「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記7<解決編>

「スマトラ作戦」は日本軍の成功裡に終わった。費やした日数は戦闘そのものでは三日と短いがそれなりに大変な戦いではあった――

 

スマトラ特陸に参加していた「大和」他の艦艇の特別陸戦隊員たちも続々と帰艦の途に着いた。帰りは行きと違って順番もばらばらである。

「麻生分隊士、陸戦隊に行った皆がそろそろ帰艦してきますよ」と亀井一水の報告に麻生分隊士は(ああ!いよいよオトメチャンに会える!)と心がときめいた。分隊士にとっては長い長い数日間であった。

防空指揮所で、輸送船が来る方向を見つめてそわそわしている分隊士を見て小泉兵曹がこっそり忍び笑う。

 

その日も夕刻近くなって輸送船の一隻目がまず『大和』に接舷した。もう敵潜の心配も、敵の航空機の心配もないから堂々と『大和』に近寄ってこられる。『大和』から輸送船に向かってランチがこぎ出される。

最初に帰艦の兵員たちが続々とランチに乗り、そして『大和』に帰艦を果たした。

舷側を次々上がってくる兵たちに「御苦労!無事でよかった、ゆっくり休んで」と声をかけているのは梨賀艦長と野村副長、そして森上参謀長。

帰艦して疲れが出たような顔色の兵たちをかき分けて、麻生分隊士は分隊長とともに十三分隊の兵たちを迎えに出た。

当然、麻生分隊士のお目当ては見張兵曹ではあるがここではおくびにも出さない。

だが・・・十三分隊の兵員は誰ひとり、帰ってこない。「おかしいな・・」と松岡分隊長も流石に首をひねった時機銃分隊の辻本一水がおずおずと話しかけてきた。彼女も長妻兵曹などとともに陸戦隊に配備されたのだった。

「あの、松岡分隊長。麻生分隊士・・・」

二人は振り向いた、そして「おお、辻本一水。御苦労であった。・・・どうした?」とねぎらった後聞いた。辻本一水は少しうつむき加減で「あの、十三分隊の皆さんに関して、おひとりほど行方不明者が出たのでその捜索でまだ帰れないそうであります。捜索には、岩井少尉も加わっておられまして、岩井少尉の代行として機関科の松本兵曹長が指揮しておられます」と言った。

「なんだって!」と麻生分隊士は叫ぶように言って辻本一水の肩を掴んだ、そして「一体誰が行くえ不明だと言うんだ?誰なんだ!」と怒鳴って彼女を強くゆすぶった。

「言え、知ってるなら言うんだ!」

半ば半狂乱の分隊士を、松岡分隊長は押さえた。そして自分の方を向かせて、「気持ちはわかるがな、分隊士。あなたが冷静にならなきゃダメじゃないか。そのうち詳細が入ってくるだろうからそれまで待とう。岩井少尉がいるなら大丈夫だ。彼女を信じて待とう」と言い含めた。

麻生分隊士は、辻本一水からその手を離した。その手は細かく震えている。それを見た辻本一水は気の毒気な表情を浮かべて一礼すると、居住区に駆け足で去って行った。

麻生分隊士はその場にしゃがみ込むと、

「まさか・・・まさかオトメチャンが」

と言うなりやがて嗚咽を漏らし始めた。松岡分隊長は黙ってその肩に手を置いた。

 

その翌日。

第二陣として帰艦して来た中に石場兵曹がいた。麻生分隊士はもう気力を失ったようになって帰還者たちを見もしないで指揮所に上がっていた。

そこに、「石場兵曹戻りましたっ!」と声が響いて分隊士はハッと我に帰った。あわてて声の方に走る。

――と。

白い布に包まれた大きな箱を首から下げた石場兵曹がいて、分隊士を見るなり

「麻生分隊士、これは見張兵曹の・・」

と言ったのだ。

こ、これはまごうかたなき遺骨箱ではないか!?頭の中が真っ白になった分隊士は石場兵曹の首から下がった箱にとりすがると、

「オトメチャン、オトメチャン・・・こんな姿になって戻ってきたのか?どうして、どうして死んだんだあ!うああああ!」

と号泣し始めた。

小泉兵曹や亀井一水たちが何事か、と集まってきた。

麻生分隊士は、何か言いたそうな顔の石場兵曹から箱を奪い取ると、泣きながら白布を取り箱のふたを開けた。

「オトメチ・・・」

分隊士の声が止まった。分隊士は箱の中と石場兵曹を交互に見ている。そしてやっとのことで、「石場兵曹、これは一体・・・?」

とつぶやいた。分隊士が持っている遺骨箱のような箱の中には「壺」が一個鎮座している。わけがわからないと言った顔の分隊士に石場兵曹はいつものように間延びした声で話し出した。

 

・・・行方不明になったオトメチャンを、岩井少尉・増添兵曹・長妻兵曹、そして私で探し始めました。なかなか手がかりがなく困難を極めたのですが、市内のとある大きな家の前に行くと軍艦旗が上がって大騒ぎをしている一団がありました。

何だと思って寄ってゆくとそこはパレンバンでも一番の貿易商の家で、そこにいたものに訊ねるとなんでも戦闘時に迷子になったこの家のお嬢さんが、帝国海軍の兵隊に助けられて帰ってきたからその祝いなんだと。

