「女だらけの戦艦大和」・猪田艦長の○○○・・・!1

フィリッピン諸島・セブ島に帝国海軍航空隊の基地がある――

 

そのセブ基地に向かう数隻の帝国海軍の艦艇がいた。何を隠そう『大和型』弐番艦の『武蔵』である。そして随伴の巡洋艦と駆逐艦、潜水艦。

『武蔵』たちはトレーラーから内地に帰投するその途上であった。もう長いことトレーラーにいて出来なかった艦の補修や、乗組員に休暇を与えなければならない。それで横須賀の母港に帰ることになったのである。

当初小笠原を目指していたのだがその方面に大きな台風があるという報告を気象班から受けた副長と航海長は、艦長にマニラへの寄港を報告したがその直後艦内に急病人が出て、急きょ一番近いセブに行くことになったものだ。

「セブか。ここは初めてだね」

猪田艦長は防空指揮所に上がって始めて見るセブ島を遠望した。そばに、加東副長がいてうなずいている。

やがて『武蔵』は港の沖のブイにつながれ錨をおろした。

急病人はランチに乗せられてセブの基地の病院に担ぎ込まれる。それを見ながら艦長は「大丈夫かね、一体どうしたんだろう」と心配げ。

副長が、「なんでも急性盲腸炎だそうです。まあ、発見が早かったんで大事には至らないと軍医長が。術後二日ほどでこちらに戻ります。まあ、内地に着くまで安静ですが」と言って安心させた。

「そうか。あとでちょっと顔を見に行ってやろうじゃないか。初めての場所で心細いといけないからね」と猪田艦長は言って、二人は指揮所を降りた。

 

『武蔵』は各部署の点検を終えると半舷づつの上陸になった。

初めてのセブで浮き立つ乗組員に「待ち受け一番」を配りながら「羽目を外すな、『武蔵』の名を汚すんじゃないぞ」と注意をして回る甲板士官。

次々に「武蔵」を離れて行くランチや内火艇――

 

「艦長、艦長はどうなさいますか」と加東副長が言った。猪田艦長は副長を見て、ちょっと考え込んだが、「そうだね。ちょっと降りて見ようか。ここの基地司令にも挨拶しておかないといけないし。そうだ、各科長もみな、基地司令のところにそろって行こうじゃないか」と言って科長が集められた。

『武蔵』を降りた艦長一行は、セブ島基地司令部に向かう。

途中、零戦の編隊が銀翼を光らせながら蒼い空を飛んでゆくのを見た。砲術長が眩しげにそれを見上げて、

「ああ、さすがわが航空隊。一糸乱れぬ編隊飛行は素晴らしいものですなあ」

と感嘆の声をあげ、航海長も同意をした。それを聞きながら艦長はふと思うことがあった。

(あれは・・・元気でいるのだろうか。どこにいるんだろう)

 

基地司令部に着くと、司令官の福田赳子大佐は両手放しで一行を迎えてくれた。彼女は少しオランウータンに似た顔に満面の笑みを浮かべ抱きつかんばかりにして皆を迎えると、

「このところお客さんが来なくってさみしかったのよ~。嬉しいわ。しばらくここに居られるんでしょう?ゆっくりなさってね」

と言ってニーッと笑って見せた。

その顔に思わず噴き出しそうになった加東副長。仮谷航海長がぼそっと「こんな南方に長いこといると顔までここの生き物に似てしまうんでしょうかねえ」と言って、運用長だの主計長だのが必死に笑いをこらえているのが気の毒なようだ。言った本人の仮谷航海長は真剣で笑いもしない。

更に、「御本人は自覚されているのでしょうかねえ?うーん・・」と唸っている。

加東副長も笑いを必死にこらえながら、

「航海長。福田司令はご自分を『客観的』に見ることが出来ると以前おっしゃっていたからとうに自覚なさっておられるよ」

と言った。仮谷航海長は、「はあ。そうですかあ・・・」と言って感心している。

そんなことをつぶやかれているとは知らない福田司令はオランウータン顔で嬉しそうに笑っている。

 

