2017-10

「女だらけの戦艦大和」・トメキチとハッシー - 2011.10.08 Sat

「女だらけの戦艦大和」は今日もその身を常夏の海に浮かべている――

 

防空指揮所にいるのは、小泉兵曹とトメキチである。小泉兵曹は交代が来るまでの間、上空哨戒に当たる。

「まあ、敵なんぞ来やせんがね。ほいでも万が一にも来やがったら困るけえね。トメキチ、ここでおとなしゅうしとれよ」

そう小泉は言って双眼鏡にくっついている。

トメキチは青い空を見上げた。どこまでも真っ青な南方の空、千切れ雲や湧き立つ雲が美しさを際立たせる。

そして、防空指揮所のさらに上の部分<トップのトップ>に目をやればそこにはあの「ハシビロコウ」が今も立っている。

「ハシビロのおじさん」とトメキチは声をかけた。ハッシーは、その目をぎろりと動かしてトメキチを見下ろした。

トメキチは「ねえ、おじさん。そっち行っていい?」と更に声をかける。ハッシーは、大きな翼を半分ほど広げて威嚇のポーズを取った、そして、

「オジさんじゃあないわよ、この餓鬼!あたしはれっきとした女よ!まったく、ちっとも審美眼のない犬っころねえ!馬鹿じゃないの?」

と、毒づいた。トメキチはハッと息を飲んで「ああ、ごめんなさい。じゃあ、ハシビロのおばさんでいいの?」と謝る。するとハッシーは、翼を全開にして「おばさんじゃないってのよ、この馬鹿ったれ!あたしにはね<ハッシー・デ・ラ・マツコ>って名前があんのよう!」と怒鳴った。

トメキチは驚いてしっぽを丸めて耳をたらし、「ご、ごめんなさーい!」と叫んで謝罪。

ハッシーは、ふんと鼻を鳴らすと翼をたたんだ。そしてまた遠い目でどこかを見つめる。トメキチは、しっぽをそろそろと伸ばすと恐る恐る「マツコさん。…ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからお話ししない?」と話しかけた。

しばらく黙っていたハッシーだったが、やがてトメキチを見下ろすと

「ちょっとだけだからね!わかったらこっち来な!」

と唸った。トメキチは嬉しげにトップに上がってゆく。それを小泉が見て「ああ、トメキチ!危ないから行っちゃダメ!」と声をかけたがもうトメキチは裏側に回ってラッタルを駆け上がってトップにたどりついていた。

ハッシーの隣に座ったトメキチを見て小泉兵曹は「ほう。まあ同じ動物同士じゃけえ、何ぞ話もあろうかねえ」とつぶやいて双眼鏡に向かう。

トメキチは、ハッシーの灰色の体を見た。そして「ねえ?おばさんはどこから来たの?」と尋ねた。

とたんに「おばさんじゃあないって何回行ったらわかるのよ、こいつ!」と怒鳴るハッシー。ひゃあ、とトメキチは驚いて「ごめんなさい、ついうっかり。マツコさんはどこから来たの?」といい直す。ハッシーは不機嫌に唸りながらも

「よくわかんないわよ。生まれたところは変な箱みたいなものの中だったから。覚えてるのは最初にあたしの顔を見たやつが『うわ―なんだこれ!』って叫んだことぐらいかしらね。でもあたしはそいつが親だとばっかり思っていたけどね」

と言った。トメキチはふーん、と言って「それで?」と促す。ハッシーは「あたしはしばらくの間はそいつの後をくっついて食べ物をもらってたわね。でもあたし、そいつのおかげで食い過ぎちゃってさあ、えらい体がでかくなって困ったわよ!・・・ってそんなこと言わせるんじゃないわよこの馬鹿!」とひとりで怒る。

トメキチは面白くなって「それで?」と更に。

ハッシーは、

「そんなことがもう何年か続いてたんだけど、ある時あたしそいつとそいつの仲間と一緒に船に乗ったのよ。いろんな荷物がたくさん積んである船よ。で、どこに行くんだか知らないけど船に揺られていたら・・・」

「いたら?」とトメキチ。ハッシーはトメキチの顔をまっすぐにみると

「ボカーーンと一発。船はあっという間に沈んじまったわよ。あたしの入っていた箱は海に投げ出されちゃうし、親代わりのあいつはそのあと来た馬鹿みたいにでっかいセンスイカンとかいう奴に連れてかれちゃうしさあ!で、あたしはそのあとずーっと海を漂ってたのよ。わかるぅ?この心細さと恐ろしさをさあ!」

と一気に話した。

トメキチは驚いた。こ、このおばさん「ボカ沈」経験者かあ!!

「で、海を漂ってたわけだけど腹は当然減るじゃないさ。あたしは本来海の魚ってあんまし性に合わないんだけどさあ食わなきゃ死んじまうでしょう、だから食ったわよ海の魚。結構うまかったわよ、それから好きになったからまあいいけどさあ?

