2017-10

「女だらけの戦艦大和」・内地の正月1<思い> - 2012.01.08 Sun

昭和××年正月二日。「女だらけの戦艦大和」他数隻は広島呉港に帰港した――

 

「うわあ、久しぶりの内地の正月だ!」

艦橋や最上甲板にいた兵が声を上げた。それを聞きつけて手すきの兵らも甲板や見張り所に上がってきた。どこか正月らしく雅な風景の内地の風景に皆の心は躍った。

「ああ。はよう上陸したいのう」と皆の口から一斉にため息が漏れる。それも仕方ない、内地での正月はずいぶん久しぶりだから。

麻生分隊士も、防空指揮所で松岡分隊長と共に呉の街並みを遠望しながら「やっぱり日本はええですね」「ああ、私は世界中のどこより日本が好きだよ。本当に熱くなれるじゃないか!」「え?でも分隊長はトレーラーでもスマトラでも十分暑かったでないですか?」といいながら笑いあう。嬉しくて仕方がないらしい。

そんな二人を、下士官の小泉兵曹と見張兵曹、兵の石川水兵長が後ろから見て

「ほう、あの二人は結構仲がええんじゃね。あがいに仲よう話をしとるよ」

「最近は仲ええですね。分隊長が来んさった頃は何かというとぶつかっとったが」

「見張兵曹、分隊士をとられるんと違いますか?」

といいながらこれもクスクス笑いあう。嬉しくて仕方ないようだ。

その嬉しさは艦長たちも例外ではない。梨賀艦長も双眼鏡で呉の街並みを検分しながら、

「十分に正月の雰囲気だね。皆に休暇を与えないといけないが、いつからにしようか」

という。野村副長が同じように双眼鏡で呉を見つめつつ、

「そうですね。『大和』を工廠のドックに入れるのが明日ですから、あさってあたりから手すきの分隊や兵から休暇を順次与えましょう。・・・艦長は東京に帰られますか?」

と聞いた。艦長は双眼鏡を目から離すと、ふむ、と少し考えるふりをしてから

「よし。明後日から順次休暇だ。故郷が遠い者にも近いものにも一週間与えよう。大きな作戦もないし、今回は『大和』の磁性塗料の塗り直しと新しい塗料の塗布らしいからね。休暇以外の者も普段通りの上陸でいいね。ただし、気を抜かぬよう副長からよーく言っておいてね。私はまだどうするかわからないがね」

と言って副長は笑顔で「わかりました」と返事をして下に降りて行った。入れ違いに森上参謀長が来て、

「いよいよ呉に帰って来たね。やっぱり内地はいい。梨賀はどうするんだ。家に帰るんだろう?ずいぶん帰ってないだろうし。ご両親に顔を見せてこいよ」

とタバコをポケットから出しながら言った。梨賀艦長は「そうだねえ」といいながら再び双眼鏡を目に当てて呉方面を見つめた。

 

「大和」は翌日海軍工廠のドックに入渠した。これから磁性塗料(潜水艦などからの魚雷を跳ね返すという特性を持った塗料のこと。「女だらけの帝国海軍海軍工廠」の努力の賜物)の塗り直しと新たに開発されたある塗料を上塗りするのである。他には普段通りの兵器の補修や補充等である。

各科の科長たちは班長クラスを引き連れ点検場所の確認で忙しい。特に機銃や高角砲などは忙しく休暇もすぐには取れそうにない。

内務科(運用・工作の総称)も様々なことがあって忙しそうだ。電気分隊の岩井特務少尉もあちこち走りまわっている。岩井少尉は艦内の電気系統の点検をしながら部下の兵に、

「もう少しの辛抱じゃけん、こらえてくれよ。なんせ『大和』はでかいけえ、点検も一日や二日じゃ済まんけえね。これが済んだら休暇じゃけえ、もうちいとの辛抱じゃ」

と励ます。兵たちも「はい。一所懸命の仕事をすれば休暇はもっと楽しゅうなりますけえ、頑張ります」と応え、岩井少尉は笑みを浮かべた。

 

その翌日から点検を終えた分隊員から順番に休暇が出た。実家に帰るものや家族を呉や広島に呼び寄せている者がほとんどである。

見張兵曹は大きな双眼鏡を大事そうに拭きながら小泉兵曹に

「ねえ、小泉は休暇どうするん?」

と尋ねた。うん?と振り向いた小泉兵曹は見張兵曹のほうに体をむけると、

「そうじゃなあ。うちは今回は下宿に泊まって朝日町で遊びまくるわ」

と言って笑った。見張兵曹は(また実家には戻らんつもりじゃな)と思ったが口には出さない。小泉兵曹はもう以前に実母を亡くし、新しい母が来てからは一度も実家のある広島には戻っていない。

「もうあれはうちの家ではないけんね」

というのが小泉兵曹の口癖である。聞けば、比較的近くに嫁いだ姉の今日子も、父親の再婚からこちら、ほとんど実家にはよりつかないと言う。

「あんまり実家に帰らんけえ、岸田の家の親が心配してるんじゃと」と小泉兵曹は言った。姉の今日子が嫁いだ岸田の家は大きな海苔問屋である。温厚な舅と姑で今日子は大変幸せである。その親たちが「今日子は実家に帰らんが、ええんかのう?普段からようやってくれるけえ、たまには羽を伸ばしに行ったらええのに」と気をもんだが、今日子は「ありがとうございます。でもうちはここで皆と一緒に居るんが一番幸せです。小泉の家はもう、うちの家ではありませんけえ。ここがうちの家ですけん」といいきった。

それで岸田の舅と姑は、今日子の思いを知ったのだった。

今日子の思いはそのまま、妹の純子の思いでもある。(うちの居場所はまず『大和』。(おか)にあっては呉の下宿じゃ)

見張兵曹は小泉兵曹の肩をポンポンと叩いて

「ほうね。でもあんまり羽目外したらいけんよ。遊びは適当にせんとね」

と言ってやった。とたんに小泉兵曹は大笑いをして、

「オトメチャンも言うようになったねえ。・・・ハイハイ、羽目外さんと遊びたい思います」

と言って二人はその場で腹を抱えて笑ったのだった。

その小泉兵曹の休暇は明日から。見張兵曹は小泉兵曹の帰艦後の休暇である・・・もちろん、麻生分隊士と一緒に、である。

 

そして、電気の点検にいそしむ岩井特務少尉の休暇は二週間あとである。が、それを長いとも思わずに少尉はうきうきとした心で待っている・・・

(次回に続きます)

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お久しぶりです。

いよいよ「女だらけの戦艦大和」も2012年の幕を開けました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

「大和」の故郷のドック。今はIHIのドックですね。
oka01大和建造ドック


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんにちは!

すごい大きさですよここ!呉に行かれる機会があったらぜひご覧ください。感激が走ります。
当時の海軍工廠の開発者はもとより工員・職人たちの技の高さは「大和」他の艦艇・兵器に現れていますね。今だって日本人の技術の高さはしっかりあるのですから海外に流出させないで欲しいと思うのは私だけでしょうか。

「大和」久しぶりの内地での正月です。
さあ、何が起きるやら?お楽しみに❤

No title

IHI、ここで大和が生まれたのですか。
素晴らしい大きさですね。大和もここに還ってくれれば良かったのにと思いました。

艦上の皆さん、休暇前のワクワク感が満ち溢れていますね。健気でかわいいなぁ。

kohakou さんへ

kohakou さん こんにちは

私は表からこのIHIを見ましたが・・・でかい!
ここで「大和」ができたんかと思うと感慨無量でした。

またいつか呉に行ったらいろんなアングルから見てみたいです!

今年もどうぞよろしくお願いいたします!

こんにちは。

こんにちは。

ここから見えるIHIの風景は壮観ですよね。
以前、仕事で中に入り、そばでクレーンを見ましたが
『何を吊るの?』
って言うくらいめちゃデカいです。

丘の上からだとそこまで大きく感じないんですけど・・・。

今年も楽しみにしています!


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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