一行は、福田司令の心尽くしのごちそうをいただき、司令の「そうだ、せっかくですからここの航空基地もご覧になっていらしたらいいですよ。可愛い海鷲たちの勇ましい姿をぜひ、内地のお土産話に!」と勧められ、乗用車を仕立ててそこから三〇分ほどのセブ航空基地に。

道々、運用長が「可愛い海鷲がいるんでしょうかねえ。私は海軍に入ってから可愛い兵隊とか士官なんか見たことないんですがねえ」とこぼす。

その声に猪田艦長が振り返って「運用長はもっと視野を広げなさい。あの『大和』にとても可愛い、いやきれいな天女のような兵がいるではないか」と言ってやった。

運用長は「ほう!『大和』にですか。これは一度・・・」といいかけたが猪田艦長に「でもしかし、聞いた話によれば彼女にはもう艦長以下数名が名乗りを上げているらしい。ちょっともう無理だね」とにべもなく言い、がっくりくる運用長。

 

やがて乗用車は航空基地に。

降りたった一行を出迎えたのはなんと猪田艦長の妹の「猪田力代」少佐。思わず「姉さん!」と叫んだ猪田少佐に困った顔でほほ笑む猪田艦長。

「姉さん、お久しぶりです・・・『武蔵』の皆さま、いつも姉がお世話になりまして御礼申し上げます」と猪田少佐は敬礼。腰の低い人のようだ。

その猪田少佐に案内されてあちこち見回る一行、普段接触のない航空基地・部隊だけに皆は興味津津である。

そこへ飛行服の士官が二人歩いてきた。

士官は猪田少佐に敬礼して「戦闘六三四〇空、ただ今セブ島基地に着任いたしましたっ!」と申告。

「御苦労です、しっかりやってくださいね」と猪田少佐は礼を返したがその時「あれえ!」と大声を出した。

そして猪田艦長を振り向いて、「ね、ね、姉さん・・・!」と新任の士官の一人を指して叫んだ。

猪田艦長、その士官の顔を見て「うわあ!!」とこれも普段のクールな艦長に似合わない大声をあげていた。
皆が一体どうした?という表情で猪田艦長とその妹の少佐を見つめている。すると、航空士官が飛行帽を取るなり叫んだーー
(次回に続きます)

「武蔵」艦長猪口敏平少将です。(画像はお借りしました)

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Comments 2

見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろ様
おはようございます!

今や「懐かし」??の福田さんですが今いったい何してるんでしょうね、まったく見えなくなっちゃいましたね~。
「あなたとは違うんです」の超上から目線が癪に障るおっさんでした。

猪口艦長、いい顔しておられますよね。
この頃までの日本人にはまさに「武士」の面構えの方が多かったですね。軍人さん以外でも一般人と言われる人の中にもきりっとした表情の「大人」がたくさんいたのに、今の日本人は精神も顔つきも「幼稚」になり下がりました。
そして戦争がなかったら、この方たちが生きておられたら日本の今ももっとずっとましだったろうと思うと、申し訳ない思いになりますね・・・。

2011/09/14 (Wed) 07:57 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

福田赳子、オランウータン!!
久々に「貴方とは違うんです!!」のオヤジの顔を思い出しました。
あの人も今頃は何をしているんだか。

それにしても武蔵の猪口艦長のような武士の面構えの男、最近まったく見かけなくなりましたね。
政治家に今こそこのような方が蘇って下さったらと心から思います。
戦争なんかがなければ、多くの逸材によってきっともっと素晴らしい日本が完成していたかもしれないですね。
今の惨状というか荒廃を思うとある意味、歴史の綾が残念です。

2011/09/14 (Wed) 00:13 | EDIT | REPLY |   

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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)