2017-09

いとしごよ 呉編 3 解決編 - 2017.07.22 Sat

「はいもういきまないで…」という仁谷産科軍医長の声がした次の瞬間――

 

何かが、次子の足のあいだからぬるり、つるんと出てきたような感じがした。すると次子のそばで手をずっと握ってくれていた看護兵曹嬢が

「生まれました、生まれましたよお一人目が!」

と嬉しそうに次子にささやいた。と、部屋中に響き渡る産声。浜名江産科軍医大尉が紅潮した顔を次子に向けて

「女の子ですよ、お一人目!」

と言い次子は「…女の子!」と嬉しそうに言った。それから十分ほどで再び陣痛が来て二人目が産声を上げた。

仁谷軍医長が

「おお、女の子ですよ!そっくりですね、これは一卵性のお子さんですね、山中中佐おめでとうございます。お母さんになられましたよ!」

と言って、次子はその場の皆に「ありがとうございます、無事に生ませてくださって本当にありがとございます」と礼を言った。その場の皆は、山中中佐に敬礼した。

 

それぞれの産声を、分娩室の外で待機していた山中大佐、そして一矢夫婦が聞いていた。三人は顔を見合わせると

「…生まれた…?」

言い、分娩室の扉をじっと見つめた。扉の向こうで人々が忙しく立ち歩く気配がし、かすかに笑い声が聞こえてきたような気がして新矢は、

「次ちゃん…」

と小さくつぶやいた。兄夫婦が、心なしかほほを紅潮させて扉を見つめているのがわかる。

 

それから十分ほどして仁谷産科軍医長が扉をあけて出てきた。三人は椅子から立ち上がって軍医長を迎え、軍医長はにこやかな笑みで三人を等分に見つめると

「おめでとうございます。元気な双子のお嬢様です。山中中佐もお元気ですのでどうぞご安心を。まもなく処置が終わりますので中佐は病室にお戻りになります。赤ちゃんたちはもう間もなく新生児室に入りますので、入られましたらご案内いたします」

と言って、山中大佐に

「おめでとうございます」

と改めて祝意を示し、新矢大佐は「本当にありがとうございます。お世話になりました…そして退院までどうかよろしく願います」と言って軍医長に敬礼した。

仁谷産科軍医長も新矢大佐に敬礼し、その場の皆は幸せな気分に支配され微笑みあうのであった。

 

それから十分ほどが過ぎ、三人は看護兵曹嬢に

「新生児室へどうぞ」

と案内され、双子の赤ん坊の部屋へ。ガラス張りの向こうには小さなベッドがいくつも並んでいる。その三分の一ほどに新生児たちが無心に眠っている。そこに先ほどの看護兵曹嬢ともう一人の水兵長嬢が小さいベッドを押しながらやってくると、三人が居並ぶ前あたりにそのベッドを並べて置いた。

「まあ!!なんてかわいい、なんて小さいの!」

シズが感激の声を上げ、ガラスにしがみつくようにして中を見入る。その瞳が潤んでいるのがわかる。一矢が

「次ちゃんによく似ているね…、新矢にも似ているかなあ」

と言って新矢は兄を見ると「私の子供なんだから当たり前です」と言ってシズは笑った。シズは

「女の子は小さいうちお父さんによく似るようですよ、いまにだんだん新矢さんに似てきますよ」

と言い、しかし新矢はしばし考え込んだ後

「いや。嫂さん、私に似たらまずいでしょう、やはり女の子は母親に似たほうが幸せですよ。それに母親はだれあろう次ちゃんですからね、あんなにきれいな人に似なきゃ可哀想ってもんでしょう?」

