2017-10

「女だらけの戦艦大和」・また来る日まで。 - 2010.11.13 Sat

最初にハワイを離れたのは、山口少将率いる機動部隊であった――

 

「いやだよお、帰りたくないよ」とゴネて周囲を困惑させたのは山口司令官だった。彼女はハワイの食事の盛りの多さに大感激して「私、ハワイに住むわ!」とすら言っていた。『飛龍』の加来艦長はさすがに驚いて、「御冗談を。少将がここに住まわれてしまったらわが機動部隊はどうなりますか!」と一喝したのだが、山口司令官はシレっとして「どうもならんよ?だって、南雲ちゃんがいるじゃないの?彼女の方がいいんじゃないの、痩せててさ」と言ってはばからない。

加来艦長は困り切って艦内帽を取ると、頭をひとしきりかきむしってそして言った。

「デブだの痩せだのって問題じゃないんですよ!わが機動部隊にはあなたが必要なんですよ。わかりますか?あなたが必要なんですよ。・・・大事なことだから二回言いましたよ!」

山口司令官はその加来艦長を最初、呆けたような顔で見つめていたがやがてその瞳に涙が盛り上がった。そして加来艦長を抱きしめると「嬉しい、私を必要だって言ってくれるなんて。そう言葉に出してくれることが何よりうれしくって、私はもう・・・」と泣きだした。

加来艦長は「何かあったのですか?」と聞いてみた、すると司令官は艦長を抱きしめたまま「・・・聞いちゃった」と言う、艦長は「何をです?」と問う。すると司令官は「・・・ハワイに来る前、艦橋に入ろうとしたらそこでみんなが『山口ってデブだし、のろそうじゃん?食ってばっかりだからああなるんじゃねえの?』とか『もっと痩せろよな。重さで艦が沈んじまうよ』とか言ってんだもん・・・」と泣きながら告白した。

「ええっ!」と艦長は大変驚いた。なんてことを言うんだろう・・・かりにも司令官だぞ、無礼にもほどがある。加来艦長は義憤に駆られた。絶対その犯人を見つけ出す!

「艦橋要員は総員集合!」

加来艦長の今までにない怒りに『飛龍』艦橋につめる面々が集まって来た。「どうしたんです、艦長」と口々に言いながら。

加来艦長は怒り冷めないままに今までのいきさつを話した、そして「大事な山口少将を傷つける物の言い方をした奴はここになおれ!成敗してくれるッ!」と言うなり、持ってきてあった軍刀の鞘を払った。

抜き身の軍刀が血を求めて光っている・・・加来艦長ご自慢の軍刀・「春雨」。

「ひゃああ!」とその場の士官も下士官も、兵もひと塊りになって真っ青になった。加来艦長は軍刀の先で一人一人を指しながら「貴様か?ああン?それともお前か!」と言って回る。

その時ひとりの兵曹が「あ、もしかして」と言った。加来艦長は切っ先をその兵曹にむけると、「何か知ってるか、ならば言え。言わぬと斬るぞ!」と気色ばむ。

兵曹、ごくっと喉を鳴らしながら「それは通信科の山口兵長の事だと思います。ハワイに来る前、居住区の廊下でこの伊藤上水が山口兵長にぶつかられて倒れた時にねん挫したんです。・・・でも兵長は謝らなくって。その皆のうっぷんがここで爆発したその時の事だと思いますが」と言った。

加来艦長はちょっとだけほっとしたが、だが「待て!皆でしかも陰でこそこそ言うなど、帝国海軍軍人のすることか!卑怯である、言いたいことがあるなら班長や分隊士などに立ちあってもらって解決すべきだろう、それでは兵長が悪くてもいじめではないか!」とその連中に意見した。

皆はハッとした。山口少将も黙って聞いていたが、「今からその兵長を呼んで来なさい」と静かに言って、通信科の少尉が呼びに行った。

山口兵長が連れてこられ、司令官の姿に驚きながらも例の件を聞かされた。

山口少将は、「伊藤上水は君に倒されて捻挫をしたのにもかかわらず、君は謝罪もしなかったそうだね。それはいけないよ。海軍は全員で一つの艦を動かすのだからひとりのわがままや乱暴、不平不満や欠員でも動かなくなると言うのは分かっているだろう?・・わかったなら今からでも遅くない、伊藤上水に謝りなさい」

と兵長を諭した。兵長は大変恐れ入って、伊藤上水に「あの時は済まなかった、遅くなったが許してほしい」と言い、伊藤上水も「済んだことですから」と笑って許してくれた。

加来艦長はそれを満足そうに見つめ、艦橋要員に「やたらと陰口をたたいてはいかんぞ。特に同姓の人がいると言うことも念頭に置かねば、関係のない司令官が今回大変傷ついたのだからな」と言って皆は司令官にも謝った。

