2017-10

「女だらけの戦艦大和」・内地の正月5<噂> - 2012.01.18 Wed

もうすっかり松も取れ、普段の生活のもどった呉の街を歩く特務士官がいる――

 

岩井しん特務少尉はやっと休暇の日を迎えた。今日は前々から電報を父親に打っておいたので、会う約束ができている。

岩井少尉は父親には心許していた。なぜならかつての地獄のような結婚生活から鶴の一声で救い出してくれた恩人でもあるからだ。

父親の千治は、しんが前から海軍にはいりたがっていたのを知っていたので「まだしんは若いんじゃけえ遅いゆうことはないぞ。海兵を受験したらどうか」と、離婚後は勧めてくれたがしんは「うちはもう勉強は忘れてしもうたけえ、海兵団に入ります」と言って呉の海兵団に入団したのだった。入団の日の父・千治の嬉しそうな顔を岩井少尉は一生忘れまい。

岩井少尉は歩いて約束の旅館の前に来た。「岩井」の名前で一室をとってある、と言うので玄関に入り案内を乞うと、出てきた仲居がうなずいて微笑み「お父様はもういらしてますよ、さあ、こちらへ」と少尉を部屋に案内してくれた。

まだ「大和」他が呉にいるため旅館は何人かの兵や士官たちがいるようで各部屋から笑い声が漏れている。

こちらです、と言われてふすまを引くと中には懐かしい父・千治がいて

「おお、しん!久しぶりじゃなあ!」

と声をあげて手招いた。しんは仲居に会釈して仲居が「ごゆっくりなさいまし」とそっとふすまを閉めてくれた。

「お父さん。お久しぶりです、何年になりましょうか」

しんは父の向かいに座ってあいさつした。千治はちょっと照れ臭そうに娘のあいさつを受けて「まあ、ええが、あいさつなんぞ。それより・・・すいぶん立派になったのう」

といってしんを見つめた。しんも照れ臭そうに笑うと

「いえ、私なんぞまだまだですよ。尻に殻をくっつけとる雛も同然です」

と謙遜した。千治はそんなしんを見て「変わらんのう、しんは」とつぶやいた。そして、「で、『大和』はどんなじゃ」と聞いた。父・千治もかつては海軍軍人だったこともあり気になるようだ。

しんは「はあ、立派に活躍しとります。他の艦艇や部隊の協力もあって敵撃滅も近い思います」と言って笑った。千治も「ほうか。そりゃあええことじゃ。敵さんもだいぶ参っとるらしいけえ、あとひと踏ん張りじゃのう」と言って笑う。

しんは「ほいでも兜の緒を締めて、ふんどしも締めてかからんと油断ができますけん。油断は大敵でありますよ、お父さん」と言い、千治は「ほうじゃ。しんに説教されるとこじゃった」と大声で笑った。

 

二人はそこで昼食をとった。

千治は「しんはここで休暇中泊ったらええぞ。金はもう払うてあるけん心配せんでええ」と言い、しんは驚いた。「そんなお父さん、そこまでせんでもうちだって金は持っとりますけえ」そういうしんに千治は「まあええでないか。たまには親らしいことをさせんか?」と言って刺身をつまんだ。

「ほうですか・・・では、ありがたく」

しんはそう言ってちょっとの間瞑目した。父親の愛情が感じられ涙が出そうになっていた。

(お父さんにはどれだけ感謝してもしきれんなあ)

眼をそっと開けたしんは、あまり聞きたくもなかったが「お母さんはどがいですか?」と聞いてみた。母親の竹はしんをあの家に嫁がせるために、相手の家の心証を良くするためにしんを犬猫同然に「差し出した」ようなもの。結婚前の両家の会食の席で竹は「しんはこちらに差し上げるんですけえ、差し上げるんですけえ」と何度もいい、それを聞いた相手方の姑になる女は(してやったり)というような顔をしたのをしんは見ていた。そして結婚したらあまりな仕打ちが待っていた。姑はしんに「あんたはもろ(・・)うた(・・)もんじゃけえね。どう使おうがうちの勝手じゃ」と言い放った。

その原因を作った母親の言動をしんは今も恨んでいる。離婚のときも最後までしんに「あんたがもっとしっかりせんからこげえなことに。よう謝ってあの家に居らしてもらえ」と言ってしんに改心を迫った。

しかししんの決心が固かったことと千治の、婚家に対する怒りがものすごかったのでさすがの竹も引っ込んだ。そんなことを思い出すうちにしんの顔つきが険しくなってきた。

そんな娘を見ながら千治は澄まし汁をすすってから、

「母さんは元気じゃ。しんが海兵団に行ってからはしばらく気が抜けたようじゃったがな。でもすぐに元気になってな・・・」

と言った。しんはあの母親とうちは気が合わんと思った。

不意に千治が声をひそめてしんの方に乗り出すようにして囁いた、「あのなあ、これはあくまで噂話じゃけえあまり気にせんほうがええかもしれんが一応お前の耳に入れておくが・・・母さんは『野住』の家のもんと最近付きあっとるようじゃぞ」。

