2017-10

「女だらけの戦艦大和」・慰問袋はふるさとの・・ - 2011.12.15 Thu

南方のトレーラー島で日夜訓練に従事する「女だらけの軍艦大和」に、内地からの便りがやってきた――

 

内地からの輸送船が運んで来てそれぞれの艦に仕分けされた手紙や小包みの類が「大和」にも来て、担当部署の兵たちがそれぞれの分隊に分けて行く。

手紙・はがき。そして慰問袋がそれぞれにわけられて、各分隊の担当が持ってゆく。そして各分隊の居住区でそれぞれに渡してゆく。

「わあ、お母さんからの手紙だ!」

「ウフッ!エンゲからの慰問袋~」

「うわっ、下宿代の督促だあ!」

等々、皆大騒ぎ。

「お!慰問袋だ。誰からかなあ~?へえ、広島の国民学校の生徒からじゃ。可愛いのう!」

と言って中の手紙を無心に読む士官もいれば、

「なんだこの慰問袋は?頭痛薬に腹薬、目薬にばんそうこう。それに包帯に風邪薬に水虫の薬、しかもなんだあ避妊具まであるぞ?わけわかんねえー!」

と叫ぶ兵曹もいる。よく見ればその慰問袋は製薬会社が全海軍将兵の中から抽選で五百名に出したレア物である。喜ぶべきものではあるが・・・。

 

ともあれ、今日は皆心浮き立つ日であることには間違いない。

そんな中、機銃分隊の長妻兵曹も慰問袋を受け取った。同じ機銃の増添兵曹が手渡してくれた。「おうい、長妻兵曹。実家から慰問袋だよー」

「ほう、実家からかね。ありがとう増添さん。・・・なにが入っとるんじゃろうねえ」

そういいながら慰問袋を開ける長妻兵曹、増添兵曹も自分に来た手紙の束を持って長妻兵曹のそばに陣取る。

長妻兵曹は、中のものをひっぱりだした。メンソレータム、新しい肌着、新しい帳面、一番幼い妹が書いた絵手紙。その他いろいろ、そして――

「あ。これ」

長妻兵曹は思わず声をあげていた。長妻兵曹の手にあったのはあったかそうな腹巻。そのえんじ色の毛糸には見覚えがあった。

(子供の頃のセーターだった毛糸じゃ)

兵曹は腹巻をじっと見つめた。

幼いころの思い出が湧きあがってきた。六人姉妹の上から二番目の長妻昭子は子供のころから大食いで近所でも有名であった。が、この話はまだ姉妹が四人の頃の話。

「長妻さんがたの昭子ちゃん」と言えば大食らいの代名詞でもあった。ちょうど長妻兵曹が小学校に上がった年の秋はどこの家の柿も豊作だった。兵曹の家の柿の木もたわわに実をつけている。

長妻兵曹は姉と一緒に庭の柿を眺めていたがふいに「姉ちゃん、私と柿の食いっこをしよう」といい出した。姉は面白がって「ええよ。私が勝つか、昭子が勝つか。比べっこしよう」と乗った。そして二人は柿の木に登ると手当たり次第に柿を食い始めた。へたやら、種やらをぷっぷと下へ吹き落とす。

そんなことをしていると、生垣の外を通りがかった近所のおっさんが笑いながら「おお、勇ましいのう。じゃが木から落ちんようにせんといけんよ」と言ってくれた。そのおっさんに手を振り、さらに食べ続ける姉妹。

やがて何個食べた頃か、先に姉のほうが降参した。「昭子、うちゃあもういけん。おなかが破裂しそうじゃけえ、うちはもう降りる」

そう言って姉は木から下りて行ってしまった。長妻兵曹はその姉を「ありゃ。もう降参かねえ?うちはまだまだいけるけん、降りんよ」と見送った。

その長妻兵曹がやっと柿の木から落ちてきたのはそれから一時間以上たってから。

兵曹はえんじ色のセーターに包まれた、大きく膨らんだ腹をなでながら「ああ美味かった。ちいと昼寝でもしようかねえ」とひとりごちて部屋に入って行ったのだった。

そして夕方仕事から帰ってきた父親が家の前の生垣のあたりに柿のへたや、種が大量に散乱しているのを見つけ(いったい誰の仕業じゃ?カラスかのう?柿ももう食べごろじゃけえ、カラスの野郎もわかっとるな)と思って柿の木を見上げれば、今朝まではあれほどたわわに実をつけて柿の木全体が赤くなって見えるくらいだった「柿の実」が半分ほどに減っている。

「うわあ!」

と兵曹の父親は腰を抜かさんばかりに驚いた。・・・いったいどれだけのカラスの集団が柿を食ったんじゃ!?

そして父親は「ミツ、ミツ!はよう来てみんか、柿の木がえらいことになっとる!」と兵曹の母親を大声で呼んだのだった。

兵曹の母親は五人目の子供を身ごもっていて大きなおなかを抱えながら「はあ、お父さん。どうしました?」と出てきたが、父親が震える指で指し示す先を見た母親も「ありゃ!」と驚いた。

「えらいことじゃ、カラスの仕業じゃろうか?それとも熊でも出たんかいな・・・」二人が大騒ぎをしていると中から娘たちがぞろぞろ出てきた。長妻兵曹以外の娘たちである。「お父さんどうしたんね」とかいいながら出てきた娘たちに父親は「見てみんか、柿が半分になっとる。カラスの仕業か、それとも熊でも出たんか?」と柿の木を指さす。

すると長女が大笑いを始めた。母親が「あんたあ、何がおかしいんじゃね?」と不審げな顔をすると長女は「あれはねえお母さん。昭子が食ったんじゃ。私と食いっこしよう言うて。うちは六つしか食えんじゃったけど昭子はずーっと食うとったよ。じゃけえあれは昭子の仕業じゃ」と言ってなお笑い、ほかの娘たちも笑い出す。

半信半疑の両親が家に取って返し子供部屋のふすまを開けると、そこにはえんじ色のセーターの腹のあたりをこんもりと盛り上げた長妻兵曹が実に満足げなほほ笑みで眠っていたのだった。

 

(そんなこともあったのう)

長妻兵曹は懐かしくなって腹巻をなでた。心なしか、故郷の秋の陽の温かさがしたような気がした。

(しかし。ここはくそ暑い南方じゃけえ、腹巻の出番もなさそうじゃがなあ)と長妻兵曹は思った。そして腹巻に挟みこんであった便箋を見つけるとそれを開いた。母からの手紙である。

・・・昭子は今どこに居るのでせうか。寒い北の国でせうか、それとも暑い暑い椰子の木のお国でせうか。

母も、父も、姉妹も皆昭子のことを案じてをります。風邪をひいてはおらんかとかおなかを痛くしてはおらんかとか。

内地はもう秋から冬になります。朝になれば昭子が好きだった冬のにほひもして来ます。先日押入れを片づけていましたら昭子が子供のころ着てゐたセーターが出てきましたので、ほどひて腹巻に編みなほしてみました。

おなかが冷えさうな時はこれを巻ひてください。軍人は身体健全が一番です。そして勇敢に戦って決して卑怯なことなどしないでくださいね。

母たちはあなたの武運をいつも祈ってをります。昭子が元気で凱旋する日を心より待ってゐます。

そして、

とここまで読んだ時、長妻兵曹の瞳がうるんだ。母の心のこもった手紙に、兵曹の涙がいくつか落ちた。

長妻兵曹は涙を防暑服の肩でグイッと拭うと、手紙の続きに目を落とした。そこには・・・

男遊びはたいがいになさいね。お嫁入りに差しつかへますから。

の文字が・・・。長妻兵曹、手紙を持ったまま視線を遠くに投げて「ヘ、ヘヘヘヘ・・・」と気味の悪い笑いをしたのだった。(見抜かれていた)と兵曹は少しだけ苦々しく思った。親とは、かように子供のことは離れていてもわかるものなのである。

 

懐かしい日本、故郷からの手紙や慰問品は今日も「女だらけの帝国海軍」さんたちを元気つけているーー

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・

長妻兵曹のお母さん、さすが娘のことはしっかりわかっているようです。しかし、柿の食い過ぎはよくないです。ご注意ください。

「慰問袋」いろいろな種類があったようです。中身はし好品(甘味、煙草)やせっけんなどの生活用品や雑誌、手紙などが入っていたようです(写真はお借りしました)。
慰問袋


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● COMMENT ●

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさん こんばんは!

実家からの贈り物は嬉しいですね。幼いころを思い出したりしますね~。

そちらはみぞれですか寒いことでしょう・・ブルブル・・・
こちらでは雪は降りませんでしたが、とても寒かった一日でした。昨年だったか雪が降った時はモミジ、雪の上歩き回って喜んでいましたよ♪
「犬は喜び庭駆け回り・・」のとおりでしたw。

寒さの折から御身大切になさってね。

No title

見張り員さん こんばんは♪

いつもありがとうございます♪

母からは毎年地元の好きな物を
送ってきてもらい懐かしく思い出されます。
今日は風が強く寒くお昼からみぞれが降りました。

今日は東京は雪が降ってるみたいですね。
こちらも昼過ぎからみぞれが降り
明日は雪が降るそうです。
モミジちゃんも雪を見て喜んで
いるでしょうね。

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

自分の子供の居場所が分からない・・・親としては大変不安ですよね。しかもそれが戦地だったりしたら生死だって定かじゃないわけで。
そして「ここにいる」と知らせたくてもできない子供の側の思いもつらいものがあったでしょうね。

ころがき!
私の亡き祖母は山梨県は塩山の出身で、その弟(母たちには叔父、私には大叔父ってことかな)の作る枯露柿は絶品でした。
私は大好きでしたがその叔父さんの死とともに幻となりました(泣)。
なんだか懐かしい思いにとらわれています。

え??オスカーさん苦手?おいしいですよ~~(ってだから苦手だって言ってんだろうって突っ込んで~~w)。

こんばんは。自分の子どもが今どこにいるのかはっきりわからない親御さんもたくさんいたでしょうね。戦地からの小さい子ども宛ての手紙など胸がいっぱいになってしまいます。
柿といえばこの時期はやはり「枯露柿」(ころがき)ですね。ひらたくいえば干し柿ですが~山を背景に吊るされた柿のカーテン、懐かしいです。でも私は苦手(笑)

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

戦地で親兄弟から来た慰問袋に涙した皇軍兵士は多かったでしょうね。異郷の地で開ける慰問袋は懐かしい故郷の香りに満ちていたんでしょうね。
想像すると泣けてきます。

赤穂浪士の昔から日本人にはしっかりと「武士道」が根付いていたわけで、その精神がつい最近・・たった70年ほど前・・まで日本には息づいていたことが驚きであり誇りでもあります。
その素晴らしい「武士道」を忘れ去った日本人は今後どうなってゆくのか?
ちょっと怖いものがありますね。

ジスさんへ

ジスさん こんばんは!

実家から物が送られてくるととてもうれしいですよね♪
そうですね、特に一人暮らしの時などは嬉しさもひとしおでしょうね。そんなCMがありますよね、確かAKBのあっちゃんがお母さんから送られてきたお茶づけを泣きながら食べるCM。
あの感じはわかりますね。

うちには実家からよく「海苔」を送ってもらいます。実家の近所に海苔の専門店があるのでそこから買って来てくれます。ありがたいですよね・・・。

ジスさんとこもうちも、もう何年かすると子供の家に何か送るようになるんですよね~。その日が待ちどおしくもあり、さみしくもあり、ですね。

明日は寒いそうです、御身大切にね!

No title

家族やふるさとのにおいがいっぱいに詰まった慰問袋。僕だったらいとしすぎて懐かしすぎて、そして帰りたくて正常な気持ちで開けることが出来ないかもしれません。
皆さんの嬉しそうな笑顔や涙が伝わってきました。
そういえば赤穂浪士のひとりが討ち入り前に家族に宛てた手紙が見つかったとか。そこには先立つ親不孝や遺された兄弟たちの行く末を託す思いが綴られていました。
この思い、確かに先の大戦までは日本人の誰しもが持っていた大和魂、武士道ではと思い当りました。
日本人って素晴らしかったんですね。

No title

こんにちは。いつもありがとうございます。

嬉しいですね。実家からの贈り物。
若いころひとり暮らしの頃は、色々な食材や衣類などが届くのがとても楽しみでした。

この年になっても時々実家から送られてくる食品には喜んでいます。先日は富有柿が送られてきて家族皆で喜んで頂きました。

いずれは私達夫婦が子供たちに物を送るようになるんでしょうか。楽しみなような寂しいようなそんな気がします。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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