「女だらけの戦艦大和」・マツコ受難3

・・・この訓練が始まる少し前、松岡分隊長は麻生分隊士を呼んで言ったのだった――

 

「麻生さん。あの鳥くんのことだけどね」と分隊長は麻生分隊士に言った。分隊士は、鉄兜の顎紐を締めながら「なんです?分隊長」と言ってそばに寄った。分隊長は、そっと分隊士に顔を寄せて小さな声で「あの鳥くんな、最下甲板に行くのは嫌みたいなんだよ。昨日私が聞いたらそう言っていた。それならここでもいいんだが、でももし、艦が揺れて鳥くんが吹っ飛んだりしたらそれはそれで困ることになるでしょう?」と囁いた。

分隊士は顎紐を確かめながら「はあ、それは確かにそうですね。て言うか分隊長はあの鳥と話が出来るんで?」と分隊長の顔を見た。

松岡分隊長はうんとうなずいた、そして「それよりさあ、分隊士。鳥くんをあの場に置くなら鳥くんを何かで固定しなきゃいけないね」と言った。分隊士も「そうですねえ。固定、ですかあ。そげえに出来るもんはないんと違いますか・・」といいかけたその時分隊長はハッとした表情で「そうだ!麻生さんいいものがあるじゃないか!」と言って麻生分隊士のある一部分を指さしたのだった。

分隊士が見れば、松岡分隊長の指先は分隊士の腰のあたりを指している。「バンドですか?」という分隊士に、松岡分隊士は「そうじゃないよ、麻生さん。ズボンの下のものだよ、そう」

『ふんどし!』

分隊士と分隊長は同時に声をあげていた。

麻生分隊士は「ふんどしって、私のですかあ!?」と素っ頓狂な声を上げた。松岡分隊長は落ち着き払ってうんとうなずいた。そして「ふんどしのような布のほうが、鳥くんの足には優しいだろう?ロープでは足がもげてしまうかもしれないし。・・・さ、そうときまったら外したはずした!」とせかす。麻生分隊士は「でも、私はこれを取ったら替えが部屋にしかないんです。かと言うて、今からではもう取りにいけんです」と半泣き。

松岡分隊長は「ほら、誰が見るわけじゃないからいいじゃないか。そうだ、あとで分隊士には私のとっておきの新品の『サテン地』のふんどしをあげるから、我慢してくれるかな?」と優しく諭した。

麻生分隊士は「さ、サテンですか!?」というなり「わかりました。ふんどしの一枚や二枚どうってこと・・・分隊長、約束ですよ!サテンのふんどし、くださいね!」とバンドを緩めズボンのボタンをはずし、ふんどしの紐をほどくとふんどしをズボンから引きずり出した。

そして松岡分隊長はそのふんどしでハッシーの片足を縛ったのだった――

 

「おばさん!」

とトメキチが叫んだが皆は気がつかない。無理もない、戦闘訓練中であるから皆あちこちを見張るのに忙しい。

と、麻生分隊士がふんどしを引きながらすっ飛んでゆくハッシーにやっと気がついた。そして「うわあ!俺のふんどし!」とわめきだした。

しかし皆には零戦の機銃の発射音や、『大和』の機銃・高角砲の発射音がうるさくて言葉が聞き取れない。分隊士一人が、指揮棒を振り回しながらわめく結果になっている。一機の零戦が、指揮所に突っ込んできた。松岡分隊長が「もらったー!」と叫んで着色模擬弾を例のラケットで撃ち返す。

 

さて、ハッシー・デ・ラ・マツコはいったいどうしたか。

「ギャー―ッ!」と叫びながらすっ飛ばされてゆくマツコ。片足には分隊士のふんどしを引いている。あっという間に『大和』が遠くなってゆく。マツコは必死に翼を動かして空中でなんとか姿勢を直そうとした。

どのくらいたったか、やっとマツコは普通の格好で飛び始めた。

「ああ全く嫌になっちゃうわねえ!なんだってのよあの艦は!・・・ってここはいったいどこ?あのでかい艦はどこに行っちゃったのかしら」

はるか下には何隻もの艦艇が白く航跡を引いている。マツコは、『大和』を探してきょろきょろした。その後方から、「九七艦攻」の編隊がやってきた。この艦攻も訓練参加集団である。

艦攻隊の隊長、竹下登子中尉は後ろの席の中曽根康子飛行兵曹長と田中角子上飛曹に「ほら、模擬艦隊がいるぞ。さーて、彼女らをなに色に染めてやろうかね」と言って下を指さした。

中曽根兵曹長が「艦攻隊の色はなんでしたっけ・・・ピンクでしたか。ピンクに染まった艦隊、きれいでしょうねえ」と言ったその時、田中上飛曹が上ずった声で、

「竹下中尉、あれ、あれはなんでありますか!十時の方向に妙な飛行体が」

と大声を出した。竹下中尉がそちらを見れば薄青い飛行物体が何か白いものを引きながら艦攻隊と並行に飛んでいる。

他の艦攻もそれを見ているようだ。竹下中尉は「うーん、なんだか知らないがきっと海軍工廠が新しく開発した飛行機の一種ではないだろうか。・・・そうか、これと一緒に攻撃訓練をせよと言うことか!わかったぞ」と言うと列機に<この新しい飛行物体を中心にして模擬艦隊に突撃する>と打電。

艦攻隊はハッシーを中心に編隊を組んだ。驚いたのはハッシーで、「な、何よあんたたち!いったい私をどうしよっての!?」と泡を食っている。しかし、一緒に行動するしかないと悟った(あきらめた)ハッシーは艦攻隊と一緒に艦隊に突っ込む羽目になった。なんだか傍目には珍奇な艦攻隊である・・・

下では『高雄』『熊』が艦攻隊をとらえ「撃て―!」と号令が飛んだ。

とたんに九七艦攻各機の周囲に弾幕が出来る。九七艦攻も、模擬弾ではあるがそれの炸裂で揺れる。『高雄』の模擬弾の色、水色が艦攻の機体を少し染めた。

「まだまだー。この程度じゃあ被弾とは言えないわー」と弐番機の機長の大島ゆう中尉が叫んでペアの篠田飛曹長・前田一飛曹も「イエィ!」と同調して大島機は『高雄』へ投弾。しかし大きく外れてしまう。ピンク色の大きな水柱が『高雄』のそばに上がった。

ハッシーは命からがらという感じで艦攻に並ぶように飛んでいる。どうにかして『大和』を見つけてそのトップに戻りたい。

駆逐艦や巡洋艦から打ち上げられる機銃弾・砲弾をなんとかかいくぐって「ちょっとー!『大和』、どこよー!?あたしよ、マツコよー!助けてえー!」と叫びながら飛ぶ。

必死で飛ぶうち、マツコは艦攻隊から離れてしまい艦艇からは格好の標的になりつつある。

軽巡『熊』や駆逐艦・『無花果』では

「あの変な飛行物体に当てろ!なんか布を引いてるぞ、的が小さいからあれに当てたら賞金が出るかもしれないぞ」

と勝手に盛り上がって、機銃群はマツコに照準を当て始める。

『熊』と『無花果』の機銃の指揮官が同時に叫んだ。

「目標。あの変な飛行物体。・・・テ――ッ!」

たくさんの模擬機銃弾が、マツコに向かって吸い込まれていった――

 (次回に続きます)

 

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・

「球磨」型軽巡です(「熊」じゃないよ)。よろしくね。 (画像すべてWIKIよりお借りしました)
1930年頃の球磨


回天搭載型に改装された「北上」。


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Comments 4

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見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさん おはようございます。

ピンクのハッシー・デ・ラ・マツコ。すごいものがありますぞww!しかしマツコ、無事に戻れるのでしょうか??

「歴群」の赤城特集は嬉しいですね~、しかもあの別冊付録は大いに参考になりますよ、最高です。
「戦艦大和の台所」、高森さんの本ですね。持っていますがなかなか面白い本です。高森さんはあと何冊か出版されていますから合わせてお読みになることをお勧めいたします!!ぜひ。

2011/11/15 (Tue) 07:54 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  
Re:

こんばんは。ハッシー(マツコ)がピンクに染まったらモモイロペリカンみたいになるのかしらん!?(笑)ああ、気になるわぁ!!
『歴史群像』今月号は「赤城」ですね。あと『戦艦大和の台所 海軍グルメ・アラカルト』(光人社)という本を探して読みたいです~作者は元海上自衛官だそうです。

2011/11/14 (Mon) 23:56 | EDIT | REPLY |   
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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

マツコへの集中砲火?、それをかわせるのかマツコ!?緊迫に次回に!・・・って感じですねw。

サテンって、つるつるしてぴかぴかしてる布でいやがうえにも高級感が高まりますね!そんなふんどし、しめ心地はどんなでしょう?麻生さんに聞いてみないといけないですね。

ふんどしってとても健康にいいそうですね、最近は女性用のものもあると聞いていますが私はさすがに・・・興味はありますが、ねww!

2011/11/14 (Mon) 22:47 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

ふてぶてしいマツコさん、一巻の終わりでしょうか。

サテンのふんどしって高級なのでしょうね。
はいたことが無いなぁ、ふんどし。何年か前の一時期流行りましたね。あの時に試しにはいておけば良かった。
聞くところによるとえらく気持ちが良いそうです。

2011/11/14 (Mon) 21:59 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)