2017-10

「女だらけの戦艦大和」・トメキチと修子 - 2010.12.05 Sun

『女だらけの戦艦大和』は常夏の日差しを受けて眩しそう――

 

松岡航海科分隊長もここ「大和」に来てそれなりの月日がたち、大きな戦闘も経験した。乗組員たちとも気心が知れあい、居心地がよさそうな分隊長である。

他科の兵たちは親しみをこめて「蠅たたき中尉」だとか「火の玉分隊長」などと呼び習わしている。

艦長たちトップも「よかったね、一時はどうなることかと思ったけど松岡中尉もすっかり慣れて」と安心している。

 

分隊長は、今日もまず防空指揮所に上がって来た。彼女の一日はここから始まるのだ。

「みんなー!今日も熱くなれよ!」

と開口一番、叫んでラケットをカッコ良く構える松岡中尉。それに「はいぃ!」と大きな声で答える分隊員たち。最近では中尉のようにカッコよくポーズを決めて応えるのが通例になった。

松岡分隊長は満足そうにそれを見て「いいね、元気だ。いいかい、何があっても心の熱さだ、それから事に当たっては竹のしなやかさを忘れちゃあいけないよ・・・みんな!竹になれ!バンブー!!」と更に檄を飛ばした。

「バンブー!」

と腕を天に突き上げて、ひときわ大声で応える分隊員たち。

松岡分隊長は「よし、今日も頑張ろう!」といって、ラケットを左の脇に挟み、右手の親指をぐっと立てるとさわやかに階下に駆け下りて行ったのだった。

「松岡分隊長は、いつも元気でいいなあ」とその後ろ姿を見送りながら見張兵曹が言った。石場兵曹が「そうだねえ。・・・でもなんかさ、その分麻生分隊士の元気がないような気がするけどね」と言って笑う。見張兵曹は、「そんなことないですよ石場兵曹。分隊士は松岡分隊長とは違って物静かなだけですって」と弁護した。

石場兵曹はちょっと苦笑して「そう・・そうだね。やっぱ麻生分隊士の事はオトメチャンがよーく知ってるもんね」と言い、見張兵曹はふっと顔を赤らめたのだった。

 

その麻生分隊士は、最上甲板でトメキチといた。

昨夜の夜食の残りの握り飯をこっそりトメキチに与えている。「いいか、トメキチ。朝飯前の『おめざ』だからな。あとで朝飯たくさんやるからなあ」とかいいながら。

トメキチはちゃんと敬礼してから飯を食べる。その様子に麻生分隊士は(賢い犬だよなあ。犬にしとくんはもったいないよな)と思う。

麻生分隊士はトメキチの前に座って食べる様子を見る。食べ終わったトメキチが麻生分隊士の顔を見て笑う。

「うまかったか?」とトメキチの頭をごしごしとなでて、「じゃあオトメチャンとこに行こう」と立ち上がった、その時、向こうから走って来た松岡分隊長が持っていたラケットでトメキチを指して、「おはよう犬くん!!」と叫んだ。トメキチは驚いて、四本の足を開いて飛びあがって「ギャッ!」と吠えた。

麻生分隊士は分隊長に敬礼して、「分隊長。トメキチが驚いております・・・いきなりそれはトメキチの心臓によくないであります」と苦言を呈した。しかし松岡分隊長は、「いやいや。そんなはずはない。第一これは犬だぞ、犬なんだからそんなやわな心臓であるはずがない」と言って意に介さない。

と。

その時、「キャン!」とトメキチが一声叫ぶなりなんと、その場にばったりと倒れてしまったのだ。白目をむいている。

「と、トメキチぃ!」と真っ青になってトメキチを抱き起す麻生分隊士、「・・・どうしよう、トメキチはオトメチャンの犬なのに・・・死なしちゃたら・・・」麻生分隊士は顔をあげて松岡分隊長をにらみつけた。流石の松岡分隊長も驚いてトメキチを覗き込んだ。

麻生分隊士は、「分隊長、トメキチが死んだりしたらこれはあなたの責任問題ですからね。きっちり責任は取っていただきますよ?いいですか、あなたにはただの犬でしょうがこのトメキチは『大和』とオトメチャンにとっては大事な大事な乗組員の1人なんですからね、それを――」とまくし立てた時。

トメキチが分隊士の腕からピョン、と飛び降りるといたずらっぽく笑って見せたではないか。

要するに、「死んだふり」をして脅かしたのである。トメキチは何事もなかったかのように後足で頭を掻いた。

「トメキチ、あんたって子は・・・」と二の句が継げない分隊士。分隊長はしばらくトメキチの顔を眺めていたが、「うん、犬くん!ちょっと私んとこにおいでよ」と言ってトメキチを誘っていずこかに消えて行ったのだった。

 

そのあと、二時間ほどあと。

松岡中尉はトメキチに「いいかい?犬くん。さっき言ったようにしてね」と言い含め防空指揮所に行かせた。

防空指揮所に上がるトメキチ・・・トメキチはなにげなく見張り員たちの間を歩いている。そして見張兵曹のそばに来た。

「あ!トメキチ、一体どこに行ってたの?心配したんだよ」そう言ってトメキチのそばにしゃがみこむオトメチャン。そのやわらかいほっぺたを、トメキチは舐める。

その時入口から唐突に松岡分隊長が入って来た。皆が敬礼するが早いか、分隊長は持っていたラケットをトメキチに指して「やあ、犬くん!」とでかい声を上げた。

とたんに、「ギャッ!」と叫んで4本の足を開いて飛びあがったトメキチ。ここまでは皆見慣れているのだが次の瞬間。

「ギャン!」と言うなりトメキチはその場に倒れ込んで白目をむきだした。

驚いたのは見張兵曹である。心の友のトメキチが今白目をむいてぶっ倒れているのだ。どっと駆け寄り膝を床について「トメキチ、トメキチ!?・・・いやあ、死んじゃいやあ!!」とトメキチを抱き上げるなり号泣し始めたではないか。抱き上げられながら(困った・・・)」と思ったのか体を硬直させて緊張に耐えるトメキチ。松岡分隊長もその号泣のすさまじさに驚いてしまった。ちょっとおどかそうと思っただけなのに行きすぎてしまったみたい・・・。

皆が集まりだした。「どうしたの?」「トメキチが倒れてる!」「もしかして、分隊長があのラケットで『殺った』の!?」・・・大騒ぎ。

そこに騒ぎを聞きつけた副長が上がって来た。「いったい何を騒いでる・・・て、ええ!?トメキチが!」

副長も度肝を抜かれて大声を上げた。すぐに見張兵曹のそばに駆け寄るとその肩に手を置いて「さ、早く軍医長に診せよう!」と言って彼女を促すと立ち上がった。

(やばい・・・)とトメキチは思ったか、やおら見張兵曹の腕から飛び降りた。そして二本足で立つと、松岡分隊長の後ろに行ってその腰を後ろから押して皆の前に押し出した。

「・・・どういうこと?分隊長」

副長が腕組をして松岡分隊長の前に立った。

 

そのあと松岡分隊長は事の顛末をすっかり話して聞かせた。さすがに皆は大爆笑になったが見張兵曹だけはトメキチをしっかり抱きしめてまだ泣いている。

そこに麻生分隊士が来て話を聞いて「分隊長!子供じゃないんですからね、ヘンなことして喜ぶのもいい加減にしてくださいっ!」と一喝した。

松岡分隊長は謝ってその場はおさまったが―――この後も他の分隊に行っては同じことをして皆を驚かしている修子とトメキチであった。

見張兵曹はトメキチに『道化』の才能もあったことに驚くやら喜ぶやら、であったとか。


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● COMMENT ●

雪風さんへ

こんばんは!

世の中クリスマスなるもので浮き立ってきましたので、「女だらけの海軍」もしてみんとす、ですww。

トメキチ、きっとこの先「女泣かせのマドロス犬」になるかもしれないですぞ・・・船着き場でパイプくわえたりして・・・!?

やまと君さんへ

今晩は!ご訪問ありがとうございます。

やまと君さんは犬好きですか!私も大好きです、うちには柴犬のメスがいますがなかなかしつけも調教もできていません・・・(恥)。

いやいやでも、国会議員は「にんげん」ですからもっと恥を知ってほしいものですよね!

トメキチみたいな犬がいたら・・・きっと楽しいでしょうね。

ジスさんへ

こんばんは!こちらこそいつもありがとうございます。

「死んだふり」する犬を時々TVで見かけますが「賢いなあ」と感心しますね。うちの犬はまだまだそこまでいきません(泣)。

今夜(7日)はとても寒いです・・・。いよいよ年末の足音が聞こえてきますね。

No title

クリスマス使用で可愛いですね
トメキチったらオトメちゃんを泣かせて
悪い子ですね・・・ふふ

トメキチ

見張り員さん、こんにちは。
私は大の犬好きで、小さい時から犬を飼っていますが、いずれも駄犬で、躾もまるで出来ておらず・・・まるでどこかの国会議員の様に・・・
トメキチのようなスゴ犬が居たら、この世の中、もっともっと愉快になるでしょうね。

No title

こんばんは。いつもありがとうございます。

トメキチ・・・役者ですね。「死んだフリ」は、かなり高度な知恵がないと出来ないですね、きっと。

今日は暖かい日でした。まるでこのお話のように穏やかな陽気でした。でもまた寒くなりそうで。。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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