と至極真面目に言って一矢は声を立てて笑った。

シズは

「はいはい、ごちそうさまです。…ねえ見て、本当に二人ともそっくりよねえ。どんな女の子になるのか、今から楽しみね」

と言って双子たちを優しいまなざしで見つめる。

赤ん坊たちを見つめる三人のもとに浜名江軍医大尉がそっとやってくると

「山中中佐、ただいま病室に戻られました。が…」

と言っていったん言葉を切った。新矢がにわかに緊張感を帯びた表情になり軍医大尉嬢を見つめると

「どうしたんですか、妻に何か起きたのですか?」

と言った。一矢とシズも不安げに浜名江を見る。浜名江軍医大尉は落ち着いてください、と前置いてから

「双子さんのお産にしては中佐は御安産でしたがいささか出血が多くありましてお疲れもあります、しばらく御面会はできませんのでご了承ください。落ち着かれましたらまたご案内します」

と言って敬礼して歩き去った。

新矢はしばし呆然とその場に立ち尽くしていたがシズに

「大丈夫よ新矢さん。軍医長たちが良いようにしてくださいますから。お産は女の戦場ですから、いろんなことが起きるんですよ。心落ち着けて待っていましょう」

と諭され、「そうですね…そうですよね。私が落ち着かないでどうする、てやつですよね。…兄さん嫂さん、もう少し一緒にいてくれますか?」と頼み込み、兄夫婦は

「もちろん、次ちゃんが部屋に戻るまでいるから」

と言って新矢を安心させた。

 

浜名江軍医大尉が再び三人の前に姿を現したのはそれから約一時間半後だった。

三人は軍医大尉の後をついて次子の病室へ向かう。

「どうぞ。しかしあまり長い時間は困ります」

浜名江軍医大尉はそういうと部屋のドアをそっと閉めていった。ベッドの中には次子がやや青ざめた顔色で横たわり、新矢は

「次ちゃん…」

と小さくささやくとベッドに寄って行った。その後ろを兄夫婦が従う。新矢はもう一度「次ちゃん、」と声をかけた。

ベッドの上の次子はその声にそっと目を開け、新矢と兄夫婦を見るとほほ笑んだ。

「ありがとう、お疲れさまでした次ちゃん」

新矢は感動と感激と少しの心配に支配された気持ちでやっとそう話しかけた。一矢もシズも「お疲れさまでした、可愛い双子の女の子だよ」と言ってほほ笑んだ。

次子は

「もう見てくださったんですね。私と新矢さん、今日から親になりました」

というと嬉しそうにほほ笑んで無理に体を起こそうとしたが新矢がその両肩をそっと押さえて

「起きちゃだめだよ。ずいぶん出血が多かったらしいからね。浜名江軍医大尉が、あまり面会も長くしてはいけないとおっしゃっていたから。もう少ししたら今日は帰るけど、また明日来るから今日はよく眠りなさい?」

と言い聞かせた。普段は無理を押し通す次子も今日はさすがに

「はい…わかりました」

とおとなしく答えた。

そして三人は名残惜し気に振り返りながら病室を後にした。新矢は

「もう一度、赤ちゃんたちを見ていきます」

と言って三人新生児室に取って返し、もう一度赤ん坊たちの顔を目に焼き付けるようにして見いった。

「明日、また来るからね」

新矢はそういってガラスの向こうのわが子たちに小さく手を振った。

その顔はもう、立派な父親の顔であった。

 

その晩になって仁谷産科軍医長が、次子の部屋に赤ん坊たちを連れてきてくれた。

小さなベッドの中にそれぞれ無心に眠るわが子たちを見て次子の瞳からは感激の涙が次々流れ落ちた。思い出すのは新矢と結婚してからこちら、妊娠が分かったときの嬉しさや悪阻の苦しさ。内地に帰って夫と落ち着いて家庭生活を送れた喜び…、

「今日からあなたたちは私と新矢さんの子供ですよ。新米の親だけど頑張りますからね、一緒に大きくなりましょう」

次子は小さな娘たちにそう、小さく呼びかけた。心なしか赤ん坊たちが微笑みを浮かべたような気がして次子も微笑みかけた。

 

その顔はもう、立派な母親のそれであったーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

やっと!生まれました。ちょっと後が大変だったようですがでももう大丈夫。新矢さんも新矢さんの兄夫婦もほっとしたところです。

さあ。これから「四人」での生活が始まります。おっとその前に在トレーラーの<大和>に報告しなくちゃね!

