2017-09

「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記4 - 2011.07.02 Sat

最上甲板上に集まった大人数を前にして、女だらけの『大和艦長』梨賀幸子大佐はおもむろに口を開いた――

 

「ここに集った三百人の諸子を『特特陸戦隊』に任命します」

集められた皆は「何・・『特特』って」と不安そうな顔で艦長を見た。艦長は彼女たちを一通り見回して、

「みなさんはこの『大和』から選抜された栄えある『特別選出特別陸戦隊』隊員になりました。明日からしばらくの間、陸戦隊員としてスマトラ島の防衛に当たってください」

と言った。

ええ、一体どういうことなんだ?と皆が少し騒ぎ始めた。『特別』が二つも付くなんて?

艦長はそれを押さえて「これは南雲機動部隊と我々との間で協議して決めたことです。他の艦からも選抜されて陸戦隊として戦う仲間がきますからその人たちや陸軍さんたちと仲良くやってください。そして事態が落ち着いたら『大和』に帰艦できますから」と言った。

「ちょっと待てよ」と、松本兵曹長が言った。「なんか艦長は口当たりいいこと言ってるけど見てみろよ。ここに集まってるのは特務士官に準士官、下士官に兵だ。・・艦長も惜しげのないものばっかり集めたもんだよなあ!」

それを聞いて皆はそれぞれを見渡した、すると確かに松本兵曹長の指摘した通りその場に集められているのは見事に特務士官それも少尉以下の『海兵団出身者』ばかりではないか。

「本チャン士官はひとりもなしか、ふーん」と石場兵曹が吐き捨てるように言って隣に立っている見張兵曹を見た。見張兵曹も石場兵曹をみて「そうですね・・・まあ、私たちなら替えはいくらでもあるでしょうからね」と普段のオトメチャンに似合わぬ皮肉っぽい物言いをした。

見張兵曹は思っていた。(やっぱりなあ、所詮は使い捨ての兵員の一人なんだよね。兵学校での本チャン士官はもったいないもんね。そんなもんだよね世の中って)と。

皆の間に妙な空気が流れだし、それに気がついた梨賀艦長はおろおろとし始めた。

そして、「い、いやあのね、別に本チャンがどうの特務士官がこうのって話じゃあないの。そうじゃあなくってあの、こういう経験はあなたたちの方がいいような気がしてるわけ。いろいろ経験積んでくれたらこの先あのきっとええと・・・」としどろもどろなものの言い方になってしまった。

(しまった・・・これはまずかった。別に差別的意味合いで彼女たちを選んだんじゃあないっていうのに。どうしよう・・・)

艦長が本当に蒼くなってしまったその時。

黙ってことの推移を見守っていた十六分隊電気分隊の岩井しん特務少尉が顔を上げた。そして、

「みんなこうなったら意地でもスマトラ島を守備して『海兵団出身』の心意気を見せつけてやろうじゃないか!そしてその時が来たら潔く草むす屍、水漬く屍になって軍艦旗のもとに死のうではないか!これも国のため、陛下の御為だ。御奉公だ、滅私奉公だあ!!」と怒鳴るように叫んだので皆は驚いた。普段物静かな岩井特務少尉がこれほど激しい感情を見せたのは初めてで、驚きはやがて感激に変化して行った。

「やるぞお!死に花を咲かそう!」

「軍艦大和ここにあり!」

「海軍魂を敵にみせてやろう!」・・・等々。

三百人は拳を天に突き上げ大声で叫んだ。感情が盛り上がり、一気に高まって行った。

 

『特特陸戦隊』のスマトラ島への上陸は明日早朝。皆は二十四時までに準備を済ませ、迎えの輸送船に乗って行くことになった。

 

「オトメチャン」

居住区の近くですっかり装備を固めて準備万端の見張兵曹に近付いて、麻生分隊士は声をかけた。見張兵曹は分隊士の顔を見ると嬉しそうに笑った。

分隊士は「俺が選抜されなくって残念だ。本当は一緒に行きたかったんだが」とすっかりしおれている。しかしオトメチャンは「分隊士は『大和』に、指揮所に必要なんですから。私は『大和』や分隊士に恥をかかせないよう立派に働いてきますから。ご安心くださいね」と言って分隊士の顔を見つめた。

少し涙ぐんでいるようだった分隊士はやっと顔を上げると、「ああ。俺のオトメチャンだから大丈夫だな。俺はここでオトメチャンの帰りを待ってるからね。・・で、これを」と、分隊士は戦闘服のポケットから白い紐を取りだした。そしてそれを片方の手に持って、「ちょっと後ろを向いてごらん。髪を整えてあげよう」と言って見張兵曹の髪を解いて梳き始めた。ゴムでしっかり縛った後、「これは俺からオトメチャンへの贈り物」と言ってポケットから出した白い紐でゴムの上から更にしっかり縛った。

「あ、分隊士。元結?」

「そう。俺の願いがこもってるから絶対無事に戻ってくる。オトメチャン・・・」

分隊士はオトメチャンを正面に向かせるとしっかり抱きしめた。「分隊士・・」と見上げるオトメチャンがたまらなくきれいで可愛くって・・・麻生分隊士はむさぼるようにその紅い唇を奪っていた。

 

その姿を物陰から見つめる石場兵曹、彼女もすっかり装備を整えている。そんな彼女に谷垣兵曹が近寄って「私は選抜されなくって残念だ。石場さん、よろしゅう頼みます。ご無事で。」と言うと石場兵曹の肩をしっかりつかんだ。

石場兵曹はその手に自分の手を重ねると、「うん。ありがとう、頑張るよ」と言って谷垣兵曹に笑いかけた。

 

どこの分隊でも、選抜された兵たちをそっと激励する仲間がいて「女だらけの大和」の縦横のつながりの固さが感じられた。

 

そして・・・二四〇〇時になり、『大和』に数隻の輸送船が接舷して、『特特陸戦隊員』たちは粛々と乗り込んで行ったのだった。

見送る乗組員たちの視線と見送られる者たちの視線が切なく、しかし力強く絡み合った――

  (次回に続きます)


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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

こんばんは

いよいよの「スマトラ作戦」ですがこの連中が絡むとなんだか・・・心配ですね。
しかし相手も必死でかかってきますからいい加減な気持ちでは臨めませんぞ~~って感じですね。

七夕の夜。
雨の予報が出ていましたが曇りのようです。
分隊士、短冊に願い事を書いたでしょうね、「オトメチャンが無事戻りますように」とか。

いよいよ「暑中お見舞い」ですね!!
関東の梅雨もそろそろ明けるかな?という感じです。
matsuyama さんも御身大切になさってくださいね。いつもご心配いただきありがとうございます!!

荒野鷹虎 さんへ

こんばんは!

いろいろとお大変でしたね。ご退院おめでとうございます、どうぞご無理のなきよう。

くれぐれも御身大切にお過ごしくださいませ。

まろゆーろさんへ

こんばんは!

この辺では「特進」なんて言い方もありますよ~♪しかしホント学校関係の「スペシャル」は私もご遠慮申し上げたいです・・・(-_-;)

どうも暑さだけではないようですねこの体調の悪さは・・・。でも生きている以上日々頑張らねばいけませんね。
心に一本、柱を立ててがんばります。
いつもご声援いただきありがとうございます!!

スマトラ島特特陸戦隊作戦がいよいよ始まるんですね。
見張兵曹の不満が少し見え隠れしているようですが、無事帰還してほしいもんですね。

今日は七夕。見張兵曹と麻生分隊士、年に1度しか会えない七夕デートにならないよう、大和の笹竹に「無事帰還」の短冊でも吊るして願い事でもしましょうか。

今日から小暑「暑中お見舞い申し上げます」。くれぐれも体調崩されないよう御身大切に。

やっと退院いたしました、お留守中多大の応援を頂、感謝申し上げます。取り急ぎ、御挨拶まで。

こんばんは!!

「特特」といえば大分の私立高校の進学クラスみたいです。
スペシャルとか特別とかいうフレーズは大好きなんですが、学校になると結構ですって感じになります。

お加減は如何ですか。随分と治ったようですが、こんなに気候がこんがらがってしまっていますのでどうぞ無理をなさいませんように。気候の変動にも人にも……、疲れてしまいますね。

オスカーさんへ

こんばんは!コメントありがとうございます!!
おかげ様で何とかやっておりますよ~(*^^)v

あの時代の「見送る側・見送られる側」の表情や文章などが残されていますがそういうものを見るたび本当に切なく胸に迫るものものがありますね。

言葉というものが今ほどないがしろにされた時代もないと思いますね。
政治家からして言葉に重みもなければ責任もない。サイアク!!

松本放言さんはガダルカナルあたりで英霊からご指導を受けたらよいと思うのです、本当に。



ジスさんへ

こんばんは!

「特別」が二つもついて随分こけおどしという感じですがさあ実態は!?

糞暑い?スマトラ島で何が起こるのでしょうか。私にも今はわかりませんが、ご期待のほどを!

今日の東京は大変蒸し暑かったです。夕方はちょっとだけ雷が鳴り雨が降りました。すこ~し涼しくなったかなあという感じですがまたきっと明日は暑いのでしょう。
天気予報で名古屋の気温を見ては「ジスさんどうしてるかなあ~」と思っています。
どうぞ御身大切にお過ごしくださいね。

こんにちは。体調はいかがですか?
どんな状況、立場でも見送る側、見送られる側、なんかせつないですよね~今みたいに通信手段がいろいろあるわけではないし。だからこそ、言葉や態度を大事にしていたのかも…あの松本おバカさんはどこかの島に置き去りにしたいですね。

こんばんは。いつもありがとうございます。

なんとも仰々しい部隊名ですね。みなさんどうかご無事でありますよう、願っています。

毎日暑いですね。でもそんな中今夜は雷を伴う雨が降ってて、ほんの少し涼しくまりましたがここ名古屋の湿度のもうすごいこと・・・早く涼しくなってほしいです(´;ω;`)


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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