2017-10

「女だらけの戦艦大和」・別れの情景1 - 2011.10.30 Sun

軍艦「武蔵」は横須賀沖にその身を浮かべている――

 

「武蔵」医務科の春山一等衛生兵曹は医務科の部屋に居て何故だか浮かない顔でメスを拭いている。その兵曹を怪訝な顔で覗き込んだのは秋川上等衛生兵曹である。彼女は声がよく軍人よりは歌手になった方がよかったのに、と言われる人である。

ともかく、秋川兵曹は「どうしたね?春山兵曹。ぼんやりしてると怪我するよ?明日から上陸でしょう、彼氏が待ってるんじゃなくて?」と話しかけた。

春山兵曹は浮かない顔のまま、メスを置くと片手を服のポケットに突っ込み何かをひっぱりだした。封筒のようである。

春山兵曹は、「彼氏・・・彼氏。でもね秋川兵曹、なんだか私はこの手紙もらってからちょっと違うんですよ」という。そして封筒を秋川兵曹に突き出した。

「なんだ。見ていいのか?」ととまどう秋川兵曹に、春山兵曹は「いいですよ、いや、ぜひ読んでいただきたいんです。で、秋川兵曹のご意見を伺いたいんです」と言って若干うつろな瞳を上等兵曹に向けた。

そうかあ、じゃあ済まんがといいながら秋川兵曹は封筒から中身を出した。

ちょっとためらいつつ五枚ほどの便箋を開くと男文字の文章が連ねてある。(男が書く文字なんか久々に見るなあ)と思いつつ読んだ秋川兵曹の表情がだんだん曇る。四枚目を読み進んだところで思わず「おい、これ・・・」と上等兵曹は声をあげていた。

「別れようって話じゃないか。いったい何があったんだお前たち?」

秋川兵曹は手紙を両手に持ったまま、春山兵曹の顔を見つめると問うた。春山兵曹は、ふっと短い息をつくと

「わかりません。・・・わからないんです。何があったのか、皆目。ただ一方的にそんな手紙が来たんです。トレーラーを出る直前でした」

と言って下を向いてしまった。秋川兵曹はしばらく春山の顔を見ていたがもう一度手紙に目を落とした。

>もう私はあなたを待てません。

ひとりの部屋はさみしすぎます、あなたは大勢に囲まれているからそんなことはないでしょうが私はひとりで過ごす時間の長さにもう辟易しています・・・

云々と書き連ねてある。あまり要領の良い手紙ではないが「わかれたい、別れよう」という意思は通じる。

秋川兵曹は「要するに、そのなんだ・・・ひとりでいるのがいやなんだな、この男は」と独り言のように言う。そしてふっと顔をあげて春山兵曹を見ると「貴様たち、もしかして<一緒に住んでいた>のか?」と聞いてみた。

春山兵曹は少し顔を赤らめると「はい。彼と私は幼馴染です。結婚を考えているのですが私が兵隊の身では少し早いからと思って籍は入れていないんです。・・・秋川兵曹、このことはどうぞ内密に願います!」と最後はすがるように言った。

秋川兵曹は「誰にも言わないが・・・しかしそれなら早くに結婚してしまえばよかったのに」と言った。長すぎる春は良くはない。

春山兵曹は「下士官任官したらと思っていたんですがその頃から忙しくなりましたからね。作戦行動で外地に出たりなかなか内地に戻れなかったりして機を逸してしまいました。たまに横須賀に戻れても会う機会も時間もなかったですから」とうつむき加減で言う。

秋川兵曹は「そうか・・・。で?明日の上陸でなんとかするんだろう?」と聞いた。秋川兵曹は出来たらこの二人が元の鞘に収まって幸せになってほしいと思った。

春山兵曹は秋川兵曹の目を見つめると、「はい。こうなった以上きっちりとして来たいと。始末をつけてきれいにして来ます」といい、秋川兵曹は(春山ももう、別れるつもりなんだな)と了解した。そして秋川兵曹の差し出した手紙を少し邪険にポケットに突っ込むと、怒ったような顔つきで再びメスの手入れを始めた。

 

翌朝、春山兵曹の乗ったランチが「武蔵」から上陸場へと向かって行った。秋川兵曹は今日は手術室を片づけながらさっきまでのことを思い出していた。

どこか投げやりな感のある春山兵曹に「いいか春山兵曹、決して自棄になるなよ。まだ相手だって本気で別れたいのかもわからんじゃないか。二人して顔を合わせて話しあえばきっとなんとかうまく行くだろう。決して投げるな、決して早まるなよ」と忠告したのだった。

春山兵曹はそれを聞くと少し目に光がよみがえり、その目で上等兵曹を見ると「はい、わかりました」と素直に言ってほほ笑んだ。

(うまく行ってくれ)と秋川兵曹は祈るような気持ちでいる。

 

上陸場に降り立った春山兵曹は人目を避けるように足早に急いだ。目指すは二人で借りていた下宿である。

(もうたぶん、あの人は私と別れるのは確実だろう。なら早い所私の持ち物を引き上げてこないと)次はいつ行けるかわからないから、と春山兵曹は口の中で小さくつぶやいた。

そういいながら心の中では一抹の期待も持っているのだから(我ながらおかしな考えだね。あきらめるのかそうでないのか、しっかりせねば)と、心は揺れている。

今日は日曜日だから彼は下宿に居るはずだ、そこで話し合ってダメならダメでいい。が、もしなんとか修復できるなら・・・と思う春山兵曹は下宿に急いだ。

 

下宿の前に来て玄関を入ろうとした春山兵曹は、中から聞こえてきた声にハッとして思わず身を植え込みの陰に隠した。

次の瞬間・・・

春山兵曹は、衝撃の場面を目にしたのだった――

  (次回に続きます)

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

日本軍の衛生兵が使っていたモノです(これはたぶん陸軍さんのものですね)。

WIKIより。
日本軍の衛生材料


帝国海軍の衛生兵曹の階級章。
 


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● COMMENT ●

かなやのぶ太 さんへ

かなやのぶ太さん こんばんは。

春山兵曹は「男」らしい女です!なんかこの「女だらけの~」には、男らしい女ばかり出てきてあまり女としては可愛げないですがこれは私がこの手の女性が好きだからにほかなりません。

相手の男、こういう女々しい奴がいたらいやですね!
愛とは待って待たされるものですよね、それがわかっとらん!なんて・・・。

さあ、続きをどうぞ!

でもでも、「しっかり始末をつけなくちゃ」っていってのけた、春山兵曹が男らし……違う、人間として潔くてほれぼれしちゃいます><

・・・だああ、だからそうではなくて、陸に残された男性の女々しいこと!いや、私もきっと、恋愛経験が少ないから理解できないのかもしれませんが、愛が本物なら、時間や距離を飛び越えて見せろよ!なんて…^^;

この2人の行く末に、幸あらんことを。

matsuyama さんへ

matsuyama さん こんばんは。

男と女の間には深くて暗い川がある・・・って聞いたとこがありますが、そんな感じなのでしょうね。

私自身は恋愛経験がほとんどないのでこういう話はちょっと苦手ではありますが、あるきっかけがあって。

そのきっかけはこの話の<解決編>の最後で明かしますね!

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは。

ありましたね「同棲時代」。かつての同棲は今よりももっと男女の精神的結びつきが強かったみたいな気がしていますね。最近はなんか???という感じです。

春山兵曹、何を見たのか聞いたのか!?
ご期待くださいね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは

別れはつらいですね、言いだす方もつらいですがいわれる方はもっとつらいですよね(涙)。
きっとだれもが「別れ」を切りだされた記憶はあると思います、その時を思い出していやかも知れないですね・・・。

さあ、春山兵曹どうなりますか。
ご期待を。

男と女の恋愛感情。いつの時代にもよくありますね。
繊細な心の動揺は二人の結びつきを解き放してしまうもんですね。
若い男と女の微妙な心の動きを、見張り員さんの卓越した筆致で思い描く。
なんか引き込まれそうですね。

Re:

♪ふたりはいつも~傷つけあってくらした~それがふたりの~愛のかたちだと信じた~
なぜか大信田礼子さんの「同棲時代」を歌いたくなってしまいました…傷つく姿は見たくないのですが…心配(T-T)

別れを切り出された時の気持ちの動揺が鮮やかに……。
う~~ん、つらい。思い出しだけでもつらい我が身の場面が甦ってきました。
で、春山兵曹が目にしてしまったことって、どうなっちゃうんだろう。時節と立場柄とはいいながらも、彼女たち、酷な展開にはさせないで下さいね。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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