2017-10

「女だらけの戦艦大和」・追われるもの3 - 2011.02.06 Sun

「あなたは・・・どうしてここに?」

麻生分隊士は、助平女史が前に押し出した連れを見て絶句した――。

 

その「連れ」は満面の笑顔で麻生分隊士に近づいてきた。油ぎッた顔、大きな太鼓腹。それが開口一番、

「太ちゃん!!待ってたよぅ!」

と叫んだ。誰あろう、かつて分隊士が無理やり祝言を挙げさせられ初夜を途中で逃げ出して来たあの『太郎左衛門』であった。

金縛りにでもあったようにその場から動けない分隊士に駆け寄ると、太郎左衛門はその手を取って「太ちゃん、なんて立派になって。俺嬉しいよ、待ってた甲斐があったってものだね~。士官さんになったんだから結婚もできるよね。今日こそチャンと結婚しようね」と言う。

分隊士はようよう金縛りから解け、太郎左衛門に向かいまず、

「・・・いったいあなたはなんで助平さんといるんで??」

と聞いた。太郎左衛門はうふうふ、と笑いながら話し出したがだいたいこういうことらしい。

 

・・・麻生太が故郷を出て行ったあと、失意の太郎左衛門は所用で東京に行った。その時一軒のあやしい店(しかも地下にある)を発見。そこには様々な『衣装』があって自分で着たり誰かに着せられるようなものをたくさん売っていた。

太郎左衛門は自分も変身願望があったし、(いつか太ちゃんをきちんとお嫁さんにしたらこういう物着せたいなあ)と妄想がむくむく湧いてきて、東京滞在中の一ヶ月間ですっかり常連状態になった。

東京滞在も残り少ないある日のこと、件の店にいた太郎左衛門はひとりの女性に出会う。彼女こそが助平得露女史であるが、ちょっと立ち話をするうちにすっかり意気投合した。しかも太郎左衛門が呉に近い場所に住んでいると知った助平女史はもっと彼に興味を示した。

そして自分が大好きな、とある海軍下士官の話をし彼女にいろんな衣装を着せたい話もした。すると彼も自分の『いいなずけ』が海軍の士官であると告白。しかもどうやらその二人は同じ艦の同じ配置と来た。

そこで二人の利害は完全に一致し、「では今度『大和』が呉に帰って来た時実行しましょう」と約束をしたと言う・・・

 

「なんてことだ」と麻生分隊士は天を仰いでため息をついた。世間は狭いと言うがここまで狭いとは・・・。

助平女史が、言った。

「ですからね、今日はこれからみんなで私のなじみの旅館に行きましょう。麻生さん、拒否なんかできなくてよ?拒否したらオトメチャンがどうなるもんだかわからなくってよ?明日の朝帰艦まで私の言うとおりにしていただきますよ」

分隊士は「オトメチャンが!」と息を飲む。どうされると言うのだろう、分隊士の胸の奥にもやもやしたものが広がった。まさか、この男性に・・・!?

助平女史は、オトメチャンを担いだままの屈強な男性を促し、さらに太郎左衛門に「さあ、行きましょう~」とうきうきした声で誘いかけ太郎左衛門は「太ちゃん、行くよ」と麻生分隊士の腕をとる。

路地の向こうに黒塗りの大きな自動車が一台、止まっている。

一同はそれに乗り込む。

 

自動車は少し走ってとある旅館の前に停車した。分隊士は(ここは!)とハッとした。ここはかつて、オトメチャンが姉と言う人からヘンなお見合いを強要され大変な目にあった場所ではないか。

(いやな場所だ・・・)と暗然とした分隊士を促して、太郎左衛門は降りた。オトメチャンは相変わらず気を失ったままである。

『貸切』の紙が貼られた玄関を入る。助平女史が、玄関に置いてあったベルを鳴らしたようだ、この大きな建物の奥の方で空気が振動するかすかな気配を感じた。

「行きましょう」と助平女史はいい、勝手知った様子でさっさと奥に進んで行く。

階段を上がり、三階に行けばそこは洋室ばかりのようでいかめしいドアが並んでいる。その一つの前で立ち止まると、女史は「あなたたちはここよ。私は隣ですから安心して?」と言ってそのドアを開けて太郎左衛門と分隊士を中に入れようとした。

分隊士が太郎左衛門を押しのけるようにして前に出て、女史と対峙する格好になった。そして、「一体どういうおつもりでこういうことをなさるのか?うかがうところによればあなたはもう、海軍をお辞めになったとか。そんな方がどういう権限で私たちを拘束するのかお聞きしたい。そして速やかに私たちをお返し頂きたい」と言った。

女史はいやらしい笑いを浮かべると、「あら~。やめたって言ったって私が長年海軍に奉職して来た事実は変わらないわ。辞めたってそれなりの『権力』は持ってるのよ。一介の特務士官のあなたにはわからないこともたくさんあるのよ。・・・でね、あなたは今日この太郎左衛門さんの言うことを聞かないとオトメチャンが痛い目に遭うことになるからその辺はしっかり認識して置いてくださいね。・・・ではまた明日。ご機嫌よう」と言ってオトメチャンを担いだ男性と隣室に入ってしまった。

重いドアが閉まった。鍵がガチャリ、とかかる音がした。

「オトメチャン!!」とそのドアにとりすがった分隊士の肩を、太郎左衛門が掴んだ。そして「さあ、入ろうよ。太ちゃん」と言うと強引に分隊士をひっぱりこんだ。

ドアが閉まり、鍵がかかる音がした。

そのあと、隣室から助平女史が出てくると一本のカギを出し、分隊士たちの部屋のドアに差し込み、回した。ガチリ、と重い音がした。

(はい、これで中からは開けられないようになりました~。あなたたちは新婚の初夜を。私はオトメチャンと楽しい夜を過ごしましょ~)

とてつもないいやらしい笑いを浮かべて、女史は自分の部屋に取って返した。

女史が部屋を見かえれば、豪華なベッドの上で見張兵曹はすやすやと寝息を立てている。助平女史は足取り軽く近寄ると彼女の傍らに腰をおろし、

「さあ、オトメチャン。私と一緒に短い夜を楽しみましょうね~」

と言いつつ、その軍装のボタンをはずし始めた。屈強な男性は、ソファに腰掛けてそれを見ている。

 

そして隣の部屋ではテーブル越しに、麻生分隊士と太郎左衛門が向き合っている――

    (次回に続きます)


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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

おおごとになりました・・・w。
助平女史は「私がいなけりゃ海軍は成り立たない」というちょっと自意識過剰な女ですのでこういう発言になります。
海軍が女史を縛るのではなく女史自身が海軍を自分に縛り付けている・・とでもいいましょうか、そうです要するに履き違え、です。
ただのおバカ、ですねww。しかし困った人。

2人とも束縛されてしまいましたね。
束縛といえば、定年退職した助平女子は、辞めても海軍に対する権力に束縛されるんですか。
一般の会社ですと退職すると権限も一緒に無くなるんですけどね。役員昇格のため、社員の
地位を辞職すらなら別ですけどね。
助平女子は権限の内容を履き違えてるんじゃないですか(笑)。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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