2017-10

思い出をレッコ 2解決編 - 2017.06.11 Sun

正月二日のその晩、桜本兵曹・高田兵曹そして長妻兵曹は浜辺に立っていた――

 

星が降るような空を見上げながら桜本兵曹は

「トレーラーで迎える正月、もう何回になりましょうなあ」

と言った。高田兵曹が「ほうじゃねえ」と言い長妻兵曹が「もう勘定できんくらいなわ」と言って三人はひそかに笑った。

「ほいで?」と高田兵曹が言った、「オトメチャンはここで何をしんさるつもりかね」。高田兵曹も長妻兵曹も、桜本オトメチャンがしたいことはなんとなくわかっていた。オトメチャンは何やらたくさん入ったきんちゃく袋を抱えてきている。

果たしてオトメチャンはその袋の中からたくさんの手紙とはがきの束を取り出した。その多さに一瞬目を瞠った高田と長妻の前にオトメチャンはそれを差し出した。

「見てつかあさい」

とオトメチャンは言って、高田兵曹はやや戸惑いながらもそれを受け取った。きちんとひもでまとめられた手紙とはがきの束の一番上の封筒には几帳面な文字で「桜本トメ様」と書かれている。

「…あん人からのか」

長妻兵曹が言ってオトメチャンの顔を見つめた。星明りにオトメチャンの顔は美しく、長妻兵曹は一瞬見とれてしまったが気を取り直すと

「これを…あんたはどうするんじゃね」

と尋ねてみた。するとオトメチャンは

「ここで…レッコします」

と決然とした口調で言った。やはり、と思いつつも高田兵曹は

「そうか。思い切ったな…つらいことはすべて忘れてしまえ。――いうて人間そうそうすっぱりは忘れられんじゃろうがこれはその第一歩じゃ。よう…覚悟しんさったね」

と優しく言ってオトメチャンを抱き寄せた。長妻兵曹もそばでうなずいている。オトメチャンは高田兵曹の胸の中でかすかに嗚咽を漏らしたようだったがやがて体を離すと涙を拭いて

「お二人に、うちの終わった恋の見届け証人になっていただきたいがです。どうかよろしゅうに願います」

と言って高田と長妻はしっかりうなずいた。

オトメチャンはふうっと大きく息をつくと、砂浜にしゃがみ込み穴を掘り始めた。深さを三〇センチほど掘ると手紙を縛っていたひもを解いた。そして数通の封書をねじると穴の中に放り込み、ポケットからマッチの小さな箱を取り出し、マッチを擦った。

勢いよく炎が上がると、オトメチャンはそれをねじった封書の下にそっと入れた。炎は手紙に燃え移りやがて大きくなり始めた。オトメチャンは次々に手紙を、はがきを炎の中に入れてゆく。

その表情はあくまで無表情で、高田兵曹は胸を打たれた。オトメチャン、どんとな気持ちでこれをしとるか思うたら…

「うちも、つらいで」

高田兵曹はだれにも聞こえないほどの小さな声でつぶやいた。

 

オトメチャンの「終わった恋の火葬」は続いた。

三人は手紙が燃える小さな穴の周りに座り込んで炎を見つめていた。しばらく三人は黙っていたが沈黙を最初に破ったのはオトメチャンで彼女ははがきを小さく破きながら

「うちが、やっぱしうちがあほだったんじゃね。ちいとばっかし優しくされたから言うてその気になって、結婚じゃと。なあ長妻兵曹、うち変じゃよね。そのくらいで舞い上がってしもうて。うちは自分の生まれをもっと自覚すべきじゃったわい。なけえこうなってもおかしゅうない。あん人をせめてはいけんよね」

と言った。長妻兵曹はオトメチャンの顔を見つめた、ついで高田兵曹の顔を。

高田兵曹は自分の右側に座ったオトメチャンの肩をぐっとつかむと自分の方へ向かせた。そして優しく噛んで含めるように

「ええか。今回のこと悪いんは全部あん人じゃ。紅林いう人の自分勝手が招いたことじゃ、オトメチャンはちいとも悪うないで。自分が悪い思うたら大間違いじゃ。ええか?そもそもオトメチャンと交際したいいうて小泉兵曹のおやじ様に頼み込んだんは紅林じゃ。ほいで結婚したいいうてんもあいつじゃろ?それを、ここに来て別の女に心奪われてオトメチャンを捨てたんはあいつじゃ。悪いんはすべてあいつじゃで?アンタはちいとも悪う無い。ほいでな、生まれうんぬんいうがあんたの生まれは両親がわかっとってなけえちいとも恥じることはないで?そんとなこと言うたらうちはどうなるんね、うちは父親がどんとな人かもわからん。うちのほうこそほんまなら結婚なんぞできん、してはならん身じゃろ?オトメチャンの産みのおかあさんは桜本家の娘じゃし、お父さんは見張家の当主で元は海軍士官じゃ。なあも恥じることなんぞない。成り行きでそうはなったがお二人は本当の夫婦もさもありなんいうくらい純粋な愛情でつながっとったと聞いたで?なけえもうそんとに自分を責めなさんな。あんたが自分を責めるいうことは、ご両親を責めることにもなるで?じゃけえもう、済んだことは忘れてこれで新しい時分として生まれ変わらんといけんで、ええね?」

