「女だらけの戦艦大和」・猪田艦長の○○○・・・2<解決編>

「母上ぇ!!」

その若い航空士官は飛行帽を取るなり、猪田艦長に向かって大声で叫んで走り寄ってきたのだった――

 

猪田艦長は驚きのあまり大きく口を開けたままである。

猪田力代少佐は「ほら姉さん、智美だよ!いやあこんなところで会えるなんてねえ~」と笑っているが『武蔵』の科長たちはひきつっている。

「か、艦長に娘がいた・・・」

「隠し子!?」

「いったいいつ産んだんだろう」・・・

ひと塊りになって囁く各科長たち。それよりもっとひきつっているのは猪田艦長で、「さ、さ、智美。一体お前、どうしてここに・・」としどろもどろになっている。

それもそのはず、猪田艦長は今まで娘がいると言うことをこれっぽちも言わなかった。だから『武蔵』の皆は猪田艦長は独身だと思い込んでいた。

しかも猪田艦長は「経産婦」とは絶対思われないスリムな体型である。子供を産んだなど、誰が想像し得るだろうか?

「母上、お久しぶりです!お元気そうでなによりです。・・・私もこうしてようやっと、中尉として恥ずかしくない姿になれました。叔母様(猪田力代少佐のこと)にはいろいろとお世話になってここまで来れました。母上からもお礼申し上げてくださいね」

猪田智美中尉はニコニコしながら皆を見回している。肩まで伸ばした黒髪が、日差しに輝く。もう一人の士官が気を利かして「じゃ、私は・・」と外してくれた。

それを見送って猪田智美中尉は猪田艦長の元に来て、「母上、本当にお久しぶりでした。私が兵学校に入る時お別れしたからもうかれこれ・・・。でも母上はちっともお変わりなくって私、安心しましたよ」と言って笑う。

猪田艦長は「・・・そ、そうね」と力なく笑う。(しまった・・・私の大きな秘密がばれてしまった。私はひとり身、ということになっていたのに。ああ・・)

その時、猪田艦長の隣にいた加東副長が、

「だまされた・・・」

とつぶやいた。その隣の三浦通信長が副長を見た。副長は目を伏せて、「・・・艦長のうそつき。艦長は前に、『私はひとり身だ』って言ったのに。だのに、娘さんがいたなんて。艦長のうそつき」とつぶやいている。

その目から涙が落ちて猪田艦長はあわてた。「フ、副長。私は決して副長を欺こうとして言ったわけでは」と言ったが副長はそれを遮って「私は艦長を信頼しお慕いしてここまで来ました。・・なのに艦長は、艦長は・・・」というなり泣きだした。

わけがわからない、という顔で見ている猪田少佐と猪田中尉をちらっと見て、猪田艦長は「ここではなんだから」と妹に「部屋はないか?」と言って基地司令部の建物の一室を借りた。

狭い部屋に十人以上がひしめく事態になった。

猪田少佐も猪田中尉もなぜかくっついてきている。そして加東副長が騙されたうそつき、と泣くのを面白そうに眺めている。

加東副長は、大きなソファに座らされ科長たちに慰められている。猪田艦長はほとほと困ってしまった。

「ねえ、副長。これだけはわかってほしい。私は副長を騙そうとか欺こうなんてこれぽッちも思ったことはない。なぜなら副長は私にとってなくてはならない大事なペアだからだよ?・・その、娘がいたのを黙っていたのはよくないことかもしれなかったが私は私生活をあまり人に話すのは好きではなかったからだ。『ひとり身だ』と言ったのはその場の雰囲気で言ったに過ぎないんだ。でもそれが副長を傷つける結果になったんだね・・・」

猪田艦長はそういうと次の瞬間その場にガバッとひれ伏していた。そして、

「済まない副長!!」

と大音声で謝罪した。サア驚いたのは加東副長と他の科長たち。副長は泡を食って、「猪田艦長、いけません!手をあげてください!」と叫んで通信長や運用長と一緒になって艦長を床から引き剥がす。

しかし艦長は「いや!謝らねば私の気が済まない!・・・放せ、放してくれえ!」と暴れる。更に高射長や、主計長・砲術長などが艦長に飛びかかって終いには艦長はソファに寝かされる形で押さえつけられてしまった。

その騒ぎを見ていた猪田智美中尉は、静かに口を開いた。

「母上、母上はとても愛されていていいですねえ」

艦長以下『武蔵』の皆が一斉に智美中尉を見た。猪田智美中尉はほほ笑みながら、

「私にはなんとなくわかるんですよねえ、こちらの副長さんは母上を好きなんですよね?だから私の存在がわかって嫉妬なさったんではないですか?たぶん副長さんは母上を自分の一人のものになさいたかったんだと私は思うんですよねえ」

と言った。猪田少佐もうんうんとうなずきながらほほ笑んでいる。

「・・・副長?」

と猪田艦長はソファに押さえつけられながら加東副長を見上げた。加東副長は頬を真っ赤に染めている。

通信長が「副長。あなたやはり・・・」と言って、副長はもっと顔を紅くした。運用長が「通信長、何か知ってるのかね」と聞く。

通信長はちょっと咳払いをして、「もう言ってもいいでしょう、副長。副長はね、『武蔵』に乗り込んだ時から猪田艦長に恋心を抱いていたんですよ。そんなの、副長が艦長を見る顔を見ればわかりますよ」と言った。

「まあ、素敵ねえ!」と猪田少佐が両手を合わせてうっとりしている。智美中尉も嬉しそうに笑っている。そして、「母上、本当に幸せ者ね」と言った。

猪田艦長はやっとこさソファから解放されて副長の前に立った。そしてその両手を取ると、

「副長、本当にごめんね。そして副長の気持ちが今日、わかりました。今まで鈍くってわかってあげられなくって本当にすまなかった。そっけなくした日もあったと思う、謝ります。・・・これからも私と一緒に『武蔵』で生きて行ってほしいんだが」

と副長の瞳を見つめた。

「艦長」と副長は言うとその身を艦長の胸に預けたのだった。皆の間から拍手が沸き起こった。

猪田智美中尉は二人の前に進み出ると、

「加東副長、母をどうぞよろしくお願いいたします」

と言って副長に右手を差し出した。副長はその手を握って「・・・ありがとうございます。艦長とならどこまでもお供いたします」といい、再び拍手が沸いた。

 

「艦長の○○○」・・・む・す・め。

しかしあまりに意外で強烈で鮮烈な印象を皆に与えたのは言うまでもなく、その日のうちに三浦通信長は各戦艦の艦長宛にこのことを打電してしまったと言う。

噂話の大好きな女たちのこと、この話はあっという間にGFはもとより全海軍に広まってしまったと言う。

山口たも少将はそれを聞いて、

「へえ子持ちの艦長!居るんだねえ。って他にも探しゃあいくらでも居そうだがね」

といい、『大和』では森上参謀長が「猪田さんにいるんだから梨賀、貴様意外と五人くらいいるんじゃねえのか!こら、正直に言え!」と絡み、梨賀艦長は「いないったら!何言ってんの参謀長の馬鹿っ!あっちいけっ!」と大喧嘩になったとか。

――いずれにしても長閑でよろしいことで。

 

  ・・・・・・・・・・・・・

猪口智さんについて。

海兵七二期の戦闘機乗りです。お父様の猪口敏平少将がシブヤン海で『武蔵』と共に沈んだ後十日ほどのちにご自身も出撃なさって戦死されています。

猪口智中尉のおすがた。(画像お借りしました!)

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)