「女だらけの戦艦大和」・変わらぬ私と変わった私

・・・そのことが終わり、麻生分隊士とオトメチャンは椰子の木の元に戻った――

 

ちょっとだけ、ちょっとだけ気まずいような気恥かしいような感情が二人を支配している。何か言いたいが何も言えないと言った風情が二人の間にあるが、だからと言って背を向けたいとか話したくないと言うのではない。

ともかく、不思議な感情。

そこへ、石場兵曹と石川水兵長が戻ってきた。おーい、と石場兵曹が片手をあげて叫んだ。石川水兵長が両手を上げて振った。それにどことなくぎこちなく応える麻生分隊士。

石場と石川は二人のそばに来ると「分隊士、〇〇二五。ちょうど五分前ですね、さあ、昼飯にしましょうよ」と言って木の根元に置いてある弁当袋を持ちあげた。

「おお・・そうだな。さあオトメチャン」

麻生分隊士は照れ臭げに言って袋を受け取ると、その中から弁当を出して皆に手渡す。

「ありがとうございます」

と皆は言って「いただきます」と手を合わすと早速食べ始める。

昼下がりのけだるい日差しが、椰子の葉を通してきらめく。皆は遠い水平線を見つめながら弁当を食べる。

 

弁当を食べ終える頃にはすっかり体も乾きそれぞれの防暑服を着て宿に戻る。

もうすぐ宿に着く、というとき石場兵曹は「あ、オトメチャン!」と声を上げた。オトメチャンが「はい?」と石場を見かえると石場は、オトメチャンの足を指さして「いけんのう、オトメチャン。アレの始まりじゃあないね」と言った。ハッとしたオトメチャンが自分の足を見ればなんと、防暑服のズボンから出た足のふくらはぎあたりを足の上から細く一筋の血がながれていた。

「あっ!」と慌てふためくオトメチャンに麻生分隊士は、「もうそこが宿じゃけえ、はよう行こう。走れるか?」と抱きかかえるようにして走ってゆく。

石場兵曹はそれをのんびり見つめながら「訓練は厳しかったし、ここはまたええ所じゃけえね。その落差に始まるんもわからんかったんじゃね」と言った。

が、一人石川水兵長だけは(変じゃな。今まで見張兵曹がアレで失敗したところを見たことなんぞ無い。いつも兵曹は始まる一日前にはちゃんとしとったのに。今回に限って変じゃなあ)と不審に思っている。

普段から見張兵曹は班長として「女として月のもので失敗したら恥ずかしいけん、上陸の時は少し余分に<待ち受け一番>を持っていかんといけんよ。そして万が一にも失敗したら早いうちに石鹸で水洗いをすることじゃ」と言っている。

(そんな人が失敗するとはおかしいのう)石川水兵長はそう思いながら宿に入ってゆく。

 

次の日、四人は『大和』に戻った。

例の話は既に石川水兵長がしゃべって小泉兵曹も、機銃の長妻兵曹も知ってしまった。

「ええ?オトメチャンが・・・あり得んなあ」と小泉兵曹は首をかしげた。石川水兵長が「でしょう?おかしいですよね、どう考えても」という。

長妻兵曹が「そういやぁのう」と、どこかから流れてきた噂話として<麻生分隊士がオトメチャンの「乙女」を奪った>という話をした。しかもその話は通信科の兵曹が「暗号電で流れてきたんじゃ。俺てっきり敵襲かなんかかと思うたら、別の意味でもっとすごいわ」と言ってこっそり長妻兵曹に耳打ちして来たのだ。

「まさか!」と小泉兵曹が大声を出した。「それだ、そのせいでオトメチャンは出血したんじゃ、いやあ~、分隊士やったのうー」

でも、と石川水兵長が言った。「こういうことはあまり人に言いふらしたらいけんのと違いますか?皆に知れるときは知れますが、ここは我々だけの内密な話で他には内緒にしときませんか」

「たしかに」と小泉も長妻兵曹もうなずいた。他人の秘め事を言いふらすなんか、帝国海軍軍人のすることではない。

「よし。このことは俺たちだけの胸に仕舞っておこう。オトメチャンと分隊士の名誉のためにな」

小泉兵曹はそう言って、三人は「指切りげんま」をしたのだった。

 

その晩。

オトメチャンは最上甲板でひとり風に吹かれていた。今夜は麻生分隊士は航海科の分隊士の集まりでトレーラ島に上がっている。帰りは明日になりそうだ。

オトメチャンは満天の星空を見上げてふう・・・っと息をついた。なんだか昨日のあの事があってから自分が自分ではないみたいな気がしている。しかも(あの事の後ってあんな風に血が出るんだ。うちは知らんかったよ、うちもあほじゃね。でも分隊士が世話してくれたけん、よかった)。

出血したオトメチャンを抱えるようにして宿に入った分隊士は、シャワー室にオトメチャンを引き込むとその半ズボンを脱がしてふんどしを解いた。ふんどしが血で汚れていた。分隊士は自分のカバンから新しいふんどしを出してきて、オトメチャンの股に「待ち受け一番」を挟ませるときれいなふんどしをしっかり締めてくれた。

そしてオトメチャンをしっかりと抱きしめると、

「すまんなあオトメチャン。俺があんなことをしたばっかりにこげえな目にあわせてしもうて。・・・オトメチャン、俺を恨んどるか?」

と聞いた。オトメチャンは分隊士の胸の中で首を激しく横に振って「いいえ、うちは嬉しかったです。うちは分隊士が大好きですけん、何をされても恨んだりしません」と叫ぶように言った。

 

(ほいでも)とオトメチャンは思う、(うちはあの事の前と後ではどこかちごうて見えるんじゃないかと思うて心配じゃ。ちごうて見えたら皆にわかってしまう)と。

そこに背後から「おや、そこに居るんは誰じゃね」と声がかかった。振り向けば岩井しん特務少尉が電気工具箱を抱えて立っていた。

「オトメチャンね、どうしたん、こんなところで」

と尋ねる少尉を見つめるオトメチャンの瞳が少しぬれた。岩井少尉は工具箱を下に置くと、「何か悩んどろう?よかったら聞かせてくれんか?」とそのそばに立った。

オトメチャンはしばらく涙が流れるままに黙っていたがやがて、「うち、昨日とどこかちごうて見えませんか」と唐突に尋ねた。

ちょっとびっくりした顔をした岩井少尉ではあったが何か思いあたったようで、ふっとほほ笑むとその場に座った。

オトメチャンも座らせると「いいや。オトメチャンはずっと前からのまんまじゃ。何かがあっても人間そうそう変わったりせんよ、大丈夫。

・・・はあ、するとオトメチャンは自分が変わってしもうたんではないか、と思うくらいのことがあったんじゃね。・・・うちにも覚えがあるよ。うちもそのあと、自分の顔を鏡で見てはどこか昨日とちごうとりゃせんかと気が気でなかったもんじゃ」と言って笑った。

オトメチャンは岩井少尉の顔を見つめている。そして小さな声で「それは・・・いつですか」と聞いた。

岩井少尉はほほ笑んで「結婚した晩じゃ」というと夜空を見上げて笑った。「こんなこと人に言う話とも違うが、オトメチャンになら話せるけん、話す。うちはね、あの晩が初めてじゃったんよ。なんだか夢中でええも悪いもわからんうちに済んでしもうた。でもそのあとなんだか自分がえらく変わってしもうた気がしてならんかった。でも、変わったんは表ではのうて自分の中身じゃったんね。なんと言おうか、少しだけ大人になったんじゃね、それを通して。

じゃけえ、オトメチャンもそがいに悩む必要はない思うわ。誰でも一回は通る道じゃけんね」

そう岩井少尉は一気に話すと、オトメチャンの顔を見た。そして、

「噂話では聞いたが・・・相手は・・・麻生分隊士なんじゃと?」

と小声で囁いた。頬に紅葉を散らしたオトメチャンに、岩井少尉は微笑みかけその肩を優しく叩いた。

「麻生さんはねえ、本当にオトメチャンを大事に思うとるよ。いつだったかスマトラに陸戦隊で行った時だってずいぶんオトメチャンを心配しとってじゃけえね。それは石場兵曹もわかっとる思うよ?・・・まさかそのことでオトメチャンは麻生さんを嫌いになったりしたんじゃないだろう?」

そう問いかける少尉にオトメチャンは「嫌いになれません。私は分隊士が大好きですけん」と言った。岩井少尉はにっこり笑うと、「ならもう悩んだり惑ったりせんことじゃね。普段通りのオトメチャンでおったらええんじゃ」と肩をもう一度叩くと「じゃあ、うちはこれで」と立ち上がり電気工具箱を抱えると下甲板に通じるハッチに向かった。

その姿に敬礼をしたオトメチャンからは――昨日とは確かに違う何かがにじみ出ていたのだった。

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「防暑服」、左から二,四番目の人が来てるのがそれに相当します(WIKIより)。
JNAF General at China.jpg 


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ウダモさんへ

ウダモさん こんばんは!

いやはや、身に余るお言葉を頂戴し、嬉しいやら恥ずかしいやらです。
こういう話って一つ間違うとものすごくいやらしくなってしまうでしょう?そう言うのってなんだかいやでなるべく糖衣錠に包んだ感じで・・・を心掛けました。

いつもありがとうございます、励みになります!!

音楽独言さんへ

音楽独言さん こんばんは!

男と女ではこれに関しての感じ方はきっと決定的に違うんだと思うんですね。
女の方が「失った」「喪失感」は大きいと思います(中にはそうでない人もいるかもしれませんが)。なかなかこういうことってはっきり相手に聞くわけにもいかないし、知ること自体難しい問題かもしれませんね。

私も男性のことはよくわかりませんから音楽独言さんのブログを通していろいろと学ばせていただいておりますよ!

しかし、マジでこのブログの「制限」はきついですね、自分の記事のコメ返しでも「スパム」扱いですから・・・まったくもう~~(泣)。

周平さんへ

周平さん こんばんは!
よく「男性のブログだと思いました!」と言われますww、自分でもこの内容じゃあ男性と思われても当然と思っていますので全く気にしておりませんからご安心くださいね^^!

いつもお越しいただきありがとうございます、今後もよろしくです!

なんだか新鮮b

こういう描写って、作者の個性が出るというか、作品の方向性みたいなものがハッキリしてしまうので、難しいですけれど、見張り員さんのこの作品は、裏切りませんでしたね★
淡々と質の良い文章をキープしていて、読んでいてとても心地の良さを感じました^^b
あまり人様の文章にコメントしたくないのですけど、素晴らしさに負けてつい、コメントしてしまいましたw
ずっと読んでいますよ♪

No title

今回のお話も私にとってはとても刺激的なもので、ちょっと考えさせられました。
私はXXにはあまり関心が無く、そして当たったことも無かったようです。

若い時、ある時ふと気になって相手に、XXかと聞いたことがあったのですが
ナンセンスなこと聞かないでと言った雰囲気だったので、それ以後聞いたことはありません。
男の場合、私の場合ですが、この世の中に一人XXXよに数倍気持ちがいいことがあるのだなと
感激した程度でした。

今回のお話を読ませていただいて、女性にとっては私の知らない別の精神世界があることを知りました。
膜は心かもしれないと知らされました。この年になってお恥ずかしい限りです。
もう今更、知っても仕方ないことですが、死ぬ前に知ることができて良かった気がします。
見張り員さんのXXXなお話はいろんな意味で深くて、いい勉強になります。

このブログには厳しい言葉の制限がありますので、何回も書き直すのが大変ですね(笑)

ヾ(^v^)k

こんばんは、僕は実は見張り員のこと男性とばかり思っていました。
天国のキス辺りから「あれぇ~?」と思い始め半信半疑でしてたが、ようやく女性だと確信しました。どうもすみませんでした。

敬礼時の指先見れば一瞬でわかりますよね!
流石、ポイント押さえてると思います。

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

薬師丸ひろこちゃん、彼女も私たち世代のアイドルでしたね~~♪
「Wの悲劇」の歌詞は切ないですね・・・なんだかオトメチャンの気持ちに沿っているような感じです。

この先どうなるのでしょうかこの二人は・・・どうぞ見守ってやってくださいね!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

女の初夜ってこんなもんだと思います(個人的体験が多いに含まれていますからなんとも言えませんが)。あの後ではなんだか後ろめたいような変な気持がしました。
でもと気が少しだけ立った時「大人の女」になったような気がしてちょっとだけ嬉しくもあったものです。
男性の場合を私は知らないんですがきっと男性も男性なりの感想があるのでしょうね、それも安ろにいさまおっしゃるように「相手次第」。

オトメチャンの今後をも守ってやってくださいね❤、いつもありがとうございます!

ジスさんへ

ジスさん こんばんは!

こちらこそいつもありがとうございます!

女の場合・・・あの事を通過した後何かしら心の変化があるんだと思います。
男性と違って痛みを伴うのですからそれはきっとだれしもあるのではないかなあ、と思いながら書いてみました!

今日はあったかでしたね、明日からの寒さが思いやられます。御身大切になさってくださいね!

Re:

こんばんは。なぜか薬師丸ひろ子ちゃんの映画「Wの悲劇」の主題歌がかけめぐってしまいました…これから先のことはわからないけれどみんなみんなしあわせに…と願わずにはいられません!!

女性の心模様がよく分かりました。
あの後と前とでは変わるものでしょうね。確かに女性は匂い立つような女になり、男は男で男らしくなりますもんね。一皮剥けるというか。そう言った意味でもお互いに相手次第ということでしょうか。オトメチャン、佳い色に染め上がりそうですね。
しかし、女性の立場ならではの艶めかしくも清らかな文体。流石に見張り員さんです。

おはようございます。いつもありがとうございます。

朝からなかなかテンションの高くなるお話を拝見致しました。
男にはわからない女性ならではの苦労もあるのだなと思いながら・・。
今日は暖かくて良い天気です。妻が元気だったらどっかに出かけたいところです。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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