2017-10

「女だらけの戦艦大和」・航海長とバナナ1 - 2011.09.15 Thu

猪田艦長たち一行は、猪田智美中尉と別れて再びセブの中心街に戻って行った――

 

基地司令に乗用車を返すべく、「私が行ってきます」と仮谷航海長が福田司令のところまで車を運転して行くことになった。他の科長たちも「もういっぺんあのオランウータン面を見たい!」と航海長と同行することに。

猪田艦長は「では悪いが福田司令によろしく伝えてくれ。私は副長と、虫垂炎の兵を見舞ってから『武蔵』に戻る」と言って副長と肩を並べて歩き出す。

それを見送って、仮谷航海長は「では行きますよ!」と車のエンジンをかけた。

通信長が「おう!早く行こうぜ!」とはしゃいで皆が笑った。

 

セブ海軍基地司令部に着くと、あの福田赳子司令が満面の笑みでまた出迎えてくれた。

「お帰りなさい、いかがでした?航空基地!良かったでしょう~。まさに海鷲の集う素晴らしい場所でしょう!」

オランウータンそのものの顔に、皆は大笑いしたいのを必死にこらえた。

仮谷航海長が、「ええ。本当に素晴らしいものを拝見できましたよ、来てよかったです」といい皆が意味ありげな笑いをしたが福田司令は当然何があったかは知らないので気がつかない。

「それはよかった・・・。で、今日は私から皆さんに贈り物をご用意しました!ちょっと荷物になって悪いんですが、ここの特産品ですからぜひ皆様で召し上がってね!」

福田司令は、そう言って従兵にたくさんの品――パインアップル、椰子の実、マンゴー、バナナ・・・――を持ってこさせた。

仮谷航海長は「こんなにいただいては・・・」と言ったが、福田司令は笑みを絶やさず「いいんですよ、帝国海軍の期待の星『武蔵』のみなさんを空手ぶらで御返ししたとあったらセブ島司令の名がすたります。末代までの恥です。ですから御遠慮なく!」というのでありがたく頂戴することに。

皆はそれぞれ品物を胸に抱えて『武蔵』に戻る。

福田司令が「お元気で~!ご武運をお祈りいたしまーす!」というのに振り返って、腰を折って礼をする。

福田司令は両手を天に突き上げてその場で背伸びのようなことをしている。それがますますオランウータンぽく見えて皆はすっかりその姿が見えなくなったところで大笑いしたのだった。

 

ところで。

仮谷航海長が抱えていたのはまだ真っ青なバナナの大きな房である。しかしこのバナナが航海長の心をすっかり虜にしていた。『武蔵』に戻ってからも「・・・いや!」と言って離さない。

皆は笑って、「じゃあ、航海長。それが黄色く熟れたら一本、一本でいいから分けてね!」といってなんとか約束を取り付けた。

航海長は、真っ青なバナナの大きな房を艦橋の天井の、羅針盤の真上からつるした。樹になっている格好そのままで航海長の心は嬉しさに震えた。(バナナ、バナナ!ああ、魅惑の果実!早く熟れないかなあ)

そこに戻ってきた猪田艦長と加東副長は、艦橋の天井から異様なものがぶら下がっているのに最初はびっくりしたが、バナナと知って安心。

「ほう。福田司令もいいものをくれたね。これなら内地に着くか着かないあたりで丁度食べごろだね」

猪田艦長はそう言ってバナナを見上げる。ふと思いついて「だが、航海長。ここより自分の部屋のほうがいいんじゃないか?」と航海長に言ってみたが、彼女は首を横に振って「いいえ艦長。部屋に置いていたら知らない間に熟れて食べごろを過ぎてしまうかもしれません。私はここにいる時間のほうが長いですからここに置かせてください。邪魔かもしれないですがお願いします」と懇願した。

猪田艦長も別段断る理由もないので快諾した。

加東副長がこっそりと艦長の耳に「艦長、航海長はバナナと離れたくないんですよ」と囁いた。猪田艦長はふふっと笑って「まさか、そんな子供じみたこと」と言ったが副長の観察眼は鋭かった。

バナナをつりさげたその日から、航海長は羅針盤の下を離れない。いつもバナナを見上げている。『武蔵』が病人を収容し、いよいよセブを出航する時もバナナを見上げている。さすがに航海中は羅針盤を見たり、自分の仕事はしっかりしているがちょっと暇が出来るとすぐにバナナの下に戻っている。

そして「ああ、内地に着くまでに食べられるかなあバナナ。楽しみだなあバナナ」と独り言のように言っては周りの士官や兵たちの失笑を買っている。

「航海長はどうしてそんなにバナナが好きなんだね?」と猪田艦長に問われ、航海長は言った。「私、昔っからバナナはあこがれでしたから。いつかはたくさん買ってそれをひとりで食うんだと、それが夢でした。まあ~、バナナ食いたさに海軍に入った。・・・なんてことはないですが、海軍に入ってバナナを食った時は嬉しかったですね。でもこんなにたくさんは買えなかったから、あの福田司令には感謝ですよ」

「そうか・・・」と猪田艦長は言ってほほ笑み「早く熟れるといいな」と航海長の肩をそっと叩いた。

 

来る日も来る日も、航海長はバナナの下で黄色く熟れる日を待っていた――

 (次回に続きます)


Luxor, Banana Island, Banana Tree, Egypt, Oct 2004.jpg バナナ。航海長の夢・・・

↓オランウータン。福田司令・・・ではないよ(笑)。
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(画像はWIKI他からお借りしましたことをおことわりいたしておきます)
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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さん こんばんは!

福田司令の旦那は・・・プププ!ww!
しかしオランウータンみたいな顔じゃあちょっと・・・ですねww。

私たちの世代くらいまででしょうか、バナナが御馳走だったのは。
私も子供のころよく風邪ひいてその時バナナを食べたのを思い出します・・・
御兄弟がいらしたら羨望のまなざしが痛そうですね・・・!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん こんばんは!

そうですね昔はバナナは高級品でしたね~。
シュークリームもなかなか今のようには食べられなかったですね、でもそれだけにたまにいただくととてもうれしくおいしかったものでした。

仮屋航海長のバナナへの思い入れも案外そんなところかもしれません。
自分に寄り添ってくれるバナナが欲しいもので・・・あっ、意味深だったかな(笑)。

オランウータンみたいに無邪気に過ごしたいなあと切に思う昨今であります・・・タメイキ。

福田司令のご主人、もしかしてあの一国の総理?
う~ん、そっくり。似た者夫婦というと、顔まで似てくるもんですね。写真のオランウータン、ダブらせて想像しちゃいました。

仮谷航海長のバナナ1人占め作戦、気持ち分りますよ。昔なかなかバナナが手に入らなかった頃、風邪で寝込んだ後、母親がバナナを買ってきて食べさせてくれたあの味が忘れられません。
他の兄弟が羨ましがっているのを横目に、自分1人で食べていたことに優越感を持っていましたね。

バナナといえば小さい頃、祖母の土産がバナナとシュークリームでした。果物と洋菓子の甘さに昭和40年代のガキが酔いしれておりました。そのせいでしょうか、脇の甘い人生を着実に歩んでおります。
仮谷航海長の健気な気持ち分かるなぁ。放したくない離れたくない……、一途さが可愛いですね。
もしかしたらバナナを異性に投影しているのかもなんて思うと一層、愛おしくなります。
側に居続けたいと思うバナナ……。いや、人が欲しいものです(笑)

オランウータン、邪心のない生活模様で羨ましいです。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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