「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記1

「女だらけの戦艦大和」出航準備にかかっている――

 

「今度はいったいどこなんだろうなあ。まあどこでもいいけどよ、寒いとこじゃなきゃあさ」とは機関科の松本兵曹長の弁。そのそばをスパナを担いで通りすがった浜口大尉が「おう、小耳にはさんだとこじゃなあ、インドネシア方面らしいぞ。なんとか言う油田地帯を敵の野郎がちょっかい掛けてきやがったからそれをひっぱたきに行くんだそうだが」と言って、その場の兵たちは騒然。

「インドネシア?どの辺でしたっけ」

「そこにはうまいものがあるんでしょうか?」

「すてきな男の人はいるのでありますか?」

・・・・

浜口大尉はだんだん額に青筋を立てて、ついに「うるせえ!知るかそんなこと!大体貴様らそれでも栄えある帝国海軍軍人か!?・・・なんだあ、『どこでしたっけ?』『美味い物は?』『素敵な男は?』・・・だとお!俺たちは観光旅行に行くんじゃねえぞ、戦争に行くんだ!しっかりふんどし締め直せ、この野郎!」と怒鳴るなり手にしたスパナを振り回し始めたからこれには皆泡を食って逃げ出した。

ひとり松本兵曹長だけが悠然と床にしゃがみこんで、「大尉。お怒りはごもっともです。しかし…油田地帯と言うともしかして『パレンバン』あたりですかねえ」と大尉を見上げて言った。

大尉はスパナを小脇に収めて「うん、そうかもしれん。あそこは陸さんが取ってくれたがなんだかまた最近不穏な気配がするとか何とか言ってたからね。マレー半島の近くだから俺たちには初めてのところになるかなあ」と言った。

松本兵曹長は立ち上がって「そうですか。いずれにせよ、ふんどしを締めてかからんとなりませんな」と言って浜口大尉と肩を並べて歩き出した。

そこにどこから来たのか、背後から十三分隊の分隊長・松岡中尉が例のラケットを振り振りやってきた。そして大尉と兵曹長の背中を見るなり「熱くなってますかあ!!」と大声で叫んだ。驚いて振り向く二人に松岡中尉はにっこりと笑って、

「さあ。いいですか、『大和』はこれから大事~な作戦に出かけるんですから、みんなうんと熱くならないと勝てませんからね。・・・戦争は勝たなきゃ意味がなーい!さあ、勝つために熱くなりましょう!」

ともっと大声で叫んだ。

浜口大尉が中尉に向き直るともっと大声で「わかっとる!!熱くなるのは機関科の得意技だっ!貴様に言われんでもとっくに熱くなっているッ!では貴様に機関科特製の『気合』を入れてやるからこいっ!」と言って中尉をひっつかむなりその耳元で、

「気合いだ、気合いだ、気合いだー!!」

と怒鳴ったから流石の松岡中尉もたまらない。「ありがと~」と耳を押さえて去って行ったのだった。

 

とまれ、『大和』はその作戦とやらに出るため、呉を出航して行った。

防空指揮所で見張兵曹は遠ざかる呉に向かってそっと頭を下げた。

(おじいちゃん、おばあちゃん。西田さん。トメはまた出かけます。またお会いできる日を楽しみにしています。・・・お元気で)

主砲・副砲がまるで呉に手を振るように上下左右に回って、甲板上の乗組員はちょっとだけ感傷的になる瞬間である。

 

「大和」と駆逐艦・無花果、同・鼻風(!?)は瀬戸内海を西進し、まずは沖縄を目指した。中城湾に仮泊し、そこで機動部隊と合流しいざ目的地に、と言う予定である。

 

その頃、各分隊の分隊長・分隊士が最上甲板に集められ、梨賀艦長の訓示を聞いていた。

「・・・今回我々に課せられた任務は、輸送任務と陸軍の作戦終了後の残敵掃討にある。これから島伝いにフィリッピンまで行きマニラで陸軍兵を乗せて、シンガポールを目指す。そこで彼女たちを陸軍の輸送船に預け我々は陸軍の作戦が終了するまでシンガポールで待機する予定である。

