「女だらけの戦艦大和」・虎虎虎だあ!2<解決編>

「ちょっと待った―っ」・・・アラカン山脈に時ならぬ大声が響いた――

 

「おお!貴様か!!」

と嵐中尉が叫んで皆がそちらを見るとそこには丸メガネをかけた小柄な中尉が立っていた。貴様か、と言われた中尉はうなずいて腰から何やら引き抜くと一川上等兵を組み敷いている虎を見据えた。嵐中尉が

「なんとかしてくれ、畑中尉!」と叫ぶ。

畑中尉と呼ばれた女性兵士は大きな虎を見つめている。その背後には多くの虎がこちらを見据えている。

皆は「畑中尉殿、早く一川上等兵を助けてください!」と声をあげるが畑中尉は「静かに・・・」と口に人差し指を当てて虎に視線を移す。

嵐中尉が顔色を青くしながら畑中尉を見守っている。

畑中尉は帽垂れのついた戦闘帽をかぶり直し、嵐中尉に向かい「嵐中尉。ちょっと貴様には手を貸してもらうことになるかも知れんが、いいか?」と問うた。嵐中尉は「望むところだ」といい斜に体を構えた。軍刀に手をかける。

と、畑中尉は腰から軍刀ならぬ「鞭」を引き抜いた。

そして大音声で

「ここな狼藉者の虎め、その兵を離さんか!」

と怒鳴ると鞭でバシ一ッとその場の地面をたたいた。皆が体を引き締めた。虎は一川上等兵を組み敷いたまま唸り声を上げた。

「いいか、この私を舐めるでないぞ。自分は動物学者・畑一族のひとり畑睦美(はた むつみ)陸軍中尉であるぞ。海軍には我が双子の妹、畑睦子(はた むつこ)もおるがな!

ともあれ!その兵を離さんと貴様らには天誅が下るのだ!貴様らがここで草むす屍になるか、われわれに投降するか。二つに一つだ!さあ、貴様らの答えを聞こう!」

畑中尉は虎を見据えたまま怒鳴る。

虎の、一川上等兵を押さえる爪の力がさらに強くなり一川上等兵はとうとう泣き声を立て始めた。

虎から視線を離さずに畑中尉は、「嵐中尉。自分がこいつらの注意をひきつけるからすまんが貴様は自分の合図で一川上等兵を突き飛ばして虎を組み敷いてほしい。・・・出来るか?」と言った。

嵐中尉は「おう、任せとけ。・・・一川上等兵聞いたか?痛くても我慢して俺に突き飛ばされろ。貴様が助かる道はそれしかない」と言って一川上等兵を見た。

一川上等兵は痛さをこらえつつ「・・・はい。わかったであります」と健気に答える。

それを目の端に入れた畑中尉は間合いを計りながら軍服のポケットに手を突っ込んだ。

そして手を出すとその手には小さなあんパンが掴まれている。

畑中尉はそれを見せびらかし

「見ろ、日本の『小村屋』のあんパンだ。これは日本一の、いや世界一のあんパンだ。欲しいかこれが。あ~ん?」

といいながらその手をぐるぐる回した。虎たちがそれに気を取られたその時、畑中尉の軍靴が地を軽く蹴った。

その合図を聞き逃すことなく、嵐中尉は転がるようにして一川上等兵に体当たり、あっという間に彼女を虎のつめから解放した。そして虎を羽交い絞めにしたではないか!!

「よくやった嵐中尉!」

畑中尉が怒鳴ってアンパンを他の虎の群れに放り投げると、目にもとまらぬ速さでそばに落ちていた木の枝を掴むとそれを虎の口に押し込んだ。

虎は口を締められなくなった。もがこうにも嵐中尉がものすごい馬鹿力で羽交い絞めしているので動けない。

「虎野郎」

と畑中尉はぞっとするような冷たい声を放った。風もないのに、畑中尉の戦闘帽の帽垂れがひらつく。

「我々を帝国陸軍野砲連隊と知っての狼藉か。いい度胸だ。しかし貴様らの狼藉も今日これまでだ。我々帝国陸軍に協力するなら咎め立てはせんが、反抗するなら命はないぞ。いいか!」

そういうなり――

畑中尉は大きく開いた虎の口の中になんと、自分の唾を吐きつけたのだ!!

「!」

嵐中尉は一瞬何が起きたかわからなかったが、畑中尉の唾を口に吐きつけられた虎の目から凶暴な光が急速に消えたのを見た。

押さえる虎の大きな体から力が抜けて行く。嵐中尉の両腕から虎の体はずるずるとくず折れるようにして地面に落ちた。

連隊の皆が固唾をのんで見守る中、虎はまるで猫のようになってしまった。あんパンの取りあいをしていた他の虎たちもそれを見て、なんだか妙におとなしくなっている。

一川上等兵を介抱しながらひとりの兵が「・・・すごい。畑中尉殿、まるで猛獣使いだ」と言った。

それが耳に届いたか否かは分からないが、畑中尉は独り言のように

「自分は幼いころからこういう獰猛な動物が好きだったからこんなもんを手なずけるなんざ屁でもねえわ!自分の双子の妹の睦子は優女だから犬っころだの猫だのしか扱えんがな。ワハハ!」

と言って、くず折れたままの虎の首根っこを持って引き起こすと、

「おい虎野郎。我々の言うことを聞け、いいな。これから我々はこの山脈を越えて行く。象も連れてゆかねばならないから貴様らは比較的歩きやすい所を見つけろ。いいか、ちょっとでも変な気を起こしやがったら客間の敷物に全員してやるからそう思え、いいな!」

と言ってその耳をひっぱった。親分と思しきその虎は仲間に向かって小さく吠えた。すると仲間たちもそれに唱和した。

畑中尉は満足げにうなずくと「では虎野郎ども。この重砲をそれぞれ分担して背負え!」というと、兵たちが担いだり背負っていた重砲の分解部品を虎たちに分けて背負わせてしまった。

嵐中尉が感心して「ほう、さすが畑中尉だな。じゃ、虎部隊の先任は貴様だ」と笑っていうと、一部始終を黙って見守っていた連隊長が拍手をしながら近づいてきた。

「いやあすごいな、畑中尉。そして決死的行動で虎から部下を守った嵐中尉も素晴らしい。この二人は重砲連隊の誉だ!」

嵐、畑の両中尉は照れ笑いをしつつ連隊長に敬礼した。

 

虎と象に砲やら物資を担がせた部隊の列は、峻険なアラカン山脈を越えて行ったのであった。

 

そしてその後。嵐中尉と畑中尉にはそれぞれ、連隊長と山下ともよ中将から個人感状が贈られたと言う。おお、軍人として最高の栄誉!!

(ところで、「なんで海軍の畑さんは<大尉>なのに畑中尉は<中尉>なの?」と連隊長に訊ねられた畑中尉は苦り切った顔でこう答えた・・・

「申し訳ございません、自分は獣医学校を留年したでありますッ!」しかもその留年の理由はスマトラ島に虎退治に行ったんだと言う、ものすごい理由だったとか・・・)。

 

帝国陸軍の「猛象部隊」に続く「虎部隊」、インド・ビルマではものすごい人気を博していると言う――

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「象部隊」の歴史はマケドニアの東方遠征にもありました。結構古くからあったんですねえ!

紀元前200年前後には、カルタゴの将軍ハンニバルの象部隊37頭ほどを連れてイタリア半島に侵入すべくアルプス越えをし3頭しか残らなかったという戦いもあったそうです、しかしローマ共和国は死ぬほど驚いた!

で、日本軍の象部隊はというとなかなか話が出てこない。

しかし実在しましたよ、インパール作戦のあたりですね。↓こんな感じです(写真はお借りしました)。



虎。怖い・・・やっぱ猫じゃない!!(WIKIより) ベンガルトラ Panthera tigris tigris

ベンガルトラ

そして今日は真珠湾攻撃70周年記念日ということでこんな画像も付けちゃおう。大サービス。(WIKIより)
真珠湾攻撃
炎上するアメリカ海軍戦艦アリゾナ

「翔鶴」から発艦する攻撃隊


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Comments 12

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見張り員  
かなやのぶ太 さんへ

かなやのぶ太さん こんにちは!

畑。そうですあの畑さんだと思ってくださいww!

姉の方の畑さんはスマトラあたりに行ってアホをしているうち帰国船に乗り遅れ、留年。そして軍人になるのも妹に一年おくれましたw。そのせいかどうか性格は至極凶暴ですwww!!
鞭は彼女の必需品、SかMかはまずはご想像にお任せして・・・^^!

しかしこの先彼女たちはどうなりますか、「女だらけの陸さん」の今後もご期待くださいね^^!

2011/12/11 (Sun) 13:43 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさん こんにちは!

おお!「女王様」も猛獣使いですね!!ひょーーー!

