2017-10

「女だらけの戦艦大和」・アヴェ・マリア2<解決編> - 2012.01.30 Mon

トレーラー島の教会では素晴らしいピアノの演奏に合わせて歌声が響いている――

 

聴衆はもう身動き一つせず聴き入っている。帝国海軍の兵士も陸軍兵も、現地の人々も。その中で春山兵曹は音楽に身を浸しつつも会堂内の一角に目を奪われたままである。

(あれはいったい・・・誰だろう)

そこを凝視している兵曹。懐かしい内地の唱歌がたくさん歌われ演奏され、やがて中村少尉がピアノの前から立って、秋川兵曹と並んで立った。

万雷の拍手。

二人は照れながらもお辞儀をして拍手にこたえた。なかなか拍手が鳴りやまなかったがやっと落ち着いたころ、中村少尉は一歩前に進み出ると

「では今日のリサイタルの最後の楽曲です。二人で随分と練習はしましたがうまいことゆきますでしょうか?この歌の主人公がここにいらっしゃいます、聖母『マリア』様であります。慈愛に満ちたそのお顔と心は、信仰の違う我々の心にも響いてくるものがございます。では我々の歌をマリア様にささげたいと思います・・・」

と言い、会堂の一角に立っているマリア像の方に手を差し伸べた。

春山兵曹は自分がさっきから凝視し続けていたその「像」が、聖母マリア様と言う人なのだと初めて知った。

(マリア・・・様・・・)

さらにその「人」を見つめる兵曹の耳に流れてきたのが<シューベルト>の「アヴェ・マリア」である。

マリア像を見つめながら聞き入る皆の瞳に涙があふれてきた。言葉にできないほどの感動が、今この会堂内を満たしている。神父さえ、この演奏に両手を組んで祈りの姿で聞き入ってその頬には光るものが流れている。

一同感動のうちに演奏が終わり、中村少尉と秋川兵曹の二人は万雷の拍手に送られて「舞台」を降りた。それからしばらく、一同は感動の余韻に浸って席を立つ者はいなかった――

 

それからどのくらいの時間がたったか、やっと皆が三々五々会堂を出てゆくころ、春山兵曹はそっと会堂の前の方に立っている『マリア像』のそばに寄って行った。

「これが、この人が『聖母マリア様』という方ですか・・・」

独り言のように言う兵曹に、青木兵曹が「ああ。なんというか、清純な方だなあ。この方がイエス・キリストさんのお母さんだそうだ」と教えてやった。そしてそっと、十字架に架けられているキリスト像をしめした。

春山兵曹はあまりその辺を知らないので興味をそそられている。青木兵曹が、

「この方は清純な処女(おとめ)のまま、キリストさんを産んだそうな。だから『聖母』と言うらしい。やっぱり神様になる人を産む人はちょっと違うなあ」

と言って自分の言葉に感心しているようだ。春山兵曹は(処女(おとめ)のままで子供を・・・。だからこんなにきれいでせつない感じがするんだろうか)となおもマリア像を見つめる。そこにほかの仲間も来てマリア像を見上げた。

「なんだかこのマリア様、春山兵曹に似てるねえ」

と、そのうちの一人の高梁皆実兵曹が言った。皆が春山兵曹を見た。春山兵曹はちょっとどぎまぎして皆を見つめ返す。

青木兵曹が「ああ、そうだねえ。似てるよ」という。春山兵曹はマリア像を改めて見た、マリアはどこかはかなげでしかしその瞳には強い信念のようなものが感じられる力を持っているようだ。片手には白いユリの花を持って、十字架に架けられたキリストの方に顔を少しだけ向けている。

(自分の息子が磔刑にされているのを見るのはつらいだろうに・・・)春山兵曹は言い知れない悲しみを感じて思わずマリアに同情の感情を持っていた。

が、マリアのその瞳には悲しみだけが湛えられているわけではないのに兵曹は気がついて驚いた。きっと母・マリアは息子・キリストという人物の「母」と言うだけの存在ではないのかもしれない・・・どう言ったらいいかわからないけれど。

(私もこんなふうに強くなりたい。遠く離れた夫をこういうふうに強い意志で支えてあげたい。日本の神様の雄々しさと、マリアさんの信念みたいなものが私にもあればいいのに。・・・なれるだろうか)

春山兵曹は自分自身に問いかけた。

そんな春山兵曹を見る青木兵曹は不意にとある予感を感じた。ただ・・・その予感が何を意味するものかはしっかり分かりはしなかったが・・・その予感はこの後しばらくして現実となるのだった。

 

皆は教会を出て丘を下り始めた。青木兵曹が

「今日はいい心の保養をしたね。清らかなものを見るのもいいもんだね」

と言い皆は同意した。高梁兵曹が、

「そういえば、『大和』にも聖母のような子がいるよね」

と言った。青木兵曹や春山兵曹、ほかの数名が一斉に高梁兵曹を指さして

オトメチャン!

