ゴシップ 4

桜本兵曹が、マツコ、トメキチ、そしてニャマトたちと通信用紙と格闘しているその時――

 

「ちょっとお話聞かせていただいていいでしょうか」

と、機関科の松本少尉は後ろから話しかけられて「は?なんでしょうかのう」と振り返った。そこに立っていたのは五戸記者。彼は大きな体つきの少尉にやや気後れしながらも

「御時間を少しいただいていいでしょうか…あの、海軍の下士官嬢の中に…」

これこれこういう身上の下士官嬢を知りませんか、と尋ねてみた。五戸記者は尋ねながらも松本少尉の顔をそっとうかがっている。松本少尉は声をかけられた時から(こいつ、新聞記者だな。もしかして佐野兵曹の周辺を嗅ぎまわってたのもこいつか)と感じていたし、この記者が聞いているのが「オトメチャン」であるのもわかった。ゆえに松本少尉はごくごく自然に

「ほう~、そんとな身の上の下士官嬢が居るんですか。ふーむ…。しかし残念でしたな、私はそんとな下士官は知りませんし私の艦にも居りませんな。ほいじゃあ、ごきげんよう」

というと歩き去った。五戸記者は

「ごきげんよう…って本当かね?信用ならんなあー…あと何人か聞いてみるか」

と腕組みして考えた後、何人かの水兵嬢や下士官嬢、准士官嬢たちに同じ話を聞いて回ったが答えは同じ、「知りませんね。私たちの艦の人間の話ではないですね」

だった。さすがにげっそり来た五戸記者だったがめげるわけにいかない、大原田幹事長の記事がだめになった以上なにか面白い話を掲載したいと切に願っている。そうでなくても<帝国新報>の最近の発行部数は以前より落ちており、彼らにとっては死活問題である。

 

そんなころ、松本少尉は士官用の料亭前で佐藤副長に出会った。副長は料亭で同期(コレス)と食事会をするために来たのだった。「副長!」と呼んで少尉は副長の前に立ち敬礼した。副長も返礼し、うれしそうな顔で「松本少尉、どうしました。あなたも同期会かなにか?」と尋ねてきた。松本少尉は真剣な顔つきで

「副長、ちとこちらへ」

というと副長を料亭の玄関の隅に引き込んだ。どうしたんですねと不審がる副長に松本少尉は先ほどの新聞記者らしい男の話をした。

「なんだって…それはまさに<彼女>の話を聞き出したがっているのではないか…。松本少尉、上陸中のところを申し訳ないがすぐ艦に戻ってこの話を艦長にしてほしい。私もコレスが集まり次第、わけを話して艦に戻るから、頼む!」

佐藤副長はそういって玄関の外に出るとコレスを探し、あちこち見始める。松本少尉は「わかりました、行きますッ」と叫んで走り出した。

松本少尉は桟橋までを走りに走って汗だくになって、やっと上陸桟橋にたどり着いた。が、『大和』からの定期便のランチはこの時間はない。少尉は急いで衛兵所に飛び込むと『大和』に電話をしてもらった。そして間もなく波を蹴立ててランチが一艇、『大和』からやってきて松本少尉は艇指揮の少尉に

「大至急じゃ、副長からの言伝を艦長に伝えんならん、早う、早う!!」

と叫んでランチは大きく舳先で弧を描くと『大和』に向かって行った。

 

そんなころ無電室では桜本兵曹とマツコ、トメキチ、ニャマトたちが電信用紙をまとめている。オトメチャンは

「通信長、これすべて番号順にしましたがええでしょうか」

と尋ねると山口通信長は微笑んで「ええよ。ありがとうね、ほんまにすまんねえ。こげえなことを頼んでしもうて。見張の達人に頼むことじゃないのに…後で美味い菓子があるけえ楽しみにしとり」と言った。ありがとうございます、とオトメチャンが言ったその時無電室に入ってきた人が二人。

中谷少尉と三山少尉である。山口通信長が

「おや、君たち上陸しなかったのかね?」

と少しびっくりしたように言った。中谷少尉が「上陸のつもりはつもりでしたがやはり敵の通信が気になりました。それに三山少尉は昨晩、一睡もしないで敵信を探ってくれていました。だから私の部屋で寝かせていたんです」と言って桜本兵曹は

「一晩中、敵信を探っとってですか…」

と絶句した。

山口通信長はオトメチャンをみて

「この二人はよく働くんだよ。いつでも通信機の前に張り付いてね…一晩中起きていることさえいとわない。私も見習わねばいけないと常に思っておるんよ」

と言い、マツコたちは

「知ってるわよアタシたち。中谷さんと三山さん、いつも二人で仕事して…ほんとに素晴らしいわ」

感涙を浮かべている。

 

その時『大和』に接舷したランチから舷梯を伝って駆けあがってきた松本少尉は丁度通りかかった森上参謀長に出くわした。どうしたんだね血相変えて、と言った参謀長に松本少尉は「実は、」と急き込んで話をし、その内容にびっくりした参謀長は

「急ぎ艦長に伝えよう、さあ早く!」

と松本少尉を従えて艦長の元へ。

梨賀艦長は第一艦橋にいてのんびりとした雰囲気の中、周囲の風景を見ていた。そこに

「梨賀いるか!」「艦長―」

という大声が飛び込んできて腰を抜かさんばかりに驚いた。何事か、と問う艦長に参謀長が

「松本少尉から詳細をお話しなさい」

と言って松本少尉は水島であった出来事を艦長に詳しく話した。梨賀艦長はウーン、と言って腕を組んだ。そして顔を上げ参謀長と松本少尉を見ると、

「その新聞記者と思しき男性の聞きたがる相手は…<オトメチャン>ではないのか。それにしてもなぜ、彼女の生い立ちが新聞記者に筒抜けなのか?桜本兵曹の義理の姉妹が海軍にいるがそんなことを漏らすとは到底思えない、自分たちにとっても不利益になるからね。どういうことなのだろう、私には測りかねる。しかし何らかの手は打たねばなるまいよ」

と言った。

 

そしてその晩から翌日のうちに、多くのトレーラー停泊艦艇の艦長から<うちの乗員が水島でこういう質問を受けた>という話がぽつぽつとトレーラー司令部に届き始め、あろうことか――五戸記者はトレーラーの海軍診療所に友人を見舞いに行った帰りの小山田艦隊司令に例の話をしたのだった。

小山田司令はその場は

「さあ知らんねえ」

とやり過ごしたが五戸記者の姿が埃っぽい道の向こうに小さくなったのを見届けると駆け足で司令部に帰り、副官に

「昨日から妙な話が各艦からきていたな…」

というと電信用紙を持って来させた。今日になって大きな艦は『大和』から小さなものは海防艦に至るまでほとんどのトレーラー在泊艦艇の艦長から乗組員が妙な聞き出しを受けたという内容ばかりである。

小山田司令は副官に

「トレーラー停泊全艦艇へ電報を出せ」

と厳かに命じた。

 

「艦長、艦隊司令部から電信です」

山口通信長が電報用紙を持って第一艦橋にやってきた。副長もいる。副長はコレスとの食事会を昨日、キャンセルして艦に急ぎ戻ってきたが事の重大さにやや頬が青ざめている。

読め、という艦長に通信長はうなずくと

「発 トレーラー艦隊司令。宛 トレーラー在泊各艦艇。本文、不審なる新聞記者と思しき男性との一切の接触を禁じる。司令部は本件男性の拘束を検討中。終わり」

と読み上げた。

梨賀艦長は電報用紙を通信長から受け取るとそれをしばし見つめた後、通信長をみて

「私は明日、小山田司令に逢ってくるよ。私の艦の乗員のことだからね…黙ってはおれまい?」

と言って黙りこくってしまった。

山口通信長はそのそばに立ったまま発するべき言葉を無くしていた――

  (次回に続きます)

 

                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お久しぶりです。今夜は少し気分が良いので書き上げました。いつもこうならいいんですが(;'')

さてトレーラー、ちょっとした騒ぎになりつつあります。どうなりますかそして肝心のオトメチャンは。

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Secre

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは
お返事大変遅くなってごめんなさい。

おお、「宇宙戦艦ニャマト」!いいじゃないですかあ、大声で歌いましょう~~♪

気分は良くなったり悪くなったり、この病気の特徴が如実に出ています。でも焦っても仕方がないのでのんびり直します。
今年も一年間ありがとうございました、来年もどうぞよろしくお願いいたします!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
お返事が大変遅くなってごめんなさい。

オトメチャンも考えてみるといろんな目に遭った子だなあと新玉て思いました。きっと来年は幸せが来るでしょう^^。

忙しい中にもちょっとでいい、静かな時がほしいものです。今年も一年間ありがとうございました、来年もよろしくお願いいたします!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
大変お返事遅くなってごめんなさい。

こういう記者はうっとうしいだけですよね、しかも我らがオトメチャンにたかるとは言語道断。天罰が楽しみです。
今年もありがとうございました、来年もどうぞよろしくお願いします!

おお!
久しぶりのオトメチャン。
ニャマトって聞くと どうしても
♪うちゅうせんかん にゃーまーとー♪
と歌いたくなるんです、どうしませう。

ご気分が良いとのこと、嬉しいです。
ご無理なさいませんよう。
走らない“師走”で行きましょうね💖

こんにちは。
久しぶりにオトメちゃんたちに会えて嬉しかったです。しかし先が気になりますわ~あれこれ想像しながら続きを待っていますね。
年末年始、慌ただしくなりますが、どうものんびりゆっくり過ごすことが出来ますように。
また冷え込んできました。風邪をひかないように気をつけて下さいね!

さて、下世話な記者にどのような罰がくだりますか?人の口には戸は立てられないので、どうしようもないですがおそらく紅林ルートですな。
オトメちゃんに新しい恋の話は、当分先の話ですね。
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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