の表面には小さな錨のマークが二つ、綱で結ばれている。

そして裏側を見ればそこには<智>三浦中尉の名前の最初の文字が彫られている。

>表面の細工は私のものも同じです、裏側にはあなたの名前の最初の文字を入れてあります。これで二人はどこにいても、離れていても常に一緒ですからね。

春山兵曹はその手紙を抱き締めるとなんだか嬉しいような切ないような気持ちになって、気がつけば涙がほほを濡らしていたのだった・・・

 

<横須賀・三浦中尉の場合>

三浦中尉は十四日の午後、妻である春山兵曹からの小包を受け取った。兵曹の心のこもった中身に中尉は思わず微笑みが漏れる。それを見逃さないで喜木少佐が寄ってきて「あらあ。奥さんからの贈り物ぉ?いいわねえ~うらやましい~」と冷やかした。それに笑って見せた三浦中尉、小さな木の箱に目をとめた。

開けると、トレーラーで拾ったらしいきれいな貝殻が一つ入っていた。箱の中に紙が折りたたんであり広げると

>手紙を出すと検閲で見られそうで恥ずかしいのでこういう形にしてしまいましたこと、お詫びいたします。この貝殻はトレーラーの浜辺をあなたを思いながら散策中に拾ったものです。あまりに美しいので持ち帰り磨いてみましたらとても奇麗に光りました。

あなたにぜひ差し上げたくこうしてお送りさせていただきました。いつの日かあなたとトレーラーの浜辺を歩いて夕陽を見たいと思っています。

そのためにも私たちは一所懸命戦います。勝利の日まで。あなたもお体大事にお仕事に励んでくださいませ・・・

その小さな手紙を読んだ中尉に今まで見たことがなかったような微笑みが浮かんだ。そして(私も一所懸命がんばりますよ。あなたたちの頑張りを後押しします。そして早く、一日も早く一緒に暮らしましょう)と心に誓う。

 

微笑みの満ちた『武蔵』艦内であるが一つだけ、気がかりがあった。それは、どうも最近春山兵曹の具合がよろしくない、ということであった――。

(次回に続きます)

 

        ・・・・・・・・・・・・・

 

それぞれのバレンタインデーです。次回はいよいよ、「女だらけの大和」の麻生・見張のご両人とほかの気になるみんなの番です。ご期待ください。 

 

氷川中尉のぶっ放したのはこんな感じのチョコだったのか・・・?(画像拝借しました)  
銀紙に包まれたチョコ


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matsuyama さんへ

matsuyama さん こんばんは!

あまりにも平和な「女だらけの海軍」さんたちですが、この先どうなりますか?命の洗濯かもしれないですね。

職場などでのバレンタインのやり取りは気を使う場合がありますね。
私の職場の同僚はほかの部署の男性の分までチョコを買ってきて、その日は大荷物で会社に来ていました。何年もしていましたからもう名物女の域でしたねww。
お返しはちゃんともらっていたのかなあ??

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

こんなに生き生き、キラキラしているのも「物語」の中だからこそではありますが、本当にいた将兵のみなさんへの少しでもの慰めになるでしょうか??
いつもそんな事を気にしながら書いています・・・

あの当時の家族のきずなの強さは現在の比ではないですね。戦場から母親にあてて書いたはがき、これは出されることなく戦死した将兵の方のポケットにあったものを上官が見つけ、心こもった歌とともに実家に贈られたのですがその葉書には「お母さん」と20数回書かれていたのです。
そんな話を見聞きすると、今の世の子殺しを英霊はどうご覧になっているか・・・気になりますね。
愛なき時代、それは民族の存亡を如実に表している気がします。ゆゆしき時代ですね。

ここ数年縁遠いバレンタインデーです。
それぞれ思い思いのバレンタインデーを艦上で過ごされている姿を思い浮かべると、戦闘しているのも忘れ、何と平和なんだろうと羨ましくさえ感じます。
昔、職場で貰ったお返しに3月14日には、貰わなかった女の子に気遣いしながら、貰った女の子にチョコを贈っていた記憶があります。
何だかお返しにも気苦労してましたね(笑)。

玉手箱か宝石箱の中のようなきらめきのヤマトですね。みんなが輝いている、イキイキしている。そう感じました。
国はおろか、家族が一丸となって国を守っていたのですね。愛は強い、愛は強さを与えのがひしひしと感じます。でもまったく悲壮感がない。日本人の一番美しかった時代かもしれません。

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

うれしいコメントをありがとうございます!
暗い時代をモチーフにしてはおりますが、あえて明るくあり得ないことを書いていくのが私流・・・かな?なんて偉そうに言ってみたりしてww。

マツコのバレンタイン。どうなりますか?
あまり痛い目には会わせたくないんですが・・・ご期待くださいませ^^。

こんばんは。おとめ達の華やかで可愛らしい笑い声や歓声が文面から飛び出す絵本みたいにぱぁ~と溢れだしてきたみたいです。あったか~い気持ちになりましたよ~ステキなお話です!!そしてやっぱり春山さまも気になりますが、マツコが心配な私!大丈夫かしら(笑)お手柔らかにお願いしますね。楽しみ!!
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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