「女だらけの戦艦大和」・可愛いのが好きなのに。

スマトラ・パレンバン作戦が日本軍の大勝利に終わり、「女だらけの大和」他の海軍艦艇はそれぞれの泊地や基地に戻り、「女だらけの陸軍」も元の本拠地に帰る――

 

そんな勝利の知らせを、マレー半島で受け取った第二五〇軍の山下ともよ中将は満々の笑みを浮かべた。

作戦参謀の一人が「山下中将どの、よかったですね。流石中将どの御みずから手塩に掛けられた猛象部隊ですね。敵を次々蹴散らしては捕虜籠に入れて行ったと言うじゃないですか。流石『マレーの虎』と言われるだけのことがありますな。あのイギリスのペーシベル将軍に『イエスかノーか』と迫った話は内地では大評判であります」と持ち上げた。

山下中将は「あれ!あれそんなに居丈高に言ってないのにどうしてみんなで話しを大きくしちゃうのよ~。おかげで私、なんか一部では態度の大きいいやな女みたいに言われて哀しい!」と言いながら中将には大きな悩みがあった。

 

なんで、私がマレーの『虎』なんだろう??

 

それは、山下中将があの真珠湾攻撃と時を同じうしてマレー半島に上陸、一一〇〇キロの道のりをなんと五十五日間という短期間で走破したところからついたいわばあだ名である。まるで俊足の虎のようだと皆が称賛の心をこめて「マレーの虎」と命名したのだが・・・

中将は実は「虎」は嫌いだったのだ。

(よりによって私が嫌いな「虎」になぞらえられるなんて皮肉だわあ・・・なんで「虎」なんて。あんなの全然可愛くないし)と常常思っていたのだった。

ある日山下中将は考え事をしながら司令部の庭を散策していた。

その時、目の前を何かが横切った。

「あ!」

と声をあげてそのあとを追う中将。やがてその胸に抱いてきたのは一匹のまだ幼いかわいらしい子猫であった。

中将は嬉しさから司令部の建物に掛け込んで、「ねえ見てえ!ほら可愛い猫ちゃん!」と叫んでいた。

作戦参謀や、部下の将官が何事かとどやどややってきた。そのみんなの目の前に、中将は子猫を高々と掲げて、

「可愛い猫ちゃ―ん。私猫ちゃんだ―いすきぃ!」

と叫んだ。参謀や将官たちは意外な・・・という顔つきになった。一人の参謀が、「山下中将は、猫よりも虎のほうがお似合いですよ。・・・そうだ、この猫は東京の東条英子首相に送って差し上げたらどうです?東条首相も猫をお好きなんじゃないでしょうか」と言うと、山下中将の口がキュッととがって、

「いやっ!あの子だけにはあげたくないっ!私あの人あんまり好きじゃないのよね。・・・なんて言うか、悪い子じゃないんだろうけど、けど馬が合わないんだわ。この猫ちゃんはだから私の物ッ!」

とすねた口ぶりになって、猫に「いこっ!いいものあげるからね~」と囁くと、二階の司令官室に上がって行ってしまった。

ポカン、とする参謀に幕僚の一人がそっと「馬鹿ねえ。東条さんの名前だしちゃダメじゃん。山下中将と東条さんはなんでか仲良くないんだから」とたしなめた。

ああ、しまったと舌打ちする参謀。でも中将はもうそのことは気にかけてはいない。今、司令官室で子猫にとっておきのおやつを与えるのに夢中なのだ。

(ああ。可愛い、なんてかわいいんだろう。私は犬も好きだけど子猫ちゃんの可愛さって格別!)そう思う中将の頭に電光のようにひらめいたことが・・・!

 

そして次の日、山下中将は司令部全員を集めて宣言した。

「私は今日から『マレーの子猫ちゃん』と呼んでほしい!」

ええっ!・・・とどよめく将官たちをしり目に、中将はふふんと笑って「虎よっか可愛いもん。私はね、トラみたいな狡猾な生き物より可愛くって愛される子猫ちゃんと呼ばれたいのよ。いい?このことみんなでまずは二五〇軍に布告ね。で、みんなで現地民にも布告してよ?私のことは『マレーの子猫ちゃん』、「虎」なんて言ったらいじめちゃるから、いいわね!」

強い意志を感じる言い方に皆は少し黙った。

(子猫ちゃん・・強そうじゃないなあ)

(ハリマオ)だからかっこいいのになあ。中将どうして変えちゃうんだろう)

皆の思いが交錯している。その時、幕僚の一人がぼそっと言った。

「山下中将どの、虎は「ネコ科」でありますが」

中将の顔がハッとした表情になった。

「ええ?ってことは・・・虎は猫の仲間ってこと?」

「そうであります。ですからこの子猫も大人になったら虎のように勇ましくなるであります」幕僚は自信満々に言い放った。そんなことはないと思うのだが・・・。

がっくりとする中将に、参謀が言った。「山下司令官殿、司令官殿はやはり勇ましい虎であることが運命つけられたお人なのです。ですから自信をお持ちになって『マレーの虎』としていてください!」