最大の油田のあるパレンバンに侵入せんとする敵を掃討するのが今回の作戦の大筋である」

ほお・・・っ、と皆の口からため息が漏れた。

(また輸送任務か、いやだなあ)と思う心の者もいれば、(敵は今度はアメリカだけじゃなさそうだな)と闘志満々の心の者もいる。

でもどの心も一つになろうとしている。

梨賀艦長は皆を見回すと、「それぞれの配置においてしっかりやってほしい。特に見張りは厳にせよ。そして通信班は、かの地の敵の動向に神経を尖らせよ。・・・解散!」と言い皆はそれぞれその場を離れた。

松岡分隊長と麻生分隊士はさすがに緊張の色が見える。麻生分隊士は、「分隊長。今回は今までとちょっと勝手が違いますから気を引き締めてかかりましょう」と言った。

分隊長はその麻生分隊士の肩をバーン、と叩いて「大丈夫。俺にはこれがあるから。麻生さんこそ気を引き締めてかかんないとダメだよ?特年兵君と昼寝してる暇は、ないからね。で、さっきの艦長の訓示を皆に伝えといてほしいから、よろしく!」と言うと「じゃまた後で」と右手の親指をぐっと立ててさわやかに微笑むといずこかへ駈けて言った。

(特年兵と昼寝してる暇はねえ、だって?フン、余計なお世話よ)

分隊長の後ろ姿を見ながら心で毒付く麻生分隊士である。

が、ハッと我に返って艦長の訓示を皆に伝えねばと急ぎ足で十三分隊の居住区に急ぐのだった。

 

沖縄まではまだ二日ほどかかりそうだ。それでも空の様子は夏を思わせる色になりつつある――

   (次回に続きます)


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オスカーさんへ

こんばんは!

なんとインドネシアの方とご一緒に仕事をなさった時期がおありなんですね~!!
なんかあのあたりの方は「甘いの大好き」というこちらの思い入れがあって・・・ww。私も昔、インドネシアの出身だという人に「日本の夏は暑すぎる!」といわれて謝った記憶がありますね。・・・なんだか変だなあ(爆)。

このところ体調はよくなく、でも話の構想だけが頭の中を駆け回っています。
ご心配いただきありがとうございます。
もうすぐ元気になります!!

こんにちは。インドネシア!!私がいたいけなOLだった頃にネシアの方々が研修にやってきました。甘党なのは本当でした(笑)お加減はいかがですか?ムリしないでくださいね。今日1日おだやかにすごせますように。

matsuyama さんへ

こんばんは
お返事遅くなってごめんなさいね。

出た!灼熱のインドネシア・・・ですが私は言ったことがないので、内心「困った」と思いつつの構想です。ない頭をひねくりながらがんばりますよ~~ww。

いよいよ東北も梅雨ですか・・・鬱陶しい季節は今回だけは、と思いますが皆様の上に慈雨となって降りますように祈っております。

いつもご心配いただきありがとうございます。

鍵コメさんへ

こんばんは
お返事遅くなってごめんなさいね。

こちらこそいつもお世話になっております。
ありがとうございます。

どうぞ御身大切になさってください、待っています、とお伝えください。決してご無理ないようにお願いします。

ではまた!!

ジスさんへ

こんばんは
お返事遅くなってごめんなさいね。

インドネシア。
さあ、私は言ったことがありません(汗)!どのように書いていったらいいか、今真っ青になりながらいろんな資料と首っ引きですww。
まあ、こんなお話のことですから何とかまとめられるかな?という感じであります!

いつもありがとうございます。
お互いに健康には留意していきましょうね。

新たな作戦が出てきましたね。
パレンパンの油田地帯ですか。
日本もこれから真夏に向かいますが、インドネシアは灼熱の気候でしょうね。

やっと東北も梅雨に入った途端、30℃を越える暑さが続いてます。
南方の暑さとは比較できないかもしれませんが、気が重くなりますよね。

ご自愛ください。大丈夫ですか、身体のお加減。
酷暑の東京、あまり無理をなさらないでくださいね。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

こんばんは。いつもありがとうございます。

嵐の前の静けさといったところでしょうか。
これから何が起こるのか。またインドネシアという国ではどんな出会いがあるのか。
気になるところです。

今日も梅雨独特の嫌な天気でした。
おかげさまでインフルは去ったようですが、まだまだ油断ができませんね。
早くすっきりした天気になってほしいものです。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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