「女だらけの戦艦大和」・悩める柱島の司令長官4<解決編>

いよいよ今日は「柱島停泊艦艇合同慰労会」当日である――

 

山本長官は、従兵嬢に命じて長官公室のテーブルやいすを取り払ってしまった。(どうしてだろうか?)と不思議そうな顔の従兵嬢に長官は、「いやー、たまには床にケンパスでもしいて宴会もいいんじゃないかと思ってね。そのほうが座が和みそうだし?」と言った。

従兵嬢はそれを聞いて数人の手助けを呼んで大きなテーブルといすを運び出した。そしてケンパスを何枚か持ってきて、長官公室に敷き詰めた。

山本いそは、それを見て満足そうにうなずいた。

(このくらい広く取らないと剣舞が舞えないし、一番の見せ所『こうもり』はテーブルがあると邪魔で出来ない。これなら・・!)

慰労会は今日の午後五時から始まろうとしている――

 

柱島停泊中の各艦艇から艦長・副長たちが『女だらけの長門』に三々五々集って来た。

『長門』の早川艦長と、昆野副長が出迎えお客さんがたは長官公室に案内された。長官公室にはすでに、宴会の準備が出来ている。

「??」

瑞鶴艦長の貝塚たけよ艦長が目を丸くした。長官公室にはケンパスがずずっと敷かれて、テーブルもなにもない。ケンパスの上に膳が並んでいるのだ。

そのあとからぞろぞろと入ってきた艦長たちも目を丸くしている。そこに早川艦長がやってきて「サア、どこでもどうぞ。今日は山本長官の御発案でこういう形式の『無礼講』だそうですから、遠慮なく。・・もう間もなく長官がおいでになりますから、ささ、お早く願います」

と手を差し伸べた。

皆は戸惑いながら席に着いた。それを見計らって、従兵が「山本長官、入られます!」と声をかけた。

ドアが開いて、山本長官が入室。皆が一斉に立ち上がる。

山本長官はそれを手で制しながら、「いいから座って?今日は無礼講だから堅苦しいことなしにして、楽しくやろうじゃないか!」といい、長官用にと昆野副長がしつらえた座布団の上に従兵にいざなわれ、そこに座る。

そして「皆揃ったか?・・・では、帝国海軍ばんざーい!かんぱーい!」と叫んで皆も一斉に盃を上げた。

そのあとは和気あいあいの宴会になった。山本長官は、右隣の陸奥艦長の三好達子大佐に「他の艦艇の兵たちは楽しくやってるのだろうか?」と尋ねた。

三好艦長は、長官のグラスにオレンジジュースを注いでから

「その点は平気です。皆楽しくやっておりますよ。今日は他艦を訪問してもよい、ということになっていますから旧知の間で盛り上がっている兵たちもいます」

と言った。長官は満足そうにうなずいて「そう。それはいいことだね。今後大きな作戦があった時なども他艦を訪問していれば、お互いに助け合いの気持ちも湧こうというものだ。うん、この慰労会はよい催しだね」と言った。

他の艦長たちも口々に「そうですとも」「そのとおり」と言っては盃を上げる。そんな中で、やはりちょっとさみしい思いの長官である。下戸はこんな時損だな、取りのこされた気がしてならないよ。そう、長官が思って内心にが笑いをした時「長官」と呼びかける声が。

顔を上げればそこには一種軍装に身を包み、艦内帽のいで立ちで早川艦長と昆野副長が立っている。

副長の手には一升瓶。山本長官は一瞬夢を思い出した、が、にこやかに二人を見る。艦長が「山本長官、ほんの少しでいいんです。私たちの酒を飲んでいただけますか?」と聞いた。長官は、盃を差し出し、「ああ、いただこう。でも、ほんのちょっとでいいからね」という。昆野副長がうなずいて、「では山本長官。万福でございます」と一升瓶から盃に少し注いてくれた。

「ありがとう」と、盃に少し入れてもらった酒をクッ、と飲み干した山本長官。次の瞬間喉の奥がカーッと焼けるように感じたが今日は(おお、いい気分だ)と思う。確かに今日はなんだか気分が高揚している。

皆を見かえれば、もうかなり出来上がっている艦長連中もいる。その時、瑞鶴の貝塚艦長が「おーい、そろそろ誰か、かくし芸をしないかあ?いないならここにいる全員総当たりでやらせるよ~」と怒鳴り出した。とたんに「おーっ!」と盛り上がる艦長連中。それぞれの副長は「○○艦長、どうぞ!」とか「サア、ぜひ十八番の何なにを皆様にご披露して・・」と艦長に進言している。中には酒がまわってめんどくさくなったのか「私は下手だからいいよ!副長がアレやってよ!」と丸投げしようとする艦長もいるが。

ともあれ、かくし芸だか宴会芸だか知らないが艦長連中から何やら始めた。

どれもたあいもないものであったが酒に盛り上がった皆にはどんなものでも嬉しくおかしいらしい。

一番盛り上がったのは『長門』艦長と副長による「腹話術」で、艦長が副長を人形に見立てて腹話術をするというもので皆は腹を抱えて笑った。ものすごい笑い声に、外で待機してまんじゅうを食っていた従兵嬢は「な、なんだあこの騒ぎは?」と気味悪げ。

空母・龍の加藤艦長と同じく翔鶴の有馬艦長など、ケンパスの上を転げまわって大笑いしている。それを見ているうちに山本長官の心にムラムラと「やる気」が湧いてきた。

「次!私がやるぅ!」

腹話術の後、山本いそは自ら手をあげてケンパスの真ん中に立った。大喝さいが起こる。

それを制して長官はまず、「剣舞」を舞う。自ら「鞭声粛粛~夜河を渡る~」と吟じるのはいいが、抜き身の軍刀を振り回しながらの舞に皆は肝をつぶした。

ちょっとの酒で十分酔ってしまった長官はコントロールが若干効かないようだ。

ブン!と軍刀が太刀風を起こし、『陸奥』の三好艦長は真っ青になって部屋の隅に逃げ込む。気がつけば皆部屋の壁にぴったりくっついている。が、長官は全く意に介さず三回も演じた。

やっと恐怖の時間が終わり、皆はほっと安堵の拍手をする。

山本長官は気を良くして「では、次!」と叫んだ。なに、まだなにかあるのか!?と顔色を変える皆の前に、長官は椅子と一升瓶を運んでくる。

「何が始まるんでしょうねえ?」と昆野副長が誰にともなくつぶやいた。それを受けて重巡・「過去」の艦長が「あぶなくなきゃ、何でもいいですがね。山本長官、今日はものすごいハイテンションではないですか?」とぼそっと言う。

そして長官はそのハイテンションを保ったまま、椅子に上がり天井の梁に両手を伸ばした。一升瓶は椅子の上に置いて。

やがて長官は体を折って梁部分に足を引っ掛けるような格好になった。

おお・・・と皆が固唾をのんで見守る中、山本長官は見事『こうもり』になった。そして椅子の上の一升瓶を掴んでその栓を抜くと、入れておいた水を飲んだのだった。

「うわあ!流石山本長官!すごいすごい!」

皆は感激のあまりたちあがって拍手。長官は、つま先を梁に引っ掛けたまま一升瓶を持って逆さで笑って見せた。

そして艦長連中が拍手喝采する中、長官はまた・・・頭から落ちた。

 

えらいさんがそんなことをしている最中、何かを必死で探す兵がいた。医務科の兵曹二人で「どこに行っちゃったんだろう、あの一升瓶。あの中に尿検査の検体が入っていたって言うのに!」と探す。長官は医務科の前の廊下に置いてあった一升瓶を「ギンバイ」して中に入っていた液体は海に捨ててしまったのだった。

その一升瓶こそ…山本いそ連合艦隊司令長官が宴会芸に使った一升瓶であることを、この二人の兵曹も、当の山本いそも・・・知らない。

 

ともあれ、今回のことで酒にもちょっとだけ自信をつけた山本長官は至極ご機嫌だったそうである。そして「今度は『大和』でやる!『艦艇ーズ』と真っ向勝負だ!」と恐ろしいことを言って気炎を上げているそうだ――

      ~~~~~~~~~~

この話の中で山本長官が命がけ?でした「こうもり」は確か本物の予科練だったかの練習生が実際にした芸だそうです。珍奇な芸に「おれもおれも!」とマネする練習生が続出したとか。

       ・・・・・・・・・・・・

一升瓶です。よろしくね。



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千福上撰辛口1.8L6本入[三宅本店]



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Comments 4

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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさん おはようございます!

まったく珍奇な芸をした山本いそさんでございますw。
しかし・・・おっしゃるようにこれが本物の五十六さんだったら!?たまらなく楽しいですね。実際の山本長官は結構楽しい人らしかったですね。
今でも「名将だ!」とか「いや愚将だ!」と評価が分かれることが多いんですが、まあ、私に言わせれば現在の物差しで当時を、当時の人たちを計るのはそれこそ「愚」に等しいと思いますね~。

本当に急に寒くなりました!今朝の東京はどんよりと曇りで肌寒いです。
風邪に気をつけて、また楽しく書いてゆきたいと思いますのでお付き合いのほどどうぞよろしくお願いいたします。

2011/10/02 (Sun) 08:36 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

珍妙な長官の芸で始まった10月。これが本物の五十六長官であったならばと思うと何故だかワクワクしてしまいました。
面白かったです!! オチがいくつもあって流石に見張り員さんです。

いきなり寒くなってしまいました。東京の夜は如何でしょうか。
風邪など引かないようにご留意頂き、執筆にますますご精を出して下さいね。

2011/10/01 (Sat) 23:18 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
matsuyama さんへ

matsuyama さん こんばんは!

100名前後の新年会というとものすごい壮観ですねえ!
でもおばさま方のフラダンスは私もちょっと・・・ですねww。
見るのもいやですが(はっきり言ってしまった!)、やれと言われてもこれまたいやでありますww。

剣舞、今どきはなかなか見る機会がないですね・・・実際やったら非常な盛り上がりを呈するでしょうねえ!!
もちろん模造刀で、ね。

急に寒いくらいすがすがしくなりました。matsuyama さんも御身大切にお過ごしくださいませ。

2011/10/01 (Sat) 21:23 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
matsuyama  

以前勤めていた会社では毎年新年会を開催しておりました。
100名前後の社員が集うとすごい迫力がありますね。
その中で出しものを募ると、必ず手をあげるのがおばさん連中のフラダンス。
本人たちは真剣そのもなんですが、見ている側からはブーイング。
場を持たせるにはいいんですが‥‥。
剣舞の出しもの、珍しいですね。宴会盛り上がるでしょうね。

10月に入った途端、寒くなりました。体調崩されないようにご注意ください。

2011/10/01 (Sat) 19:35 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)