で、一体どのくらいそうしてたのかあたしもわかんないけど、ある日もう喉が渇いて死にそうになってたら、船が来てあたしを救ってくれたってわけよ。水もくれたし飯もくれたわよ、あの人たち。

なんでもオー・・・オーストストラリラリ・・・もう!なんだっていいわよ、そのオーストラリラリとかいう国の船だったけどそれに乗ってたらそれがまたある日ボカーン!・・・いやんなっちゃうでしょうよ、二度もよ、アンタ!

でも今度は箱じゃなかったから逃げられたけどさあ。全くやんなっちゃうわよ!」

ハッシーはそこまで一気に話すと、ふ―っと息をついて羽を繕った。

トメキチは手に汗を握る思いで聞いていた。ハッシーは羽を繕い終わると

「で、当てなく飛んでるうちにこの馬鹿みたいにでっかいフネを見つけてさあ、なんか居心地よさそうな場所があるから気に入って降りて来たのよう。わかったあアンタ」

と言ってトメキチを見つめた。

トメキチはなんとなくわかってきた。トメキチも艦橋で、艦長や参謀たちの話をそれとなく聞くうちに下手な水兵よりは戦況を理解できるようになっていたので(最初におばさんが乗っていたのは連合国とやらの輸送船だね。何か重要なものをどこかから国に運ぶ途中だったんだねえ。で、それを撃沈したのはたぶん日本の通商破壊船だろうね。で、そのあと乗組員は日本の潜水艦・・たぶん伊号八〇〇潜だと思うけど・・に救助されたってことか。またそのあとのオーストラリラリはオーストラリア海軍かなんかの艦でそれをまた沈めたのはこれまた日本海軍なんだねきっと)と彼なりの分析をした。

「で、ここの居心地はどう?おばさん?」と聞いたトメキチにハッシーは激怒して顔を真っ赤にして羽をこれ以上ないくらいに広げて

「だ・か・ら!!おばさんじゃねえって言ってんのがわかんねえのかよてめえには!何処まで頭の悪りい犬っころなんだよ!」と怒鳴った。

トメキチがその場に腹這って謝ると、ハッシーはしばらく全身の羽を膨らまして怒っていたがやがて落ち着くと

「居心地いいわよここは。ただ・・・」

「ただ?」と問い返すトメキチにハッシーは

「あのなんだか変なものをいっつも持ってるマツオカとかいう奴はいただけないね。あたしとこの場所を張り合おうってんだから笑っちゃうわよ。百年早いわよあたしとタイマン張ろうなんてさ!」

といいきった。

トメキチは「でも。ここはあの人たちが前からいるんですからね。マツコさんのほうが遠慮したほうがいいんじゃない?」と年上の鳥をいさめた。すると「なんだってこの野郎!」というなりハッシーはそのでかい両の翼を思いっきり開いてトメキチをその場からはたき落したではないか!

キャン!とトメキチの叫びを聞いて小泉兵曹がびっくりして指揮所の床に落っこちてきたトメキチを抱き起した。

そこに見張兵曹が入ってきて「どうしたの!トメキチ!」と小泉兵曹から抱き取った。小泉兵曹はトップを指さすと

「あの変なでかい鳥にはたき落とされたらしいよ。あんな鳥ちいとも役に立たんけえ早うどっかに行ってしまえばええのにねえ」

と憤慨している。トメキチも同意するかのようにクーンと鳴く。見張兵曹も驚いて

「あぶない鳥じゃねえ。そがいな鳥は松岡分隊長のあのラケットでやっつけてもらったらええのにね」

と大声を出していた。

<マツオカブンタイチョウ>という名前が耳に入ったハッシーは

「なんだってえ!あいつにだとぅ!ふざけんなこの子娘どもがあ!」

と叫ぶなり。トップから急降下して小泉兵曹と見張兵曹に襲いかかっていた。ギャー―、という時ならぬ叫びに麻生分隊士や野村副長が上がって来た時にはハッシーはもう、何もなかったかのような顔でトップに鎮座していた。

そのあといくら小泉兵曹が副長に「だから!あのでかい灰色の鳥が私たちを襲いに・・・」と言っても副長は「何言ってんの?あんなおとなしくって動かない鳥があんたを襲うわけないでしょう?サボりたいからって嘘言っちゃダメだよ」と全く取り合ってはくれなかったそうな。

唯一人・・・麻生分隊士だけがオトメチャンからの訴えをまともに聞いてくれたのだった。

分隊士は「そうかあ。あいつなんか胡散臭いもんなあ。分隊長を敵視してる感じもするけえ、ちょっと気いつけんといけんな」と言ってハッシーを見上げた。

ハッシーは・・・

相変わらず遠い目をして微動だにせずその場に立っていた――

    ・・・・・・・・・・・・・
通商破壊戦に用いられた「愛国丸」です。もともとは大阪商船が南アフリカ航路に就航させるためにつくられたのですがその役目につくことなく竣工翌年(昭和16年)日本海軍に接収されました。その後は「特設巡洋艦」として任務につき昭和19年2月、敵襲によりウォレアイ環礁にて沈没。(写真はWIKIより)。

愛国丸1942年
1942年、シンガポール・セレター軍港での愛国丸

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● COMMENT ●

匿名希望さんへ

匿名希望さん こんばんは

人には得手不得手はあって当然ですよw。それが現代国語であれ、古典であれ、はたまた数学であれど。
私も「読む」ほうはそれほど得意ではないと自分では思っていますよ、ですからよーく読みこなさないと失敗します(汗)!

御事情お察しします。
公表はしなくて良いですよ、それこそ「個人情報保護」の観点から。なんでも尾ひれをつけて話を大きくする人間もいますからね。

コメントありがとうございました、またどんなことでも書き込んでくださいね!

オスカーさんへ

オスカーさん こんばんは

ハッシーの名前には随分迷いましたがある瞬間、すっと頭に降りて来た名前をつけてやりました。

「女だらけの大和」、ムツゴロウ王国になったら戦争どころじゃないでしょうね(爆)、そうだ、医務科には「畑 睦子(はた むつこ)」という名の軍医大尉もいますよ=ww!!

先日差し上げた鍵コメの中で、見張り員さんの記事を、
「ほとんど読んでいない」と申し上げましたが、
「ほとんど読めていない」と言った方が正しいです。
読むのは読んでも記事の内容がなかなか頭に入ってこないと言っているつもりでした。
見張り員さんの力作にそのような誤解を招きやすい言い方をしまして、見張り員さんはがっかりされるというより気分を壊されたのじゃないかなと思い心配していました。
でも足跡をいただき、鍵コメをもらってホッいたしました。
最近少しはましになりましたが、もともと現代国語が苦手な私。書くのは書けても読解力には自信がありません(笑
受験期の時、それに悩みまして先生に相談しました、
「先生、自分の言いたいことはそこそこ表現できるのですが、
読解力がありません、どうしてですか」と。すると先生は、
「文章を書くということは、読めるということと全く無関係で、書くということは創作行為です、書けるからと言って読めるとは限りません」と言われました(トホホ)
私の秘密をご存知なのは、軽妙で私の憧れの文章を書かれるまろ・ゆーろさんと見張り員さんだけです。
匿名性の高いブログで、秘密というのも変ですが、私の地域でも音楽を通して、私の知人で私のブログを見ている方もいらっしゃいます。
仕事柄、私のこのような事情が風評として一人歩きしはしないかと気になりまして、具体的には公表しておりません。
匿名希望といいながらも、まろ・ゆーろさんにはバレバレですね(笑
コメントが記事みたいに超ロングになってしまい、すみませんでした。

Re:

こんばんは。マツコ~デンジャラスなハッシーにふさわしい名前!!由緒正しいお生まれで世が世なら…だったらとか考えてしまいます。どこで方向がかわるかわかりませんもんね。でもそのうちにいろんなモノがあつまり、ムツゴロウ王国みたいになったりして(((^^;)

ジスさんへ

ジスさん こんばんは。

動物と会話ができたら・・・動物同士の会話がわかったら・・・どんなに楽しいでしょう!とはいうものの、ことらの悪口を言われていたらとか思うとちょっといやですねww。

マツコ、これが襲ってきたところを想像するとこれ以上怖いものはないという感じですねww。

トメキチは普通の犬っころではなさそうですね。犬にしとくのはもったいないですぞ~~!!

こちらこそいつもありがとうございます、コメント励みになります。

こんばんは。いつもありがとうございます。

動物同士の会話、とても微笑ましいですが、やっぱコワイですね・・・マツコ。
本当にあんなのが襲ってきたら大変ですね。

状況を冷静に分析しているトメキチ、なんだかカッコイイですね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは。

大分県護国神社は明日ですか!靖国神社はさ来週です。
新しく合祀されたご英霊のお喜びはいかばかりでしょうか、そしてご遺族のお気もちも少しは慰められるのでしょう。
しかし「日本」という国の英霊に対する冷たさは他に例を見ませんね。国のために戦い戦死された方たちをないがしろにする国にはそれなりの報いがあるでしょう…もっともその報いを受けるのはだれよりも、「英霊を省みない政治家」であってほしいのですが。

戦争はいけないです。
いけないですがそれをしないでは国が滅びる。そうしたら自分たちの愛している故郷も家族も亡くなってしまう、身を呈して戦って戦陣に散った方たちはやはりえらかったと思います。

私の「女だらけの~」で散華した皆さんがちょっとでも笑ってくれたらな・・・という虫のいい思いで始めたこの話もやめどころが無くなってきましたw。
最近何物かに憑かれたように話が湧いてきますww。

明日は大分縣護國神社の秋季例大祭が行われます。今夜は今年新たにご英霊になる御霊の合祀祭が執り行われました。
夕闇のなかで進む夜儀に言いようのない感動の波が押し寄せたのと同時に、「女だらけの戦艦大和」を一生懸命書いてる見張り員さんのひたむきさに思いを馳せました。
戦争はイカンですね。そして亡くなった兵隊さんや犠牲になった多くの国民に感謝せねばならないとつくづく思います。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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