2017-10

「女だらけの戦艦大和」・天国の接吻(キッス)1 - 2011.11.25 Fri

「女だらけの戦艦大和」はトレーラー環礁内外でここ五日ほど連日猛訓練に励んでいる――

 

『大和』他、軽巡『陣痛』や駆逐艦『無花果』他艦艇数隻と、潜水艦基地からは『甲標的』搭載の伊号潜水艦も数隻参加。

大変に力の入った訓練が行われている。

今回は対艦・対潜訓練である。標的を海上に設置しそれに対する砲撃訓練や、『甲標的』が仮想敵になっての爆雷投下訓練や潜水艦退避訓練が主。

もっとも、帝国海軍の全艦艇には敵の魚雷や爆弾を跳ね返せる「磁性塗料」が塗ってはあるが、緊張感を高めるためと万が一塗料がはがれた時のための訓練である。

『大和』の昼戦艦橋では森上参謀長がその様子を逐一観察し訓練日誌に書き込む。本来日誌を書きこむ担当は主計科の兵だが「あの子、字汚くって読めないから俺が書く!」と参謀長が自ら買って出たもの。

野村副長は、司令塔に入って計器類を見る。そして梨賀艦長は防空指揮所に居て戦闘(訓練)の指揮を執る。

松岡分隊長は例によってよせばいいのに主砲射撃指揮所の屋根に登ってハッシーと押し合いへしあいしながら見張り員たちを督戦。

麻生分隊士は「よく見張れ、敵は海中にあり!」と叫んでは時に上を見上げて「分隊長!危険ですから降りてくださいっ!」と叫ぶ。大変忙しい分隊士である。こんな忙しい分隊士、『大和』がいかにでかいとは言え他に居るまい。大変気の毒である。

分隊長は下に向かって「大丈夫大丈夫、麻生さんは心配性だねえ。私のことはいいからそっちをお願いねえ。さあみんな、熱くなれよッ!」と怒鳴って笑っている。

「左雷跡四本、本艦に向かうっ」と見張兵曹が叫んで艦長は面舵に転舵。グーッ、と艦が傾きトップのトップに居た松岡分隊長は体を支えるため「おーっと!」と、ハッシーの頭を掴んでしまう。それをじろり、といやな目つきで見上げたハッシー・デ・ラ・マツコではあるがもう分隊長に対して何もしないでいる。

今日は相棒?のトメキチは医務科の日野原軍医長と一緒に医務科の部屋にいる。日野原軍医長が「私にだってたまにはトメキチを貸してほしい!」と言ったからである。ひっぱりだこのトメキチだ。トメキチは日野原軍医長と衛生用品の点検中である。

ともあれ、訓練はまさに実戦さながらの様相で進んでいる。

駆逐艦『無花果』の前方に『甲標的』が潜望鏡を現し『無花果』は模擬爆雷を投下。しかし、うまく避けられてしまった。

無花果艦長の菅直子は「クッソ―!でもこれが敵だったらあんたら命はねえぞ、これはあくまで訓練だ!」と悔し紛れの言い訳に終始。

 

やがて激しかった訓練も終了。

この日は、トレーラー環礁の一番北の小さな島に全艦艇が投錨。ここで二,三日ほど過ごしてから帰る算段。少し兵員を休養させる意味もあるようだ。それだけこの訓練は激しかった。

陽が落ちる頃、『大和』他は錨をおろした。皆はそれぞれ用具を収め、各部署の点検を始める。そのうち食卓番が居住区に降りて、食事の支度が始まる。今日は皆大活躍だったから腹も減る。皆の腹の虫が盛大に鳴いている。

ガンルームに降りる松岡分隊長が、麻生分隊士に「麻生さーん、麻生さん二次士官室に行くんでしょう?私と一緒に降りようよ」と誘って来た。分隊士はオトメチャンに「悪いが先に降りるね。食事がすんだらここに来るから、その時また」と名残惜しげに言ってオトメチャンの肩に触れた。オトメチャンはその手に自分の手を重ねると、

「はい。 わかりました、ではのちほど」

と言うと微笑んで、麻生分隊士を見送った。松岡分隊長がその様子を見ていて、「ねえ麻生さん。麻生さんとあの子はどういう関係なの?」と尋ねた。麻生分隊士は顔を真っ赤に染めると「ど、どういう関係って・・・そりゃ分隊長、私と彼女は・・・」としどろもどろになった。

松岡分隊長は「そりゃ上官と部下だよねえ。でも君たちはとっても親密でいいと思うよ、うん!そのくらい部下たちと心通じ合わすって素晴らしい、熱くなってるねー!麻生さん!!」と分隊士の言葉を半分聞くかきかないうちに自分で納得してしまう。

やれやれ、と苦笑いで分隊長の後を付いてゆく麻生分隊士。いろいろ気苦労が多そうだ。

(でも。明日から少しは上陸して休めそうだ。がんばろう)

分隊士はそう思って心を引き締めた。

 

翌日から交代でそれぞれの艦で上陸を許された兵たちが小さな島に上がってゆく。

小泉兵曹や、機銃の長妻兵曹は「なーんだあ、ここにはなんもないねえ」と不満げ。それにたいして機銃の平野少尉が「貴様たちは男と遊ぶことしか考えとらんのかねえ?ここにだってちょっとした宿と、そして何より大自然があるじゃあないか!もっと見る目を養いなさい」としかった。

小泉や長妻は気まり悪げな顔で艦を降りて行った。

それを指揮所から見下ろす見張兵曹のそばに麻生分隊士がそっと寄ってきて

「俺たちは明日だな。ここは初めてだからちょっと楽しみじゃね」

と言ってその肩を抱いた。見張兵曹も分隊士を見上げ「はい。なんやらものすごう海がきれいですね。遊びたいです」と言ってほほ笑んだ。

ハッシー・デ・ラ・マツコが「なーに言ってんのかしらね。ノーテンキな女たちねえ」と苦笑すると羽を広げてトップから飛び立った。何か魚でも見つけるつもりらしい。

 

翌日見張兵曹は麻生分隊士や石場兵曹、石川水兵長らとともに島に初上陸した。

小さな宿屋に荷物を預けると皆は海に走った。どこまでも青い海を望む海岸に出ると、皆は一斉に防暑服を脱ぎ捨てた。

そしてその場で水着に着替える。誰も見ていないのをいいことに素っ裸での着替え。麻生分隊士と石場兵曹は今まで通りの『ふんどし』で、見張兵曹と石川水兵長は『連合艦隊制定』の下士官・兵用水着。見張兵曹は運動会の時のように下半身にパレオを巻いている。その風情がなんともかんとも言えないほどよくって、麻生分隊士は見とれるし石場兵曹は胸をどきどきさせながらこっそり盗み見。

それに気がついた麻生分隊士はちょっと困ったような顔で笑った。

「さあ、早く行きましょうよ」と、石川水兵長の言葉に我に返った分隊士は「おう、みんな用意はええか?さあ行くぞ」と言うと「みんな、手えつなげ」と言って四人で手をつないで横一列になって海に突進した。

遠浅の白い砂も美しい浜。背後には大きな椰子の木が何本も生えている。

皆はつないだ手を天高くあげると

「万歳、万歳、ばんざ―い!大日本帝国、帝国海軍、軍艦大和ばんざい―」

と大声で叫んでそのあと手を離し、大笑いをした。少し沖は、色が変わっている。分隊士はそこを指さして「あの辺から先はズドンと深くなっとるらしいけん、行ったらいけん。危ないけえね。この辺であそんどったらええ」と注意した。「じゃあ、しばらく自由行動じゃ。〇〇三〇になったら飯食いに行くぞ」

そしてふと分隊士は周りを見回すと「なんでここはこがいに人が居らんのかね。あれほどたくさんの兵隊が上陸したと言うんに?」と不審げに言った。

石場兵曹が「ああ、この島の向こう側にとてもきれいな濱があってそこはとても広うてええんだそうです、だからみんなそっちにいっとるんじゃないですか?」と答え、分隊士は合点した。

「まああんまりごちゃごちゃ大勢いるんもうっとうしいけえ、閑散としとった方が俺は好きじゃ。ほいじゃみんな。適当にしてええよ」

分隊士が言うと石場兵曹は石川水兵長をつついて(二人だけにしてやろう)と囁いて彼女たちはその場をさりげなく離れる。

その後ろ姿を見送って分隊士は、

「きれいな島じゃなあ、オトメチャン」

と言ってオトメチャンを見た。オトメチャンもあちこちを見まわし「ほうですねえ。こがいにきれいな島がトレーラーの中にあったなんて思わなんだです」と言って笑った。

背後で大きな椰子の木の葉が風に鳴って、二人は急に黙ると見つめあったのだった――

  (次回に続きます)

 

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

トレーラー諸島のモデルの「トラック諸島(現在はチューク諸島)」の地図(日本統治時代)。WIKIより。

空襲されるトラック島。WIKIより。

艦載機の攻撃を受けるトラック島の港

チューク諸島の地図(日本統治下の地名)


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんにちは

激しさと緩みの落差が激しいのがこのお話の特徴ですねw。
大自然は人の身も心も開放してくれます。実際の戦争時にはこんなことはできるはずもなかったですがせめてこの話の中では将兵には心と体のゆとりを与えてやりたいと思っています。

いきなり寒くなってほとほと参っています。何事も今年は極端で困りものですね。
今年はマイコプラズマ肺炎が大流行だとか!どうぞ御身大切にお過ごしくださいね!!

激しいケツバット、そして猛訓練の後のなんと長閑なことでしょうか。
ありきたりなことかもしれませんが、でも彼女たちにとっては浜辺に遊ぶことの幸せが満ち満ちていますね。みんなの表情が輝いて見えますね。
これからが楽しみですが、彼女たち幸せになってもらいたいなぁとつくづく思います。

物語とは逆に寒くなりましたね。
いきなり冬模様になってしまって体が驚いています。これが当り前の晩秋から初冬の日本ではあったのですが。
風邪など引かぬようお過ごし下さい。

matsuyama さんへ

matsuyama さん こんばんは!

きれいであったかい(暑い?)島に行きたい・・・という私の願望が出てしまったようです(笑)。

仕事ばかりだと、効率悪くなりますよね。羽を伸ばし心を開放してやるのも効率あげる一助だと思いますね!オトメチャンたち・・・さあこの先どういう展開になりますか・・・(っていつもと同じような気もしないでもない(-_-;))。

ともあれ続きをご期待くださいね♪
寒くなりました、御身大切になさってくださいね!

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは!

そうなんです、これは何かで聖子ちゃんの「天国のキッス」を思い出し(ラジオで聞いたのかな~その辺定かではないんですが)、「これはネタになる!」と構想を練ったものです。
歌から発想をするというのはなかなかこれ、楽しいものです!

「秘密の花園」、これが一番の軍機だったりして・・・プププ!

寒くなりましたがこちらではアッツくなりますよ~~~ご期待ください。
お風邪など召しませんようにお気をつけてくださいね♪

ジスさんへ

ジスさん こんばんは!

緊迫の?甲板整列事件もなんとかなりましたww。

「天国のキッス」、聖子ちゃん可愛かったですよね~~❤。
あの頃の歌謡界は賑やかでTVも楽しかったです・・・

思春期の頃の思い出って本当に鮮明ですね、きっと御子息も今のことを20,30年後に鮮明に思い出されることでしょう。

寒くなりました、御身大切にお過ごしくださいね。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさん こんばんは

寒さの中にも時折温かさがあり、散歩や行楽にいい季節ですね。
私は近所の公園でも散策しようかなと思います。善福寺公園というのがあり、犬の散歩をする人もとても多いところです。

ケイさんどうぞ御身大切になさってね。

こういうきれいな島の近くで訓練するのって、いいですね。訓練が終われば上陸してきれいな砂浜で海水浴に興じる。

昔会社勤務の頃、出張で九州地方に行ったこととがあります。
上司がすごくいい人で、仕事はそこそこに切り上げ、後はフリータイムということで、地元の名所旧跡、料理などを堪能させてもらいました。
出張も仕事オンリーじゃいけませんね。そこには潤滑油が必要です。
オトメチャン達も訓練だけじゃいけません。その地元に触れることで訓練の成果が上がるんだと思います(笑)。

こんにちは!私も聖子ちゃんを思い出しました。渚のバルコニーで待ってて~とか夏の扉とか小麦色のマーメイドとか~聖子ちゃんの歌のフレーズから無数にいろんな話が出来そうですね(笑)大和の秘密の花園、絶対アメリカさんに知られたくないです(笑)
外は寒いですが、今回も物語のアツいアツい展開を楽しみにしています(*^^*)

こんばんは。いつもありがとうございます。

甲板の件、丸く収まったようで何よりですね。何事も平和的解決が一番かと思います。

天国のキッス!真っ先に松田聖子のあの歌を思い出しました。当時私は今の息子と同い年の中二でした。この年になって鮮明に覚えてるってことはきっと息子が私くらいになった頃、今流行っている歌を思い出すんでしょうね。

見張り員さん  こんばんは♪

コメントいつもありがとうございます♪

明日から寒さが緩むみたいで、土、日、と紅葉の見頃みたいで、
行楽地は混み合うと言っていましたが、見張り員さんもお休み
で、お出かけの予定があるんでしょうね。
私は家でのんびり過ごしケイちゃんと散歩で、
うろうろと散策してきます。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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