と叫び、高梁兵曹は

「そう!!あの子は今も処女なんでしょう?なんか噂ではあの子の分隊士と何やらあったとかいうけど、あの清純さは聖母マリア様に匹敵するよ。だから処女のままで子供を産むよ」

と言い・・・一同大笑いしながら繁華街に歩いて行ったのだった。

 

そして、リサイタルを成功裏に終えた中村少尉と秋川兵曹は会堂を快く貸してくれた神父に丁重に礼を言い満足感を顔じゅうに表して「武蔵」に戻って行った。

「またやりましょうね、中村少尉!」という秋川兵曹に中村少尉は、「もちろんですよ!ここで十分研鑽を積んだら、いずれはカーネギーホールですよ」と笑った。

秋川兵曹は嬉しそうに両手を振りまわしながら「鴨葱ホール、鴨葱ホール!」と叫んでいた。中村少尉は(ちょっと違うけど。まあいいね。でもこれは夢では終わらさない!)と固く決意をしたのだった――

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・

 

シューベルト 「アヴェ・マリア」です。私はこれが大好きです。



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● COMMENT ●

周平さんへ

周平さん こんばんは!

キャー!そんなそんなあ~~~!!
どうしましょう・・・(^^ゞ

でも!ありがとうございます!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは。

教会には縁のない私ですがヨーク思い出すと一回だけ、高校の修学旅行で長崎に行ったとき大浦天主堂で確かマリア像を見たような記憶があります。
誰の絵だったか「小椅子の聖母」という絵を本で見て感激したのも高校時代でした。
絵でも銅像でもマリアという存在には心癒されますね。

いや~、私は聖母マリア様には程遠い存在ですよ~(^_^;)

「鴨葱ホール」・・・発想が全く日本人だと自分で思っています\(^o^)/


マリアも

マリアも見張り員さんも女性らしい女性だと思います、、
素敵です。

No title

マリア様でしたか。
私、いつも思うのですがどうしてマリア像の前になると人は心が落ち着くのでしょうか。不思議ですね。「聖」の具現そのものがマリアではないかと思います。大和の心を伝える見張り員さんもマリアかもしれないなぁなんて思いました。

オチは鴨葱ホールでしたか。

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

「塩狩峠」私も読みましたね~。信仰の美しさとか難しさ、そして信仰とともに殉じる身・・・。
どういう宗教であろうと一心に信じる心は美しいものだと思いますね。でも何で世界では宗教戦争があるのだろうという不条理も一面ではありますね・・・。まあ難しいことはいいや^^!!!

そうですね、春山のテーマ曲は「聖母たちのララバイ」がいいですね!
そのうち「女だらけの帝国海軍 将兵のテーマ曲一覧」ができるかもです^^!

寒いですね、くれぐれも御身大切になさってくださいね。

ジスさんへ

ジスさん こんばんは!

おお!ジスさんのお宅もPC争奪戦がありますか!
そうですよね~、「パーソナル」なんだからほんと一人一台、ほしいものですよ!(切実)
今年は買いたいなあと思うのですが、子供たちの進学で経済的に今年はきついから来年・・・かなあ?と思っていますが・・・。

アヴェ・マリア。大好きです。なんかこの手の曲ってクリスマス的イメージですが、普段聞いてみると意外に心やさしく癒されますね!

お風邪など召しませんように、御身大切になさってね!

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさん こんばんは。

先日はよいことを教えていただきありがとうございました。さっそく試しております!

このテンプレ前にもちょっとだけ使ってみたのですが何か気恥ずかしく・・・でもまた最近気が変わって使ってみましたww。

またまたすごい寒気が入ってくるようですね、もう雪はいらない!という地方の方たちが気の毒です。新潟の4メートルに比べたら東京の4センチでの大騒ぎが恥ずかしいです。

どうぞ御身大切になさってくださいね!

こんにちは。なぜか「塩狩峠」を思い出してしまいました。信仰心とかに関係なくマリア像や菩薩像って思わず手をあわせてしまいますよね。隠れキリシタンの方々がマリア観音や灯籠を作った気持ちがわかるような気がします。春山さんのテーマは『聖母たちのララバイ』になるのかしら?なんて思いました。楽しく苦しみながら創作・執筆活動続けて下さい♪

No title

こんばんは、いつもありがとうございます。

少々ご無沙汰してました。最近息子とPCの取り合いで・・
「パーソナル」コンピュータだからやはり個人個人で持ちたいものですね。

アヴェ・マリア、良い歌ですね。クリスマスシーズンによく聞くというイメージがあります。たまにはのんびりと音楽に浸りたい、そんな気分になりますね。

No title

見張り員さん  こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
テンプレート可愛いですね。
明日から2日まで強い寒気が入って
きますので、こちらは明日は70%雪マークです。
先日東京も雪が降りましたが、今回も雪に
気をつけてください。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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