司令官は笑ってうなずき、(でもあの山口って水兵長も随分太ってるなあ・・・私もあんな風なんだろうか。――まずい、これはちょっとやせないといけないな)と内心危機感を持ったのだった。

 

そんな騒ぎの中、山口司令官の機動部隊は一路内地を目指して真珠湾を出航して行った。

 

「ああ、『飛龍』たちが出てゆくぞ」と、『大和』の防空指揮所で小泉兵曹が言った。

「どれどれ」と、見張兵曹だの亀井一水だの石場兵曹だのが集まってきてそれを見送った。『飛龍』、『蒼龍』などが次々に出てゆく。

今度はいつ、どこで会えるだろうか。その日までどうかお元気で。

なんだか皆の心にセンチメンタルな感情が生まれた。もうこのハワイともお別れだという気持ちがそうさせるのだろうか。

確かにこのハワイの休暇は楽し過ぎた。人間、あまり楽しい思いをしすぎるとそれが終わる際こんなに感傷的になってしまうものだろうか。

小泉兵曹は、あの慰安所の男性との快楽の時を思い出している。あれから休暇の間めいっぱい、あの彼を指名して楽しんだ。

亀井一水は初めての宿泊を伴った休暇に舞い上がり、最初の晩は発熱してしまったがそのあとは元気になって一回だけ慰安所にも行ったし、うまいものもたらふく食った。

石場兵曹も慰安所はもちろんであるが、ハワイ駐在の艦隊の子たちと仲良くなって「防衛談義」に花を咲かした。

そして、見張兵曹は麻生少尉との密度の濃い時間を過ごした。愛を交わし、おいしいものも食べ、カタリナ改め「鵯(ひよどり)」に乗って真珠湾遊覧飛行も経験した。

(それもこれもみんなが全力で戦って勝利を勝ち取ったからだ)

そう皆は思っている。誰が欠けても成り立たない『女だらけの帝国海軍』である。

そう思い、この先の戦いに心をはせる皆、そして見張兵曹のそばにいつの間にか麻生分隊士が立っている。そっと見張兵曹の肩に手を置き、「またいつかここに来れるよ。だって」と言った。

「だって?」と見張兵曹が聞き返すと麻生分隊士はそっと兵曹を後ろから抱きしめて「ハワイは日本の領土なんだぜ」と囁いた。

兵曹はなんだかとても幸せな思いになって「はい・・」と返事をして分隊士の手を握りしめたのだった。

 

ハワイを去りゆく『蒼龍』艦上。

飛行甲板で一人の飛行将校が風に吹かれている。誰あろう、飯田房子中佐。彼女はいろいろと大変ではあったハワイの海を見つめながら(また来るからな、ハワイ。・・・今度来るときも同じ色の海と空でいろよ)と思った。

上空哨戒にハワイ航空部隊がついてきてくれている。あと20マイル飛んだら帰るようだ。そのあとは飯田中佐たちの出番。

「飯田中佐、団子です!」

整備兵の声に思わず、「は―ーい!今行くぅ!」と返事をして走ってゆく飯田中佐であった。

 

『大和』『武蔵』たちがハワイを抜錨するのも、もうすぐ―――。


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● COMMENT ●

misia2009 さんへ

こんばんは
いつもありがとうございます。

やはりトップに立つ者はしっかりしないといけません。いじめを根絶するにはある程度の気概が必要ですね。

加来艦長の軍刀は業物ではないんです、故郷の刀鍛冶が暇つぶしに打ったものです。春雨というネーミングがもう、胡散臭いですねww。

こんばんわ。

お邪魔しております。仲直りのくだりが素晴らしかったです。卑怯である! 山口司令が温かく諭す言葉も心に沁みます。どこもこういう教員、上司ばかりであって欲しいですね。

海軍仕様の黒鮫革巻……でしょうか。名刀「春雨」! ネーミングが……微妙ですね……www

陸戦隊さんへ

こんばんは!
そうでしょう!?
ハワイは本当に日本人向きな感じですよね。私もも一度行きたいです、というより住んでしまいたいくらいです。
かつてかの地に行った際、帰るのが嫌でしたし帰ってからもまた行きたくて仕方なかったですww。

南雲さん、サイパンに骨を埋めてしまいましたね。今その魂魄はいかにおわしますやら・・・(泣)。

「女だらけの帝国海軍」のやせ形南雲さんはこの後どうするんだろう・・・?

やっぱり南の島が好き・・・

見はリンさん、こんにちは。 山口司令官がハワイに住みたいと言った気持ちが痛いほど分かります・・・だって南雲司令官ものちに南の楽園サイパンで骨を埋める覚悟をしてたんで・す・か・ら~♪


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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