ええ!?と、しんは聞き返した。「なんでお母さんが・・・あの家のもんと?」しんは思わず変な顔になっていた。

千治は「もしかしてあの男に誰ぞ後添いでも頼まれとるんかのう?お母さんもあれで口がうまいけえな」と皮肉を言った。

しんは「ほうですねえ。あの人も一人でおっては何かと大変じゃろうし、あの家のもんとお母さんは妙に気がおうてましたけえね」と言って笑った。

ほうじゃな、と千治もいい二人はそこで笑い合うと箸を進めたのだった。

 

その晩は千治は家に帰り、しんはその晩から千治のとってくれたその旅館に泊まることになったのだった――

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・・

岩井しん少尉です、不幸な結婚をしましたが父親のおかげで別れて海軍に入れました。苦労人の岩井少尉、どんな休暇が待っているのでしょうか?
岩井しん少尉の過去の話はこちら


呉というと海軍料理の肉じゃがを・・・(WIKIより)




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● COMMENT ●

matsuyama さんへ


matsuyama さん こんばんは。

そう、あの時の岩井少尉ですw。
岩井しんは不遇でしたが海軍に入るやメキメキとその頭角を現しました。それもこれも父親あってのことでしたからしんは一生父親には球が上がらない…でしょうね。

人はどんなことで挫折しまた立ち直るかわかりませんが、可能性を信じて生きたいものですね^^。

No title

岩井少尉の過去の話はかすかに記憶に残ってました。過去記事に行ってみたら、何とコメント残してるじゃないですか。恥ずかし(笑)。
不遇だったあの頃の岩井少尉からは、想像もつかない逞しい女性に成長したんですね。あの時のお父さんの野住家への一喝が、岩井少尉の生きる道を心強くさせてくれたんでしょう。
人間て何か1つのきっかけがあることで立ち直り、その道の栄華を極めることができるんですね。


オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは。

寒いですね~いよいよ東京にも初雪が降りましたがこんなに雪って冷たかったっけ?とおかしな感想を持ちました。・・・寒い。

私はこの『女だらけの~』では、戦闘シーンよりどちらかといえば兵士といわれる人たちやその家族の心情とか生活を描くほうに重きを置いています(戦闘シーンも嫌いじゃないですが難しいので・・・^^)。
実在の人をモデルにした話も随分書きました・・・そう、天上にてそんな風に皆さんがお話していたら・・・これは楽しいしうれしいことですよね!

寒さの折からくれぐれも御身大切になさってくださいね!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは。

父親は思春期以降の娘にはけむったい存在である場合が多いのですが岩井家の場合は違いましたね。
私も娘たちに対して言葉ばかり多くって本当に伝わってるのかしらと不安になりますよ。でもでもきっとお互いの子供たちにはわれわれの言いたいことはちゃんと伝わっている・・・そう信じています!

しんは耐える女です。
母親はちょっと・・・な人ですがソレが反面教師だったのかもしれないですね。嫁をもらうというのも・・・難しいですが最終的には嫁御本人の人間性ですね^^。

ジスさんへ

ジスさん こんばんは。

人生の中で結婚生活が不幸なほど『不幸』な話はないと思いますね~。
岩井しんの場合は父親が理解あってよかったですが・・・

そうです、ジスさんもお嬢様をもつ身ですから将来、あってはなりませんが万が一のときは毅然とした態度で相手に臨んでください!婚約の際、『嫁に出す』ほうだからと必要以上に下手に出てはなりませんぞ!

今日(20日】、東京も初雪でした。
一日雪が降って寒くて寒くて・・・・早々に店じまいしましたww。
名古屋はいかがでしょうか?くれぐれも御身大切になさってね。

こんにちは。寒い朝です~お身体は大丈夫ですか? 見張り員さまのお話に登場する人々の家族や仲間とのかかわりを読むたびに、本当に一人一人の人生にそれぞれの物語があるのだと実感します。実在した方々にもご本人しか知らない大切な宝物のような物語があったのだろうと思うとまたなんともせつない気持ちになりますが、もしかしたら天上で「実はあれと同じ出来事が…」などとこっそり話をしていたら、と考えるのもまた楽しい…「お前、美化されすぎ!!」とか(爆)

No title

父親の深い愛情ですね。
言葉少なでもこうやって心が通じている親子って憧れです。我が家なんて言葉が多い割には実も質も大したことないんじゃないかと、最近の息子の急激な成長を見て思っています。

しんさん、堪えていたでしょうに。
嫁をもらう時はその母親を見ると良いと言いますがこちらは逆でしたね。

No title

こんばんは。いつもありがとうございます。

不幸な結婚生活はしたくないものですね。そしてそれから救い出してくださった父親。私も娘が大きくなって万が一の時にこうした毅然とした態度が取れる父親でありたいと思いました。

さっむいですね・・・早く暖かくなってほしいものです。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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