2017-09

「女だらけの戦艦大和」・いとしき人へ贈りたい3<解決編> - 2011.06.12 Sun

オトメチャン・麻生少尉ほかの『大和』の上陸員を乗せたランチは上陸場目指して海上を走っている――

 

オトメチャンは大事そうに大きなカバンを抱えている。その中には主計長手ずから渡してくれた食材が入っている。主計長はこれを渡してくれる時、「見張兵曹、いいかい?しっかり恩人に御奉公してきてね」と言ってほほ笑んでくれた。そのそばで福島大尉も嬉しげに笑っていた。

そんな情景を思い出しながら(皆さん本当にありがとう。今日は精いっぱい頑張ります)とオトメチャンは決意を固める。

その背中を麻生分隊士が眩しげに見つめている。

 

やがてランチは上陸場に接舷し、皆はそれぞれ思い思いの方向に散ってゆく。

麻生分隊士は、先に降り立つと見張兵曹の腕を持って下りるのを手伝った。そして衛兵所を通り過ぎた時「オトメチャン、今日はおれの下宿に行くんだ。みんなとそこで落ち合う予定になっているから」と言った。見張兵曹は「わかりました。でもおばさんにはご迷惑じゃないでしょうか・・・大勢で押し掛けて」と少し心配そうな顔を見せた。が、分隊士は笑って「いや大丈夫。なんでもおばさんは火曜日まで孫のとこに行ってるから『家中自由に使うてええよ』と言ってた。だからな、今夜と明日の晩はオトメチャンとおじいさんおばあさんはあの家に泊まるんだよ」と言った。

「三人で!」とオトメチャンの声が嬉しそうに上ずった。ああ、そうだよと分隊士も嬉しそうに答える。西田の妻は家が近いので今夜は自宅に戻ると言う、きっと祖父母孫の三人で水入らずで過ごさせたいのだろう。

麻生分隊士は手配したことがすべて上首尾に運んでいることに満足そうである。

 

楽しいことを考えながら歩くと長い道程もあっという間に着いて仕舞うようだ、分隊士の下宿に着く。分隊士は隣家に預けてあると言う下宿のカギをもらって来た。

玄関を開けて中に入り荷物をまず台所に置いて二人は着替えた。もんぺに着替えてほっとしたような息をついたオトメチャンを、分隊士はいきなり抱きしめた。

「・・・分隊士」といきなりの抱擁に戸惑うオトメチャン。その可愛い唇を奪ってから分隊士は「今夜と明日は会えんからね。今のうちにこうしておきたいんじゃ」と言い激しい口づけ。

たまらなくなったのかオトメチャンをその場に押し倒してしまう。しばらくそんなことをして、まだ興奮冷めやらぬ感じで起き上がった分隊士は、

「ちょっと外を見てくるけん」

と言うと玄関に向かった。少し気恥ずかしいみたいだ。オトメチャンは乱れた着物を直して湯を沸かし始め、持ってきた食材を並べ始める。

幸せな気持ちがふつふつとわき上がってきた。

 

そして。

「おうい。オトメチャン、みなさんがお見えになったよ」

待ちに待った声がかかる。見張兵曹は食材の準備をする手を止め、頭にかぶった手ぬぐいを取ると小走りに玄関に急いだ。

ああ、懐かしい祖父母と西田教官の妻の三人がそこにいる。

「皆さま・・・」

としばし言葉のないオトメチャンである。分隊士が「さ、ここではなんですけん。お入りになってつかあさい」と三人を中にいざなう。

そしてしばし楽しい歓談の時を持った。久々の再会に話も弾んだ。祖父母も元気そうであったし西田さとも元気でオトメチャンはほっとした。祖父はオトメチャンのもんぺ姿に目を細め、

「おう、まったくトヨに生き映しじゃのう」

と見つめている。祖母も愛しい末娘の生前の姿を思い出したか、着物の袖で目頭をぬぐいながら夫の言葉にうなずいている。西田さとは「ほうですねえ。よう似とられますね、トヨさんもトメさんもこう、品があります。きりっとしたところがトヨさんによう似とられますね」と感慨深げである。「トヨさんや洋二郎さんが生きておられたらどんなに喜ばれたか・・・」

 

そしていよいよオトメチャンの腕の見せ所の時が来た。

今日のメニューは「ジャガイモの甘煮(うまに)(いわゆる肉じゃが)」、「ハム寿司」に「鯨カツ」「けんちん汁」、そしてデザートに「ライスプリン」である。

オトメチャンは「私一人で出来ますけん、大丈夫です」と言って奮闘している。その間分隊士は三人に『大和』でのオトメチャンの様子をかいつまんで話した。

「そうですか、トメはしっかり軍務をこなしておるんですね」と祖父が安心したように言って祖母はうなずいた。西田さとが、「トメちゃんはしっかり者じゃけえ、『大和』でも大事にされて。きっとなくてはならん存在でしょうなあ」とほほ笑む。

分隊士は力強くうなずいて「そうです。見張兵曹は『大和』に欠くことのできん存在であります」と言った。(そして・・・俺にとっても)と心のうちで言う。これはちょっと口に出すのが恥ずかしくて出来ないが。

「いずれ、」と麻生分隊士は座りなおしながら言った、「いずれ我々がアメリカに日章旗を立てたその暁には皆さまをアメリカにご招待いたしますけえ、待っとってくださいね」。

「おお、その日を首を長うしてまっとりますけえね。こりゃあ楽しみじゃなあ」と祖父が楽しげに笑った。皆も笑う。

 

そして。

「お食事が出来ました」とオトメチャンのひそやかな声がして彼女が食事を運んできた。麻生分隊士が「あ、手伝おう」と運び入れるのを手伝う。

大きな座卓に並んだ手料理に皆は「ほお、これは・・」と歓声を上げた。オトメチャンははにかみながら「よう出来たかどうか、ちいと自信がないんですが」と言いながらハム寿司を茶碗によそってゆく。西田も祖父母も「いやあ、これはすごい」と見入っている。

「さあ、どうぞ」

皆は箸を取った。けんちん汁をすすった四人が「うまい・・!」と唸る。甘煮、ハム寿司、鯨カツを皆は黙々と食べる。

ふっと麻生分隊士が「美味い物を食べて居ると、無口になりますなあ」と言って皆が笑った。見張兵曹はそんな皆を幸せそうな笑顔で見まわしている。

そして食後のデザートの『ライスプリン』も大好評を博した。

プリンを口に運びながら祖母は「ああ、もったいないねえ。孫にこげえにええもんを食べさせてもろうて。もういつ死んでもええ」と泣いた。

その祖母にオトメチャンは「死んでしまわれたら困ります。もっともっとたくさん作りますけえ、長生きしてくださいね、おじいちゃんおばあちゃん。西田さん、教官が横須賀からお戻りになられたら今度はご一緒に」と言った。

祖母はうなずいて、西田さとも「そうじゃねえ、夫がこれをいただいたら嬉し泣きしますよ。その日が楽しみじゃ」と言って祖父母と顔を見合わせてほほ笑む。

和やかな時間がゆっくりと過ぎて行く。

 

・・・楽しい時間はあっという間に去って、今朝はもう『大和』に帰艦の月曜日である。

下宿の玄関に、見張兵曹は立って祖父母と西田さとの見送りを受けている。見張兵曹は、もうすっかり海軍軍人の顔に戻って「では西田様。こちらの鍵をお願いいたします」と下宿のカギをさとに預けた。まだ朝早いので隣家には後から西田が届けてくれる算段になっている。

「わかりました。御心配なく」とさとはうなずいて、祖父母は兵曹の手を取って言葉が出ない。

そんな祖父母に笑いかけて兵曹は、

「いろいろありがとうございました。楽しい時間が過ごせて何よりの思い出です。・・・また帰ってきたらお会いしましょう。その日までお元気でお過ごしください」

と言うと、サッと敬礼した。三人はその兵曹に頭を下げた。

三人が顔を上げると兵曹は敬礼の手をおろしにっこり笑うと踵を返した。数メートル歩いたところで祖母の「トメチャン!」と言う叫びにも似た声が響き、一瞬兵曹の歩みが止まった。が、兵曹は(ここで振り向いたら泣いてしまう)と、あえて振り向かずそのまま歩み去った。

最初の角を曲がった時・・・兵曹の目から大粒の涙が紺の軍装の胸にこぼれおちた。兵曹は涙を、そして断ち切れぬ思いを振り切るように走りだした――。

 