拍手が起きた。

山下中将は少し照れながらも、(ああ、残念だわ。せっかく「ネコちゃん」って呼ばれるいい機会だったのに)と思う。

その軍服のポケットで子猫が顔を出して中将の顔を見て「ミャ―」と小さく鳴いた。

朝のミルクの催促のようだ、中将はポケットの上から子猫をなでると「いい子いい子、ミルクね~」と言いながら司令官室にいそいそと入って行ったのだった――

 

           ・・・・・・・・・・・・

この話のモデルは言うまでもない「山下奉文大将」であります。いろいろと良くも悪くも評される方ではありますが、現在の物差しでは測れない部分があります。

ただ、東条英機陸軍大臣とは仲が良くなかったのは事実なようです(二・二六事件がらみ)。昭和天皇にも拝謁を許されなかったと言う話さえある山下大将ですがここでは可愛げのある人として登場させました。

 

山下奉文陸軍大将 明治十八年十一月八日~昭和二十一年二月二十三日 高知県大豊町出身 陸軍士官学校 陸軍大学校 マニラにて法務死 

辞世の句・ 待てしばし 勲のこしてゆきし友 あとなしたいて我もゆきなむ

 




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コメントの投稿

Secre

別府葉子さんへ

こんばんは!

「マレーの子猫」。よく考えたら・・・なんだかなあww。

そう!別府さんが見たその写真こそ、シンガポール攻略戦で山下大将がイギリスのパーシバル将軍に「全面降伏イエスかノーか!」と迫ったとされる有名なシーンです!!

あの山下さんの頭にリボンがついて、ちょっと髪を長くして。周りの参謀たちも女性になって・・・という世界観ですね。

・・・うわあ・・・

ジスさんへ

こんばんは。蒸し暑くってたまりませんね(泣)。

ありましたね!「マネーの虎」!有名人から事業の運転資金とか何とかの名目のお金をいただく・・・みたいなんでしたよね!
そのアレンジ?いやパロデイーで「マネーのヘラ」ってのもありましたねww。芸人が、何人かの有名芸能人の前で一発芸して電車賃とか少額なお金をいただく・・・てやつでしたよね!
確か見せられる方は、牛乳を口に含んで笑って吹きだしたらお金を出す、って記憶しています(よく覚えてるなあ!つまんないことをww)。

猫。
近所のペットショップにたくさんいますが私はどっちかというと猫よりイヌ派です・・・。

そうですね去年よりはまだ暑さも柔らかいですね。
しかしくれぐれも御身大切になさってくださいね!

う~む、マレーの子猫ちゃんですか…
むかし、山下大将とイギリス軍の指揮官とが会談している様子を描いた絵を見たことがあるような気がします(間違いだったら、ごめんなさい)
あの絵の山下大将の頭にリボンが付いてる感じでしょうか…

こんばんは。いつもありがとうございます。

「マネーの虎」って番組があったことを思い出しました。「虎」と呼ばれる方が「猫好き」なのも何か縁があるのでしょうか。私は猫飼ったことないんですが、きっと可愛らしいんでしょうね。

最近少し涼しいですね。去年のように暑いことを思うとずいぶん楽です。7月ももうすぐ終わりですね。

matsuyama さんへ

こんばんは

今や、本来ペットを飼ってはいけないマンションでも堂々と?飼っていますよね。老夫婦がいやしのために飼っているというケースも少なくないようです。

軍隊ではどうだったのかなあ?たぶん居ついてしまう犬や猫は黙認状態で飼っちゃってたのかもしれないですね。
軍艦で猿を飼ったという話もありますからww。

震災は人間だけでなくペットにも悲惨な生き方を強いてしまいましたね。飼い主を亡くしたりして行き場のないペットたちを思うと哀しくなります。
人も動物も、自然災害の前には無力なのでしょうか・・・・?

いまや空前のペットブームなんですかね。
かわいい猫を見ていると気持ちが癒されるんでしょうね。
戦時中の荒んだ気持ちの中に、かわいい猫を見たら思わず飼いたくなるんでしょうか。軍の規定はどうなのか分りませんが。
大震災の被災地には、飼い主がいなくなって路上を彷徨う猫の姿を多く見かけました。被災者も悲惨ですが、主人を失ったペットの姿も悲惨ですよね。

オスカーさんへ

こんばんは!

うひゃあ、キティーちゃんがあったか!!!ーーって「軍人とキティチャン」ってすごい組み合わせだと笑ってしまいましたww。
まあ一応「女軍人」ですが・・でもね・・www!!

もう8月が来ますね。
この震災さえなかったなら例年通りのお盆だったのでしょうに、お新盆ということで一層悲しい思いを新たにする方がどれほどいらっしゃることでしょう。
切なく哀しいです・・・。

キティちゃん

こんばんは。子猫ちゃん~ラブリーすぎますね(笑)キティちゃんだったらどうなんだろ!?なんて考えてしまいました。夏の暑さとともに8月がやってきますね。今回の震災で形見をなくされた方々もたくさんいらっしゃるでしょう…せつないですね。
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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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