「女だらけの戦艦大和」・愛のサイクリング2

いよいよ麻生分隊士と見張兵曹の休暇の日が来た――

 

今回の休暇では、例の折りたたみ自転車を持って上陸する兵がほとんどで、甲板士官は「このくらいさっぱりしてればいいのになあ」とため息をつくほど、格納庫の自転車はきれいに出払っている。

麻生分隊士は、松岡分隊長から拝借した自転車をロープで縛ってランチにおろした。「俺は分隊長みとうに器用じゃないけえ。うっかり自転車を海に落として錆らかしたら何回腹を切っても足りんけえな」そう言って分隊士は自転車をロープでくくったのだった。

見張兵曹は自転車をおろす様子を興味深げにしかし、心配げに見つめた後自分も分隊士と一緒にランチに乗り込んだ。

先に乗りこんでいた長妻兵曹が「しかしでかい自転車じゃなあ。これ一つで兵隊が三人は乗りはぐってしまうんじゃけん。でもま、今回はみんな自転車を持って行くけえ、あいこじゃね」と言って笑った。

見張兵曹は長妻兵曹に「長妻兵曹は、これからどうなさるんですか?どこか行くあてがおありですか」と聞いた。長妻兵曹は嬉しそうにウヘヘ、と笑って「俺か?俺はオトメチャンと合流する日まで『裏飯屋(うらめしや)』で遊ぶんじゃ。小泉もいるぞ。あいつは先のランチでおりたんと違うか?ま、オトメチャンも分隊士とゆっくりしてくるとええよ」と言った。

『裏飯屋』とは下士官がよく使うここトレーラーでも名の知れた料理屋で長妻兵曹や小泉兵曹の大好きな「男性」と遊べるところである。

「ほう、恨めしや、ですかあ。なんだか怖げなところですねえ」という見張兵曹に長妻兵曹は、ハハッと笑って「怖げなところかあ。うーん。オトメチャンにはそうじゃな、怖いところかもしれんなあ」という。

そのそばでさっきから話を聞いていた分隊士は(やれやれ。うまく話が噛みおうてないなあ)とおかしくて仕方ない。

 

ともあれ、皆は桟橋につきそれぞれの方向に分かれた。

麻生分隊士は見張兵曹を荷台に乗せて「ええか、俺にしっかりつかまっとれよ」というと自転車をこぎ出した。見張兵曹は初めて自転車の後ろに乗ったので嬉しそうである。「分隊士、ここに座布団まで。ありがとうございます」と兵曹は言った。

分隊士はちょっと後ろを振り向いて「ああ、それはなあ松岡分隊長がくくってくださったんじゃ。じゃが、えらい埃じゃったから俺後でこっそり洗うたんじゃ」と言って笑った。

「ほうでしたか」と兵曹も笑う。

自転車はまず、いつもの宿に行った。分隊士は「ちょっとここでまっとってくれるか?」と自転車と兵曹をその場に残して宿の中に。

しばらくして分隊士は何か包みを持って出てきた。そして「休暇中の部屋を取ってきた。で、これは今日の弁当じゃ!」といいその包みを兵曹の前に突き出して見せた。

「わあ、弁当でありますか!楽しみですねえ」とその包みを受け取って嬉しそうに声を上げる見張兵曹。包みから何やらいいにおいが漂っている。

「さあ、行こう。この反対側にええ所があるんじゃ」分隊士は兵曹を再び荷台に乗せると走り出す。

最初は海沿いの道をガタガタ走る。蒼い空に青い海。見張兵曹は深呼吸した。遠くに輸送船だろうか、どことなくのんびりした様子で航行している。

そのうち自転車は緩やかな坂道に入り、海を背にするような格好に。

「分隊士?つろうないですか?」と兵曹は分隊士を気遣う。分隊士は「ちいともつろうないよ。それよりオトメチャン、自転車から落ちんようにせんと」とこちらもオトメチャンを気遣う。

道は丘を回るような形で頂上に向かって伸びていて、海が見えたり見えなかったりと変化があって面白い風景である。

周辺には短い草が生えていてところどころにきれいな花さえ咲いて風がさわやかである。

他に人影はなく、分隊士の息遣いと自転車をこぐ音しかしない。

「世界に二人っきりみとうですねえ」オトメチャンはつぶやいた。それを聞いて分隊士も「ああ、ほうじゃねえ。きっと今世界に二人っきりじゃろうね」と言って二人は笑いあう。

 

自転車は、丘の頂上に着いた。

「ほらここがこの丘のてっぺんじゃ!」

麻生分隊士は、荷台からオトメチャンを抱きおろした。オトメチャンは大事な弁当の包みを胸に抱えて降りたった。

「うわあ・・・」とその唇から声か漏れた。「素敵なところですねえ・・・分隊士」

そこはまるでじゅうたんを敷き詰めたように短い草が生え、二本ほど大きな木があり枝を伸ばして天然の日傘のようである。

四方は海、青い海で目の下には今さっき上がってきた丘の斜面にその丘を巻く道。ずいぶん思ったより高い丘だったねえ、と分隊士が腰の手ぬぐいを取って額の汗をぬぐった。

丘のふもとには宿のある小さな町が見え、さらにその向こうには現地の人の信仰の山がある。オトメチャンはその山を見て「あ、あの山はいつだったか私が連れてかれたところですね」と指さして笑う。あの時は大変な思いをしたが今となっては笑い話。

自転車を大きな木のそばに置いて二人は木陰に座った。

気持ちのいい風が吹いてきて、二人のほほをなでて行く。

ふと、麻生分隊士はオトメチャンの後ろ髪に手をやると、その髪を縛っている元結――これはスマトラ作戦の際自分が贈ったものだが――を解いた。

いつの間にか肩の下まで伸びたオトメチャンの黒髪がさらりとほどけた。

「あ、分隊士・・・」といいかけるオトメチャンに分隊士は、「艦内じゃないんじゃけえ、ええよ。たまには外でお天道様の下でこうしてオトメチャンのほどいた髪を見たいんじゃ」と言ってその手で優しく梳いた。

艦内ではどんなに長い髪もしっかり縛ってまとめないと恐ろしい甲板士官が「どりゃ―!そこな兵隊、髪縛らんかあ!」と髪切りハサミを持って追いかけてくる。このハサミで切られても文句は絶対言えないし、だれも取り合ってはくれないのだ。艦内で髪をほどいていいのは入浴の際と、医務室に「入院」の時だけである。

麻生分隊士はいとおしげにオトメチャンの髪を梳き、そして撫でた。木漏れ日に、オトメチャンの髪はキラキラ光って美しい。

この上なくさわやかな風が二人を包んで流れて行く。

二人の見つめる先には、「女だらけの大和」がその身を浮かべている。

「こうして見ても『大和』は大きいですねえ」というオトメチャン、それに「ああ、でかいのう。あがいに大きな艦に乗っとる言うんがこうして見ればなんだか信じられんような気がするわ」と分隊士は答え、次の瞬間いきなりオトメチャンをその場にあおむけに倒してしまっていた――

  (次回に続きます)


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Secre

オスカーさんへ

おはようございます~

ご心配いただきましてありがとうございます。
なんだかこの夏は昨年より疲れまして・・なさけないことでございます(泣)。

さあこの二人はこの場所でいったい何をするのでしょうか(ってもうだいたい見当は付きますがww)、どうぞお楽しみに。

オスカーさんも御身大切になさってくださいませね。

こんばんは。お加減はいかがですか?前々からの疲れがでてきたのでしょうか?
今後の展開、どうなるのかな~と待つ時間もまた楽しみですので、どうぞゆっくりして、お大事になさって下さいね。

ジスさんへ

こんばんは

ジスさんも休暇ですね!私も14日から盆休みに入ります。
いいですよね~休暇って、言葉聞いただけでも嬉しいですもん、実際取れたらもう舞いあがっちゃいますww。

さあ、次回はどうなりますか。
「仰向けに~」ときたらその次はあれしかないドーー!!

素敵な休暇でありますように。
暑いですからくれぐれも御身大切になさってね。

matsuyama さんへ

こんばんは

オトメチャン、内面はもう立派な大人ですね。
二人の間には性別も階級も超えた信頼が構築されています。
オトメチャンはもう「分隊士の伴侶」と言ってもいいかも知れないですね。

さあ、次回どうなりますか??
ご期待くださいww。

鍵コメさんへ

お元気ですか?
情報ありがとうございます、明日行くつもりでしたが体調悪く断念せざるを得ないようです。

残念です・・・

タイトル

おはようございます。いつもありがとうございます。

「休暇」って素晴らしいですね。私もお陰さまで本日より数日ですが休暇をもらえました。気持ちの良い景色、大好きな人との時間・・いいものですね。
久々に次回は(;゚∀゚)=3ハァハァな展開でしょうか・・?

タイトル

「分隊士?つろうないですか?」「世界に二人っきりみとうですねえ」。
オトメちゃんの最近の言葉使い、ちょっと大人っぽくなってきてませんか。
やはり分隊士を信頼しきってきているのでしょうか。

二人だけの愛のサイクリング。二人だけの愛のホリディ、二人だけの愛を語り合う木陰。分隊士に献身的なオトメちゃん、さらに分隊士への想いが募ってきたようですね。
仰向けに倒れて分隊士をむかい入れたオトメちゃん、さあ、この後どうなる(笑)。

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まろゆーろさんへ

おはようございます

美しい南方の島を心のうちに描きながら書いてみました。まだ見ぬ景色ですが想像はいくらでも広がります。

そして女同士ではありながら純粋な思いの二人、美しい景色に溶け込んでいますか?

そして・・・分隊士。また始まったようですね・・・ww。

タイトル

キラキラ輝くような美しい風景の中でふたりだけの切なすぎる光景ですね。
淡い思いなのでしょうか。ピュアな気持ちって本当にきれいだなぁ。
倒された……、次回が楽しみです。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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