私は寒い戦地よりは温かい(暑い)戦地の方がまだ、まだ頑張れるような気がしていますがそれは全くの幻想であることを知り合いの方のサイトで思い知らされました。
ですがどんなに暑くても湿度が高くってもアリューシャンよりはラボールやパリクパパンをチョイスしたいです。
でも私のこの世で一番嫌いな「虫」、あらゆる虫が襲来したら真っ先に戦列を離れ、「敵前逃亡」に問われ軍法会議に掛けられるのでしょう・・・(涙)。

映画「山本五十六」関連の漫画や出版物が多く嬉しいです。

>「国は勝っても人は死ぬのよ」
重い言葉です、市井の人々の正直な感想でしょうね、これは・・・。

2011/12/11 (Sun) 13:39 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
かなやのぶ太  
No title

畑ってまさか・・・(笑)という突っ込みは野暮ですね^^ スマトラに虎退治で留年なんて、むしろ特進ものではないのでしょうか(笑)鞭が出てきたときにどきどきしちゃいました。Sっ気なのかMっ気なのか(知らんがな)
ともあれ、円満解決(ときっちりお後もよろしいようで…☆)なによりでーしたっ^^

2011/12/10 (Sat) 11:54 | EDIT | REPLY |   
オスカー  
Re:

こんにちは。「猛獣使い」真っ先に女王さまを連想してしまったワタクシ、反省しなくては(笑) でもいつどこで人間以外の何がでてくるかわかりませんよね。ヒルはよく聞きますが、全く未知のナニかだった可能性もあるし…いや~(TT)
グランドジャンプの山本長官の漫画を立ち読みしてきましたが、飲み屋のおかみさんかカフェのマダムかが「国は勝っても人は死ぬのよ…」と言っていたのが切なく胸に響きました。

2011/12/10 (Sat) 11:02 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさん こんばんは!

こちらは昨夜から朝にかけて冷たい雨、そしてみぞれになりました。
本当に寒くて何をするのも嫌でした(-_-;)

モミジもあまりの寒さにワンちゃんベッドの上のタオルケットにくるまっていました。夕方娘たちと元気に散歩に行き、帰って来てからすごい勢いでご飯を食べましたww!

ケイさんも御身大切になさってね!

2011/12/09 (Fri) 22:43 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

けが人もなく祝着至極、と言ったところでしょうかw。
なんか「猛獣使い」という言葉自体がすでに胡散臭いですね(爆)。

さてこの女だらけの帝国陸軍さん、まさに桃太郎状態になっていますね。あと何がいればいいかなあ??

そうすると「女だらけの海軍」もまけられない・・・って「大和」に犬と鳥がいましたっけねww!
今後どうなりますか、ご期待くださいね。

2011/12/09 (Fri) 22:40 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
柴犬ケイ  
No title

見張り員さん  こんばんは♪

いつもありがとうございます。

今日は寒く八王子も初雪が降りましたね。
岐阜も高山が雪景色になりました。
明日は今日より冷え込むそうで、モミジちゃん
元気に遊んでいますか?
寒さが厳しくなりビックリしているでしょうね。
我が家のわんこも厚手の洋服に明日から替え
ます。
暖かくして風邪などひかれませんように
気をつけて下さい。

2011/12/09 (Fri) 22:17 | EDIT | REPLY |   
まろゆーろ  
No title

素晴らしい結末を見ましたね!!
猛獣使いって胡散臭いけどかっこいいです。
象とトラを従えた一団。なんだか桃太郎のような雰囲気にも似ているような。
展開がますます楽しみです!!

2011/12/09 (Fri) 21:43 | EDIT | REPLY |   
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見張り員  
鍵コメさんへ

鍵コメさん こんばんは!

そうでしたか、ではではまたお邪魔させていただきますね(*^^)v、楽しみです❤。
リンクの件了解です!よろしくお願いいたしますね~~♪

寒くなりましたから御身大切になさってくださいね。

畑姉妹、あの顔で・・・と想像するとそこはかとなく気分が悪くなりますね(爆)。

2011/12/09 (Fri) 21:08 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
kohakou さんへ

kohakou さん こんばんは!

昨日の8日はここ何年もなかったほど「真珠湾」関係の番組が多かった気がしています。

70年の歳月は若者を老いさせ、老人を此岸から彼岸へと去らせてしまいました。残った人間が、歴史上の事実を語り継いで行かねばなりません。

日本もアメリカも、未来を見据えて歴史を正しく認識し継承してゆくべき時だと思います。そしてその対象者は誰でもない我々の世代です・・・!

2011/12/09 (Fri) 20:59 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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2011/12/09 (Fri) 20:59 | EDIT | REPLY |   
kohakou  
12,8

見張り員さん,こんばんは。
今日は真珠湾の報道が多かったですね。

高齢化が進み、式典の開催が最後になるかも知れない・・・

と報道されていましたが
それはヒロシマ・ナガサキはじめ日本で犠牲になられた方々も同じ。

問うべきは是非ではなく、今後、同じ悲劇を繰り返さないためにこれからどうあるべきか?

語り部としての追悼式典はアメリカにも風化させることなく平和への象徴として継続していただきたい
と、勝手に思ってます。

2011/12/09 (Fri) 01:26 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)