「女だらけの戦艦大和」・大輪の花咲く日1

「軍艦武蔵・横須賀からトレーラーへ」――

軍艦武蔵は各種兵器の修理や増強を終えてそろそろトレーラーへ戻る時が来ていた。

乗組員たちは少し名残惜しげである。「ああ、今年は内地で正月だと思ったんだけどなあ」という声が多い。

が、代わりに「大和」が内地に戻るのだからトレーラーがお留守ではならない。『大和』の留守は『武蔵』が守るのである。

そんな中・・・

 

「春山さん!」

と、最後から三番目の上陸で横須賀の町を歩いていた春山兵曹は後ろから声を掛けられて振り向いた。

「あ、三浦中尉・・」

春山兵曹は満面の笑みで三浦智一技術中尉を敬礼で迎えた。三浦中尉も嬉しそうなほほ笑みで返礼すると「お茶でもいかがですか」と言って一件の喫茶店に春山兵曹をいざなった。

三浦中尉のなじみの店のようで気のよさそうなマスターが、店の隅の日当たりのよい席をそっと示した。

春山兵曹を先に座らせてから三浦中尉はマスターにコーヒーを二つ注文した。

そして軍帽を二人は取ってテーブルの傍らに置いた。春山兵曹は(今日の三浦中尉、どこかいつもと違う)と直感した。(もしかして・・・別れを切り出されるのだろうか)と何となく嫌な予感さえしてきた。

三浦中尉は、春山兵曹の顔を見つめている。なんだかその視線が春山兵曹には面映ゆく、軽く伏し目がちになる。やがてコーヒーが運ばれてきて、まず三浦中尉がカップを手に取った。春山兵曹もカップを取り、一緒のタイミングで口をつける。

(この後・・・きっと別れを言われるんだ)

春山兵曹は少し悲しい気がしてきたが(仕方ない。縁がなかったとあきらめるしかない)と思っている。

三浦中尉がカップをソーサーの上に置いた。小さく、陶器同士が触れ合う音がして春山兵曹もカップを置いた。

二人は見つめあった。

そして、長い沈黙の後やおら三浦中尉が口を開いた、その言葉に春山兵曹は衝撃を受けることになった。

「え!?」

春山兵曹はわが耳を疑った。「三浦中尉あの・・・もう一度おっしゃっていただけますか・・・」兵曹は呆然としたままカラカラの喉で言った。

三浦中尉はほほ笑みながら春山兵曹の手を自分の手に包みこみながら、

「何度でもいいましょう。・・・結婚しましょう。春山さん」

と言った。春山兵曹の瞳に涙があふれた。そしてそれは頬を伝わり、軍服の上にしたたり落ちた。

「・・・三浦中尉。あの・・・こんな私でもいいのでありますか?本当に?」

春山兵曹は何度も何度も繰り返し訊ねる、その度に三浦中尉は微笑んでその度に兵曹の手を握る手の力を更に強くして、

「あなたでなければダメなんですよ私は。結婚してくれますか?」

という。春山兵曹はうなずきながら「はい。はい・・・結婚してください。私からもお願いいたします」と泣いていた。

それをカウンターの中から嬉しそうにほほ笑んで見つめているマスター。ふと後ろを向いて何やらしていたがやがて二人の元に何かを持ってやってきた。

「おめでとうございます。三浦さん、春山さん。これは私からの心ばかりのお祝いですよ」

差し出したのは――可愛いケーキであった。

二人はマスターに何度も頭を下げて礼を言うとその心づくしのケーキを仲良く分けて食べたのだった。

 

春山兵曹は三浦中尉に、「『武蔵』はまた近々外地に戻ります。今度はいつ帰ってこられるかわかりません。それでも本当にいいのでありますか」ともう一度念を押した。

三浦中尉は微笑んで「私も海軍に籍を置く人間ですからそのあたりのことはよくわかっています。<体が離れていること>は問題ではないんです。身は遠く離れていても心が常に近くにいるなら私は安心できますし満足です。・・・いつか、一緒に暮らせる日が来ましょうからその日を待ちながらお互いの場所で過ごしましょう。でも安心するためには私は<結婚>という形を取っておきたいのです」と力強く言った。そして更に言葉を継いで、

「あなたはご自分の過去を気になさってらっしゃるようだが済んだことは済んだこと。私は終わった過去にはこだわりません。ですからあなたももう過去を振り返るのはやめてくださいね。これは私との約束。いいですね」

というとその右手の小指を兵曹の右手の小指に絡ませて「指切りげんまんしましたよ」と言って笑った。

春山兵曹はそこで初めて晴れ晴れとほほ笑んだ。

 

春山兵曹は次の日に「武蔵」に戻ったら分隊士に「結構許可願」を出すことにした。それはたぶん最後の上陸までには受理されるだろう。

「では」

と三浦中尉は言った、「最後の上陸の日、私たちの祝言としましょう」。

春山兵曹は頬を紅く染めて「はい」と言ってうなずいた――

 

かくして翌日「武蔵」に戻った春山兵曹は、分隊士の北野特務少尉に「結構許可願」を提出した。北野少尉はことのほか喜んでくれた。

「そうかあ、よかったねえ!実はさ、秋川兵曹から以前の話を聞いていたから気になっていたんだが・・・そうかぁ、それは何よりだ!」

そして許可願は最後の上陸までに無事、受理された。

 

そして・・・ある寒い冬の日。

春山兵曹にとって今年最後の上陸日が来た――

 

(次回に続きます)

 

         ・・・・・・・・・・・・

春山兵曹、覚えてらっしゃいますか?
「別れの情景1」
「別れの情景2」

あの時はあまりに悲しい結末でしたが今度はいよいよ、春山兵曹に最高の、大輪の花が咲きます。次回はいよいよ!!

