2017-09

「女だらけの戦艦大和」・愛のサイクリング1 - 2011.08.07 Sun

「女だらけの戦艦大和」は、スマトラ作戦を終えてトレーラー島に戻ってきた――

 

戦争の影を感じさせないトレーラー島に『大和』の皆はほっと息をついた。そしてそこここから「やっぱトレーラー島はいいなあ。静かだし平和だし。これほどいいところはないよ」という声が聞こえてくる。

もちろんハワイもよかったが、落ち着いているという面ではここは最高の外地であるかもしれない。

「日本の次にここが故郷になっちゃったね」と、亀井一水などは言っているが、それは皆同じ思いであろう。

 

トレーラーに戻り平気の点検や修理を終えた後乗組員には交代で休暇が出ている。特に「特特陸戦隊」としてあの作戦に従事した者たちには五日の休暇。この艦にはもう、泊まりがけの出来ない階級の兵はいないが、それでも五日の休暇は素晴らしい贈り物となった。

そのほかの将兵は三日。

見張兵曹や石場兵曹たちは陸戦に従事したので五日の休暇である。そのうち三日をオトメチャンは麻生分隊士と過ごすこととなる。

航海科の居住区のあたりで、「残りの二日は、どうするんだ?」と聞く麻生分隊士にオトメチャンは、「石場兵曹と長妻兵曹と一緒に過ごします。本当は岩井少尉や増添兵曹も一緒なら、あの時のお礼が出来たんですが」と言った。あの時の、とはパレンバンでオトメチャンが一時的に生死不明になり必死で皆が探した一件を指している。

岩井しん特務少尉と増添兵曹はもう休暇に入っている。

「そうか。岩井少尉はオトメチャンが無事だった時とっても喜んでおられたぞ。あの方は本当にやさしいお人じゃな」と麻生分隊士は言った。オトメチャンもうなずいた。

「明日から上陸だが、オトメチャンはどこか行ってみたいところとかあるか?宿はいつものところだけど、たまにはちょっと遠出しようかと思うてな」

分隊士はなんだかウキウキした表情でいる。オトメチャンは「分隊士はどこかいいところをご存知ですか?ご存知ならそこへ」とほほ笑む。

分隊士は少し思案顔だったが「あ、そうだ」というと「ちょっと待っててね」というとその場を離れた。

 

分隊士は、松岡分隊長を探していた。途中行き会った石川水兵長は「松岡分隊長ですか?トップのトップにはいらっしゃいませんでしたか?」と言って分隊士は(そうだそこがあったか!)と、防空指揮所に駆け上がる。

はたして分隊長はトップのトップ、射撃指揮所の屋根に座り込んでいる。その分隊長に、麻生分隊士は「松岡分隊長、そこは危ないですよ!降りてください!・・・そしてちょっとお願いがあるのですが」と叫んだ。

分隊長は下を見下ろして「ああ、麻生さ―ん!あなたもここに来ませんかあ!いい眺めですよー!」と答える。分隊士は手を横に振って「いやです、私はそんなところに行けば死んでしまいそうです。電探に触れば感電死ですよ。・・・お願いしますから降りてきてください!」と叫ぶ。

松岡分隊長は「麻生さんは大げさだなあ」と笑いながらようやく腰を上げた。

 

目の前に来た分隊長、「どうしたの麻生さん。何かお願いがあるの?・・・あ、わかった。テニスを教えてほしいのかな?」と言ってラケットを構えて見せた。

分隊士は「いえ、違います!」ときっぱり言って、少し残念そうな分隊長である。麻生少尉は「あのですね、休暇中分隊長の自転車を貸してはいただけないでしょうか」とこれはおずおずという分隊士。

その分隊士の肩をいきなりぐッ!とつかんで分隊士は驚いた。が、松岡分隊長は満面の笑みで「麻生さ―ん、あなたが初めてだよ。あの自転車の良さに気が付いてくれたのは!流石伊達に何年も海軍生活送ってるわけじゃないね。いいよ、麻生さん。自由に使ってくれたまえ」と言ってくれた。

麻生分隊士はほっとして「ありがとうございます、分隊長」と言って笑った。松岡分隊長は至極機嫌がいい。

あの自転車は他の折りたたみと違い、運搬車仕様なのでいかんせんデカイ。折り畳めないので場所をとって、甲板士官やほかの分隊員からはあまりよく思われていないようである。だが松岡中尉は「何を言うのだ、君たちはー!昔っから言うだろう?大きいことはいいことだ、ってね。そのうちこれの良さを知ることになるよ?」と言って気にもしていない。

気にしているとすれば、だれもこの大きな自転車を借りにこないということだったが。

「で?休暇はいつからかな、分隊士」松岡分隊士は聞いた。麻生少尉は「明後日からです」と答え、松岡分隊長は、「そうか!では早めに自転車のメンテナンスをしておこう。ね、麻生さんも来て?」というと分隊士の手をひっぱって最上甲板に向かった。

 

途中、昼戦艦橋の入り口に置いてあった「空気入れ」を掴んて降りた松岡分隊長は、自転車格納庫(本来水偵格納庫だが一部を裂いた)に分隊士と入った。

「おーう、私の自転車はいつもすぐに見つかっていいなあ!」

そういいながら分隊長は大きな自転車を引き出した。その途中、分隊長の自転車が他の折りたたみ自転車に当たってドミノ倒しのように自転車群が倒れるという悲喜劇があったが。

「やれやれ。ではまず・・・」

と分隊長はチェーンの具合だとかペダル、ブレーキの調子を見る。うん、なかなかいいぞ。空気入れでタイヤを膨らます。・・・いい感じだ。

最後にきれいに拭きあげて、「ところで、これでどこかに行くの?ひとりで?」と分隊士を見て聞いた。

分隊士は少し顔を赤らめると「あの、見張兵曹を後ろに乗せて遠出をしようかと思いまして」と少し小声で言った。小声で言ったのは自転車格納庫の奥に飛行科の整備員が数名いたからだが、松岡分隊長はその辺の機微に疎いので、ものすごい大きな声で「ああ!あの特年兵君とお散歩かあ!いいねえ、サイクリングサイクリング、ヤッホーヤッホー・・・ってか!?この島には結構眺めのいいところがあるらしいから行くといいよ、ウヒョー!」となんだかわけのわからないことを叫んでしまい、整備兵たちは一斉にこっちを見て笑う。

「分隊長、お声がでかすぎます!」と慌ててたしなめた麻生分隊士に、

「じゃあ特年兵君はこの後ろの荷台に乗るんだが・・これじゃお尻が痛くなるなあ」

というと、格納庫の隅にあった小さな座布団のようなものを荷台にくくりつけてくれた。分隊士はその心使いに感激し、「ありがとうございます分隊長。大事に使わせていただきます」と礼を述べたのだった。

分隊長は満足げに微笑むと、

「明後日か、晴れるぞきっと」

と言って自転車の荷台をぽんぽんと叩いた。すると・・

くくりつけられた座布団からもうもうと埃が立った――

  (次回に続きます)


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

こんばんは!

ものすごい戦闘の後は暫くのんびりしたいですね。というわけで今回はまずサイクリング♪

心の通い合いって大事ですよね。話に聞いた戦時中でも時にはいさかいもあったでしょうがみんな根底ではつながり合っていたようです。
やはり国をあげて一つの目標だとか信念に突き進んでいた時代だからこそなんでしょうけれど、しかし今の日本はひどすぎますね。
震災後の「日本を一つに」云々というスローガン?キャンペーン?も結局は原発のこと一つ見たって被災地いじめをしてるじゃないですかねえ?
かつての日本の良い心を取り戻したいものです。

自転車、確かにあれは得に後ろが怖いです。
でも自動車に乗ってるとトンデモハップンな自転車運転者があまりにも多いのが腹立ちます。
「死にてえのか!」ってどなりたいですww。

ともあれさわやかな風の中を髪をなびかせ自転車を転がしたいと切に思う昨今です。

タイトル

こんばんは。

長閑ですね。みんなが生き生きしている。
そして心が通い合ってるのが今の私たちからしたら羨ましい限りです。
自転車かぁ、そういえば久しく乗ってないなぁ。
ミラーのいっぱいある車に乗り慣れてると、前後左右の確認がおぼつかない自転車乗りが怖くなった覚えがあります。でも今頃の季節の自転車、きっと爽やかな汗がかけるでしょうね。
せめて気分だけでも分隊士さんにあやかりましょう。

matsuyama さんへ

こんばんは

私も最近自転車はご無沙汰になっています。この頃自転車の人たちのマナーが悪くって怖い思いばかりしています。こうなると自転車にも「免許制度」が必要になってきますね~、う~む。

あの運搬用の自転車今見ないですね。
今は変則付きや電動付きが多いからそうそう坂道でも苦労はないようですが、なかった時はホント苦労でしたよね。
私も覚えがあります。でもいい思いでです。

暑さ昨日今日とものすごいです(汗)!!
その前が涼しかったからちょっと体調が狂っていますね、仕方ないことですが。

matsuyama さんも御身大切になさってくださいね。

オスカーさんへ

こんばんは

ありますよね、何気に座布団なんかひっぱたいたらすっげえ埃がボハーって・・・ゴホゴホ。ww。

きっと本当の戦争の時の兵隊さんたちも戦いの合間に何か心休まるものを見出していたんじゃないかな~と思いますね。娯楽に囲まれた今の時代より、そういうものを見つけ出すのは当時の人たちの方が上手だっかたも知れないですね。

さあ!
二人乗りサイクリング、どうなりますか。
ご期待ください!

サイクリングか。ここ暫く自転車に乗ったことがないですね。
最後に乗ったといえば、高校時代の通学時でした。
昔の自転車って今みたいに便利な装置が付いてないですからね。
松岡分隊長の自転車みたいなものですよ。運搬用じゃありませんけどね。
今みたいに変速装置が付いてないですから、坂道を登るのがつらかったんですよ。
それでも当時としては洒落た自転車で、買ってくれた親には感謝してます。
冬は寒いけど、夏は颯爽としてました。せめてこの夏くらいは爽快な自転車で涼みたいですね。

そちらの残暑いかがですか。あまり無理をせず健康維持に努めてくださいね。

こんにちは。座布団のホコリがあまりにリアルで笑えました!! (((・・;)戦地にあっても自分たちで気分転換をはかろうとするのがほほえましくも痛ましくもありますね。
続きが気になります。私のようにノーブレーキで坂道疾走!はないと思いますが…チリリン2人乗り♪いいな(*^^*)


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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