『大和』に帰艦した見張兵曹は石多主計長と福島大尉を訪ねて丁重に礼を述べた。

「そう、そんなに喜んでもらえてそれはよかったね。いい孝行が出来たね」と主計長はわがことのように喜んでくれた。福島大尉もいつものように微笑んでいる。

十三分隊に戻ると麻生分隊士はオトメチャンの帰りを両手を広げて迎えた。そしてその耳元でこう囁いたのだった。

「よかったな。・・・これで心おきなく次の作戦に出られるな」

 

――そう、『大和』には次なる大きな作戦が待っているのだった。

出港は後一週間後に迫っている。

その緊張の中、見張兵曹は防空指揮所に立ち、呉の町に向かって祖父母と西田にしばしの別れを告げたのだった。

「次に会うときは、もっともっとおいしいものをごちそういたします、お元気で!!」


にほんブログ村 小説ブログ 百合小説へ
にほんブログ村
関連記事

● COMMENT ●

ウダモさんへ

こんばんは~
遅くなってごめんなさいね。

そうまた年取っちゃいましたよ、ワハハ!!もうこればっかりはみな平等だから仕方ないですね(といいつつ涙目・・)

こちらこそいつもどうもありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!
笑ったり考え込んだりしながら楽しくやってゆきましょうね~~!家ー、じゃない、イエー!!

ぉ★

お誕生日でしたか^^b
おめでとうです♪パフパフ☆彡

そしていつもコメントありがとうですm(__)m
これからも楽しくやっていきましょうね★

まろゆーろさんへ

ありがとうございます!!

お言葉しっかり承りました。
今のままで、決して動じず、素のままの私でこの先も過ごしてゆきます。
やはり疲れたら休む、という当たり前のことが大事なんだな・・・と痛感しました。

>「あるがまま」の強さとたわみ
これが大事ですね。言ってみれば竹のような感じでしょうか。

次の誕生日までの一年を頑張って生きたいと思います。
いつも温かきお言葉感謝いたします!
これからもどうぞよろしくお願いします!!

誕生日、おめでとうございます!!!
いいですか。これからも元気に過ごすこと。そして辛口でも辛辣でも、人様からなんと言われようが今のままの見張り員さんでいること。何よりも大切なことは疲れたら休むこと。
「あるがまま」の強さとたわみで、またこの一年を頑張りましょうぜ!!
応援しています。

オスカーさんへ

おはようございます。
お越しいただいてとてもうれしいです♪

スト魔女とか聞いたことはありますが読んだり見たことはないんです・・・!でも最近、美少女擬人化された兵器の乗った雑誌がありますよね(MCあくしずとか)。
ちょっと内容的には恥ずかしいですが(!)時々参考にしております。

どうぞまたいらしてくださいね、私もお邪魔させていただきますね!

はじめまして

こんばんは。まろ師匠のところでいつもコメント読ませて頂いています。今日のお加減はいかがですか?
本日お誕生日ですよね!!おめでとうございます。より良い一年になりますように!!
お話、「大和」ということはスト魔女も読んだりアニメを見たり…でしょうか?
またおじゃまさせていただきます。

ジスさんへ

こんばんは!

ご体調よくなられましたか!こんな陽気ですからくれぐれもお大事になさってくださいね。

出会いがあれば必ず別れが来ますが、おっしゃるようにそれがあるからこそ次に再開するのが嬉しいんですよね。
出会ってのちの別れは再開の序曲・・・なんて。

「大きな作戦」とは??
いずれにせよ、「女だらけの大和」一人も欠けずに戻れることを祈るばかりですね。

くれぐれも御身大切にお過ごしくださいね。いつもありがとう!!

こんばんは。いつもありがとうございます。

お陰さまで体調も戻ってまいりましたのでゆっくりと読ませていただきました。
久しぶりの再開、そして別れ、寂しいものですね。しかしながら別れがあってこそ次の出会いがうれしいものでしょうか。

大きな作戦、心配であり期待も大きいものです。無事に帰還して欲しいものですね。


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/339-9cf5668c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「女だらけの戦艦大和」・スマトラ戦記1 «  | BLOG TOP |  » 「女だらけの戦艦大和」・いとしき人へ贈りたい2

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (110)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード