2017-10

「女だらけの戦艦大和」・飛来せしもの4<解決編> - 2011.09.24 Sat

「ぎゃあああ!!」と松岡分隊長が大きな叫び声をあげた――

 

「どうしましたっ、分隊長―!」

見張兵曹たちが一斉にトップに上がった。そこで彼女たちが見たものは・・・

灰色の鳥のでっかいくちばしにしっかりと頭を挟みこまれた松岡分隊長のもがく姿であった。分隊長は鳥を正面から羽交い絞めにしたため、鳥のくちばしにいいように挟まれる結果となっていたのだった。

分隊長は頭を挟まれながらも必死に鳥を抱きしめるような格好でもがき続けている。そして「麻生さ―ん、早く。早く縄をこいつに掛けて~!」と叫んでいる。麻生分隊士は、と見れば目の前で起きたことが飲み込めないのかなんなのか、ロープを持ったまま立ちつくしている。

見張兵曹がトップの手すりの間から「分隊士、分隊士早くその鳥にロープをかけてくださいッ!」と叫んだ。すると立ち尽くしていた分隊士はまるで魔法が解けたようにハッと我に返り、ロープを握り直し、松岡分隊長の抱える鳥を縛ろうとそばに寄った。

その時・・・

頭を挟まれたまんまの分隊長を見て、あろうことか麻生分隊士は大笑いをしてしまったのだった。

「あ、麻生さ―ん!ねえ何笑ってんのよう!いいから早くこいつに縄をかけてったら!・・・ねえ、麻生さ―ん!」と、松岡分隊長はもう必死である。

灰色の鳥は分隊長に抱きしめられながらその頭をぎりぎりと挟む力を強めている。頭が割れそうに痛い。

「い、いたたた・・・!ねえ麻生さ―ん、早くったら!いたたたった!」分隊長の叫びが悲痛さを帯びてきた。その時になってやっと麻生分隊士は笑いを収めて「ああ、可笑しい。サア、分隊長もう大丈夫ですよ」と灰色の鳥にロープををかけた。

それでもなかなか分隊長の頭を放さない鳥の様子に、ついに見張兵曹や石場兵曹まで笑い始めてしまった。そして皆は「あること」に気がついて更に大笑い。

その笑いは、主砲射撃指揮所の面々にまで伝染し、そしてトップは爆笑に包まれたのだった。

 

そこに、梨賀艦長・野村副長・森上参謀長が谷原中尉とともに防空指揮所に上がってきてその大爆笑を耳にした。

「なんだ、あの馬鹿笑いは?」

森上参謀長はトップを見上げた。

「あんなところで何をしてるんだ、危ないじゃないか!」と参謀長はおっかなびっくりトップに上がりその場の光景を見てこれも大笑いを始めた。

「森上さん、何笑ってんの?ねえなに~」と艦長・副長、そしてお客様の谷原中尉までもがトップに上がるラッタルを登ってきて狭いトップには大勢がひしめく。

「うわあ!松岡中尉なにしてんのお!」

艦長の甲高い声が響き、副長と谷原中尉が「ぷ―っ!」と吹きだした。

なぜなら。

トップには、灰色の鳥に頭を挟まれたまんまで鳥と一緒にロープで巻かれた松岡中尉が転がっていたのだから――。

 

松岡中尉と灰色の鳥は二人揃って縛られたままでトップから引きずりおろされた。谷原中尉が、「おお、かわいそうに」といいながらロープを解いた。そしてくちばしの中にそっと手を入れると灰色の鳥は松岡中尉の頭をやっと解放した。松岡中尉は「ああ、痛かった・・・」としばらく頭をごしごしとこすっていたが、ようやく顔をあげると皆を見回した。

谷原中尉が「はじめまして。私は『陣痛』乗り組みの谷原と申します」と挨拶した。参謀長が「谷原中尉は鳥に関して大変詳しいそうだ。今日はわざわざ『大和』に来てもらったんだよ」と言った。谷原中尉はそんな、大変詳しいなんてと謙遜している。

松岡分隊長は「そうでしたか・・・『大和』にようこそ!」というと右手を差し出し、谷原中尉はそれを握って握手。

「で?この鳥はいったいどういう奴なんですかねえ?私はこんな変な奴、見たことないんですが」松岡分隊長が言うと、その場にたたずんでいる鳥は目だけをぎろり、と動かして分隊長をにらんだようだ。

谷原中尉はこの鳥はハシビロコウという珍しい鳥であること、もともとはアフリカの産であること、淡水湖に生息していることなどを話した。

「ほう!アフリカねえ。それがなんでこんなところにいるんでしょうねえ。不思議だなあー、きっとこの鳥くんも熱くなって飛んでるうちに迷ってしまったんでしょうかねえ」と松岡分隊長は勝手な推測。

谷原中尉は「まあ、これはおとなしいですからこのまま置いておいても大丈夫と思いますよ。

誰かが飼っていたと言うなら返さなければなりませんがそうでないならしばらく気ままにさせてやってみたらいかがでしょうか」とアドバイスして、そして『陣痛』に帰って行った。

 

そして、ハシビロコウは防空指揮所に立っている。その周りをたくさんの兵が取り巻いて騒いでいる。トメキチも見に来ているが見たこともない生き物に少し腰が引けている。が、興味津津。

当のハシビロコウはそんな騒ぎさえどこ吹く風である。

その泰然自若とした態度に梨賀艦長がまず感じ入った。「ねえ副長、この鳥さんをうちで飼育してはどうかねえ?」とさえ言った。副長はまだ思い出し笑いしながら「いいでしょう艦長。なんならトメキチとコンビを組まして芸をさせましょうや」とのんきな発言。

参謀長も手を叩いて大笑いして賛成したのでこのハシビロコウは「ここがいやになって飛び去ってゆくまで」大和で飼育することとなった。大半の乗組員の意見は「二、三日で嫌になって飛んでゆくよ。長居なんかしないから見ててみ?」だったが。

ともあれ、ハシビロコウは「ハッシー」なる愛称もいただいて『大和』乗り組みの一員になったのだった。

 

そんな中。

松岡分隊長は大変怒っていた。麻生分隊士と見張兵曹、石場兵曹を呼びつけて指揮所の床に正座させた。そして、

「あの時ぼーっとして見ていた麻生さん。私とハッシーを一緒に縛った麻生さん。そして何よりそんな私を見て馬鹿笑いをした麻生さんと特年兵君と石場さん!君たちはいったいな何を考えてるんだね?いいかい人の不幸は蜜の味とはいうがだ。自分の分隊の長があんなに痛い目にあってるのを見て馬鹿笑いしたりしていいのかねえ?君たちも立派な帝国海軍軍人ならその辺をもっと認識してくれなきゃいけないね。いいかいおかげで私は頭を挟まれて・・・」

と説教を始めた。しかし三人は叱られながらもあの光景を思い出すとどうにも笑いが込み上げて仕方がない。

でもここで笑ったら火に油を注ぐようなもの。腹に力を入れて我慢。

そこに副長が上がってきて「あれ!何してんのよ、こんなとこに正座して『武蔵』の猪田艦長みたいじゃん!」と言って笑った。

そして副長は、「松岡中尉、これあげる。いい記念だからとっておいてね~」と少し大きい封筒を分隊長に差し出すと「じゃねー!」と下に降りて行った。

松岡分隊長が「なんだろう、副長直々にくださるとは?」と封筒に手を入れて中のものを出した。

「わああ!」

分隊長の突然の叫びに三人は床から飛び上がって驚いた。分隊長の手の中には、艦橋トップでハッシーとともにロープで縛られて頭を挟まれて苦悶の表情の松岡分隊長の写真があったのだから。
「い、いつの間に!副長ったら!」

顔色を変えた分隊長は、副長を追って艦橋を降りて行ったがはるか下のほうで「ギャー―っ!」という分隊長の叫びが轟いた。

そう・・・副長は艦内のいたるところにこの写真を張り付けて行ったのだった。

艦内には爆笑が渦巻く結果になり・・・松岡分隊長は少し自嘲気味に

「まあ、いいよ。皆笑いに飢えてるからね・・・どうぞどうぞ私のこんな姿でよければ笑ってね。そうだ!笑いは戦力の原動力だ!笑え!笑うんだ、笑って熱くなれよ――ーッ」

と叫んで皆の喝さいを浴びたのだった。

 

それから一週間。あの「ハッシー」は今も艦橋トップにいる・・・・ 

            ・・・・・・・・・・・・

『大和』昭和二〇年の乗り組み指揮官たちです。・・・副長は、どこだ!?(WIKIより拝借)

大和の指揮官たち。1945年4月5日撮影
前列左から3番目が伊藤整一中将、右から3番目が第2艦隊参謀長森下信衛少将である。



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● COMMENT ●

ジスさんへ

ジスさん こんばんは!

松岡分隊長、あのものすごいくちばしのハッシーには勝てなかったみたいですねwwしかも麻生少尉ほかに馬鹿笑いされて・・・。
でもここは士官の意地の見せどころとばかりに開き直りました。熱くなりましょう~~!

と言ってるうちに寒いくらい涼しい日が続いていますね。
三連休、うちも日曜だけの休みでしたがジスさんはもっと大変でしたね、本当にお疲れさまでした。
お疲れの出ませんように!!

こんばんは。いつもありがとうございます。

か・・・かわいそうな松岡さん・・・お察しします。
あんな怪獣みたいなヤツにやられたら生きた心地もしなかったことでしょう。

世間の三連休、仕事で散々でした。腹の底から笑えるお話、感謝致します。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんにちは!

喜んでいただけましたでしょうか(と稲川淳司風)。
ペリカンのカッタ君、彼はペリカン業界の常識を打ち破った行動で一躍注目を集めましたよね!今は彼の子孫が元気でいるそうですね~、見に行きたいものです。

たったの60数年前の「男たち」です。
写真の彼らは、だいたい40代の後半が多いと思います。伊藤長官・有賀艦長など、50になるやならずで戦死されています。
そこに行くと今の日本人は男女問わずに幼いという印象しか受けないですね、私もそのうちの一人ですが。
本当の「大人の日本人」になりたいです。

オスカーさんへ

オスカーさん こんにちは!

「女だらけの大和」のみんな、年齢も様々だとは思うのですが忘れちゃならない「笑顔」と「笑」ですね。戦闘が始まれば笑っちゃいられんので普段こうして大笑いしていますww。

このハッシー・・・雄か雌か??分隊長の抱擁?を嫌がるところをみるとメスかもしれないですねえww!

あぁ、爽快でした。
山口の幼稚園でしたかペリカンのカッタ君を思い出しました。

大和の乗り組み指揮官、みなさんカッコイイですね。
僅か60年前の日本の男はこうだったんですね。

ぷぷっ!!やはり乙女たちの物語は箸がころんでもおかしい~♪というような笑顔でないといけませんね!! ハッシーはメスかしら?だとしたら《アフリカの女王》とお呼びしたいです~猛々しい(ふてぶてしい?)女王さまに敬礼!!


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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