「女だらけの戦艦大和」・雨の日と月曜日は。

「女だらけの戦艦大和」副長の野村次子は久々の呉上陸をしていた――

 

普段副長はなかなか上陸を出来ないのだが今回は艦長が直々に「副長、たまには息抜きしといでよ!今日明日は私が大和(ここ)にいるからさ」と言ってくれてひとりで上陸したのだ。

今日は、小ぬか雨が降っている・・・

せっかくの上陸なのに雨なんて。とは副長は思わない。が、(せめて雪ならいいのに、雨だと濡れるじゃないか)とは思ったが。

彼女たち海軍軍人は「傘」はささない。昔からそうらしい、と言うだけで誰もそれに対して異議を立てないし、なんだか傘をさすと言うのはスマートでない気がして、スマートをモットーとする海軍さんは雨など気にしない。

ともあれ、副長は上陸場を抜けて呉の町中に向かった。

でも今日はひとりなので、どこに行くと言うあてもない。ぼんやりとあたりを見ながら歩いている。

今夜はいつもの宿屋に泊まる予定でいるからそれはよいとして、(夜までどこで時間を過ごそうか)と考えている。

幾人かの兵が、副長に敬礼して通ってゆく。返礼しながらなんとなくそのあとをついてゆく感じになった副長は、大きな映画館に入った。

『太平洋の王者』と言う映画がかかっていて、見ることにした。海軍と陸軍の兵の奮闘ぶりを描いた作品に劇場内から拍手が起きたりすすり泣きが起きる。

副長も、(おお、これはなかなか良い映画だなあ。この女優も可愛いし・・・)などと思いつつ見入っている。

本編が終わった時(でも。一番可愛いのはオトメチャンだがね)と思って一人まだ暗い劇場内で頬を緩ます副長。

そのあとのニュース映画になんと『月を愛でる会』の際の、長妻兵曹の団子大食いの様子が映し出されて人一倍大笑いした副長。もちろん他の観客たちも大笑いである。

自分もあの時あの場所にいて見ていたはずなのに、こうして客観的にみるとまるっきり他人事のようで思い切り笑えて楽しい。

(いつか長妻兵曹の椰子の実落としも映画に撮ってほしいもんだねえ)

そう思う副長である。

 

そのあと副長はあてどもなく歩き回り、長迫の海軍墓地に来ていた。なんだずいぶん歩いちゃったなあ、とひとりごちながら墓地に入ってゆっくり墓石を見て歩く。

明治の昔から今までに戦死した英霊たちの鎮まる墓所である。静かな英霊たちの眠りを邪魔してはならない、副長はそっとそっと歩を進める。

(いずれ・・・私たちもここに眠るのだろうか)

そんな思いが副長の胸をよぎる。つめたい風が、副長のほほをなでるように吹きすぎて、小ぬか雨が副長の肩を、頬をうっすらと濡らす。

(そういう日が来ても私は後悔しない。もともとこの身は海軍と、そして何よりこの国に、陛下にささげた身である。国を守るに何を躊躇することがある?死して護国の鬼となる、それが本望ではないか)

副長は、墓地の中を歩きまわりそしてやがて元来た場所に出た。ずいぶんゆっくり回ったようで一時間以上が経っていた。副長の軍装はすっかり雨に濡れそぼっている。

副長は墓地全体に最敬礼してそこを後にした。

・・・海ゆかば 水漬く屍

   山ゆかば 草蒸す屍

   大君の辺にこそ死なめ 

   かえりみはせじ・・・

「海ゆかば」が口をついて出ていた。あまり人どおりのないこの通りを副長は町中に急いだ。少し寒くなって来た。

 

副長は中通りの食堂に入った。もう二時を回っていたので食事をしようと言う人もそうはいなく、ゆったりと座ることが出来た。昼から酒では回りが早い、酒は夜にとっておこうと副長はカレーライスだのうどんだのと長妻兵曹も真っ青の食欲を見せてそれらを平らげた。

窓の向こうには相変わらずの小雨に煙る町があり、副長はしばしそれに見とれた。

静かな娑婆の風景である。常夏のトレーラー島に長いこといるとこうした日本の当たり前の姿が妙に懐かしくもあり、嬉しくもある。

運ばれてきた茶をすすりながら副長はふと昔のことを思い出していたーー

 

副長が『大和』に乗務するずっと前、副長には縁談があった。副長の親は「次子もそろそろ身を固めないといけないね。・・どうだ、そろそろ結婚したら?」ととある見合い話を持ってきた。副長は「私は海軍に一生を捧げましたから結婚などは考えたくないんです」と断ったが親に、「こちらの方がぜひにとおっしゃるから」と言われて会ってみることにした。

副長は、その時「山城」砲術長だったのでしっかり一種軍装に身を包んで見合いに臨むこととした。

母親は「次子あなたそんなかわいげない恰好じゃあ・・・」とうろたえたが副長は毅然として「可愛げないとはいかなることでしょうか?私はこの服に愛着と誇りを持っております。・・・何なら前にいた陸戦隊の『陸戦服』でも着てきますか?」と答えた。自分より背の低くなった母親を、自然、見下ろす形になった。

母親はもう何も言わず、困ったように微笑んでしまった。

そして副長と父親、母親は見合いの席に向かったのだった。

雨のそぼ降る、月曜日だった・・・

見合いの席に現れた男性は大きな商社の係長で、一種軍装の副長を少し驚いた表情で見た。副長は威厳を正してあいさつし、相手の両親にも折り目正しくあいさつした。相手の親にはおおむね好意的に迎えられた副長だったが肝心の『お相手』には手厳しい言葉を投げつけられた。

「あなたはなぜ、軍服でいらしたのか?今日は見合いの席ですよ?」

それに対し副長は少しも動じないで、「私は帝国海軍の軍人です。見合いであろうが葬儀であろうが私の正装はこれですから。大体あなたは私が海軍と言うのを聞いて承知の上で見合いをしたのでしょう?それならこういうこともあると思っていただかないと。私は私の職業に誇りを持っています、それを傷つけるような言葉は慎んでいただきたい」と言った。

副長の母親はおろおろして、「次子・・!」と副長の膝をつついたが副長はその母親をちょっとにらんだ。だんだんと不快感が心を占拠しつつある。

そして副長は相手の男性をじっと見つめて、

「あなたは女性に可愛いとか従順さをお求めのようだがそれなら最初から私との見合いなぞせねばよいのです。我々軍人は、士官から兵に至るまで忠勇を旨としております。なよなよした女なぞ海軍には一兵たりともいらんのです!」

と語気強く言い放った。怒りが沸き立っていた。驚いてポカンと口を開けたままの一同をしり目に副長は「では私は艦に戻る時間がありますからこれで」と、見合いの席を立って戻って来た。

雨のそぼ降る、月曜日だった・・・

 

副長はふっと我に返った。

そういやあ、今日も月曜日じゃあないか。どうもいかんなあ、雨の日と月曜日は。

副長は、そうつぶやくと湯呑に残った茶を飲みほして、嫌な思い出を振り払うように立ち上がり、支払いを済ましていつもの宿屋へと足早に向かったのだった――

 

  ・・・・・・・・・・・・

私の大好きなカーペンターズ、『雨の日と月曜日は』のタイトルから連想で書きました。ああ、副長も女である前に立派な帝国軍人だったのですね。

次回は誰の話でしょうか、ご期待を!


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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)