2017-10

「女だらけの戦艦大和」・アヴェ・マリア1 - 2012.01.29 Sun

「女だらけの武蔵」はトレーラーに帰港していた――

 

帰港後の点検が済んで皆はそれぞれの配置で小さな訓練などをして過ごしている。そんなある日、医務科の春山兵曹は北野特務少尉とともに上陸して衛生用品の受領をした。トレーラーの二男島と言うところに内地からの輸送船が来る港がありそこの倉庫内に武蔵の分の衛生用品が積まれている。それのうち当座必要な分を受け取って団平船に乗せて武蔵に帰ってくるのである。

そんな折、春山兵曹が団平船の中から「あれ、なんでしょう」と彼方を指差して声を上げた。北野特務少尉は兵曹が指差した方を見た。

二男島の西端に瀟洒な建物が建っている。それを胸に下げた双眼鏡を目に押し当てて検分した北野少尉はああ、と声をあげて

「あれは春山兵曹、教会だよ。カトリックか何かの教会。ほら、屋根のてっぺんに十字架が建っているだろう。トレーラー諸島にはあちこち教会があるぞ、知らなかったかね?」

と言うと双眼鏡のひもを首から外してそれを兵曹に手渡した。兵曹がそれを双眼鏡で見ると白い教会が日を浴びて光って見える。

「教会、ですかあ。きれいな建物ですねえ」

春山兵曹は感心している。北野少尉は教会では祈りをささげたりさまざまな集まりをしたり、

「そうだ、結婚式もできるらしいぞ」

と言って兵曹を見た。春山兵曹はちょっとほほを赤くして少尉を見た。少尉は「三浦中尉はお元気かね?今度はいつ内地に帰れるかなあ」と独り言のように言う。兵曹はこれも独り言のように「はあ、もうそろそろ手紙が来るころと思います。私も昨日出したところです・・・」

と言って去りゆく教会を見つめる――

 

その日から二週間ほどたったある日の上陸で春山兵曹は数人の仲間とトレーラー本島の繁華街を歩いていた。新婚とあって仲間からはあれこれからかわれ、あるいは羨望されつつの楽しい上陸日。

と、後ろから「早く早く、始まっちゃうよ」という声がして武蔵の乗員の何人かが走ってくるのに出会った。

「どうしたんです」

と春山兵曹の同期の運用科の青木兵曹が走ってくる中の一人に尋ねると、その上等兵曹は息を弾ませて、

「この先の教会で、中村少尉と秋川兵曹がリサイタルをするんだそうだ。貴重な経験だから聴きに行くといいよ」

と教えてくれた。リサイタルとは何ぞや、と春山兵曹たちも一緒になって走りだした。

 

その教会は走って五分ほどの小高い丘の上にある。見晴らしはこの上なく良く、トレーラーの美しい海が一望でき常にやさしい風がさやさやと吹くところである。

ここトレーラー諸島では最も大きな教会で、その会堂の中にはもう沢山の現地民や海軍軍人、一部の陸軍さんもいてリサイタルの始まりを今か今かと待っている。

春山兵曹たちも会堂の一角に座を占めた。春山兵曹は珍しそうに会堂内を見回している。そんな兵曹を青木兵曹がそっとつついて

「これ、みっともない。きょろきょろすんなって」

と言って苦笑した。そばにいた連中が一様に下を向いてこっそり笑った。

やがてこの教会の神父が登壇し、この場に集まった皆に祝福を与える説教をした。帝国海軍や陸軍の中にもキリスト教の信者はいたがそれはほんの一握り、それ以外のものはちょっとだけ面食らった様子ではあったがまじめな顔つきで神父の話に耳を傾けた。

神父は一生懸命の日本語で、

「キョウハ、ここに素晴らしいお二方、オムカエしています。日本のカイグンノ<中村サン>と<アキカワさん>が、ピアノを弾いて歌をウタイます・・・」

と言って段を降りると皆は拍手をした。

段の下には立派なピアノがありそこに、「武蔵」の中村少尉と秋川兵曹が出てくると皆に礼をすると中村少尉はピアノの前の椅子に座った。

秋川兵曹はピアノからちょっとだけ離れた場所に立つと、中村少尉を見かえってうなずいた。中村少尉もうなずくとピアノの演奏を始めた。

「椰子の実」である。素晴らしい演奏に皆が声なき声を上げる。

♪名も知らぬ 遠き島より

流れ寄る椰子の実 ひとつ・・・

美しい声で秋川兵曹が歌いだしその場の皆は聴きほれる。おもに、日本の唱歌や童謡が歌われ帝国陸海軍の将兵は懐かしい思いにとらわれ、現地の人々はまだ見ぬ「日本」に心をはせる。

そんな素晴らしい曲と歌声を聴きながら春山兵曹の瞳は会堂の中のあるものにくぎ付けになっていた。

(あれは・・・いったい誰だろうか)

  <次回に続きます>

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・・

「椰子の実」。靖国神社・遊就館に<奇跡の椰子の実>というものが展示されています。これは昭和十九年、島根県出身の陸軍軍属・山之内辰四郎さんがマニラを離れる際、椰子の実に同郷の戦友で先に帰還した方の名前を椰子の実に墨書して流しました。山之内軍属は翌二十年七月戦死なさいましたがその椰子の実はその後なんと三〇数年を流れ流れてその戦友の方の住む港に流れついたのです。

調べた結果この椰子の実は山之内軍属が流したものと判明し、椰子の実は戦後三〇数年を経て軍属の未亡人の胸に抱かれたのです。

遊就館にいらしたら是非これをご覧いただきたいです。

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● COMMENT ●

kohakou さんへ

kohakou さん こんばんは!

お元気でしたか、待っていましたよ~~!!

最近PCのリカバリーをしたらなんだか今までのように行かなくなって記事に動画とか貼り付けようとしたら記事がすっ飛んだり、いらいらします。今までそんなことなかったのに(泣)。

またどうぞよろしくお願いいたしますね❤

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは。

おかげさまで仕事したら治りました^^、ご心配をありがとうございます!
私も教会といったものに入ったことがないんです。ですからここでの教会内の話は私の「脳内教会」です!!
オトメには教会・・・美しい!

今回の話の顛末はあまり上出来ではありませんでしたが、春山の話はあともうちょとしたらまた出てきます。またよろしくお願いいます!

No title

ごぶさたしております。
休止中もかわらずご来訪、ありがとうございました。
また、先日はコメントをありがとうございます。

さきほど、復帰に向け、ブログをいじっていたら誤って全部、消えてしまいました・・・(あし@は退会になるし、記事はきえるし)(汗)

近いうちに、またなんか、はじめますんでよろしくお願いします。

こんにちは。熱は下がりましたか?お大事になさって下さい。
教会には憧れますが、一度も足を踏み入れた記憶がないです…おとめと教会、スゴく似合いますね。今後の展開が気になります。「なになに、ねぇ、何が気になるの?」って隣にいたらきいてしまいそうです(笑)

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさん こんばんは。

本当に不思議な話があるものだと感じ入りました。人は愛しいものや場所にどんな姿になろうと戻ってゆくのだと思うと「霊」の存在も否定できるものではないなあと思っています。

肉球、まだ痛がってはいないようですがもう時間の問題のようです。
ご親切にお教えをいただきありがとうございます、さっそく明日散歩から帰ったらそのように実行してみます。ひび割れは人間だって痛いですものね。
本当にありがとうございました!

今日も寒かったですね、お風邪など召しませんように。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは。

春山は一体何を見たのか!?
いい男でも居たのでしょうか?「春山はミタ」とか何とかおかしなことにならなきゃいいのですが・・・??
ご期待ください。

「奇跡の椰子の実」、これを初めて見たとき私も総毛が立ちました。やはり「霊」というものは存在するんだと確信いたしました。
でなければ、山之内さんが椰子の実を流して30数年後に日本海まで流れ着くでしょうか?
きっと戦死なさった山之内さんの霊が椰子の実について愛しい祖国、妻の元に姿を変えてもどられたのだと思います。
こういう哀切な話をもう一つ知っています。もうご存知かもしれませんがそのうちアップしたいと思っています。

鍵コメさんへ

鍵コメさん こんばんは。

そうではないか、と思っておりましたのでうれしい思いですよ!
またこれからも楽しみにしていますからどうぞよろしくです^^!

いささか簡単ですがご返事まで・・❤

No title

見張り員さん   こんばんは♪

コメントありがとうございます♪
椰子の実が30数年後に島根の県の港に
流れつき未亡人の方の胸に抱かれたんですね。
その方も長い月日がかかりましたが、運命を感じます。
モミジちゃん肉球がひび割れで痛がっていますか?
肉球は寒いと荒れますので、足も冷えて筋肉も硬く
なりますので、夕方の散歩から帰りましたら足の
マッサージをして筋肉をほぐしてから馬油が配合された
手足用の人が使うクリームを塗りすり込んでいます。
馬油だけではべたつきますので、べたつかないクリーム
ですから潤ってきます。

No title

教会の一隅に目が釘付けに気になりますが、

今夜は「椰子の実」の話に鳥肌が立ちました。
三十数年を経て、戦友の住む港にたどり着いたなんて。
人の思いは必ず通じるものなのですね。奇跡です。
しかし、それを抱いた奥様の思いは如何ばかりだったか。
愛別離苦、悲喜こもごもの話ですね。

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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