お楽しみに。





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Comments 6

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見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

私はこういう時代を扱ったものでもやっぱり「めでたい」、「嬉しい」「死なない」話がいいと思っています。あの戦争で死にすぎるほど死んでいった兵隊さんたちを、この空想の話の中では女の子に変えて思う存分活躍させたいのです。おかしなセンチメンタリズムと言われようとそれは私の信念ですからいいんです。
こうして共感してくださる皆さんもいらっしゃいますものね。

なんと!「丸」に!!
早速買ってきましょう。
あの厳しい時代、厳しい生活の中にありながらほほ笑みがあり笑いがあり、そしてきっと夢があったのですね。
戦争の結果を今の私たちは知っている、いるからこそ写真の中の彼らの無邪気さがひとしお哀れでもあり、勇気付けられもするのでしょうね。
どんな境遇にあっても決してくじけない自分でありたいと思いますね。

2011/12/27 (Tue) 22:21 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
matsuyama さんへ

matsuyama さん こんばんは!

やっぱり温かい春が好き・・!というわけでもないですがw、春爛漫の二人です❤
理解のある三浦中尉は女性の理想でしょうか。でも最近の女性には「うざっ」とか言われそうかなあ~。

「戦艦武蔵」は本当によく戦いました。
しかし日本海軍は自ら航空機優先の時代を作り出していながら一方では「大鑑巨砲主義」から逸脱できなかったのですから何をかいわんやです。
もっとも、「武蔵」「大和」も使い方次第だったと言われますね。何が何でも実戦に投入するばかりが能ではなかったと。
しかし現在の視点なんぞあの時代に当てはまるわけもなし、ただ国を憂うる一心で戦闘に身を投じた兵士たちが哀れなばかりです。
「武蔵」の生存者はほとんどがのちに陸戦隊としてフィリッピン方面の激戦地に投入されて死んでいったのはあまりに理不尽です。

それでも今まで生きていてくれた皆さんには本当に感謝ですね。

2011/12/27 (Tue) 22:14 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

春山兵曹はつらい時がありましたが今やっと名前の通り春が来ました!
心通じる相手との結婚が一番ですよね❤

あの時代は結婚も大変なことだったと思います。今のように一緒になったからと言ってずっと一緒に住めるわけではなく一緒にいる時間はとても短かったのですから・・・
「回天」「大和」他の、新婚の軍人さんたちの語るも涙の物語、いつかご紹介しましょう。

御遺骨となられて帰国・・・それでも「幸せ」な方かもしれませんね、南方のジャングルに、北の凍てつく大地に、深い海の底に、いまだ眠ってらっしゃる英霊のいかに多いことか・・・
でも本当にあの頃の男性、「イケメン」ですね。きりっとしてらっしゃる。
生きておられたら91・・・どんなおじいちゃまになってらしただろうとか考えるととても哀しく切ないですね。

「三浦」と「春山」・・・なんだかこうなっていました!
そう言われればそうですね!自分でわかっていなかったです・・・(-_-;)

2011/12/27 (Tue) 22:07 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  
君となら生きてゆける♪

こんばんは。おめでたい話はいいですね!!オフコースの「緑の日々」の歌詞を思い出します~いろいろあっても「君となら生きてゆける 僕にはもうなんの迷いもない~」どんな時代でも「しあわせ」ってあるんですよね。今発売中の「丸」が紫電改の特集号だったと思うのですが、軍人さんたちの食事風景やお掃除の様子の写真があり、見張り員さまのお話を思い出しました。皆さんの笑顔が無邪気で切ない気分になりました。

2011/12/27 (Tue) 18:06 | EDIT | REPLY |   
matsuyama  
No title

暮れに向かって寒い日が続いてますが、「女だらけの‥‥」ではひと足早く熱い春がやってきましたね。
人生の新しい門出のスタート。幸せな結婚生活を期待したいです。頑張れ春山、三浦カップル。

「戦艦武蔵の最期」壮絶な戦いだったんですね。生と死の間で繰出す男たちの戦い。国家のため、家族のため、自分の命を賭けたんですね。
大砲の時代ではない、戦闘機の時代だと分っておりながら、戦わなければならなかったやるせない気持ち、胸が熱くなります。
生き残って証言してくれた方々に感謝しなければなりませんね。

2011/12/27 (Tue) 17:48 | EDIT | REPLY |   
まろゆーろ  
No title

喜びの情景が目に浮かびます。
この時代、結婚の嬉しさと別れのつらさ、そして国を護るという栄誉。さまざまな思いがそれぞれに交錯していたことでしょうね。
手元に70年ぶりに遺骨で帰郷された英霊のご遺書とご遺影のコピーがあります。存命であれば91歳だとか。とてもカッコよくて今でいうイケメンです。
時代が、生まれた時が違っていたらこの方の人生も大きく変わっていたろうにと思いました。

三浦さんと春山さん……、どこかのCMですね!! キャスティングがお上手です。

2011/12/26 (Mon) 23:54 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)