と言い聞かせた。

「高田兵曹ー!」

高田の言葉が終わったと同時に桜本兵曹はもう一度兵曹の胸にしがみつくと号泣した。長妻兵曹がもらい泣きしている。

高田兵曹はオトメチャンの頭をそっと撫でながら

「ええな、わかったな?どんとなつらいことがあろうとも人生あきらめたらいけんで。いつかきっとええことが待っとるけえね。その日をしっかり信じて待っとればええんよ、わかったね」

と言い、オトメチャンは泣きながらうなずいた。

長妻兵曹は、防暑服の胸に涙を落としながら、最後の手紙の束を炎の中に投げ入れた。ぼうっとひときわ大きな炎が上がって手紙の束は燃え尽きたーー

 

三人は、手紙の束が燃え尽きたあともしばらく浜辺に座ってきらめく星々を映しこんで輝く海を見つめていた。波打ち際に寄せる波の音を聞きながら、不意にオトメチャンが

「お二人とも、うちの勝手に巻き込んでごめんなさい。ほいでもうち、高田兵曹の言葉で目が覚めた気ぃがしてます。すべては燃えました、消えました。じゃけえうちも新しい気持ちで頑張ろう思います」

と言って高田も長妻も微笑みを浮かべた。

長妻兵曹が

「その意気じゃオトメチャン。うちはそう遠くない将来、オトメチャンになんかええことが起きるような気がしてならんのよ。いや、気休めや慰めでのうてね。これで結構うちの勘は当たるんよ」

と言ってオトメチャンは嬉しそうにほほ笑んだ。そして

「うち、信じて待っとります。ありがとう長妻兵曹」

と言って、手紙の束がすっかり灰になった穴に砂を入れ込んで埋めてしまった。はいこれで終わりました、レッコ完了と言ったオトメチャンの顔は、星明りにも晴れ晴れして見えた。

そして

「ほうじゃ、高田兵曹の結婚式。ここでされるんですよね。うちも参列したいなあ…ねえ長妻兵曹?」

と言って長妻兵曹は

「ほうよ、分隊士にお願いしたらええ。うちら昔っからの友達・戦友じゃけえお許しでるじゃろ」

と言って高田兵曹は恥ずかし気にうつむいて

「すまんねえ。忙しいいうんに」

と言ったがオトメチャンは「いまは作戦もないし忙しいこともないでしょう。うち麻生分隊士にお願いしてみます」と言った。

 

そして…それから一週間ほどたちいよいよ明日呉海軍工廠の男性技術士官たちが到着の予定日となったのだった――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

大掃除。

終わった恋の後始末模したオトメチャン、自分を責める気持ちが再び吹き上がっては来ましたが高田兵曹の諭しと長妻兵曹のまなざしに救われました。長妻兵曹の予言?通り素敵なことがあるように祈りましょう!

次回いよいよ山中夫婦に……!お楽しみに。

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● COMMENT ●

ponchさんへ

ponchさんこんばんは
お返事大変遅くなりましたことお詫び申し上げます!

そう、オトメチャン紅林からの手紙を捨てきれなかったのです。でもやっと踏ん切りました!つらい選択ではありましたがもう元のさやに戻るべくもないのですから新しい道を見つけてほしいものです。
さあ彼女の人生これからどうなるかご注目を^^。

オトメチャンは紅林からもらった手紙をまだ持ってたんですねー。
自分も最近些細なことである人と物別れしてしまいましたが、思い出をレッコしたオトメチャンには新たな幸せを見つけてほしいと思います。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
やはり実体験に勝るものはないですね、経験からの言葉は重くそして相手の心に染み入りました。さてそして長妻兵曹の勘は当たるのか否か、きっと当たることでしょう。でもどんなことが起きるやらw。

山中夫妻いよいよ双子が生まれます。どうなりますかお楽しみに!

高田さんの実体験のこもった言葉に救われましたね。
長妻さんからのオトメちゃんの幸せの予感、野生児の勘は鋭そうなのでどんな展開が待っているのでしょう。

山中夫妻待望の双子ちゃん、待ち遠しいですね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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