で、その兵とは一体誰じゃ?と思うて家の中をのぞきこんだら、これがまあ、オトメチャンだったと言うわけです。オトメチャンその家の人たちに歓待されて、件のお嬢さんと一緒に御馳走をくっとりましたなあ・・・

 

「で?この壺との関係は?無事ならどうしてオトメチャンは戻ってこないんじゃ?」

麻生分隊士は、見張兵曹が無事なのを聞いてほっとしながらも不審に思って聞いた。すると石場兵曹は、エヘンと咳払いをしてから「まずオトメチャンはですねえ、そんなことがあった関係で詳細をスマトラ特陸の分遣隊長に報告する義務があって、それで帰りが遅れているわけです。明日の最終便で戻りますよ。ご心配なく。

で、壺はですねえ、その助けたお嬢さんの親御さんが大感激なすってオトメチャンへの記念品と言うことで贈られた、骨董品の『ルソン壺』だそうであります」

と説明した。

はあー、と麻生分隊士は壺の入った箱を抱えてため息をついた。石場兵曹はそんな麻生分隊士に力つけるように、「オトメチャン、大活躍だったようですよ。そのお嬢さんと仔犬をしっかり紐で自分に縛りつけて守って、散発的に現れる敵を倒して送り届けたって言うんですからねえ。これで帝国海軍の評判もまた上がりますね、請け合いですよ」と言った。

 

その通りこの話は人づてに伝わり、「さすが皇軍」「さすが帝国海軍!」と人々を感動の渦に巻き込んだとか・・・。

 

翌日待ちに待った見張兵曹を載せた輸送船が帰ってきた。輸送船の見張り台に陣取るオトメチャンに大きく手を振る麻生分隊士他の十三分隊の面々。手を振り返す見張兵曹。

 

もちろんその晩、麻生分隊士に愛の嵐に揉まれたオトメチャンであった。当然のごとく。

スマトラ特陸の隊員たちも元の通りの配置に帰り、陸軍さんたちはパレンバン油田の警備やそのほか地域の警備に戻り、「猛象部隊」は象たちに休息を与えてから輸送船でビルマ方面に戻る予定である。

「女だらけの陸海軍」のスマトラ作戦はこうして終了を迎えたのだった。

              ・・・・・・・・・・

<今回のお話で出てきた乗り物をご紹介します>画像はwikiさんから拝借したしましたことをお断りいたしておきます。



第151号輸送艦
このお話に出てきた「二等輸送艦」の画像です。右側が「門扉」となっていて兵員や兵器を出せます。米軍の上陸用舟艇みたいですね。
第151号輸送艦 (wikiよりお借りしました)


特二式内火艇のカラー側面図
(wikiより)
キャタピラ部分にフロートをつければ、海上をも行けるすぐれもの。



Vickers Crossley Armored Car model1925 IJN.jpg (wikiより)
日本海軍が使用中のクロスレイM25装甲車。

イギリスビッカース社製の装甲車。日本海軍が輸入し、特に上海事変で大活躍しました。

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Comments 4

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見張り員  
ジスさんへ

今晩は。お疲れ様です!

やっと・・・作戦終了です。

日本陸海軍と、現地民の仲はとても良いです♪ 現実世界でも大変良好なところも多々あったと聞き及んでいます。
ソロモンなどでは、あとから来たアメリカ軍がさんざ日本軍の悪口を言っても現地の人たちは「あんなにいい人たちにどうして!?」と思っていたとか。
かの地の人たちは今も親日派が多いです。

台風・・・本当に来るのかなあ?
来る来るいいながらいつもはこないからそのつもりでいるんですが・・・今回はちょっと要注意かもですね。
ジスさん、通勤の際にはくれぐれもお気をつけてくださいね。

2011/07/19 (Tue) 20:51 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
ジス  
No title

こんばんは。いつもありがとうございます。

大きな作戦の終了でしたね。みなさんご無事で本当によかったです。現地の方にとっての帝国海軍、本当に尊敬に値する方々なんですね。

台風が近づいているようですね。多分いつものように「来る、来る」って言われてこないことがほとんどですが念のため気をつけましょう。

2011/07/19 (Tue) 00:14 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

こんばんは

長い長い物語になってしまいました・・・
「黄金の日々」!大好きでしたあの大河ドラマ!原作の本も持っていました、あのルソン助左衛門の世界が好きでしたね~~。

戦艦とか戦闘機とかああいうメカを作る人は全く尊敬に値します。私にはまったくわからないからですw。でもよく見れば見るほど美しいものがたくさんありますね。

「ヘタリア」まだ読んだことがないんです。ぜひ読んでみたいと思っています。

2011/07/18 (Mon) 20:59 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  

ひとつの闘いが終わりましたね~ルソンときくと大河ドラマの「黄金の日々」を思い出します(笑)
戦艦、戦闘機などたまに本屋で立ち読みしますが、すごい構造だな~と感心してしまいます。
ゆっくりお休みしてまた新しいお話の構想を練りに練りまくって下さいね(笑)また皆さまと出逢うのが楽しみです。
あ、見張り員さまは「ヘタリア」とかは読まれないのですか?

2011/07/18 (Mon) 17:12 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)