関連記事

● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは
お返事大変遅くなってごめんなさい!!

生まれておりましたww!
私も小学校時代同級生に双子の片方が二組いました。一組は一卵性の男子でもう一方は二卵性の男女の双子でした。女の子の方と同級でしたがなかなか端正なお顔立ちでしかも頭がよかったですね。どうしておるのかなって時々思います。

なかなか気分が盛り上がらず物語も滞りがちですがボチボチ書いていきますね。
今頃になって梅雨のように雨が降ってどうなってるんだろうと思う昨今、オスカーさんもどうぞ御身大切になさってくださいませね^^。

こんばんは。
赤ちゃん、産まれてた(笑) 女の子の双子! 昔、千葉市に住んでいた女の子と文通していましたが、その子が双子(妹)でした。私の同級生にも男の子の双子がいましたが、顔がつるん!としていてゆで玉子みたいな男子でした(笑) みんなどうしているのかなと懐かしくなりました。
また物語の世界が広がりますね。でも無理なさらず、ぼちぼち新作に取りかかって下さい←催促しているわけでは・・・(´・ω・`; ) お身体に気をつけて下さい。

ponchさんへ

ponchさんこんばんは
お待たせしました~~~やっと生まれました双子ちゃんです!

へその緒が絡まって、という話はよく聞きますが時に赤ちゃんが危険に陥ることがあるので怖いですよね。ああいうのはもっと産科医療が発達したら事前に分かるようになるのかなあとか考えています。

そう、今後の展開のためにも女の子が必要なんですw。なんてねw。

わー無事生まれてよかったですねー\(^o^)/
自分の母親は姉がへその緒に絡まって急遽帝王切開になったもので、
次ちゃんどうなることかとはらはらしましたが、
双子ちゃんが無事生まれてよかったですー(;∀;)

それにしても双子も女の子とは、生まれる子供も女だらけなんですねー。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは
ようやっと双子が生まれました!子供を授かった当時を思い出してしまいますね。本当にドタバタですが今になるとなんだか涙が出るほど懐かしい日々です。
どんな人生を歩もうと悔いのないようにしてほしいそれだけを願う親心であります。

そしてこの双子ちゃん姉妹、どんな娘になりましょうか。ご期待ください。

本当に暑いです。連日くたくたです、おかげさまで体のほうは何とかなりつつありますが心のほうはまだまだ…。どこか遠くへ行きたいと切に願う今日この頃です。
にいさまもどうぞ御身大切になさってくださいませ。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんにちは
いよいよ生まれました双子ちゃん!しかしこれからが問題ですよね、子育ては本当に大変で時には泣きたくなるようなときさえありますからね。でも次ちゃんには新矢さんや新矢の兄夫婦などたくさんの味方がいますからその辺は何とかなるかな??という感じでしょうか。
この双子ちゃん、次ちゃん似なら将来男性が放ってはおかないでしょう、新さん大いに気をもむことでしょうw。

双子誕生!! 若夫婦や両家にとって福娘降臨ですね。
子育ての終わった身としては当時の我が家のドタバタを思い出します。
それも終わったこと。今思えば自分も若かったしで夢のような昔だったんだなと。
子育てが成功かどうかは子供たちの結婚(相手)で決まるということをヒシヒシと感じています。
それにしても双子かぁ、素敵なお嬢さんに成長することでしょうね。見張り員さんの渾身の筆に期待しています。

暑いですね。体調は落ち着きましたか。
たまには現実逃避を心がけ、実行することもご自分のために良いことかと。

待望の双子ちゃんのご誕生。
しかも、これがゴールではなくさらなる長期戦のスタートなんですがw
この双子ちゃんたちがどのように成長するかが楽しみです。
何せ将来は美人姉妹として、話題の中心になるのは間違いないですからね。


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/2242-ed4c81fc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

吉報、そして男性士官たち 1 «  | BLOG TOP |  » いとしごよ 呉編 2

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (110)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード