「女だらけの戦艦大和」・航海長とバナナ2

「女だらけの戦艦武蔵」では、仮谷航海長が今日もバナナを見上げている――

 

『軍艦武蔵』は進路を小笠原諸島にとって北上しつつある。内地はそろそろ秋の気配がするころだろう。だがまだこのあたりの海域は常夏の趣が濃厚である。

そんな中にあって、仮谷航海長は来る日も来る日も艦橋羅針盤の上につるしたまだ食べごろとは言い難いバナナを見上げている。

「ほら、可愛い魚雷と一緒に積んだ蒼いバナナが黄色くなった、って歌があるでしょ?ドン亀乗り(潜水艦乗組員のこと)の歌さ。あの気分がよくわかるねえ、今の私には。ああ、早く黄色くなってくれないかなあ~、早く食べたいよう」

仮谷航海長は独り言みたいに言ってはそっとバナナに手を伸ばして撫でている。

ある時それを見た見張り員・小椋一等兵曹は可笑しくてたまらないと言った顔で、

「仮谷航海長のバナナを撫でくり回すあの手つき・・・な―んかいやらしいよね~。まさかさぁ、バナナを男代わりに使うんじゃねえの!やっべえー!」

ととんでもないことを口走り、分隊士の坂本龍子特務少尉に張りせんで後ろっから思いっきりひっぱたかれたのだった。

それでもへらへら笑っている小椋兵曹に、坂本少尉は「そがいにいやらしいことを言ったらいけんぜよ。おなごはもっとつつましゅうしとかんと。嫁のもらい手がのうなるぞ」と注意した。高知出身で東京育ちの坂本少尉は高知弁と東京弁を混ぜた言葉で話す。

「はいはい・・・」と全く反省ない小椋兵曹。

 

そんなある日。

小笠原に補給で寄った後『武蔵』はいよいよ横須賀を目指して海上を走り出した。乗組員も「もうちょっと、もうちょっとで横須賀だあ!」と嬉しそうである。

艦橋の羅針盤の上につるされたバナナが黄色くなってき始めた。仮谷航海長は満足げにうなずいて、「もうそろそろ味見をしていい頃かな。味さえよければ皆に分けてあげよう」とひとりごちた。

そして航海長は操舵室に降りて行った。

しばらくして、通信科の植戸あや上等水兵が艦橋にやってきた。しかし誰もいないと言うあり得ない状況・・・

「ありゃ。だ―れもいない。・・・あれ!」

植戸上水は羅針盤上のバナナに目を止めた。「バ、バナナだあ!」思わず歓喜の声を上げた植戸上水の脳裏に子供の頃見たバナナのたたき売りの光景がよみがえった。

(ああ、あの時のバナナ、欲しかったなあ。でも手が出なかった。うちはそれほどお金なかったし。だからもしかして海軍に入ったらバナナを食えるかなあと思っていたんだけど、こんなところでこんなたくさんのバナナに会えるなんて!)

植戸上水の片手は知らず知らずのうちにバナナに伸びていた。

ポキッ、と音がして植戸上水がハッと我に返った時、一本のバナナが上水に手の中にあった。

「いけない!勝手にバナナをもぎってしまった!」植戸上水は真っ青になってしまった。こんなところにあると言うことはきっと誰かえらいさんの持ち物なのだろう、なのに私は勝手にそれを・・・!

次の瞬間、植戸上水の手はそのバナナを素早くポケットに押し込んでいた。そしてそのまま素早く艦橋を走り出ていた。

 

植戸上水はポケットをそっと押さえたまま最上甲板・第一砲塔の影にいた。

誰もいないことを確認してからそっとポケットからバナナを取り出した。バナナは上水の手の中で、日差しを浴びて光っている。

(どうしよう、これ)

植戸上水は思わず知らずしてしまったこととは言え、激しく後悔した。発覚したらただでは済むまいと思った。

だが、バナナの誘惑はすべての感情を彼方へ押しやって余りあるものであった。一度でいいから一本丸ごと食べてみたかったバナナ、むかし親に「買ってほしい」とねだったら「うちの器ではない!」とひっぱたかれて泣き寝入りしたバナナ。

それが今、こんな大きなバナナが自分の手の中にある。

植戸上水はもう、自分を制止出来なかった。夢中で皮をむいてその白く輝く果肉を口に入れていた・・・

 

その頃艦橋に上がってきた猪田艦長と仮谷航海長。

航海長は猪田艦長を羅針盤の下にいざない、「ほら見てください艦長、バナナがこんなに・・・」と見上げた。猪田艦長も見上げたその時、

「ああっ!!」

と仮谷航海長が大声を上げた。何事か!と猪田艦長が驚いて航海長を見た。すると。

・・・・航海長の顔が、怒りに燃えているではないか・・・

  (次回に続きます)

護衛艦の主羅針儀(WIKIより拝借しました)


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まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

航海長がどう出るのかが問題ですね、そして猪田艦長は何か助言してくれるのでせうか・・・ハラハラドキドキ・・・

以前ビートたけしさんの本を読んだ時、俺が子供のころバナナなんかめったに食えなかった、風邪でも引いたらやっと食えるかどうか、メロンなんか末期の水代わりだった・・・という記述がありました。
その時代から大して時間がたったとも思えないのに今はバナナを「ばか」にしてますみんな。
まろにい様のおっしゃるように昭和の食糧難の時に持って行きたいと思うことしばしばです。

この先・・・今高級品と言われているものがどんなふうになるのか、みたいような見たくないような・・ですね。

fate さんへ

fate さん、こんばんは!

ご訪問&コメントをありがとうございます、とてもうれしいです!!

バナナ、巷ではスーパーフードなどと呼ばれていますね、各種栄養素がたくさんだとか・・!ちなみに私は、少し青いくらいのバナナが好きですね~、fate さんはどのくらいの熟れ具合がお好きでしょうか?

>史実を調べて、いろいろお勉強されて執筆されていらっしゃるんですね。
尊敬です。
・・・身に余るお言葉です!!
昔昔の子供のころから戦史が大好きで、そんな本ばかり読みふけったなれの果てですww。好きだから書いている、という感じでしょうか。でも私のモチベーションアップに必要なことです^^!

fate さんの小説を拝読しましたが独特の世界、文体に引き込まれますね。またお邪魔しますのでどうぞよろしくです!

お互い頑張ってゆきましょう。

あらら、ひと波乱いや大波乱の予兆でしょうか。
躊躇しながらももぎって、美味しそうに口に入れてしまった植戸上水さんの気持ちが痛いほど伝わってきました。
そして憤怒の航海長。どうなるのでしょうか、横須賀に無事帰れるのでしょうか。

バナナは何よりの果物、いやお菓子の域だったのかもしれないですね。貴重な品も今ではスーパーの特売品に。
そんなに粗末に扱うのなら、時代を遡って昭和の食糧難の頃に持って行って上げたいくらいです。
モノの価値の変遷にも時代を感じますね。

ばなな

バナナ!
ああ、確かに素晴らしい果実ですよね。
なんか、fateも食べたくなりました。
史実を調べて、いろいろお勉強されて執筆されていらっしゃるんですね。
尊敬です。
fateも、少し元気出していろいろ挑戦してみます。
お邪魔しました。
ありがとうございました(^^)

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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