2017-09

「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記6 - 2011.07.14 Thu

オランダ軍はとうとう、正面と背後からの日本軍の攻撃を受けて降伏をしたのだった――

 

白旗を上げて日本陸軍の第634部隊に投降した敵の将軍チェルシー・アナタニモは他の参謀たちと一緒に街中を引き立てられてゆく。そのオランダ軍が軍政を敷いていた時さんざひどい目にあわされていたスマトラの現地民は、敵将たちにあからさまにあざけりの表情を見せた。

そのさい、ちょっと残念そうな顔を部隊長の初音ミコ中将を見て、作戦参謀は「どうなさったんです?部隊長殿、大戦果ですよ。パレンバンは守られましたし海軍とも仲良くなれたじゃないですか?」と問いかけると初音中将はハスキーな声で、

「それはすごくいいことなんだけど・・・敵があっという間に降伏しちゃったのがちょっとね。ほら、あたし山下中将みたく『イエスかノーか!?』ってやりたかったんだよね~」

と悔しげである。

作戦参謀は、思わず明るい笑い声をあげていた。そして「そうですね、それなら自分もその場に居たかったものですよ」と言って二人は笑いあったのだった。

敵の将軍が投降し戦闘が終了した安堵と喜びは海軍とて同じである。

岩井特務少尉はクロスレイから降りてきて「スマトラ特陸」の隊員や「大和」の隊員を見回した。

そして、「・・・終わったようですね」といつもの静かな口調で言った。その時、市内方向から特二式内火艇やクロスレイの大群が軍艦旗を高々と掲げて戻ってくるのが見えた。その周りを跳ねまわる陸戦隊員たち。大勢の現地の人たちもそれを取り巻いて大歓声を上げている。

その大群を走って迎えて岩井少尉たちの部隊も大騒ぎになった。軍・民が入り乱れて歓喜に沸く。

ふと、石場兵曹が「あれ。オトメチャンは?」と見回す。長妻兵曹が「オトメチャン、オトメチャーン!」と探し回る。

そこに増添兵曹が陸戦隊員たちをかき分けて進み出て、

「おい、オトメチャンは行方不明だ。市内の戦闘の時急に飛び出して行ってそれっきりだ・・・」

と衝撃的なことを話した。長妻兵曹が、「なんだって!どういうことだ」と増添兵曹に近寄って掴みかからんばかり。

石場兵曹は「ちょと待て、長妻さん。・・・増添さん詳しく話して」と長妻兵曹を押しとどめて言う。そんな三人を不審に思ったのか、岩井特務少尉が近寄ってきた。

増添兵曹は、うつむきながらあの時のことを話し始めた。

 

「・・・そうか。もしかしたらどこかで動けなくなっているかもしれないね。あるいは、もしも、もしもだが戦死しているなら亡骸は『大和』に収容しなければいけない。――石場兵曹、長妻兵曹、増添兵曹。今から見張兵曹捜索に行く!」

岩井特務少尉はそう言って、見つかるまでの指揮を松本兵曹長に任せることとした。松本兵曹長は心配そうではあったが大任を任され、少し顔を紅潮させて「わかりました。お戻りになられるまでしっかり務めさせていただきます。少尉、見張兵曹を見つけてください」と言った。

「うん。ではよろしく」

岩井少尉たちはスマトラ特陸に乗用車を借りて市内に向かう――

 

――あの時見張兵曹は、怯えきっている子供と仔犬を見捨ててはおけないと、我が身を省みず敵弾飛び来る中に身を投じたのだった。

壊れた建物のそばにうずくまるようにして泣いている女の子と仔犬のもとに、兵曹は身を投げるようにして進んだ。

驚いたように涙にぬれた顔をあげて逃げようとする女の子に、兵曹は「大丈夫、敵じゃないから」と言いハッと気がついて馬面を取った。(これかぶってたら怖がらせるようなもんだもんなあ)と思って。

馬面を取ると、子供は安心したような顔になって兵曹のそばに寄ってきた。兵曹はあたりに注意しながら「お母さんかお父さんは?ひとりでここにいたの?」と聞く。

女の子は意外にしっかりした日本語で「走って来る時、わからなくなっちゃった」と言いまた泣き始める。

ドカン!と近くで砲撃音がし、兵曹は女の子に覆いかぶさった。タタタ・・・と機関銃の音が走り二人はしばらくそのままで伏せる。

やがてその音も遠ざかり二人は体を起こした。土ぼこりにまみれた顔を見合わせて二人は初めて笑いあった。

「私は帝国海軍二等兵曹、見張トメ。あなたは?」

そう見張兵曹が問うと、女の子は「マリー。はじめまして」と言って頭を下げた。見張兵曹も、はじめましてと言って頭を下げながら、この子はしつけの良い子だ、きっとそれなりのうちの子供なんだろうと思った。

兵曹はあたりを見回して「では私はあなたを親御さんのところへ連れてゆきましょう。あなたのお家はどのあたりです?」と聞いた。マリーは、市の中心部のあたりを指さして「あのへん」と言った。

兵曹は「私はこのあたりのこと、詳しくないからマリー、あなた教えてね」と言うとマリーに馬面をかぶせた。

万一敵の弾が飛んで来た時のことを思ってである。マリーは「重い・・・」と言って笑う、そのマリーに、「ちょっとだけの辛抱ね。危ないから」と言って防毒マスクの入っている袋から長い紐を取りだし、マリーを胸に抱くとその紐でしっかりマリーを縛りつけた。

足元で仔犬が置いてゆかれるのではないか、という顔でキャンキャン鳴いてまとわりつく。心配げに兵曹の顔を見たマリーに「置いてゆくわけないから大丈夫」とほほ笑みかけて兵曹は仔犬を抱き上げ、「マリー、抱いていられるね?」と子供の瞳を覗き込んだ。

マリーはしっかりとうなずいて、兵曹は仔犬をマリーに抱かせると銃剣を握り直しあたりを見回してからやおら走り出した。

時々、散発的に銃声がする。しかし兵曹は子供たちをしっかり抱きしめてマリーの家を目指したのだった。

 

岩井特務少尉たちの乗った乗用車は、パレンバン市内に入っていたが、いかんせん手がかりがない。

「増添、何か貴様おぼえとらんのか?オトメチャンが走ってゆく時なんぞなかったんか?」

珍しくイラついた声で石場兵曹が言う。「しっかり見とかんからこげえなことに・・・」

ブツブツ言う石場兵曹に、少尉がまあまあと口をはさんだ。

その時増添兵曹があっ、と声を上げた。なんじゃ、びっくりさせよってと言う長妻兵曹。増添兵曹は他の三人に「オトメチャンが走り出す直前に、子供の声がしたんです。小さな、そう、女の子のようでした。それを聞くなりオトメチャンは走り出して埃の中に見えなくなっちゃたんです」と話し出した。 

「子供、かあ。あまりええ手がかりとも思えんが・・・まあええわ。岩井少尉、ここで車を降りて歩いて探したほうがよくないですか?」と長妻兵曹が言い、石場兵曹も賛成した。

岩井しん少尉は、うんとうなずき四人は乗用車を降りて街中を歩いて探索することになった。

 

その頃、「女だらけの大和」では。

何故だか松岡中尉が途方もなく元気がない。麻生分隊士が気遣って「分隊長、どうなさいました?お体の具合でもお悪いですか?」と尋ねると松岡分隊長は、全く元気のなくなった顔をあげて麻生分隊士に言った。

「ねえ分隊士。どうして梨賀艦長は私を陸戦隊員に選んでくださらなかったのだろうか?せっかく熱くなれるいい機会だったと言うのに。私のどこが至らなかったんだろうか・・・」

麻生分隊士はこれを聞いて拍子抜けした気分になった。分隊士は、「あのですねえ、分隊長。あなたはここで必要な方ですから艦長は選ばれんかったと思いますよ?貴女は『分隊長』なんですけえ」と言ってやった。

すると、今までげんなりしていた分隊長の顔に、ぱっと赤味がさした。

そしてガシッとばかりに麻生分隊士の両手を取って、「そうかそうなんだね!分隊士気づかせてくれてありがとう!・・・そうかあ~、俺はここで熱くなるんだった。他に目が向いて仕舞っちゃいけないと言うのに・・・俺はバカだった。さあ!麻生さん、陸戦に行ったみんなが帰ってくるまで、いや帰ってきたらもっともっと、熱くなるぞお!!」と叫んだのだった。

麻生分隊士はただでさえ暑いスマトラの気温がこれ以上熱くなってはたまらんのう、と思いつつも愛想笑いでその場を濁したのだった。

(しかし・・・オトメチャンは無事なんだろうか)

「大和」には、見張兵曹行方不明の報は、まだ入っていなかった――

   (次回に続きます)


にほんブログ村 小説ブログ 百合小説へ
にほんブログ村
関連記事

● COMMENT ●

matsuyama さんへ

こんばんは!

マリーはだいたい4歳くらいで設定しました。
子供は3歳までに挨拶の基礎を作ってやらないとよくないですね。マリーは躾のよい家庭の子供ですが、挨拶は人間関係を円滑にするためにも必要ですよね。
最近は老いも若きも・・・だめな方が多くっていやになります。

女は度胸ですww。
子供でもきっと非常時には肝が据わっていたのかなあ、と思いつつ書いてみたものです。

幾つ位の女の子か分りませんが、恐怖の戦火の中で「はじめまして」という挨拶が交わせるということは、親の躾がしっかりしていたんでしょうね。現代の若い人、いや皆さんに強く言いたいですね。「この女の子を見習え」と。
親と離れ離れになったとはいえ、冷静ですよね、マリーちゃん。毎日の激戦で肝が据わってしまったんでしょうかね。女の度胸は‥‥です(笑)。

ジスさんへ

こんばんは

そうでしたね、昨日の晩ちょうどでしたね。奇遇というんでしょうか、これ!

アナタニモ、チェルシーアゲタ~イ。
懐かしいですよね~。あの頃チェルシーはちょっと高級感漂うお菓子でしたね。私の母が大好きで今でもお店で見つけると買っていますよ♪

さあ、、、見張兵曹どうなりますか。ご期待くださいね~(*^_^*)

こんばんは。いつもありがとうございます。

コメントの時間帯がちょうど重なりましたねww私も先ほどこちらを拝見していたところです。

アナタニモ・・チェルシーww笑いました。懐かしっ!子供の頃よく見たCMです。
ともあれご無事で良かったです。心配するみなさんにも早くお会いできますよう。


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/345-895707e7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記7 «  | BLOG TOP |  » 「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記5

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (110)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード