「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記3

南雲機動部隊の攻撃隊第一陣が出撃したその頃、セレベス島マカッサルの海軍航空部隊基地からも零戦の大部隊が出撃を始めていた――

 

敵の混成艦隊は小スンダ諸島の島伝いに進んできたがそれをいち早く見つけたのがマカッサルの基地の電探だった。

その知らせはあっという間に暗号化され、南雲機動部隊の各空母に発信された。そこで空母からの攻撃隊と、マカッサルからの攻撃隊で敵艦隊を挟み撃ちにしてやろうと言う作戦が整っていた。

敵艦隊は狭い小スンダ諸島の島の間を通って「やった。これでスマトラ島を奪取できる!」と喜んではいたが彼女らは前と後ろから襲いかかってきた日本海軍の航空部隊の敵ではなかった。

敵艦隊の艦影を上空から認めた「赤城」の淵田美津子中佐は機上で小躍りせんばかりに喜んだ、そして「敵さんよ、こんなところまで御苦労さんでした。ゆっくりこの美しい海で心行くまで泳いでくださいなあ」と言うなり、九七艦攻隊を敵艦隊に向けて急降下させて行った――

 

敵艦隊は上空に雲霞のごとく現れ出でた日本の航空機の大群に肝をつぶしていた。

「なにあれ!聞いてないって!面舵いっぱい、面舵いっぱい!」

アメリカの軍艦の艦長はもう泡を食っているし、オーストラリア海軍の艦長は見事な編隊を組んで飛んでくる日本軍機に、もう見とれてしまっている。それでも反撃開始するABDA艦隊。

艦攻・艦爆や零戦が爆弾を投下し、至近弾を食らって傾く敵艦艇。大火災を起こして乗員たちが海へと飛び込んで行く。

「・・・今に見てなさい、ジャップ女。今に吠えづらかくことになるからね!」オランダ海軍の士官は沈みゆく艦から大急ぎで離れながら毒付いた。

 

「吠えづらかく」とは・・・?

実はこれも日本軍はとっくに計算のうちに入れていたのだが、ジャワ島にいくらか駐留していたオランダ軍が、隠密行動と称してスマトラ島に肉薄しつつあった。その兵力約五千。数万の日本軍相手ではまあ勝ち目はないのだが「もしかしたら」の思いで進撃して来ている。

海の敵をせん滅した「飛龍」航空隊の偵察機が、このオランダ軍の進撃を見つけた。そして打電。オランダ軍の行動がすっかり日本側にまるわかりとなった。

吠えづらかくのはオランダ軍の方になりそうなのだが、あの士官は知る由もなかったわけである。

 

「大和」はその巨体を一時的に持て余してしまった格好になった。

しかし、突然の命令が「大和」に下った。それは南雲部隊からのもので「『大和』から乗組員三百名ほど陸戦隊員としてスマトラに上陸させて第九百根拠地隊と合流し、さらに陸軍と共同して当たってほしいという物であった。

さすがに驚く梨賀艦長・・・と思いきや、艦長は「やった!これでなお一層「大和」のすごさが内外に轟くわあ!」と嬉しそうである。

副長は少し不安げに「でも艦長。我らには陸戦隊としてのスキルはないのでは?」と言ったが艦長は「大丈夫、やればできるよ。で、さっそく人選だ」といそいそと艦長室に走り去ってゆく。そのあとを「待って艦長・・」と副長が追いかける。

 

こういう話はなぜかどうしてか、どこからかまるで腐臭のごとく漏れだす。艦長が人選だ、と走り出して三十分後にはほとんどの乗組員が知っている。

ある兵隊は機銃座で空をにらみながら「え?陸戦隊になれって?無茶言ってんじゃないよ。今まで陸で戦ったことなんざねえし!海兵団での訓練しか経験ないったら!」と怒るし、副砲の測的員は「へえ~。やったことないからなあ。でもちょっとだけしてみたいかも」と笑っている。

そんな配置員を見ながら各分隊の分隊長や分隊士は「まったくもう!余計なこと考えなくっていいからしっかり見張ってて!まだ戦いは終わったわけじゃないんだから!」と怒り狂いながら走り回る。

確かにまだ戦いは終わってはいない。敵艦隊はせん滅したとはいえ、この大小の島だらけの場所では航空機の目に着かない場所で隠れている艦艇があってもおかしくはないのだ。

それがわかり過ぎるほどわかっている防空指揮所の面々は、戦闘配食の握り飯も口にしないで双眼鏡から目を話さない。

麻生分隊士も指揮所を行ったり来たりしながら首から下げた双眼鏡を離さない。そして松岡分隊長は、と言えばまたもや艦橋トップのさらにトップに「あぶないからやめてくださいッ!」と分隊士に叱られながらも登って、そこでラケットを構えつつ肉眼であたりを睥睨している。

ABCD艦隊、さあ来い!俺が戦争の仕方を教えてやるッ、いいか戦争という物はだな・・」と大声で叫んで分隊士に「松岡分隊長、『ABDA』艦隊ですよッ。物事は正しく願います!」とまた叱られている。しかし松岡分隊長はそんなことに頓着しないのかそれとも聞いていないのか、ずっとそれからも「ABCD艦隊」と言い続けている。

と、十二時の方向九百キロほど離れたあたりで数条の黒煙が上がるのを見張兵曹の双眼鏡が見つけ報告。その黒煙は、ABDA艦隊の生き残りの巡洋艦と駆逐艦が島影から出てきたところを、そのあたりの海域に展開中の呂号潜水艦が撃沈したものとわかった。

「気を抜くな、空だけでなく海もよう見張れ!」

麻生分隊士は檄を飛ばした。見張り員たちはそれぞれの分担を目を皿のようにして見張り続ける。伝令はテレトークを握りしめ耳に全神経を集中する。

 

そんな頃、『二等輸送艦』数百隻から次々と吐き出されていった「特二式内火艇」はスマトラ島北部・東部の海岸線を中心に布陣を終えていた。

最高指揮官の秋田小町大尉は「ああもう早くこれで敵のやつらを蹴散らしたいわあ!・・・それはそうと市街地や製油所周辺にはクロスレイは来てるのかねえ」とつぶやいた。それを聞きつけて操縦手の兵曹が「来てるようですよ、クロスレイ。わが海軍陸戦隊の花形装甲車ですもん。・・・あ、陸さんは『チハ』をたくさん投入してきたみたいですよ。あとなんだか秘密兵器があるとか聞きましたよ?」と大尉に答える。秋田大尉はその美しい顔を兵曹に向けて「・・・秘密兵器?」と怪訝な表情。兵曹は「はい、そうききましたが」と言う。

秋田大尉はニヤつきながら「まあなんでもいいわ。早く暴れまわりたいから」と言って陸戦服のポケットから飴玉の袋を出してその中の一つを兵曹に渡して、自分も口に飴を一個放り込んだ。

 

 

そしてやっと敵艦隊に関しては一安心となったその日の晩に、各分隊長を通じて集められた乗組員その数総勢三百人が最上甲板にいる。

皆なんだかとても不安げな顔で互いを見合っている。

その時やおら、艦長が現れて皆は敬礼。返礼した艦長は次の瞬間衝撃的な言葉を吐いたのだった――

    (次回に続きます)


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Secre

ジスさんへ

こんばんは
お返事遅くなってごめんなさい。

引っ張るのが私の得意技。・・・ナンチャッテ。
でも今回は少し史実も見ながら書いていますのでまあ、時間がかかること・・・(汗)。
さあ次回はどうなりますか、お楽しみに♪

本当に暑い日が続きますよね、もう今からこれでは先が思いやられますよ。
くれぐれも御身大切に!

鍵コメ様へ

遅くなってごめんなさい!
ありがとうございます、これからもどうぞよろしくお願いいたします♪

暑いからお体にはお気をつけてね!

No title

こんばんは。いつもありがとうございます。

嵐の前の静けさからまさに実戦にですね。細かい描写でハラハラさせてくださるところはさすが見張り員さんだと思います。そして次回は・・?気になりますね。

暑い日が続きますね。本当に今梅雨かどうかって気がします。今日も本当に暑くて。お身体お気をつけくださいね。

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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