「女だらけの戦艦大和」・恐怖の甲板整列1

「女だらけの戦艦大和」は今日も一日の課業を終えて巡検を待っていた――

 

巡検は副長主導で甲板士官や各掌長等を引き連れ、先任衛兵伍長を先頭に艦内をめぐり居住区や厠・烹炊所等の保安や衛生を点検して回るもの。その時には皆、ハンモックやベッドにもぐりこんで副長御一行の通過を静かに待たねばならない。

各分隊の居住区の部屋の前で班長は副長一行に「何何分隊第何班総員何名、異状なしッ!」と申告、一行が次に行った頃「巡検通過」が言い渡される。

それが一通り済んだ後「巡検終了、煙草盆出せ」となり皆は寝床からぞろり、と出て甲板でタバコを吸ったりなんだりと始めるのである。

 

しかし。

そんな夢のような時間を過ごすだけではない。恐怖の時間を過ごす分隊員もいるのである。

そう・・・

  甲板整列

というものがある。これは当該分隊の班の班長のご機が悪かったり逆鱗に触れるようなことをしでかした者がいた場合、「連帯責任」として班全員が班長からありがたい『バッター制裁』を受けるのである。

「女だらけの大和」、今夜もあちこちでバッター制裁の音が聞こえてくる。主計科では、烹炊員長と呼ばれる班長、森脇主計兵曹がでっかい、それはそれはでっかい「宮島(しゃもじのことです)」で班員をひっぱたこうとしている。

今日の制裁の原因は、一等主計兵の川越がてんぷらを揚げていたら跳ね跳んだ油が意外に多く、手の甲に直径二センチほどのやけどをした。それを見た同期の兵たちが「大丈夫!?医務科に行かんと!」と数名で医務科に手当てに行ったのが森脇兵曹の耳に入ったのだった。

森脇班長は宮島を構えるとまず、最初の一等主計兵の尻に狙いをつけた。そして「大体貴様らは主計兵としての気概がねえ―っ!ちっとくらいのやけどで医務科に行く奴があるかあ!いい加減にせえよ!しかも仕事ほっぽり出しやがって何人もで行くなんざ言語道断だ!俺なんかなあ、足に熱湯かぶってもそのまんま働いたもんじゃ!行くぞ、足を開け、手を挙げろ、歯を食いしばれえ!」

というなり宮島を振りかぶって川越一等水兵の尻をひっぱたいた。

「ギャッ!」という声と「パー―ン!」という鮮やかな音が一緒に廊下に響いた。森脇兵曹は「声を出しやがって貴様何事じゃあ!もういっぺん!」と逆上し更に・・・

 

その音を、十三分隊の防空指揮所の面々も「甲板整列」をしながら聞いた。

「・・・痛そうですね、主計科のバッター」

「ああ、あそこは宮島で打たれるんじゃろう?けつに宮島の跡がくっきり付くんじゃと」

「ふう。それもきついけど、うちのよりさっぱりしちょるかもしれませんね」

亀井一水と石川水兵長がぼそぼそ言っている。その囁きが耳に入った谷垣兵曹がぼそっと「そうじゃなあ」という。

「あ!来たぞ」と石場兵曹の鋭くも小さい声が皆の間に響き、皆は鎮まった。石場兵曹、見張兵曹、小泉兵曹、谷垣兵曹・・・上は下士官から下は亀井のような一等水兵まで居並んで不動の姿勢を取っている。

「やあ、皆!今日も甲板整列御苦労さん!」

そんなとんでもないことを言いつつ皆の前に来たのは誰あろう松岡分隊長。そのあとを渋々と言った表情で麻生分隊士がついてくる。

松岡分隊長はいつも持っているラケットを振り上げた。

危ない!このラケットは機銃弾をも跳ね返すラケットではないか、そんなもので生身の人間を打ったら・・・

そう思うのは気が早い。分隊長はラケットを振り上げると「さあみんな、今日もやるぞ」というなり歌い出したのだ。

♪ ゆんべ父ちゃんと寝たときに

  変なところに芋がある 

  父ちゃんこの芋何の芋

  オーラ

  坊や よく聞けこの芋は

  お前を作った 種イモだ

そして「はいっ!」とラケットで皆を指すと皆は恥ずかしげにうつむきながら歌い出す。とたんに松岡分隊長の厳しい声が飛ぶ、「ダメだなぁ、皆!もっともっと大きな声で歌わないか?歌えばストレス発散になるし深呼吸の作用でよく眠れるって言うのに。・・・さあ、麻生さん。麻生さんも大きな声で歌わないと」

麻生分隊士は急に水を向けられてドキッとした顔で分隊長を見た。分隊長はラケットの先で分隊士の背中をチョンチョンとつついて催促。

分隊士は最高に情けない顔で、しかしもう自棄になったような大声で歌い出したのだった。他の皆も(分隊士だけに恥はかかせられん)とこれも大声の調子っぱずれで歌い出す。

 

この歌を延々二十分間も歌わされていい加減げんなりとした表情の皆、やっとのことで松岡分隊長のOKが出た。

分隊長はラケットを小脇に収めると「よーし、今日も皆いい声で歌えたね。じゃこれにて散開。また明後日!」と言うと「みんなぁ!熱くなれよー!」と片手の親指をぐっと立ててさわやかに去って行った。

「ふうっ!」と息をついて麻生分隊士がその場にくず折れた。見張兵曹と小泉兵曹が駆け寄った。

麻生分隊士は見張兵曹に抱え起こされながら「もう、こんな拷問のような『甲板整列』は嫌じゃ。これならケツを思いっきりひっぱたかれた方がなんぼかええってもんじゃ。いったいあの人の頭ん中はどうなっとるんじゃ」とぼやいた。

「ほうですねえ、うちらもあんな恥ずかしい歌を歌わせられるんはもういやです。他の分隊の連中が『あの歌歌えよ』ってからかうんですよ。分隊士、どうにか出来んもんですかねえ」と谷垣兵曹が言った。見張兵曹も「私も運用科の人に囲まれて『歌って、歌って!あの変な歌』ってせっつかれて困りました」と告白。

分隊士はぎょっとして「オトメチャンが!」と顔を上げた。愛しいオトメチャンがいじめまがいのからかいにあったとなればこれかもう看過できない。分隊士は「わかった。どうにかしよう、俺はなんぞええ対処法がないか考えてみるけえね」と言うと立ち上がった。

 

「甲板整列」。

常識から大きく逸脱したそれも、兵員にとっては大いなる苦痛であるのだ。

 

「ふーむ。皆「甲板整列」には困っているな・・・。あ!そうだいいこと思いついた!」

そう呟いて物陰から去ってゆく人影一つ。なんだか「女だらけの大和」にまたまたひと波乱の予感がする――

  (次回に続きます)

 

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これが「宮島」だ!(WIKIより)

まあ、『大和』とかで使っていた宮島はこんなもんじゃないよね、きっと全長一メートルくらいあるかもしれん・・・こわっ!

しゃもじ(手前)

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Comments 8

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見張り員  
ジスさんへ

ジスさん こんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます!

ホント、「連帯責任」という言葉にはあまりいい気はしませんね。とくに学校時代やたらこれを振り回してはまさに人を制裁するいやな教師がいましたからね・・・
今の学校ではほとんど「死語」でしょうか。しかしこの頃では「連帯」の付かない当たり前の「責任」さえ取れない・とらない人間が多すぎな気がしています・・・

寒くなりましたね!
本当にこたつやホットカーペットから離れにくい日々が来ました!
くれぐれも御身大切にお過ごしくださいね。

2011/11/23 (Wed) 23:42 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
ジス  

こんばんは。いつもありがとうございます。

「連帯責任」ヤな言葉ですね。私が子供の時はまだこの言葉が生きてて学校で嫌な思いをしました。今の子はきっとこんなのないでしょうけど。

ずいぶん寒くなって来ましたね。コタツや毛布が気持ち良いです。
風邪ひきませんようお気をつけ下さいね。

2011/11/23 (Wed) 22:57 | EDIT | REPLY |   
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見張り員  
柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさん こんにちは!

昨日今日と随分こちらも冷え込みましたブルブル。。。

モミジも寒いのかあまり動こうとはしませんね、座布団改造のベッドで寝ていますw。
今のところ天気はまあまあですがこれから雨とか・・・!?
降ると寒いから降らない方がいいですね。

いつもありがとうございます、御身大切にお過ごしくださいね。

2011/11/23 (Wed) 13:37 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんにちは!

来ました・・・バッター制裁!!
実際にもなんだかんだとどうでもいい理由をつけて班の人間をひっぱたく班長も多かったと聞いています。「海軍精神注入棒」という樫の木の棒が居住区にはうやうやしく飾られていてご丁寧にも紫の房が付いていたとか。
・・・タメイキ。
そんなもんでぶったたかれるのですから強くもなるわけですね(納得!)。

もの陰の人物は一体何を・・・ご期待ください。

2011/11/23 (Wed) 13:34 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさん こんにちは!

常夏の南方泊地での最上甲板での作業はいやです・・・かといって・・・アリューシャンなどの北方での見張り業務も凍りつきそうでいやです・・・。持ってる写真集の中に北の守りにつく艦の見張りの人の写真が出ていました。かなりの厚着に軍手、でも相当寒そうですがけなげにテレトークみたいなものを持っていました、泣けました。

自衛隊には一般に売っていないものがあってうらやましいですよね。「うまさ急浮上」これはいい!潜水隊の人が先を争って買いそうですねww。

2011/11/23 (Wed) 13:30 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
柴犬ケイ  

見張り員さん  こんばんは♪

いつもありがとうございます♪
今朝は昨日より冷え込み起きた時は寒かったです。
そちらも冷え込んでたでしょうね。
モミジちゃんも寒さを肌で感じているでしょうね。
晴れていましたので、部屋は日向ぼっこ日和でした。
明日は午後から雨で、雷が所により鳴るそうで鳴らないことを
祈っています。

2011/11/22 (Tue) 22:08 | EDIT | REPLY |   
まろゆーろ  

久々に痛い思いのする艦上になりましたね。
和気あいあいもたまにはこうやって喝を入れられるのでしょうか。そうやって人間は強くなっていくのですね。
物陰に人の気配が……、またまた展開が楽しみです。

2011/11/22 (Tue) 20:05 | EDIT | REPLY |   
オスカー  
Re:

こんばんは。潮風、海風にカンカン照りの太陽だったらすぐ倒れてしまいそう~冬でもイヤだ~想像したくない(笑)
ダンナが昨日買ってきた本に自衛隊のカップヌードルとかの話があって、エースコックの「うまさ急浮上!!」のコピーに大ウケしてしまいました~私も一度味わってみたいですが、かなり塩分が高いとか?危険だからやめようかな…(--;)

2011/11/22 (Tue) 18:11 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)